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友との約束

 嫁を貰うと男は強くなれる。

 そんな言い伝えが古くから語り継がれている。

 これは、そんな言い伝えにあえてNOを突きつける1人の男の物語である。


 1.「強くなるのに、嫁は要らない」

「はぁはぁはぁ・・・」

 呼吸を乱して片膝をつくこの少年は俺の弟、ソレルだ。

「いつまでそうしているつもりだ?そんな事では立派な男にはなれないぞ。」

 そしてソレルに剣術の指導をしているのが俺、シオンだ。

「兄貴、今日はもう終わりにしようぜ・・・もうクタクタだよ。」

 そう言って腰をおろすソレルを情けないとは思うが、俺は弟には甘いらしい。

「仕方のない奴だな。」

 そう言って手を止めた。

「我が国の期待の星、シオン様にしごかれちゃ身ももたないよ。ははは。」

「そんな事言ったって何も出ないからな。」

「ちぇ!」

 そう、俺は大国ブルメリアの誇る10闘騎士団で入団僅か1年そこそこにして過去最年少でリーダーにまでなった正に期待の星。自分で言うのもあれだが腕には自信がある。

「だがここのところあまり訓練もしていないように見えたが、今日はいったいどういう風の吹き回しだ?」

 今日は久しぶりにソレルの方から稽古をつけて欲しいと申し出があった。普段はろくに鍛えもしてないにも関わらず、だ。」

「ははは、やっぱりもうバレちゃってるのかな?」

「何の話だ?特に気になるような事は耳にしていないが。」

 何やら大事な話があるようだ。そしてソレルが腰を上げて口にした。

「兄貴。俺、もうじき結婚する事になったんだ。」

「!?」

 正直、驚いた。何せまだ17で勤めてもいないソレルが結婚などと。

「それは・・・おめでたいな。」

「おう、ありがとよ。相手は隣村のユズリハちゃんでさ。」

「そ、そうか。」

 隣村のユズリハちゃんと言えば容姿は良いが変わった研究に没頭していると噂のちょっと不気味雰囲気の子だ。

「どうしたんだ兄貴?随分びっくりしてるじゃないか。」

「いや、なんと言うかだな・・・」

 ここは相手が誰であれ祝福すべきだろうか兄として。うむ、話題を変えよう。

 お前、騎士団への入団はどうするつもりなんだ?」

「それは予定通り、来年に試験を受けるさ。」

「そうか。まさか騎士団を諦めて農夫になるのではと心配したぞ。」

 小さい頃から沢山稽古をつけてやったのだ。今更騎士を諦めるなどと言われれば面白くない。

「それでさ、兄貴。」

「ん、なんだ?」

「兄貴も覚えてるだろ?この国の言い伝えを。」

「あぁ。嫁を貰うと男は強くなれる、だっけな。」

 そう、この国にはこのような言い伝えが古くから語り継がれている。

 現に今のブルメリアの公職、騎士隊長などに独り身の者は存在しない。居たとしても、その地位は長くは続かなかったという。

「そうなんだ。だから俺は早くから嫁を貰って、兄貴みたいに強くなるのが夢なんだ!」

 ブルメリア皇国の騎士団は18になると入団試験を受ける事を許可される。

 部隊における地位は隊長を筆頭に副隊長、リーダー、サブリーダーが存在する。

「それで結婚と言う訳か。いいんじゃないか、それでお前が強くなるのらなら兄として俺も嬉しい。」

 とは言うが、当の俺はそんな言い伝えを全く信じてはいない。

「ありがとよ。兄貴の弟として、弱いままじゃ申し訳ないしな。これからは俺、本気で頑張るからさ。」

 俺が優秀だった為にソレルはいつも比べられてきた。辛い思いもしてきたろうに、俺のようになりたいなんてな・・・

 いつの間にかソレルは強くなっていたようだ。これもユズリハちゃんのおかげか?

