5「Summer/fighting」
今回、ホシはいつもの草原です。
やって来るのはルチャリブレ風の小太りのレスラー。
そしてプランジとウィズが格闘の手合わせをする話です。
遠く離れた辺境の宇宙のとあるホシに、
青年とネコが二人で住んでいた。
そこに男女二人がやって来てから、数ヶ月が経っていた。
ーーそのホシは相変わらずその姿を変え続け、
そこにいる彼らを翻弄する。
そして、相変わらず緑の謎の光『ヒュー』を連れた流星もまた、
この地に誰かを連れて来続けていた。
ヴン!
ウィズの拳が唸りを上げた。
プランジがギリギリで避ける。
「ほほぅ」
上手いモンだ、とウィズは思った。
「っと」
ピョンピョンと跳ねて距離を取ろうとするプランジ。ウィズは素早く踏み込んで
エルボーから回し蹴りへとコンビネーションを放つが、また避けられた。
「中々だ」
その日、ホシは真夏の草原だった。
朝食でプランジのパルクール(周りのモノを利用してピョンピョンと高速で移動
する術)の話が出て、ケンカは?格闘技は?という話になり、外へ出て軽く手合わ
せと言った感じだった。
だが、思ったよりもプランジの動きが良いのでウィズは気持ちアツくはなってき
ていた。
それにしてもーー。
ウィズはその動きに、多少の違和感を覚えざるを得なかった。確かに身のこなし
は抜群だが、それだけだろうか?静物相手ならともかく、予測通りには動かない相
手にこれだけ対応出来るモノなのか?前に誰かと組み手をやったことがあるのでは
?
ウィズもそれなりに、と言うかかなり近接戦闘では馴らした元兵士だった。攻撃
する度にリズムを変え、タイミングや方法を変え、色々試してみているが、プラン
ジはどれもギリギリで避けていた。天性のモノがあるとしても、これは一人で訓練
していては身に付かないシロモノだ。
ーープランジ自体は、そんな記憶は無いと言う。
だが、あの大学教授や黒人との記憶の話のこともある。……それは、未だプラン
ジの中に眠っている記憶があるということではないだろうか。
と言うか、こないだのあの写真ーー自分が会ったのは、本当にプランジの両親だ
ったのか?
そんなことを考えつつ、ウィズは攻撃を続けていた。
「男ってねぇ」
ポーチで観ていたリジーは、側のネコに話しかけた。
ネコは眠そうに顔を上げたが、顔を背けるようにしてまた目を閉じた。
「あ、アンタも一応オスだっけ」
リジーは苦笑して、立ち上がってイエに戻りかけた。
今回の分のホシの土を試験管に入れるのも忘れなかった。
「攻撃して来ても良いぞ」
プランジが避けてばかりなので、ウィズはジレて言った。
「えー、ウィズ程は出来ないよ」
プランジはヒザに手をついて肩を上下させながらイタズラっぽく笑っている。ウ
ィズは「向かってくる流星を砕こうとした」などという話を聞いているので、ソレ
を内心眉唾だなと思っていた。パワー自体はあるのは間違いない。
が、プランジは動かない。
「………」
ウィズはしばらく待って、構えを解いた。
荒い息のままキョトンとするプランジ。
「え?」
「今回は引き分けでいい」
さっさとイエに引き上げようとするウィズ。
プランジは腰を落としてハァハァ言っていた。
「次回は」
「?」
「1本取る」
さっと笑顔が戻るプランジ。
ゲンキンなモノだ。
軽くシャワーを浴びて2階のリビング兼食事スペースに行くと、リジーがネコと
遊んでいた。
「あ、コーヒー入れてあるよ」
「……どうも」
ウィズはバーナーに乗っかっていたヤカンから自分のチタンカップにコーヒーを
注いだ。
こないだ持ち帰ったウェッジウッド風カップは、やはり割れる寸前っぽいので、
ウィズの青の部屋に置いてある。
「……」
ウィズは一口飲みながら、リジーの様子を窺った。
一応この間のことに関しては一通り皆で話はしたのだが。プランジには「オヤ」
のコトは聞いたが、覚えていないと言う。だがウィズとリジーの中では、あの写真
の二人がプランジの両親だというコトになっていた。
「プランジは?」
「無限の部屋」
ネコは仰向けになったままリジーの指をチョイチョイと手で追っていた。
その後、プランジの両親はどうなったのか?何らかの理由でいなくなった?もし
くはこのホシの何処かで生きているのか?
