91 呪いの品
鉄格子の中に並ぶ呪いの品々・・・うん、さすがにこれを欲しいと言ってもお許しはもらえなさそうだ。もうちょい軽めのものはないんだろうか・・。
「ユータ、あんまりそっちに行かないでね!もう他はいいかな?露店は広いんだから他も見に行こうよ!」
うーん残念、今回は呪いの品は諦めるか・・そうだ、学校に行くようになればここも自由に来られるんだよね・・・じゃあ、お金さえあれば・・・ね?
なんだ、もう少し待てばいろんなことが自由に試せるじゃないかと思い至ったので、いい返事をしてセデス兄さんに駆け寄った。
会計をする横では、呪いの品の検品?をしているようだ。店員さんが手袋をはめた手で頑丈そうな箱から取りだしては、小さな玉をかざしてみたり、ピンセットで何かを近づけたりと、理科の実験のようで見ていて面白い。触っても大丈夫なものはカウンターに置いた箱に、ダメな物は頑丈な箱に、と分けているようだ。
目の前の箱に次々入れられるよく分からない小物たち・・これもいずれ店頭に並ぶんだろうな。どれも禍々しい感じはしないのでイタズラグッズの類いだな。
「・・ん?」
今店員さんが置いた物・・これ、大丈夫?ちょっと禍々しいよ?緑の宝石がついた綺麗なブレスレット・・だけど、これは鉄格子に入れた方がいいやつじゃないかな?心配になって注視していると、カタカタ・・と音がする・・!えっ・・ブレスレット、動いてる!?
まさか、と思った次の瞬間、まるで磁石に引き寄せられるようにぎゅん!と一直線に店員さんに向かった!
「危ない!」
思わず手を伸ばしてキャッチしたら、しゅるっと生き物のように腕に絡みついて装着されてしまった。
「ピピッ!」
「ユータっ?!大丈夫?!」
「あ・・ああ!!お客さん!すみません!ああっどうしたら・・なんでこんな凶悪なものが!?解呪薬を!早く!!」
店長さんと店員さんが蒼白になって慌てだすと、ドタバタと奥の倉庫に向かったみたい。
「ユータ、ユータ!しっかりして?!ごめんね!こんなとこ連れてきちゃったから!」
がくがくと揺すぶられてオレの頭が振り子のように揺れる・・・おねがい・・ちょっとストップ・・!!
「セデ・・セデ、ス、兄、さんっ!ちょっ、やめっ、やめてっ!」
「あ!ごめん!ユータ、大丈夫なの?!どこが辛い?!」
「あー・・ふう・・・セデス兄さんにシェイクされたこと以外でつらいところはないよ?どうして?」
泣きそうな顔をしたセデス兄さんに首を傾げる。
「どうしてって・・なんともないの?!自ら対象を狙う呪具なんて、命に関わるような相当強力な呪術がかかってるよ?装着した瞬間から何らかの影響を受けるはずだけど・・・。」
「そうなの?なんともないよ。・・はい。」
電池切れかな?もう禍々しさのなくなったブレスレットを外して、セデス兄さんに差し出す。
「・・・?!えっ・・?」
「・・え?」
目を丸くされて、思わずビクリとする。えっ・・オレ何かした?まだ何もしてないと思うんだけど!?
「・・・・ユータ?そんな強力な呪具が簡単に外れるわけないんだけど・・・?普通に外せるなら怖くないでしょ?!なんで外れるの!?」
「そ・・そうなの?着けといた方がいいかな!?」
「そういう問題じゃない!!」
慌てて手首に装着し直した所で店長さんたちが戻ってきたけれど、顔色がよろしくない・・・。
「お、お客さん・・解呪薬が・・盗まれていました。おそらく先ほどの呪具も故意に混入されたもののようで・・あの店のやつらが・・いえ、言いたいのは、解呪する方法が今当店にない、ということでして・・・。」
「じゃあ、これはずせない?もって帰っていいの?」
「そ、その・・申し訳ありません!呪具をお調べして可能な限りの対策と、取り急ぎ解呪薬を取り寄せますので・・!!」
「おかねはどうしたらいいの?」
「そんな!全てお支払い致します!!急ぎ回復術師の手配も致しますので!解呪師は・・現在この街におりませんで・・本当に申し訳ありません!」
「・・・じゃあ、今のところは無事だし、手配は宿にしてくれる?宿は・・・。」
疲れた様子のセデス兄さんが顔色の悪い店長さんとやりとりして、とりあえずブレスレットは持って帰っていいらしい。きれいなブレスレットだしラッキーだね!ぺこぺこと何度も頭を下げる店長さんが袋にあれもこれもと商品を詰めてくれる・・お詫びの気持ちみたいだけど・・・・それって呪いの品だよね?