「あぁ、俺はいつでも応援している。」

「ところで兄貴。」

「なんだ。」

「先日のお見合いはどうなったんだよ?」

 盛大にふきだしてしまった。

「・・・断ったに、決まってるだろ。」

 ニヤつきながら聞いてくるコイツが随分と小憎たらしくみえてきた。

 俺には1つ心に決めた事がある。結婚はしない 事だ。

「いつも言っているだろう?自分で言うのもなんだが、俺は強い。嫁を貰わずとも強いのだから、独り身でどこまでいけるのかやってみたいんだ。」

「とか何とか言ってさ、お見合いの時に鼻の下伸びてたぜ?」

「う、うるさい!あんな綺麗なお嬢様だ、仕方ないだろう。」

 本当に綺麗なお嬢様だった。今でも少し後悔はしている。

「だがな。」

「世の中には結婚したくとも出来ない男だって沢山いるはずなんだ。そいつらに、俺は証明してやりたい。」

「嫁なんか貰わなくたって、立派になれるって事をな!」

 今の俺は、完全にドヤ顔をしている事だろう。

「それでなんだ。鼻の下伸ばす程綺麗なあのお嬢さんをフって、違う男に取られて、子供が出来て幸せそうな姿をいつか1人でみたいと、そういう事か。」

 グサ、グサ。俺の心に何か刺さったようだ。

 目の前で爆笑している口の達者な弟に制裁を与え、俺は家路についた。


「本当に綺麗な子だったなぁ。」

 夕焼け空を見上げながら呟いた。惜しい事をしたと何度も思ったが、これは友との約束である。


 俺は、嫁は貰わない。完



 2.「波乱の予兆」

 あれから、3年の月日が経った。

 ブルメリア皇国は大陸において広大な領土を持つ大国である為、他国からの侵略は非常に多い。

 10闘騎士団に入団後、俺は数々の侵略国家と戦い、その度に武功を上げてきた。

 そして今日、王城前広場にて任命式が執り行われる。


「ブルメリア王 ドモランディ陛下の下、任命式を執り行う。これより名を挙げた者は正門前に立ち並ぶように。」

 ラバテラ宰相により、次々と呼ばれ並んでゆく。そして・・・

「8番隊副隊長シオン 前へ。」

 そう、この任命式の主役は何を隠そうこの俺だ。

 副隊長である俺が新たに任命される地位は1つしかない。

 だが、気になる者も呼ばれたようだ。

「2番隊リーダーソレル 前へ。」

 結婚を機に住居を別にした為、あれからろくに顔も合わせてはいない弟のソレルがまさかのスピード出世。

 皆、驚いているが1番驚いているのは俺だ。

 何せ結婚を報告に来たあの日の感触では末端兵士が関の山だと思っていたからだ。報告に結婚を機に強くなったとしか思えない程、ソレルは成果を挙げ続けて来た。


 全員の名を呼び終わると、宰相は1人づつ書状の受け渡しと共に新たな階級に任命してゆく。

「8番隊副隊長シオン 本日をもって8番隊隊長に任命する。」

「はっ。陛下とブルメリア皇国の為、命をかけて職務を全うする事を誓います。」

 そう、俺は隊長になった。22という最年少での就任だ。一応今日、もう1人同年で隊長になると思われる同期がいるが。

 誓いに立てた命をかけて、とは。先の戦において、8番隊隊長と2番隊隊長が命を落とした事からだ。隊長達は部隊が危険に晒された時、命をかけて敵に立ち向かった。この2人の隊長の決死の戦いにより8番隊と2番隊は助かったようなものだった。

 大陸において最強と呼ばれる者の1人であるバーベインを前にしては2つの混成部隊などまるで意味を成さなかった。

 戦いには勝ったが、ブルメリアも大きな痛手を追うことになったこの戦が「クロコスミア戦役」だ。

 かの隊長達のようにならんとして、命をかける誓いを立てた。

 次は2番隊のようだが宰相の様子がどうもおかしい。


「2番隊の任命については本来、現副隊長であるリオンが隊長に就任すべきではあるが・・・バーベイン襲撃に際して多大な功績を残したソレルを隊長にと推薦する者が多くでた事を踏まえ、明日正午に闘技場にて決闘を行うものとする。」