ーーその辺りは、今のトコロ知る由も無い。
「そっか……」
言いながらウィズはまたカップを口に運んだ。
外は夏の強目な日差しだった。
後、前回の『ヒュー』…プランジの言う緑色の光、についても2人の意見は色々
だった。
リジー的にはあれは何時もの隕石が落ちて人が来るというヤツで、前回やって来
たのがあの女性だと言う。ただ、隕石が落ちるのは全く感じなかった、と。実際プ
ランジもソレは感じなかったと言っていたし。ソコは特例、みたいなコトでは無い
か?という意見だった。
ウィズ的には、あれはいつものパターンでは無く、全てこのホシが見せた幻だっ
たのではないか?というモノだった。実際、リジーの言う女性だけではなく、自分
もプランジの両親らしき人たちと会ってる訳だし。
勿論、いくら考えても結論など出よう筈も無かったのだが。
「……アレ?」
「どうした」
リジーの声に向くと、タタッと出て行ったネコの向こうでリジーは例のカメラを
取り出して眺めていた。それはカメラと言うより薄いガラス板に近いモノだったが、
その画面に映し出された写真を観てリジーは固まっていた。
「例の写真が……」
ウィズが近づいて行くと、幼いプランジとその両親の写真が少し色が抜けてぼや
けている様に見えた。
「何時からだ」
「分かんない。今観て気付いた」
ウィズが取り上げてみたが、このカメラには元々メモリスロットが存在していな
かった。恐らく本体のどこかにメモリがあるのだろうが、それを取り出すデバイス
も装備されていなかった。無線の電波等も発されていない。
「……分解すればあるいはメモリにアクセス出来るかも知れないが・・」
「えー」
観て見ると、その写真だけではなく全ての写真が消えつつある様だった。
「……何か、アタシ達の記憶も、こうやって消えちゃうのかな」
「………」
寂しそうなリジーの顔に、かける言葉は見つからなかった。
そういうコトに対する耐性は、ウィズの方がありそうだった。
結局、危険なのでカメラの分解は止めておいた。
と同時に、ウィズはあることに気付いていた。
写真が少し色褪せたせいで気付いたのだが、後ろの森の向こうに、コンビニ程度
の建物がチラリと見えていた。
ひょっとしてこれはーー?
あるいは、プランジが前回行ったと言う商店ではないのか?
ウィズは少し考えたが、どうしようも無かった。
* *
その日、ホシのとある草原の中。
仮面をつけたルチャリブレ風のレスラー姿の男が立っていた。
「……?」
男はキュキュッと左右を見渡していたが、ヒューっという音に、
「ハッ!」
と構えたが、その視線の先には一際大きく吹いた風に散る葉っぱが舞っただけだ
った。
「………」
男の体重は100キロを越えていたが、身長は170足らずだった。割とズング
リムックリとしたその体躯は、やがて草原を駆け出した。
「ふんっっっ」
お世辞にも足が速いとは言えなかったが、流石に体力はありそうだった。
ドスドスと地響きを上げながら、そのレスラーは走っていた。
* *
同じ頃、プランジも走っていた。
無限の部屋を観ていたが、どうにも落ち着かない感じで窓から外に出たのだ。
いや、窓と言うよりはほぼ壁からだった。イエの窓は基本的に作り付けで、開閉
と言うよりは開く窓にはスイッチがあり、押すと窓がどういう仕組みか消えるのだ
った。
その日、どうしても外に出たくなったプランジは、側の丸い窓を開けようとした
が、そこは何処にもスイッチらしきモノの無い窓だった。いつもなら部屋の外に出
て廊下まで廻るのだが、
その日は何故かそんな気分では無かった。
プランジは窓を殴り、枠を蹴飛ばし、そこに穴を開けて外に出た。
それは、初めてのことでは無かった。勿論抜けない壁もあったし、また抜いたと
しても数日後には何故か穴は塞がっていた。それがホシの常で、プランジは特に気
にしてはいなかった。
外に出たプランジはいつもの様にパルクールでピョンピョン壁を降りて行き、草
原を走り出したのだ。
例の一本道は草に覆われてよくは見えなかった。
プランジは、いつもの通り感覚で遺跡方向へと走っていた。
一瞬窓を通過した影にリジーは気付いていた。
「まぁたプランジ、走ってるのかな」
「……じゃあ今日は俺が部屋の捜索かな」
ウィズはカップを置いて立ち上がった。
この雰囲気から少し逃げたかった、と言う気分も無いではない。
「今は何がいるっけ」
「リクエストしたら、持って来てくれる?」
リジーはイタズラっぽく笑った。
「一応善処はする」
軽く手を降りつつウィズは入り口に向かった。
そこまで落ち込んではいない様かな、と少し安心しながら。
一心に走るプランジ。
走りながら、彼は考えていた。落ち着かない理由は分かっている。
先程のウィズとの組手、何故自分からは行かなかったのだろう?
確かに、今までは自分で壁や瓦礫を相手に身体を動かして来た。だがさっきのは、
ソレとは全く違う。勿論相手が攻撃してくる、というのもある。一応、何とか避け
られてはいたが。
殺気、と言うのとも違うだろう。現にウィズはまだ本気じゃない。それ程のモノ
じゃ無くて…ただ、距離感、みたいなモノが分からなかったのだ。自分が何処まで
やって良いのか。どう動けば良いのか。
ウィズたちが普通に出来るコトを、自分は何処かイマイチ、普通に出来ないーー
プランジは薄々、そのコトに気づいていた。
それは、組手だけの話では無かった。
一見上手くやっている様で、実は何処か違う気がする。
ーーだから自分はずっとこのホシにいるのでは?
