1002 豪華野営
「あの~、これ、さすがにやりすぎじゃない~?」
「いいじゃねえか! でかけりゃデカい方がいいだろ!」
「そうは言っても~、シロより大きいじゃない~。ひっくり返せないよ~?」
……うん、さすがに調子に乗って豪華にしすぎたかな、という懸念はある。
でも! 豪華野営だもの、特別メシじゃなきゃ!!
オレのお布団くらいありそうなハンバーグは……まあ……そうだね、やりすぎだね。
「これはもはやハンバーグじゃないよね~」
「じゃあ布団肉だ! それとも肉ベッドか?」
どっちも美味しそうじゃない! もっとおいしそうな名前にしてよ!
でんと鉄板一杯に広がるハンバーグ布団を前に、こくりと喉を鳴らす。
い、いけるかな……本当に。こんなの、本当にひっくり返せる??
つい躊躇するオレを、管狐部隊がちらちら窺っている。火が通りすぎることを心配しているよう。
「よ、よし……タクトは、OK?」
「おう! けど、ホントにできんのか?」
「たぶん……理論上は……」
『ゆーた、大丈夫だよ! ハンバーグはどうなってもハンバーグだよ! 美味しいよ!』
待ちきれずに弾むシロに、くすっと笑う。
確かにシロならどんな見た目のハンバーグでも、きっと変わらず愛してくれるだろう。
海よりも広くて深い懐の持ち主だから。
両手にヘラを構えるタクトと頷き合って、すうっと深呼吸する。
魔力を集めると同時に、しっかりとイメージを固める。
「いくよっ! インパクト・リジッド、スキン・ヴェール・ハンバーグ・フォルム!!」
ふわっとオレの両手から放たれた光が、でっかでっかハンバーグを包み込む。
「タクト、今っ!」
「おしっ!!」
でっかでっかハンバーグに対して、あまりにも儚く無力に思える、小さなヘラ2本。
素早く差し込まれたそれに、周囲が固唾を飲んだ。
「よっ……!!」
ふわり、宙を舞ったでっかでっかハンバーグが――
くるりと表裏を返し、見事に鉄板に着地した。
じゅわわ、と激しい音と共に、一斉に歓声が上がる。
「わあっ! すごいっ!!」
『おおお! 主ぃ、これは革命なんだぜ! 新たなる食の1ページなんだぜ!!』
『そうなんらぜ! あららなるいっぺーなんらぜ!』
『すごい! すごいよ?! ゆーた、タクト、カッコいいよ!!』
喝采を浴びながら、額の汗をぬぐったオレとタクトは互いの健闘を讃えて白い歯を見せる。
「すごいけど~……なんだろうこの、腑に落ちない感じ~」
素直に凄い、でいいんじゃないだろうか。
実際、すごいと思う。こんな、失敗確実ハンバーグを、見事にひっくり返せる魔法なんて。
満足の笑みを浮かべて、魔法の交換をして良かったとしみじみ思う。
これさえあれば、ひっくり返す系料理も、もしかすると型からそっと出す系お菓子も、怖いものナシなのでは。
これからの活躍の場が思い浮かんで、わくわくしてくる。
『戦闘に使いなさいよ……あなたも、某賢者も』
『あ、それはそうなんだぜ主ぃ!』
……だってオレ、シールドあるし……。
そもそも戦闘で使う気なんて、さらさらなかったな。
これこそ、オレがヌヌゥさんと交換した、素晴らしい魔法!
「インパクト・リジッド、までは普通なのにね~。途中で様子がおかしくなるよね~」
『ダサネーム度が段階的に上がっていくわ』
そうは言っても、仕方ないじゃない。
元々の魔法名が『インパクト・リジッド』なんだし。そこに諸々付け加えたら……そうなるよね。
『普通はそうはならない』
『スオー、名前変えればいいと思う』
なるほど……?
「つまり、この魔法はオレオリジナル部分もあるから、もはや『ハンバーグ・フォルム』と名乗っていいという――」
『一番ダメなところが残ったわ』
散々な言われように、ムッと頬を膨らませる。
「そもそも、元は耐久強化なんでしょ~? それがどうなってこうなったわけ~?」
「つうか、なんでお前もアレンジしたんだよ? 元のインパクト・リジッドに戻せよ」
それは、もちろん使い勝手がいいからですが?!
こちら、武具の一時的な耐久強化魔法、だったらしい。それをヌヌゥさんがスキン・ヴェールとかいう、お肌を守るだか何だかの魔法にアレンジ、さらにオレがアレンジしたというわけだ。
魔法もここまで進歩すると、別物になってくるね!
『進歩……なのか?』
『スオー、退化してると思う』
みんな、分かってない。武具の強化はなくても戦えるけど、この魔法なしに完成できない料理だって、きっと出てくる。
そう……今のようにね!
「「「きゅっきゅー!」」」
「出来上がり、だよな?!」
「早く食べよう~!」
『はんばーぐ! でっかでっか、はんばーぐぅ!!』
嬉しさがはちきれたシロが、ハンバーグの歌を歌いながら、周囲をぐるぐる疾走している。
おかげで、ハンバーグの歌が立体音響で聞こえてくる。これはこれで、豪華設備だ。
「じゃあ、みんな席について! みんなで食べるんだよ!」
でででん! と目の間に鎮座する、あまりにも巨大ハンバーグ。
「圧巻だね~」
「うおお、夢だな、夢!」
二人のきらきらした瞳に、そういえばオレ、子どもの頃にこういう絵本が好きだったなと思い出す。
「よし、せーので! いただきます!!」
「「「いただきます!!」」」
一斉に、でっかでっかハンバーグの大地にナイフとフォークを突き立てた。
「でっか……」
笑いが止まらない。
何やってるんだろう、こんな、楽しいことしちゃって。
しっかり溢れる肉汁をもう一度ハンバーグですくって、お口の限界まで『あもっ!』と頬張った。
口が閉じるか閉じないか、本当に限界サイズ。
だというのに、目の前の巨大な大地からしたら、オレが食べた部分の小さいこと。まるでねずみが齧ったみたいだ。
噛みしめと同時に溢れた肉汁が、あえなくオレの唇を通り抜けて顎へ伝っていく。
『もったいないもったいない!』
がつがつ食べながら、べろりと舐めてくれたシロのおかげで、オレの顔は無事に脂まみれになった。
四苦八苦しながら口いっぱいのハンバーグを飲み込んで、てらつく顔でにっこり笑う。
「ああ美味しい! ほら、豪華野営でしょう!」
「間違いねえよ!」
「最高だね~! 当然、お風呂もついてるんでしょ~?」
もちろん!
『花びら舞うはちみつミルク露天風呂、生命魔法水バージョン』の準備は万端だ。
豪華バージョンとして、洗浄魔法でマイクロバブルを。
そして、浄化魔法でキラキラエフェクトを。ついでに、浄化もかかって気分もスッキリだ。
『ついではそっちじゃないと思うわ』
『骨の髄までピカピカコースなんだぜ!』
確かに。雑菌の1つもいなくなってしまいそう。
「パーフェクト食材になっちゃうね! いつだってお料理OKだ」
まさに、豪華食材だとくすくす笑う。
「そうじゃねえよな」
「どうしてそっちに行っちゃうかな~?」
生ぬるい視線を寄越す二人は随分脂まみれで、これはこれでおいしそうかもしれないと思ったのだった。






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