997 ユータ案
「森人郷を、もっとお気に入りにする方法……?」
休まず手を動かしながら、プレリィさんが困惑顔をする。
「そう! とっておきの森のお気に入りになったら、自然と脅威は減るんじゃない?」
意気込んで身を乗り出すと、きゅっと口の中に何か突っ込まれた。
「……なにこれ?! 不思議な食感……! 甘ぁい!」
「俺も! 俺も味見したい!」
「僕も~」
カウンターに並んだ二人にくすくす笑って、プレリィさんが小さな何かを口に入れてくれる。
何だろう、ゼリーを干し固めたらこんな感じだろうか。
グミほどの弾力はなく……ああ、ドレンチェリーのような。
「果物? いい香り!」
「お菓子に使う保存食だよ。漬け込んだ果物の水分を抜いて作るんだけど、どうかな? うまくいったと思うんだ」
「うまくいってなかったらどうなってんだ?」
「ばっちり~」
「おいしいよ! あ、もしかしてマキドラーイで?」
さすがは森人、しかも賢者だもの。すぐにコツを覚えて、こうして実践で使っているらしい。
「そう! 本当に便利……! まずはこの手の簡単なものから、乾燥のコツを覚えていってるんだ」
にこにこ上機嫌のプレリィさんだけど、それだけ魔力を使って平気な顔をしているのは、さすがとしか言いようがない。
『主に言われてもなあ……』
『本当にそうよ』
お、オレはだって神獣の加護とかあるし!
「ユータくんは、僕にいいことばっかり運んでくれるね。ロクサレンの天使ってこんな感じかな?」
「ちちちちがうよ?! 天使様って、もっとこう、羽が生えて!!」
隣の二人からのぬるい視線を受けながら、必死で弁明しておく。
彼はセデス兄さんの案にも乗り気のようだし、ジフと文通したいと言い始めたし、なんだかプレリィさんとロクサレンに繋がりができてしまったなあ。
ますます『食のロクサレン』が極まってしまいそう。まあ、そこはオレとしては大歓迎だけど。
「それで、森のお気に入りってどういうこと? 森人は、ちゃんと森のお気に入りだよ?」
「うん、だけど『森人郷』自体はどうなのかなって」
あと、プレリィさんを前に言えないけれど、森のお気に入りの程度が違うんじゃないかな。
たとえばあのヨルムスケイル、あれはこの森に何体もいない。下手すると一体しかいない可能性もある。だから、森はその一体を守ってくれる。
だけど、森人は……たくさんいる。森人という種族がお気に入りだとしても、その中でヌヌゥさんみたいに『個』をお気に入りにするってことは、つまりそれ以外は守るつもりがないってことだ。
「森人郷自体? それは確かに……お気に入りには入ってないかもね。普通に災害やら魔物に壊されたりするし、『森の守り』でむしろやられることもあるから」
「森人全員をお気に入りにしてもらうのは、きっと難しいでしょう? だから、『森人郷』をお気に入りにしてもらったらどうかと思って!」
そうすれば、ある程度森人の安全が担保される……!
熱弁するオレに少し困った顔をして、首を傾げられた。
「それは、そうかもしれないけど……どうすればお気に入りにしてくれるのかなんて、分からないよ?」
「だよね~? だから、難しいと思うんだけど~」
「俺は、とびきり変な場所にすればいいと思うぞ!」
「それはちょっと~」
再び二人がそう言い始めるのを押しとどめ、まずは聞き取りを開始する。
「まずは、森人郷ってどんなところで、どんなことをしてるのか、それを聞かせて!」
真剣な顔でメモを取り出したオレに、3人はきょとんとして顔を見合わせた。
「――うーん、これは思ったより……」
「思ったより?」
メモを見返しながら閉口したオレに、プレリィさんが不安そうな顔をする。
ぱたん、とメモを閉じてペンを置き、オレは……にっこり笑った。
「うん! 思ったより、やってみる価値がありそう!」
「そう、なの? どんなことを?」
「それを、今から考えるよ!」
かくん、と力の抜けた面々を眺めて、むっと頬を膨らませる。
大丈夫、ある程度の案はあるんだから!