プランジは走りながら考えていた。
ーーそれにしても。
あの時、あの鉄の空間でウィズたちと出会った時ーーあの得体の知れないモヤモ
ヤに、自分は迷うコト無く蹴りを入れたよな?あれはどうして出来たんだっけーー
?
あの教授とのでっかい虫のモヤモヤの時も。
砂漠の砂のモヤモヤの時も。
何も恐れず攻撃出来たハズ。
なのに、何故ーー?
ウィズだからか?
いや、それがあの老人や黒人だったとしてもムリだった気がする。
では何故ーー。
プランジは、釈然としないまま走っていた。
* *
ドスドスと走るレスラーは、油断無く左右に気を配りながら走っていた。
と、目の前を俊速で何かが通過した。
「なにっ!?」
レスラーは草地の中で急ブレーキをかけて止まり、身構えた。
「ッシャーーっ!」
既にその何かは見えなかった。走っている人間の様には見えたのだが。
レスラーは素早く反転して叫ぶ。
「来いオラーーっ!」
が、そこには誰もいなかった。
夏の風が草原を揺らしているだけだった。
「……」
レスラーはしばらく辺りを見回してから、
「ハイッ!」
とまた走り始めた。
何かが、自分を観ている様な気がしていた。
そして、自分が何処から来て、何故走っているのかも何故か全く分からなかった。
* *
ウィズは無限の部屋の捜索をしていた。
プランジやリジーとかなりの数の部屋を開けたハズだが、相変わらず先は見えな
い。一度開けたハズの部屋も時々様子が変わっているし、付けておいた目印も無く
なっていたり変わっていたりとまるで意味を成さない。
今日は特に役立つ様なモノは見つからなかった。
ウィズは窓辺に近づいて、草原を見下ろした。
爽やかな空の蒼に草原の緑が映えていた。
「やり過ぎたか……」
軽く呟いた。
それはリジーのコトでは無く、プランジのコトだった。
考えてみれば、組手なんて久しぶりだった。新兵の頃はよくやったモノだ。形だ
けの動きしか出来なかった頃はよく転がされて「今お前は死んだ」とか言われてた
っけ。それが気がつけば上級者になり、あの再生手術以降は敵らしい敵もいなくな
ってしまい……。
そうか、だから自分は恐れているのか?
また敵でもない人間を傷つけてしまうのが。
ーーリジーのことも。
とまで考えた所で、ウィズは苦笑した。そんな思春期の子供みたいな部分がまだ
自分にあったのか、と。
まぁ、ああ言ったけれど、プランジとの次は無くても良いかもしれない。
イザと言う時、例えばあのモヤモヤとかに対して戦える程度であれば。
ウィズはそんなことを考えつつ無限の部屋を後にした。珍しく手ブラだった。
そんな風にして、その日は過ぎていった。
ーー次の日の朝食で、プランジの方から2本目を申し込まれた時ウィズは少し意
外に思った。
「いいのか?」
「うん、頑張る」
「無理しなくても良いぞ」
と言っては見たが、確かに興味はあった。
昨日走ってて何かあったのか?
「ケガは止めてよ~」
リジーは、またこの男達は、と思いながら一応クギを刺した。
イエには勿論医療室とか保健室的なモノは無く、治療は救急キットとかガム型の
薬程度のモノで済ませていた。
ウィズは昨日のコトがあったので、もう大丈夫か?とリジーの様子を伺いながら
言った。
「2人とも相打ちで死んだら独りになるな」
「ちょっと」
「まぁネコもいるし?」
ネコはアイランドキッチン近くの大きな四角いベンチで丸くなっていたが、チラ
リと眉を上げた。
「わぁお」
リジーはそれ以上は反応せず、側のネコの頭を撫でながらプランジを向いた。
「危なくなったら逃げなよ」
「ん?まぁ……多分大丈夫」
プランジはいつもの屈託無い感じではあったが、気持ち気合は入っている様だっ
た。
2本目の組み手は、イエの3階の眺めのいい部屋の外にあるバルコニー的な場所
で行うことにした。バルコニーと言ってもソコは整備された場所ではなく、適度に
傾斜がありアチコチにプランジの彫刻やソレ用の岩が並んでいた。
「さて」
外はまた夏の日差しで、イエの周りは草原のままだった。
「やりますか」
声に向いたウィズは、プランジの姿に少し固まった。
「……なんだソレは」
プランジはいつものカーゴパンツだったが、上はピタッとしたランニング、腕に
はアチコチ破れたストッキングを付けて顔にはアチコチにペイントがしてあった。
「ちょっと、気合い入れてみた」
「ほほぅ……?」
それは、前に古いプロレスのディスクを見てやってみたモノだった。
「……じゃ」
二人は構えた。
「ゴー!」
プランジは走り出した。
