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作者: 吉田友姫

 ポツポツポツと、雨が降っている。

 それに連なり、ポツポツポツと、涙が落ちていく。

 その音は微かに、でも確かに聴こえる。

 ポツポツポツと、涙は落ちる。


「雨には喜怒哀楽があると思うんだ」

 そういった彼女は、具体例を述べる。

「喜」は、傘を忘れて出かけた時に友達が傘を貸してくれたとき。

「怒」は、傘を忘れて出かけたとき。

「哀」は、雨でぬかるんだ土によって足を滑らせてしまったとき。

「楽」は、雨の中スポーツをして泥まみれになりながらも笑い合ったとき。


 その日の天気は雨だった。

「体育祭……出来るのかな」

 朝、心配そうに空を見つめる私。

「雨……止むといいな」

 願いを込めて作ったてるてる坊主。

 高校生にもなって作るのはどうかと思ったが、とにかく晴れて欲しかった私はそれに願いを込めた。


 結論から言うと、体育祭が始まる時刻の天気は曇りだった。

 もちろん、体育祭は決行だ。

 私はてるてる坊主に心の中で感謝の言葉を言い、私が出る100m走に向けて準備を始めた。

「人……人……人」

 掌に人を書いて飲む、なんてこともした。

 そして、遂に私の番が来た。

 その時の天気は既に晴れだった。

 パン! と合図が鳴り、私は走った。

 横に何人か競争者が居たが気にしなかった。


 私は走った。

 風を切るように。

 私は走った。


 そこで私は目が覚めた。


「夢……?」

 良いことはいつも夢で、現実は悪いことばかり、と言わんばかりに、雨が降っていた。

「……雨? 体育祭は? って遅刻!?」

 時計を見ると、むしろいつも起きている時間よりもやや早い。

 どうやら体育祭が楽しみすぎるあまり、良く眠れなかったらしい。

 雨天に対して私は、てるてる坊主には晴れるように、そして神様には

「夢が正夢になりますよ~に」

 と、お祈りをし、その後私は、学校へ行く準備を始めた。


 結論から言うと、小雨だったために体育祭は決行された。

 私は少しの不安を覚えながらも、100m走の準備をする。

「人……人……人」

 掌に人を三回書いて飲む。

「……すーっは~」

 深呼吸もする。

 そして、遂に私の番が来る。

 パン! と合図が鳴り、私は走る。


 私は走る。

 コーナーに向けてひたすら走る。

 風を切るほどとは言わないが、並んで走る人たちよりも前に出るほどの速さ。

 コーナーを走る。

 最初はアウトコースのスタートで、実はまだ余裕がない私だったが、それでも走る。

 とにかく走る私は、コーナーを抜ける頃にはぶっちぎり、とは言わないが一番だった。


 雨でぬかるんだ土を思いっきり走るのは、とても気持ちの良いことだった。

 何故かって?

 ……普段はこんなことしないからかな。

 それとも、雨で中止になるんじゃないかと思っていた私としては、走れただけでもとにかく楽しかったのかもしれない。

 それは、楽しすぎて足元を気にすることができないくらいに。

 しかし、私はコーナーを抜ける最後の一歩で転んでしまった。


 結局、私はビリだった。

 しかも、膝を酷く擦りむいてしまい、デカデカと絆創膏を貼る羽目になってしまった

 最悪だ。

 それだけではない。

 体育祭は終わり、下校時刻となった今。

 雨が、降っていた。

 私はてるてる坊主に願いを込めたんだから「傘はいらない」と、傘を持ってきていなかったのだ。

 私は、雨の中をトボトボ歩く。

 私は、歩く。

 トボトボと、歩く。

 傘がないからどんどん濡れる。

 ……とても、悲しくなってきた。

 怒りさえ覚えた私は、雨空に向かって叫んでやろうと思った。

 その時だった。

「お前、体育祭で転んでたやつだろ。傘持ってきてなかったのか? 濡れてんぞ」



 ポツポツポツと、雨が降っていた。

 それは、ポツポツポツと、流れる涙の音をかき消すかのようだったが、それでも、確かに音はした。


「……泣いているのか」

「……」

「……」

「ひとまず、戻れ。校舎の下なら濡れないから」

 私はひとまずそれに従う。

「……」

「……」

 微妙な空気が流れる。

「ちょっと待ってろ」

 そう言って彼は消えてしまった。


 でも、すぐに彼は戻ってきた。

 そして、

「コーヒー、暖まるぞ」

 缶コーヒーを渡してくれた。

 それは、高校生にはまだ苦くて飲みにくい、ビターな味のする暖かいコーヒーだった。

「……うっ……ぐすっ」

 自然と、泣けてきた。

 私は下を向いて嗚咽を重ねる。


 そして、少しの間泣いた後、私は顔を上げた。

 周りを見渡す。


 しかし、そこには誰もいなかった。

 彼の姿もなかった。


 そこには、一つの傘と

「良かったぞ、君の走り」

 一つの暖かなメッセージがあるだけだった。


まずは、お読みいただきありがとうございます。

三度目の投稿となる本作品ですが、

雨、そして喜怒哀楽というのを最初に決めた状態で書きました。

書いた日の天気が雨だから、雨。

とても単純な理由で書きました。

楽しんでいただけたら幸いです。

感想、批判待ってます。

最後にもう一度、お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] まるで詩のように心情を映し出した、美しい短編でした。 雨には色々と表情がありますね。同じ雨であっても、見る者によっては、様々です。 まるで、雨粒そのものに色でも付いているかのよう。
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