かえって申し訳ないので、重たい袋を抱えてそそくさと店を出ると、人通りの少ないところまで引っ張って行かれた。
「・・で?どういうこと?!それ、すっかり解呪されてるでしょ!?」
「えっ?そうなの?でもオレ何もしてないよ!?」
「きゅきゅ!」
ティアがいるから、ユータにその程度の呪いは効果無いよ。ティアの守護で打ち消しちゃったんだよ。
「そうなの!?ティア、そんなことできるんだ!」
「ピピッ!」
今回はオレのせいじゃなかったので、ホッとしてセデス兄さんにも教えてあげる。
「あ~油断した・・その小鳥も普通じゃなかったんだ・・・。襲いかかる呪いを瞬時に打ち消すって・・そんな従魔聞いたことないよ・・。」
「オレも知らなかった!ティアってすごいね!」
「・・・ひとごとみたいに言ってるけどね、ユータの従魔でしょ?ユータがしでかしたのと同じだからね?」
なんと・・!?従魔術師って・・親みたいなものなんだな・・子の責任は親の責任?
「まぁ・・今回は解呪できて本当に良かったけど・・ユータといると肝が冷えることばっかりだね・・。」
「えーそうかな・・。ねえ、この呪いのグッズは後で解呪してもいい?」
「『これ開けてもいい?』みたいなノリで聞かないでくれる・・?いいよもう・・解呪しなきゃただの呪いの品だし。でも一度何があるか確認してからね!」
よーしこれでオレも解呪に挑戦できる!袋の中には禍々しい物もあるからね・・・価値はあるんだろうけど・・やっぱりお詫びに入れる物じゃないよねぇ、と可笑しくなった。焦っていたんだろうね・・店長さんたち、随分青くなっていたから、早く無事を伝えてあげないとね。こういうとき貴族は便利だ。解呪薬の手持ちがあっても不思議はないので、宿で解呪したことにするんだ。たくさん品物をいただいちゃって申し訳ないけれど、実際不手際の事故は起っちゃったわけだからそれぐらいもらっといていいよって。本来貴族の命に関わる事態だから、お店の人の命だって危ない案件だったわけだ・・店員さん、オレで良かったね。勝手に助けて大事になっちゃったけど、助けなかったら店員さんの命が危なかったんだと思えば・・良かったよね?
それにしても店同士のいざこざかな?こんな命がけのことをするなんて、物騒な世の中だ・・。
「なんだか疲れちゃったよ・・。ほら、あの露店で飲み物でも買ってちょっと休憩!」
「さっきも休憩したよ・・・。」
そう言いつつも露店の飲み物には興味があったので渋々ついていくと、色とりどりの飲み物がきれいな大瓶に入っていた。目の前でぎゅうーっと圧搾してジュースを絞っている人達もいる。ビックリするような色もあるけど、全部100%ジュースなんだよね・・・蛍光グリーンの飲み物なんて怖くて飲めないよ・・。
「ユータはどれにする?」
「うーーん、どれが何だかわからない・・。こどもに飲みやすいのはどれ?」
「こどもに人気があるのは、やっぱりこれじゃない?イベリーの実!あとはメメローも人気だと思うよ?」
淡いピンク色のジュースと蛍光グリーンを勧められて迷わずイベリーを選んだ。冒険するのはまた今度にしよう。
人混みを避けて道路脇の花壇に腰を下ろして、ホッと一息。イベリーの実は爽やかな甘酸っぱさがあって、イチゴとラズベリーの間みたいな味がした。この果物ほしいな!お菓子とかにも使えそうだ。セデス兄さんはなんとメメローを選んだので、少し味見させてもらったんだけど、普通の甘い果物の味だ・・酸っぱいメロンみたいな感じ。100%ジュースだからか、すっきりした後口の甘さ控えめのものが多いみたいだね。
「ちょっとこれ返してくるから、ここにいてね?」
どうやらコップは返さないといけないようだ。お店に戻るセデス兄さんを見送って、傍らの重い荷物は収納しておく。
「お待たせ。・・さて、次はどこに・・・あれ?」
駆け戻ってきたセデス兄さんが首を傾げる。
「さっきのお店の荷物、ここに置いてなかった?」
「あったよ、ちゃんと収納してるよ!」
「・・・・・・・・どこに?」
「ここ・・・あっ!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
空間に手を突っ込もうとした姿勢で冷や汗だらだらのオレ。
あれ・・・オレ・・言ってなかったっけ・・・?
ここは3つぐらいのストーリーのどれを選ぼうかさんざん悩んで投稿遅れました・・