プランジは走りつつ急に向きを変え、側の岩で反転しつつ蹴りを放つ。ウィズは
左手で難なく受けた。
「よし」
1本目とは段違いだ。パワーもかなりある。少しは楽しめそうだった。
プランジはタタッと離れ、再び突進した。ウィズの手前で高くジャンプし、蹴り
を放つかと思いきや、背後の岩に着地して向きを変えて蹴りからパンチへと繋いだ。
「!上等」
ウィズはそれを躱してパンチ、プランジが避けるところをヒジへと猛攻を仕掛け
る。
プランジもそれを周りの岩を利用しながらことごとく避けた。
「そうか…」
ここでパルクールも練習していたんだっけ。コレは少し手こずるかも知れない。
「何か、あったか?」
ウィズは構えたまま聞いた。
「んー、毎日、色々考えてるよっ」
よっ、で飛び出すプランジ。
1本目の時の時の様な妙な恐れはまだ身体の何処かにある。でもココなら。
いつものように限界近くまで身体を使えば。ただそれだけだった。
* *
草原で、小太りのレスラーは立ち止まっていた。
突然方向感覚が狂ったのだ。
自分がどちらから走って来たのか、分からなくなっていた。
空は、何時の間にかドンヨリと曇ってきていた。
そしてーーーレスラーは何か、ケハイを感じていた。
あるいは、昨日すれ違ったヤツかも知れない。
あれから何度か感じた、邪悪な気配。
何にせよーーそいつは自分を観ている。
「出て来い、オラーーっ!」
いつもの様に叫ぶが、答えるのは相変わらず風だけだった。
「……」
と、草ムラから煙の様なドス黒い塊が飛び出して来て、レスラーのミゾオチを直
撃した。
「ぐふぁっ!」
レスラーはあっけなく吹っ飛んだ。
* *
「ぐっ!」
プランジは後退りした。ウィズの何度目かのストレートが入ったからだ。
「やめるか」
「まさか」
ウィズも何度か蹴りを入れられてはいた。
確かに、プランジの体力は異常だった。コレだけのペースで動いているのに、全
く疲れを見せなかった。呼吸はそれなりに乱れてはいたが、パワーはむしろ増して
さえいる様だった。
「ヤバくなったら言えよ」
「そっちも!」
言うが早いか、プランジは飛び出した。
何故かその時、自分の発した声や身体が、自分の意思とは違う様な気がした。
「!」
ウィズはハッとした。
それまでの攻撃とは、何かが違っていた。
プランジはザッと左にズレ、間髪を入れずまた右に飛んだ。
「!?」
一瞬見失いそうになったウィズは素早く飛んで下がったが、プランジは猛速で迫
る。
ウィズはゾワッとした。プランジの動きが、一瞬あのモヤモヤが自分の目を抉っ
た時のソレに重なったからだった。
「うあっ!」
ウィズはバッと両手で頭部を庇い、掌を外に向けた。
「!!危ない!」
3階の窓から見ていたリジーが叫んだ。
バルコニーの縁にいたネコはピクリと反応した。
ガラス越しのその微かな声に、ウィズはハッとした。
飛びかかってきて今にもその掌に触れようとしていたプランジを柔らかい前蹴り
で軽く飛ばした。
「!!」
プランジは力が抜けた様にフワリと着地してガクッとヒザを突き、ハッとした様
だった。
「ーー!」
ウィズは息荒く崩れ落ちた。
2人は、しばらく動けなかった。
「済まなかった」
その日のディナーで、ウィズは素直に謝った。
「え?いや…何が?」
プランジは気付いていなかった。無意識にウィズが振動波を使おうとしてしまっ
ていたことに。
「それは……」
言い淀むウィズ。
「まぁ、お互い頭冷やせば」
リジーは当然気付いていたが、それ以上コトを荒立てようとはしなかった。
その日の夕食は缶詰ではあったが、リジーが割と豪華に仕上げていた。
「………」
ウィズは黙った。
このホシに着いた、最初の日に観た夢。
あの時に観たのと同じく、プランジと左目を抉ったモヤモヤとが重なった。
これは何かの啓示なのか?まさか本当にプランジがそれって事は無いだろうが。
それで冷静さを欠き、危うくプランジを殺すトコロだった。
兵士としては失格ーーいやもう兵士ではないが。ウィズは久々に失望感で溢れて
いた。
プランジはボウッとしながらカボチャのスープをゆっくり口に運んでいた。
最後の瞬間ーー最後の攻撃時、プランジは我を忘れた。と言うか、自分ではない
何モノかに身体を支配されたかの様だった。
それはプランジに取って恐怖だった。今までこのホシに翻弄され、その度に変わ
る周りの状況に対してこの身体で対応して来た。なのにこの身体すら自由にならな
くなったら。
そして、プランジは一つ確信していた。
あの時、自分の身体を乗っ取ったのはーー『ファントム』では無いのか?