 なんだって!?広場の人々がざわめき始めた。

「このような事態、過去に例が無いな。」

 10隊長中、最年長の6番隊隊長をしてこの台詞。

 いったい何があったと言うのか。

「実はソレルが故隊長2名と共にバーベインを追い払ったところを見たと言う兵士が多数確認された。2人の隊長に助力し、悪名高きあのバーベインと戦ったその勇気、経験を高く評価している。」

 現場に居合わせた俺すらそんな事はしらない。どういうことだ・・・。

「かしこまりました宰相。私リオンは、明日隊長の座をかけて正々堂々と闘う事を誓います。」

「よくぞもうした。だが忠臣リオンを過小評価している訳では無いと言う事はよく理解してほしい。」

「もちろんでございます宰相。むしろこの機会に私の力を存分にお見せしましょう。」

「よういった。ソレル、お主も異議は無いな?」

「はい、全くありませんよ。」

「うむ、では明日の正午に決闘を開始する。観戦に関しては1人3000ジェニーとする。チケットの購入は闘技場に直接問い合わせるように。」

 さすがは宰相、稼ぐ事にはぬかりがないな。

「では、以上にて任命式を終了する。各部隊は会議を執り行い、リーダー及びサブリーダーの選定後、報告にあがるように。では、解散。」

 副隊長以上は国によって、リーダー、サブリーダーは隊内にて選ばれる。変更無しでも構わないが8番隊は昇格につき欠員が出ている。これが俺の隊長としての初仕事になるようだ。だがその前に・・・


「おい、リオン!」

 本来なら同じく最年少隊長になるハズだったリオンに俺は声をかけずにはいられなかった。

「あら、何かしら?8番隊 隊長になったシオン君。」

「う・・まぁそんな嫌味たっぷりに言うなよ、傷つくだろ。」

「嫌味なんて言った覚えは無いわ。だって本当ならあなたと同じ最年少で隊長になるはずだったのにまさかあなたのおとry

「わ、わかった!俺が悪かった!許してくれ。」

 一体何を詫びているのかも分からないがそうしないといけない気がした。

「別に怒ってなんかいないわよ。別に。」

「う・・・。」

 本当にこの女は面倒くさい、昔からそうだ。だがそんな事口が裂けても言えない。

「それで?私に何か用かしら。」

「あぁ、何でお前があんなにあっさり決闘を受けたのか気になってな。」

「そんなこと?」

「そんな事って!本当ならお前が隊長になるハズだったのにこんな例外な話が飛び込んで来たんだぞ?俺なら抗議するところだ。」

「だから言ったでしょう?力を示す良い機会だって。」

「そうじゃない!この話自体が何かおかしいんだ。俺は現場に居たがソレルが活躍したところは見ちゃいないし聞いてもいない。だからそもそもこんな決闘受ける必要が無かったはずだ。」

「あなたがそれを知っていても私がそれを知る術は無かったわ。どうしようもないわね。」

「そりゃそうだが・・・」

「それに、決闘のお話を断ったら隊のみんなはどう考えると思う?」

「!!」

 なんとなく察しがついたが何も言えなかった。その状況なら俺でも決闘を受けただろうから。

「そんな隊長に誰が命がけでついてくるかしら。隊長は隊長たる強さと威厳を持たなくてはならない。」

「・・・リオンの・・・言う通りだ。」

 この時まだ隊長としての心構えがなっていない自分を、恥じた。

「大丈夫、心配しなくても私は勝つわ。自信はないけど。」

「一言多いんだよ!余計に心配しちまうじゃないか!」

「フフフッ。ありがと♫」

 その時見せた笑顔は、俺の脈をかなり上げた。いままでリオンがお礼を言った事なんか無かった。なんだろうこの気持ちは。


「兄上!」


 この声は・・・呼ばれた先に振り向くと

 そこにはソレルが居た。完



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