89 幻獣店
うん、これ・・いいブラシだ!これがいいな!!きっとルーも気に入るよ。
「セデス兄さん、オレこれがいい!お姉さん、これおいくらですか?」
「おっ?お目が高いね!兄さん、ちょいといい値だけど男を見せてやりな!こいつは金貨1枚と銀貨3枚だ。」
「うわ、本当にいい値がするよ・・ユータ、どうする?」
「これがいい!」
「まぁ、ユータがそう言うなら構わないけど・・。」
高級ブラシなんだからそれぐらいしてもおかしくないよ。頑丈そうだしきっと長く使えると思う!オレのお財布には銀貨しか入ってないけど、執事さんからあらかじめセデス兄さんにお金を預けてもらってるので大丈夫だ。ちなみにこれはどうしてもオレのお金で買いたいと伝えてある。
「気に入ったんならそうしようか、じゃあもう他はいいのかい?」
「ありがとう!他も見てていい?」
「毎度ありぃ!ぼっちゃんは他に何が欲しいのかな?」
「えーと、次はとても小さい子用の何かないかなと思って!」
「ピ!」「きゅっ!」
自分たち用だと分かったようで2匹がオレの両肩でポンポン跳ねる。
「おわっ!?ビックリした・・大人しいペットだねぇ~!気付かなかったよ・・・あれ?」
まじまじとラピスを見つめる店員さん。ぐっとかがみ込むとベージュ色のポニーテールがさらりと前へまわった。日に焼けた肌が健康的で、結構派手な露出も気にならない。
実はラピスはうっすら『目立たなくなる魔法』をかけているらしいから、普段あんまり気にされないんだよ。いちいち姿を変えるのは面倒くさい!でもオレのそばにいる!どうせ天狐なんて知ってる人はいないってラピスが言うもんだから・・。ティアには魔法かかってないんだけど、ラピス曰く元々存在を隠す能力みたいなのがあるんだって。だからフェリティアの時も見つかりにくいんだそう。ティアはそもそも大人しいから目立たないけどね・・。
「・・な、なあこれって管狐??え?うそだろ・・・?初めて見た・・白いのもいるんだ・・・凄い・・!!」
「あー、店員さん、あんまり言いふらさないでね?この管狐はたまたまユータが気に入って一緒にいるだけだから、使い魔じゃないんだよ。」
「使い魔?」
「うん、使い魔っていうのは・・従魔術とか首輪で支配して思い通りに扱える魔物や幻獣のことだよ。」
「えっ?!従魔術ってそんな魔法なの?!」
「・・ぼっちゃん、従魔術師になりたかったのかい?そうか・・子どもの頃はねえ、かわいい生き物と仲良く旅できるって憧れたりするもんさ。一応、絵本にあるような従魔術もあるんだよ?双方の同意でもって契約を結ぶってヤツ。でも、護衛になるぐらい強い従魔を・・ってなったら、それでは無理なんだ・・・。」
ちょっと悲しそうな顔をした店員さんの胸ポケットから、ひょいと小さな頭がのぞいて、じっと店員さんの顔を見つめた。
「大丈夫だって!心配屋さん!」
店員さんが、鼻先をつんっとすると、小さな生き物はぱちぱちと瞬きして引っ込んだ。
「わあ・・・今の、なに!?」
「かわいいだろう?この子は、森跳鼠だ!小型の種類だから大人だけどこんなに小さいんだ。動物と幻獣の間ぐらいの生き物だな。私が相互契約できるのは、この子ぐらいまでだよ。さすがにフォリフォリ1匹連れて旅はできないだろう?」
「へぇ、お姉さん従魔術師だったんだ。相互契約できる術師なんて、そういないでしょ?結構な使い手なんじゃないの?」
「お、兄さんは知ってるんだな。まあ・・強制契約ならある程度は、ね。でもねぇ、それじゃ嫌だったのさ。それでこんなしがない商売やってるってワケだ。」
はは、と自嘲気味に笑うお姉さん。強制契約・・・それって、どういうものなんだろう・・良くないものっていう気はするけれど。
「ああ、関係ない話で悪かったね!ぼっちゃんはその管狐と小鳥用の道具が欲しいんだね?いや、しかし管狐に気に入られるなんて・・・凄いもんだ!将来、その子レベルと契約できるようになったら、最強の従魔術師になれるんじゃないかい?!はは、その時はどうぞご贔屓に!」
楽しそうに話しながらポニーテールを揺らして次々商品を並べてくれる。管狐・・天狐ってやっぱりすごいんだな・・こんな小さいのにね。
「きゅきゅ!」
ラピスは強いの!ユータを守ってあげる!