「んーー、何か暗いっ」
リジーは我慢出来なくなって立ち上がった。
「とりあえず組み手はしばらくナシってことで。いい?」
二人はリジーの様子を窺うように見てから、顔を見合わせた。
ネコは特に反応しなかった。
「……ハイ」
「あぁ」
2人はボソッと言って、後は食事に戻った。
「男の子たちは大変でちゅねー」
リジーは座ってネコを撫でながら一人ゴチた。
ネコは気持ち良さそうにされるがママになっていた。
夜、3階の部屋でプランジは絵を描いていた。
道具はずっと前に無限の部屋から持ってきていた。後、時々ホシで拾った鉱石か
ら作った色彩具も。
月明かりの中で、プランジは一心に筆を走らせた。
描き出されるモノは、いつもの様にまだ見えてはこない。
「……俺は、強くない」
声に観ると、ウィズが入り口辺りに立っていた。
「え?」
「強くはないんだ」
ウィズはゆっくり歩いてきた。
「……そっかな」
ウィズはプランジの側まで来て描きかけの絵を観る。
まだゴチャゴチャしていて、何の絵かも分からなかった。
「これは?」
「……まだ分かんない」
プランジは苦笑して座り込んだ。
ウィズも腰を下ろした。
辺りには皮っぽい布が敷いてあり、数個のキャンドルが置いてあった。
「分かんないコトだらけだよ」
筆を置いてプランジは言った。
「自分が自分じゃ無くなったら、怖いね」
「……あぁ」
しばらく、沈黙が続いた。
「つまり」
ウィズの方が口を開いた。
「お互い、問題を抱えてる訳だ」
プランジは少し考えて頷いた。
ウィズは持っていたウォッカのビンを取り出した。
「やるか」
「リジーはいいの?」
「たまには……いいだろ」
プランジは少し笑った。
二人は、グラスも使わずチビチビと飲んだ。
疲れもあったのか、やけにアルコールが回った。
夜風がとても心地良かった。
リジーはその夜、何だか寝付けなかった。
消えて行く写真。
薄れて行く思い出。
男達は何かしているし。
ネコは一応赤の部屋にやって来て窓際で外を眺めていた。
リジーは、女性が残していったカメラを取り出して見る。
女性の写真は、もうかなりボヤけてしまっていた。
「……」
リジーは、そっとタメ息をついた。
自分もいつか、消えてしまう様な気がしていた。
* *
レスラーはまだ生きていた。
鍛えた肉体が、辛うじて身を守ったのだ。
そこは夜のような昼の様なドンヨリ雲の下、草原が風になびいていた。
草ムラに大の字になったレスラーは、まどろみの様な眠りの様な、それでいて何
処か緊張している様な、不思議な感じだった。
レスラーは、夢の中ともつかぬ世界で、ユックリと指先を動かして見る。全身が
しびれている様だが、そこは何とか動かせた。
次は指全体を、その次には隣の指をーー長い長い時間をかけてレスラーは徐々に
目覚め、起き上がって行った。
ようやく身体を起こしたレスラーは、そっと胸に手を当てた。
倒れた時には、あのナニモノかに貫かれた様な感覚があったのだが。
全身タイツのミゾオチ部分には穴が空いていた。だが、身体にはアザ程度のモノ
しか残ってはいなかった。
辺りはまだ夜明け前位の感じだった。
レスラーは痛みを堪えながら、ググッと立ち上がった。
* *
窓際で寝ていたネコは、何故か目が覚めた。
リジーは例のカメラを手にしたまま、寝てしまった様だ。
その頬にはまだ涙の跡が残っていた。
ネコはベッドに上がってソレを舐めてみたが、予想通り塩っぱくて顔をしかめた。
それから、ネコは部屋を出て男たちを探した。
自分たちの部屋ではなく3階の部屋で、ウィズとプランジはまだ寝ていた。
だがーーネコは戸口でソレをしばらく眺めていた。それはこの部屋の空気が、感
覚が、ただならぬコトの様にネコには感じられたからだ。
やがて、2人はどちらからとも無く目覚めた。
ネコはそれをジッと見つめていた。
2人はユックリとした動作で周りを片付けて身支度を整え、階下に降りていった。
外は夜明け前。
相変わらず夏の草原だった。
2人はイエから少し離れたトコロに出て向き合った。
ネコはイエの前のポーチに陣取って、何が起ころうと最後まで見守るコトを決め
