999 魔物とは違う
「みんなー! 集まってくれてありがとー!!」
満面の笑みでぶぶぶんと手を振ると、どうっと観客が沸いた。
うわ、すごい。魔物とは全然違う。
『それはそう』
モモの小さな呟きもそっちのけ、ほかほかする身体で胸を弾ませた。
もう2回も練習したからね! 完璧じゃないかな?!
「オレはロクサレンのユータです! 今日は、今日は……」
あれ? 何しに来たんだっけ?
「森に喜んでもらうんでしょ~っ?」
きょとりと首を傾げたところで、ラキからの援護が入る。
ああ、そうか。ラ・エンが喜ぶ歌だもの、森が気に入らないはずがない。
にっこり笑って頷いた。
「そう! 頑張るから、応援してくれる~っ?!」
おおーっ、とうねりをあげる声が心地いい。ちゃんと返事があるって最高だ。
『あら、ゆーた着替えてないわよ? 早く着替えなきゃ!』
「えっ、本当だ。オレ、普通の服だ! えっと、何を着るんだっけ?!」
慌てすぎて頭が真っ白だ。何にも覚えてない。
『ほら、アレよ! 大丈夫、その間にリズムを作っておくわ! 超特急で着替えてちょうだい! 他の衣装も出しておいて!』
頼もしいモモのセリフに涙目で頷いて、ラピス部隊に合図する。
「「「きゅうっ!」」」
突如、ステージ上に濃密に立ち上った靄に、歓声が上がった。
その中に飛び込んで大急ぎで着替えていると、ぱぱぱっとお花サイズの花火が時折靄を照らす。
あ、あの、きれいだけどそれ、オレのシルエットも映ってない?
ちょっとカッコ悪くない??
そうこうするうち、楽団がリズムを刻み始める。
え、どうやって伝えたんだろ? と盗み見たら、シロの頭に乗ったチュー助がモモの翻訳をし、シロがチャッチャカ前脚でリズムを刻んでお手本になっているらしい。す、すごいね?
「準備、OK!」
小さく呟いた言葉を、シロの三角耳がばっちり拾って、頷いたモモがチュー助に指示をする。
白い歯を見せた楽団が、リズムを切り替えた。
ドラムロール! ……ここだっ!!
――ばってん承知なの! 思いっきりいくの!!
気の抜けるセリフが聞こえた瞬間――。
ステージ上が爆発した……と思った。
一斉に咲いた光の華で、目がくらむ。
一斉に噴出した水柱に光が溶けて、まるで火柱のよう。
「お待たせ――っ! みんな、いくよーーっ!!」
光の中から飛び出したオレが、くるくる回ってしゅたっとポーズを決める。
悲鳴が、怒号のような歓声に変わった。
えへ、と笑って息を吸い込むと、すっかり馴染んだ歌を口ずさみ始める。
すぐさま調子を合わせてくる楽団が、さすがだ。
森に捧げる歌なら、確かにこの衣装がいいのかも。
オレたちも、動物だよって示すような。
もふもふの着ぐるみと、耳カチューシャ。
顔が見えないのはやっぱり嫌だと、マリーさんがいろんな種類を作ってくれたやつ。
おしりにくっついたしっぽが、動きに伴ってゆらゆら揺れる。
「ンッン~! エプロンは縮むものさぁ! ヘイヨーッ!」
「「「ヘイヨーーッ!!」」」
うわ、すごい。
すさまじい熱気と共に感じる、この一体感。
魔物では味わえなかった感覚だ。
ノリのいいおばちゃん厨房歌は、ここでもみんなのパッションを最大限に盛り上げてくれる。
これは、1曲で終わってはいけない雰囲気……!
『行くわよね? もう一回!』
ノリノリで問いかけるモモに、満面の笑みを浮かべた。
「うんっ! さあ、おかわり……いくよっ?!」
――任せるのっ! 水砲用意! ――ってぇーー!!
どどどどっ!
一斉に吹き出す噴水が、光魔法で色付いて七色に輝いた。
大サービス! きらきらの浄化魔法を会場中に!
「……なんで俺らまで……」
「まあ……ステージいるだけなら~」
え、と左右に視線を走らせたそこに、苦笑した二人。
『おかわりがバージョンアップするのは、とーぜんなんだぜっ!』
『とーぜんなんらぜ!』
チュー助とアゲハが、シロの上でふんぞり返っている。多分、モモの入れ知恵なんだろう。二人はばっちりオレと同じもふもふ衣装を着こなしている。
『ぼくもっ!』
『ねこは踊らない……』
『スオーは、踊れる』
右へ、左へ、単純な振り付けに変えて、一列に並んだオレたちが揃って歌い踊る。
響き渡るのは、怒号のような歓声。
もはや歌っているんだか、叫んでいるんだか。
さあ――、クライマックスだよ!
オレたちに合わせて会場の人たちも、声を枯らして右へ、左へ。
ざっざっざ、鳴る足音もリズムになって。
ざざあ、鳴る梢も、響く遠吠えもメロディになって。
ド派手に炸裂する光魔法集中砲火と、みんなびしょぬれになるような水砲乱れ撃ち!
「うわあ、すごいね!」
なんだか、葉っぱ吹雪がすごいことになっている。森も大サービス?
「うええ、マジで森ってなんか意識あるのか……」
「ちょっと、不気味だよね~」
そうかな? 楽しいと思うのだけど。
でも、森が丸坊主にならないうちに、終わらなきゃ。
くすっと笑ったオレたちは、轟く歓声の中、揃ってお辞儀をしたのだった。
何度も書いてもな~と飛ばすつもりだったんだけど、書いてと言われている気がして……
ちょっと短めだけど。
大盛り上がりだけど……歌ってるのはおばちゃん厨房歌(笑)






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