「あっ!鳴いた!今、管狐鳴いた!?うおー声聞いたぞ!やっほう!!」
店員さんが商品を放り投げてラピスの前に来たので、ラピスがビックリして引き気味だ。この人は本当に幻獣とか好きなんだな・・商品を投げちゃいけないと思うけど。オレがキャッチした商品を見ると、なんともかわいいサイズのブラシだ。
「あ、それウチの子にも使ってるヤツだよ、こいつも気に入ってるみたいだしオススメ!」
ラピスから視線を外さないままそう言う店員さん。ラピスはオレの髪の中に潜ってしまってしっぽだけがのぞいている。
(ねえラピス、この人悪い人じゃないと思うよ?ちょっとだけ手のひらに乗ってあげたら?)
(・・ちょっとだけ?それならいいの。)
差し出した手に、ぽんと飛び乗ったラピスを店員さんの方へ差し出す。
「ふわわわ・・・・・。」
目をきらきらさせて寄り目になる店員さん。その割と大きめな手をとってラピスを乗せてあげると、顔を真っ赤にして身をよじりだした・・・手のひらだけ安定しているのがなんとも不気味。
「きゅ?」
もういい?と首を傾げたラピスに鼻血を吹きそう・・ちょっと刺激が強すぎたようだ。
ぽん、と飛び降りてオレの所に戻ったラピスが、ふうと一息ついて顔をこすりつけた。
「ああ・・・私の手に、管狐のぬくもりが・・・・重みが・・・!!」
「・・・変わった店員さんだね。ユータ、買うのはもうそれでいいの?」
セデス兄さんに言われたくないと思うけどねぇ。とりあえず買う物はこれでいいかな?でもまた
今度ゆっくり見たいな・・・店員さんが落ち着いているときに。
「あっ?!待て、ルル!ちょっと待って!ダメ!管狐のぬくもりが・・重みがっ!!」
「クイクイ!クイクイ!!」
あ・・フォリフォリが飛び出してきて店員さんの手のひらにスリスリしてる・・ふふ、ヤキモチ妬いたんだね?かわいいな。切ない顔をして手のひらを眺める店員さんには気の毒だけど、フォリフォリをかわいがってあげて!
「・・毎度ありぃ。また、また来てくれな?私は店長のシーリアって言うんだ。幻獣のことなら結構詳しいから色々聞いてくれ!」
購入品以外のオマケをぽいぽいと景気よく袋に入れて、名残惜しそうなシーリアさん。
「うん!オレ、もうちょっとしたらここの学校にいくの!だから、また来るね!」
「おう!そりゃあいい!なんかあったらシーリア姉さんを頼りな!!」
にかっと笑った顔はお日様のようだ。ばいばい、と手を振るとシーリアさんとポケットのルルも小さな手を振ってくれた。シーリアさん、ちょっと変わってるけどいい人だな。
「面白い人だったね!僕も幻獣と契約できたらいいなぁ、猿人系だとさ、色々と手伝ってくれそうじゃない?」
「猿人?」
「そう、お猿さんみたいな類いだよ。あれ取ってーとかこれ持っていってーとか、簡単なことならしてくれるからいいよね。」
「・・・・。」
思わず、メイド服を着たチンパンジーがセデス兄さんの髪を整えているのを想像して、必死に笑いを堪えた。
「・・・なんだろう、すごく馬鹿にされている気がする。」
しゃがみ込むと、むにっ!と両頬をつまむセデス兄さん。笑わなかったのになんでバレたんだ・・オレは頬を引っ張る手をぺちぺちと叩いて抗議するのだった。