ていた。
プランジは、2本目の時から更に進んだペイントを施していた。
上半身は裸で、顔から腕から上半身まで、黒白蒼のペイントで覆われていた。
「ソレ自分でやったのか」
「そりゃまぁ…誰もいないし」
それはそうだ、と納得するウィズ。
そして、2人は黙ってユックリとストレッチを行なった。
「……やるか」
やがて、ウィズが口を開いた。
「うん」
「大丈夫か」
「多分……頑張る」
プランジは晴れやかな顔で言った。
「多分かよーーまぁ、俺も多分」
ウィズの表情も、一点の曇りも無かった。
お互い、自分の中の恐怖と最後まで向き合うコトに決めていた。
「ハッ!」
プランジが走り出す。
最初からトップスピードだった。
プランジの凄まじい攻撃を、ウィズは躱し、時にブロックした。
「フンッ」
ウィズも全力で蹴りを、掌底を返す。
プランジも研ぎすまされた感覚で避けた。
二人の仕合は、登り始めた朝日の中、素晴らしい精度で始まっていた。
* *
レスラーは、ドンヨリとした夜明けの空の中、身構えていた。
目の前には地中からモヤモヤとした煙の様な柱がジワジワと出てきつつあった。
「こ……来いオラーーっ!」
レスラーは、自分の範疇を越えたテキに体中が泡立っていた。
だがそのレスラーとしての本能は、逃げることを完全に拒否していた。
そのモヤモヤは、蛇の鎌首のようにその先端を持ち上げ、ドンとレスラーの方に
向かってきた。
「トリャアッッッ」
レスラーは頭部をクロスアームでブロックしつつ前傾してその場に踏ん張った。
そのモヤモヤと激突し、レスラーの足はズザザッと後退したが、やがてそのモヤ
モヤは左右に分かれて上空に向かい、再びレスラーへと向かって来た。
「来ぉおおい!」
レスラーは、逃げずに踏ん張って掌底を放った。
* *
「……ちょっとぉ!」
あまり寝付けず外に出て来たリジーは、打ち合うウィズとプランジの姿に呆然と
した。
二人は息つく間もなく、お互いの攻撃を繰り出し、また防ぎ、避けていた。
「ーー!」
だが二人の表情は、悲壮感も刹那感も憎悪も無く、昨日の様な狂気や孤独感も感
じられなかった。お互いを、そして自分自身を信頼している様に、リジーには見え
た。
「………」
「ニャ」
見ると、横のポーチでネコがまん丸な目でリジーを見ていた。
リジーには、ネコが優しく頷いた様に見えた。
「アンタ……?」
そうしてネコが空を見上げた時、隕石がーーいや、『ヒュー』が現れた。
「!!」
「プランジ!」
「うん!」
それは隕石ではなくーー空中にいきなり現れ、照明弾の様にゆっくりと降下しつ
つ緑色の光を放っていた。
* *
「あれは・・」
レスラー達にも、それは見えていた。
何度目かの掌底とアビセゲリでモヤモヤを捉えたがイマイチ手応えが無く、攻め
あぐねていたトコロだった。
だが目の前のモヤモヤは、明らかにその光に怯え、ヒルんだ様に見えた。
「!……っしゃあ!」
* *
構わず突っ込むウィズ。プランジは咄嗟にジャンプ前の様にヒザを曲げ、突っ込
むウィズの勢いに合わせて後方に伸び上がった。2人の胸が合うか合わないかの内
にウィズの脇がロックされ、ウィズの体は凄まじい勢いで宙に浮いた。
「!!」
それはプロレスで言うベリー・トゥ・ベリーの様だった。
ウィズはしたたかに背から草原に叩きつけられたが、その勢いを利用してすぐさ
ま立ち上がる。久々の衝撃に目眩がしたが、ソレすら今は清々しかった。
「来ぉい!」
なおも突っ込んでくるプランジに叫ぶウィズ。
その瞬間、その緑色の光は一層強さを増してストロボの様に瞬いて、ホシを照ら
した。
「うあっ!」
「ウィズ!」
「!!」
その光の中で、彼らは観たーーー。
夏の草原。
セミの鳴く林。
ハシャイで泳いだ湖。
夕暮れの風。
それは、それぞれのいつの日かの夏の日のイメージ。
心地よい暑さの中で、皆汗をかいていた。
それでも彼らは、それぞれで生きていた。
ーーこの後に起きるコトなど、何も知らず。
だからそれが、たまらなく懐かしく、愛おしくーー。
ーー何故?
