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集結


「準備はできたかい?」


 アスファルトの黒さから浮かび上がったかのような、真っ黒な衣装に身を包んだ黒崎メイサは、千秋と成政、両者の表情を交互に見回し、平らな胸を張る。時刻は午後10時を回った頃である。田舎であることに加え、高齢化の進んだ村の大半は既に明かりが消え、昼間の生活音すら忘れてしまうほどに静まりかえる民家の並び。そんな中、三人は円陣を組むように向き合っていた。

 口をへの字に曲げ、苦々しげな表情で頷く成政はいつもの制服姿である一方、やや緊張に表情を引き攣らせているのはジャージ姿の千秋だ。各所にあしらわれたレースやフリルなど、装飾過多とも言える黒衣装のメイサは二人を一瞥いちべつすると、口の端を吊り上げ、鼻から息を抜くように笑った。


「フン、君達は相変わらず面白みのない……。もう少しTPOをわきまえた服装をしてはどうかね?」


「ツッコミは入れんぞ」


「まったくもってカタブツだね、君は。千秋君を見習ったらどうだい。ほら見たまえ、あの慈愛に満ちた微笑みを」


 指差した方向を成政が首だけで振り返る。千秋の表情をたっぷり5秒ほど観察すると、視線をメイサに戻し、頷きと共に言葉を作る。


「あれは苦笑いだ」


「ふ、その曖昧さも彼の良い所さ。では閑話休題と行こう。千秋君、もう一度首筋を見せてくれるかい?」


 はい、と硬い返事を返す千秋はジャージの襟元のファスナーを下ろす。突然に夜気に晒された白い首筋に、逃げていく熱を追うように鳥肌が立つ。浮いているのは鳥肌だけではない。くっきりとした手形だ。両の五指がしっかり食い込んだ紫の痕跡が痛々しく残っている。


「痛みは、あるかい?」


 そう言って、千秋の肩にかかるまで伸びた髪と細い首との間に手を差し入れる。指先でなぞるは紫の手形だ。一瞬、驚いたように肩をすくめる小動物的な仕草に自然と笑みがこぼれる。思わず指をスライドさせて顎の下を撫でてやりたくなる。

 と、思うより先に実行していた。自分の行動力には時たま驚かされる。

 子ども扱いを嫌う千秋は直ぐに首を振って逃げるが、それも含めていつものやり取りだ。


「うむ、充電は完了だ」


「なんの!?」


 千秋の即座の問いも聞き流し、メイサは言葉を重ねる。


「さて、和んでばかりもいられない。成政くん、今がどういう状況かわかるかい?」


 問われ、成政が頷きを返す。彼は真顔で、


「黒崎のセクハラを、どう司法に訴えるかという状況だな」


「成政くん、君は本当になにもわかっていないな!? このセクハラも愛があれば合法だよ!?」


 隣で千秋が全力で首を左右に振っているが気にしない。コホンと一つ咳払いで脱線しかけた会話を繋ぎとめる。


「ボクが言っているのは一連の幽霊騒動の事さ。一昨日は部屋の入口で腕を掴まれ、昨夜はベッドの上で首にまで手が掛かっている」


 メイサの指摘に二人が顔を強張らせる。成政は眉間のシワを濃くし、千秋は眉をハの字に歪めた。両者共に、メイサが何を言わんとするのかを理解している表情だ。千秋が口を開く。ためらいがちに、確認をとるように、


「段々、近づいて来て、る?」


 告げた言葉にメイサが肯定の言葉を重ねる。


「昨日の帰り道での出来事を流れとして夜の首絞め騒動にまとめるとして、一昨日と合わせて二つの事例しかない。よって偶然という線も考えられるがね。しかし君が狙われていることは確実だ。とても週末まで待っていられない状況にあると言っていい」


 それはつまり、とメイサは前置きし。


「今夜は君の身になにが起こるか分からないということだよ。千秋君」


 低く囁くような声で、不吉を告げた。言葉に対する千秋の反応は予想通りで、怯えをにじませながらも、努めて表情に出さないように口を引き結んでいる。わかりやすい子だと、メイサは己の口の端が吊り上がるのを感じた。無論、怯えさせるためだけに発した言葉ではない。更にこの言葉をも前置きとし、メイサは場の空気を和らげるように明るい声音で言葉を放った。


「もちろん、万が一の事態が起こらないよう、こうして三人集まったわけだ。ボクもボクなりに色々調べて来たつもりさ。結局こんな時間になってしまったがね。だが安心してほしい。キミの事は僕と成政くんが絶対に守るよ」




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