991 有効な対策
「か、帰って来た! 子どもたち、無事に帰って来たぞ?!」
「よかった……! なんて無茶をするんだ!」
もうとっくに引き上げているだろうと思っていた、最前線のシールド位置に、まだたくさんの人がいる。
わっと取り囲まれて、小首を傾げた。
絶対止められるって分かってたから、オレたちこっそり行ったんだけど。
「だから大丈夫だって言ったのに……」
どうやら帰ろうとしていたらしいプレリィさんが、何やら他の人に確保されている。
「どうしてみんな、オレたちがおびき寄――ええと、シールドの外に出たの知ってるの?」
「あのバカ賢者が、わざわざ言っちまったからねえ」
馬鹿の賢者とはこれいかに。
そしてキルフェさんの言葉に当てはまるのは、きっとプレリィさんじゃないだろう。
「バレてたのかーさすがは賢者? でもなんでだ?」
「その割に、助けに来るとかそういうことはなかったけど~?」
まあ、助けに来られても困るし、シロに追いつけるわけもないけれど。
「そりゃそうさ、『今この場で魔法を教わろうとしたのにぃー!』って怒ったかと思や、早く寝なきゃいけないとかで……」
「風のように去っていったよね。それで、なぜか代わりに僕が捕まってるんだけど?」
苦笑するプレリィさんに、周囲の人が頭を掻いた。
「だって、ヨルムスケイルがうろつく森だぞ? 賢者でもいなけりゃ、あまりに危険だ」
「こっちの元賢者の方が、大分信用できそうだし……」
ヌヌゥさんと比較したら、誰であっても信用できそうな気もするけど。
「僕は、彼らなら大丈夫って説明したんだけどね?」
周囲の苦笑に、オレたちも同じ顔をするしかない。
そりゃあね、いくら大丈夫と言われても、幼児じゃあね。しかも、森人にしたら新生児らしいから?
「……ところで、うまくいったみたいだけど、どうやったのか聞かせてくれるかな? 森が騒がないところを見るに、討伐したりはしてないんでしょ?」
こそっと耳打ちするプレリィさんに頷いたものの、ちょっとばかり言いづらい。
「大したことはしてないよ。普通に、四樹内までおびき寄せただけ」
オブラートに包んでにっこり笑うと、タクトとラキのぬるい視線が注がれた。
謙遜は日本人の美徳なんだから! 別にいいでしょう!
だけど、プレリィさんはそれで諦めてくれなかった。
「今後の参考にできると思うから、ぜひ教えてほしいな。本当に素晴らしいよ! 互いに被害を受けずに、しかも森を怒らせたり『助け』を引き起こすことなく、事を収めるなんて」
うっ……。
純粋に讃える瞳が胸に突き刺さる。
た、確かに今後、使える知識というか……もし知らずに三樹内あたりでカレー作りなんてしちゃったら、大変なことになるっていうか……。
「え、ええと……ね、何も難しいことはなくて……」
メモを取らん勢いで身を乗り出したプレリィさんが、腹を抱えて地面に転がるまで、そう時間はかからなかったのだった。
「――あんなに笑うことないのに」
割り当てられている部屋まで戻って来たオレは、目をしょぼつかせながらむくれていた。
「まー、あんなに笑うことではある、と思うけどな」
「むしろ引かれなくて、良かったんじゃない~?」
……まるで他人事みたいじゃない? ばっちり二人は当事者なんだからね?!
だけど今回の方法は、とても有効であると証明できたわけだし、今後の対策として使えると言ってもらった。すばらしい成果ではある。
「でも、シロがいないと同じようにはできないよね?」
カレーを持った人がパックリ食べられるだけになってしまう。
「同じ方法はできないだろ。罠的におびき寄せ用に使うとか?」
「飛ぶ系の召喚獣で、定期的に四樹内の魔物に、カレー爆弾を投下するとか~?」
なるほど……まず出てこないようにするっていうのも、いい方法かもしれない。
真剣な顔で頷いたのに、台無しにするような大あくびが後を追う。
釣られるように二人もあくびを零して、目を擦る。
そう言えば、もうとっくに寝る時間は過ぎている。
一気に眠気が押し寄せてくるのを感じて、いそいそ布団へ向かった。
「あ、そうだ! オレ、明日ジフのところへ行かなきゃいけないから……ほどよい時間に起こしてね?!」
プレリィさんにジフから聞いて来たメモを渡したところ、大金を積もうとしたもんだから……。
それなら、何か珍しい食材とか保存食とか、そういうのがいいって言っておいたんだ。
張り切ったプレリィさんが、今回のカレーのお詫びとお礼も兼ねて、随分色々渡してくれるみたいだった。
もしかして、お金の方が安上がりだったりするだろうか……。
「ほどよい時間っていつだよ……」
「朝早すぎなくて、お昼になってなくて、オレがスッと起きられそうな時間」
「分かるかよ?!」
そのくらい、付き合いが長いのだから分かってくれても罰は当たらないと思うのだけど。
ひとまず、こう言っておけば起こしてはくれるだろう。
今日こんな遅いんだから、朝起こしてなんて言わない。だって多分起きないし。
でも、昼になったらもったいない気がするから。
だから、ほどよい時間でお願い。
おやすみを交わしたオレたちは、すぐさま寝息をたてはじめたのだった。
「――んん……プリメラ……? おはよう……?」
ぼやっとした頭で、腕の中のふわふわ桃色ヘビさんを眺めた。
ヨルムスケイルを見た後だから、プリメラがものすごく小さく見える。
まるで赤ちゃん蛇だな、とくすくす笑って撫でてから、これは一般的に大蛇サイズだったことを思い出す。
「ふふ、小さくは……ないね?」
身体を起こすと、手のかかる子、と言わんばかりに頭でぐりぐりやって、オレの腕から抜け出してしまう。
残念に思いながら、あれっと首を傾げた。
オレ、森人郷にいたのに……どうしてロクサレンで起きたんだろう。
『起こされて、夢うつつに転移したからね』
『主、着いた瞬間から寝てるんだぜ!』
そっと窓の外を見ると、随分日が高い気がする。
おかしい、昼までには用事をすませる予定だったのに。
「でもまあ、ちゃんと朝にロクサレンには来たわけだし!」
『合格判定が甘すぎるのよ……』
『主ぃ、他人には甘く、自分には厳しく、が鉄則なんだぜ!』
頬をつつく小さな手に、思わずむっとして寿司のごとくタオルで巻いておいた。
そのセリフ、チュー助に言われちゃ終わりだ。
『俺様何もしてないのに! なぜにこの仕打ち?! ちょっとシロぉ~、助けてぇ! 俺様をここから解放して!』
『楽しそうだよ? 出しちゃっていいの?』
『いいから! 早くぅ!』
騒がしいチュー助を横目に、うーんと伸びをして立ち上がった。
タオルを咥えたシロが、せーの、と声をかける。
『え、シロ? ちょっと待――』
ビュルルルッ! と高速回転したねずみの悲鳴が、枕の方へ遠ざかってぱふっと着地した。
「さて、昼ご飯はもう終わった時間かな? 今ならジフの手も空いてそうだね!」
ついでに、厨房でオレの朝昼ごはんも調達しようかな!
たっぷり寝て気分も清々しく、オレはにっこり笑って駆け出したのだった。
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