何故『ヒュー』は、これを自分たちに見せたのかーー。
ウィズは、その夏のイメージの中に、例の幼いプランジと両親の姿を見た様な気
がした。
プランジは、一瞬子供と遊ぶリジーの姿を目にしていた。
リジーは、幼なじみと過ごしていた少年のウィズの笑顔のフラッシュを見た。
* *
そしてレスラーは……
「フンッッッ!!」
光の中で我に帰り、再び気合いを入れたレスラーは突進した。
今は何かをやれる気がしていた。
『ヒュー』の光は、収まりつつあった。
「プランジ!」
「ウィズ!」
「ちょっ…!」
再び構えた二人に、リジーは数歩前に出た。
が、二人は勢いよく突っ込んで行き、同時に振りかぶった。
レスラーの太い腕が、ついにヘビ状のモヤモヤを捕えた。
「フンリャアアアアア!」
レスラーは、両腕で捕えたまま、後方に思い切り反り返り、ソレを地面に叩き付
けた。
光を背に、プランジとウィズの腕が交差する。
リジーは、思わず持っていたカメラのシャッターを切っていた。
何故自分がそうしたのか、分からなかった。
レスラーが倒したモヤモヤはーー緑色の光の塵になって消えていった。
ウィズとプランジは、二人とも倒れていった。
キレイにお互いのカウンターが入っていた。
そして光は、緩やかに消えて行った。
* *
リジーはしばらくカメラ越しに二人を見ていてーーやがてカメラを下ろし、ゆっ
くり近づいて行った。
「ったく…大丈夫?」
プランジは動かなかった。
「痛い」
ウィズは顔を押さえながらゆっくり身体を起こした。
「あれ……プランジ?!」
「大丈夫……息はしてる」
リジーはしゃがんでプランジを覗き込んだ。
確かに、プランジの胸は緩やかに上下していた。その顔は安らかで、幸せな夢で
も観ているかの様だった。
「ふーん」
全く、とリジーが口を尖らせたところで、ネコがトコトコとやって来てプランジ
の胸でハコを組んで目を閉じた。
プランジの呼吸に合わせて上下するネコに、リジーは苦笑するしか無かった。
「リジー」
ウィズが声をかける。
「何」
「その……ごめん」
リジーはフッと顔を上げた。今までそんな風に言ったことは無かったのに。
「でも、大丈夫だから」
リジーは、ジッとウィズを見つめた。
ウィズも見つめ返す。
「……いいよ、もう」
そっと笑んでみせるリジー。
* *
「ハーッハッハ!ヤッタゾーー!」
レスラーは、達成感の中でガッツポーズを繰り返していた。
その時ユックリと雲が晴れていき、朝の太陽が顔を覗かせた。
「ウム!」
と腕を組んだレスラーは、背後の塔に気付いた。
数百メートル程離れた平地に、巨大な塔が現れていた。
そして、レスラーが立っているのは先程までは無かった一本道の上だった。
どちらも勿論先程までは無かったモノだ。
「コレは……?」
レスラーは一二歩踏み出して止まった。
その塔の根元辺りに、数人の人影が見えたからだ。
「ココは………」
何処かで観た景色の様な気がした。
ソレは、遠い記憶。
そして、先程観たフラッシュ。
かつて技を教え、競い合う様に修行した少年が居なかったかーー?
その姿は、遠くてハッキリしない。
声をかけようと手を伸ばしたトコロで、レスラーは思いとどまった。
自身の身体が、段々光を帯びて、透き通っていくのを感じたからだ。
ーーそして、レスラーは何故だか理解した。
あそこに倒れているのは、あの少年だと。
そして、側にいるのは、あの少年がようやく見つけた、大切な人たちなのだと。
レスラーの表情は仮面で見えなかった。
だが彼は満足そうに頷きーーそして消えていった。
* *
「あれ、誰かいた?」
リジーは、目を凝らした。
遠くの草むらの向こうで、人影と光が見えた様な気がした。
「ん……いや、誰も居ない」
ウィズが顔を向けて観た時には、もう何も見えなくなっていた。
「そう……?」
「ところで、リジー」
「ん」
ウィズは真面目な顔をして言った。
「こないだプランジの両親と会った時な……」
「うん?」
ウィズは間を置いて、真剣な顔をして言った。
「父親が何て言ってたか、分かった気がする」
「へぇ……!」
「………『キミたちの前に、色々来ている』」
「!?」
「アイツは、『ヒュー』を待ってるから」
リジーは呆気に取られた。
「えっと……どゆこと?」
「俺にもよく分からん」
ウィズは寝ているプランジを見つめた。
「後、待ってる、は…持ってる、かも知れない」
「そりゃあ……全然違ってくるけどね」
「まぁな…」
ネコがチラリと二人を見て、またフゥと目を閉じた。
「んん……重っ」
プランジが目を開けた。
「プランジ!」
「あぁ……おはよ」
と言ったのは胸の上のネコにだった。
「………」
大丈夫そうだな、とそっと息をつくリジー。
「中々」
ウィズはプランジの側にやって来て、コブシを出した。
「良いコブシだったな」
「うん……そっちも」
チョンと寝たままコブシを合わせるプランジ。そして、
「あ、リジー……ゴメンね」
プランジは素直に謝った。
「あぁ、うん」
リジーはそれ以上責めはしなかった。
日はもう高く上がっていた。