「ひとまず、郷全体を巻き込む必要があるんだけど、そういうのってプレリィさんが交渉したりできる?」
「うーん。僕もできるけど、僕より現賢者のヌヌゥさんとキルフェの方がいいと思うよ」
「キルフェさん?」
どうしてここで名前が出てくるんだろうか。
「うん、長の姪だし」
「「「ええっ?!」」」
良かったんだろうか、長の親族が森人郷を離れちゃって……。
でも、娘でもないし、近いような遠いような……ほど良い頃合いなのかもしれない。
「じゃあ、もう少し案が煮詰まったら相談に行くね!」
「うん、まず僕に話してほしいけど」
「分かった!」
よし、『森のお気に入り大作戦』のたたき台を作るよ!
『ネーミングの時点で既に不安しかないわ』
力なく扁平になったモモが失礼なことを言っているけれど、包括的ないいネーミングだと思う!
全然事態を飲み込めていない二人を引きつれ、オレは勢いよく厨房を飛び出した。
「で、お前は何か作戦があるんだろ?」
「ろくでもないことじゃない~?」
「こういうのどうかなって案はあるんだよ! それをもうちょっと詰めていこうと思って!」
部屋に戻ったオレたちは、小テーブルを囲んで、お菓子を出して、さっそく作戦会議に取り掛かった。
胡乱気な視線を寄越される意味が分からない。
けして、突拍子もないようなことじゃないもの。前例だってあるし、今回は自信満々だ。
『スオー、今回も、だと思う』
『お前は、いつも自信満々にやらかす』
辛辣組のツッコミに、ぐっと言葉に詰まったものの、負けずに笑みを浮かべる。
「森がどういうものをお気に入りにするのか、分からないけど――」
「だよね~」
「じゃあ、結局どうすんだ?」
お菓子を頬張った二人が、膨らんだ頬で首を傾げる。
「うん、わからないんだけど……でも、『お気に入り』って『他と違う』ってことでしょう?」
ヌヌゥさんだって、ヨルムスケイルだって、明らかに他と違う。森人だって、他の魔物や動物とは、ちょっと違う。
「確かに……お前だってそうだもんな」
「なるほどね~」
……そこにオレを含めては考えてなかったんだけど?!
「と、とにかく! きっと他と違うから、見ていて面白いんじゃないかな? きっと、森も楽しいのが好きなんだよ!」
「……森が? なんか、唐突だな?!」
「だね~、急に発想が飛躍したような~?」
え、そう……かな? ちょっと自信をなくして口を噤んだオレに、二人が腕組みして考え込んだ。
「つまり、面白いことをすりゃいいのか?」
「やっぱり、森人郷を奇抜な場所にする~?」
「えっと、それもいいと思うんだけど……」
おずおずオレの構想を伝えた二人は、口に入っていたお菓子を飲み込んで、そして笑った。
「いいんじゃねえ? とりあえず、やって損はねえし!」
「う~ん、僕らが中心になるなら、ひとまずきっかけ作りかな~?」
「そうだね! お手本ってことで……難しくないし楽しいよって伝えられたらいいんだから!」
既に残り少ないお菓子を追加して、ホッと表情を緩めた。
よかった。
これなら、きっと成功するよ……『森のお気に入り大作戦』!
オレは、窓の外を見やって、にっこり笑った。
待っててね、絶対……楽しませてあげるから!
【文学フリマ大阪13 参加します!】
2025/9/14開催の文学フリマ大阪13、『ひつじのはね屋』で参加させていただきます!ブースは『い-02』です!
詳細は文学フリマの公式HPをどうぞ!
でもなぜか開催を11月だと思い込んでいて何も準備してないです!!
ブースを埋めるために前回の『りゅうとりと まいにち』とデジドラ1巻を5~10冊くらい持っていこうかと思います。後は、羊毛写真集ですね……。
お高いものばっかりで初見で購入いただける気がしないので、何か間に合えば……何かします……(笑)
今回は私もブースをまわりたい所存……!!