「さて……また色々、話さなきゃね」
「あぁ」
「え、何を?」
ウィズとリジーはフッと目を見合わせた。
「あ、そうだ!」
ガバッと身体を起こすプランジ。
ネコは無様に背中からデングリ返ってそれでもスタッと着地してニャンと鳴いた。
「絵を完成させなきゃ」
「んん?」
「何ソレ」
プランジは立ち上がってヒザのホコリとかを払いながら言った。
「何か、見えて来た気がする」
「ほほぅ」
「またいきなり?」
再び顔を見合わせるウィズとリジー。
また、何か起きそうな気がしていた。
イエに入って行くプランジとネコ。
外は、爽やかな風が吹いていた。
ネコは、誇らしげに歩いていた。
今回もネコは『ヒュー』を目撃していた。それも、プランジたち3人とは全く関
係無い所で。
それはネコが一人で何となく外に出た時。『ヒュー』がフワッと草原に現れて浮
いていた。ネコは近づいて、触ろうとしたが『ヒュー』はフワッと避けた。だがそ
れは特にネコを意識した訳では無いらしく、その視線は遠くを見つめていた。ネコ
がそちらを向くと、先の草原に小太りのレスラーがいた。ネコは目を丸くした。今
回はこの人なのだ!ネコはしばらく『ヒュー』と一緒に遠くから見ていた。
そのレスラーは、イエから近くな様で遠くにいた。少しイエの上階に行けば見え
そうなものだが、何故かプランジやウィズたちは気がついていない様だった。それ
は恐らく、ホシの所作なのだろう、とネコは思った。
プランジとウィズが二度目の組み手を始めた頃、そのレスラーは『ファントム』
ーー例のモヤモヤと出くわしていた。ネコは驚いて側の『ヒュー』を見たが、特に
何をするでもなく興味深げに眺めているだけだった。『ファントム』は目の前のレ
スラー以外は目に入っていない様だった。レスラーは吹っ飛ばされ、死んだかに見
えた。同時に、ちょうど闘っていたプランジとウィズの様子も少しおかしくなって
いた。それは、『ファントム』の漏れ出した悪意の様なものの影響なのだろうか。
だがその時、ネコの隣の『ヒュー』はキッと顔を上げて、口笛を吹く様にヒュッと
やった。一瞬緑の光がこの間の爆発の様に地面をザッと走った様に見え、『ファン
トム』は姿を消した。ネコははっとして『ヒュー』を見やったが、既に『ヒュー』
はいなくなっていた。
次に観た時、レスラーは何とか生きている様だった。レスラーはそれなりの覚悟
をし、同じ頃ウィズとプランジも覚悟して闘いに臨んでいた。それを眺めているネ
コの前に、また『ヒュー』は現れた。
やがて『ファントム』はまた現れ、闘いが始まった。レスラーは何度も突き倒さ
れたが、何度も立ち上がっていた。あぁ、まるでプランジの様だーーとネコは思っ
た。プランジとウィズもやり合っており、ネコと『ヒュー』は一緒にその光景を見
ていた。
そして『ファントム』が優勢になりつつあったあの時ーープランジの言う『ヒュ
ー』……あの緑色の光が隕石と一緒にではなく、空間に現れた時ーーネコの目の前
の『ヒュー』は一瞬口笛を吹く様な口になったが、ニコリとして閉じた。そしてネ
コと目を合わせて無邪気に笑った。
そしてレスラーは、何故か『ファントム』を撃退してしまった。プランジとウィ
ズも、『ファントム』の悪影響を受けること無く闘いを終えた。今度は、彼ら自身
の力で何とかしたということなのだろう、とネコは思った。そして『ヒュー』も、
それを望んだ。『ヒュー』は、側で笑っていた。ネコも気持ち良い気分になった。
闘いを終えたレスラーは、ようやくイエとプランジたちが見える様になったらし
かった。仮面でよく見えなかったが、ネコには分かった。郷愁に包まれつつ、レス
ラーは結局プランジ達に会うこと無く去っていった。既に『ヒュー』は消えていて、
ネコはプランジの胸で揺れながらそれを一人で目撃していたのだった。
ネコは思った。『ヒュー』は何をしたかったのだろう?だが、今の所悪影響を与
える存在でもなさそうだ。むしろ助けている方だろう。本当はこのことをプランジ
に伝えたいのだが、今は仕方が無い。でも、この場所は、どんどん気持ち良くなっ
てきている。何故なのだろうかーー。
ネコはそう思いながら、プランジの足に額を擦り付けた。
後日、プランジが得意そうに描き上げた絵を持って来た。
「ほぉ」
「これは………」
「いいでしょ」
それは、光の中あのスモーキーマウンテンで写真を撮り合う、リジーとあの女性
のイメージだった。
「………」
見入る一同。
それは、あのカメラに入っていた写真とは違う、第3者目線のキレイな二人の姿
だった。
リジーは、とても暖かい気分になって少し涙ぐみーープランジをハグした。
プランジは、ハグされるのは久しぶりな気がしていた。
と言っても前にされたのはいつのコトだったか?
そしてーー次に『飛べる』のはいつだろうか、などと考えていた。
ウィズは、思い出したプランジの両親の言葉が気になっていた。
だが今はそんなことよりもーー目の前の満たされている気な二人と、同じ気分で
いたかった。
ネコはそんな様子をハコを組んで眺めていた。