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4「Parents/Camera」 

今回はホシがゴミの山で、プランジたちがそれぞれ別の場所で色んな人に出会う話です。

プランジの両親?みたいな人も出てきます。



 そこは、遠く離れた辺境の宇宙。

 青年とネコが、とあるホシに住んでいた。


 かなり小さなそのホシでは、フシギな事が多々起こる。

 青年とネコは、ソレに翻弄されながらも、何とか生きていた。


 そこにやって来た二人の男女。

 どうやら、この二人はこのホシから逃れられないでいる様だった。


 そして、このホシに時折舞い降りる流星は、

 時に誰かを、何かを連れてくる。

 フシギな緑色の光と共にーーー

 青年はそれが、気になっていた。





 あれから、ホシには一本道がずっとあった。

 それは、このホシにしては珍しいコトだった。

 一同が住んでいるかなり高い塔・通称イエの側を通り、極点から極点を抜け、ホ

シを一周する道。青年プランジははしゃいで、一日に2周して来て一同を驚かせた

りした。

 男:ウィズはホシの地図を作ろうかと提案したが、女性:リジーに「その道もい

つまであるのか分からないでしょ」と言われて少し躊躇していた。

「大体、ホシの大きさ自体変わってるんじゃないの?」

 その日、以前手に入れた生ハム&ワインをとうにタイラゲてすっかり缶詰生活に

戻っていた朝食で、当番だったリジーは言った。

「いや、まぁそうだが」

 ウィズはそう言いながら、後で一人で色々探検してみようと思っていた。缶詰以

外の食料とかが見つかればメッケモノだ。それに、今度は赤道上を一周してみるの

もいいかもーー。

「あのモヤモヤ、『ファントム』って名前にしよう」

 缶詰を置いて、プランジが突如言い出した。

 それはあまりに突然で、リジーとウィズはアッケにとられた。

 ネコまでが目をマン丸にして見ていた。

 『ヒュー』ーープランジにとってはあの緑色の光で、ネコにとっては時々現れる

ネコにしか見えないあの小さな光のプランジのことなのだがーーの時はともかく、

あのモヤモヤに名前を付けるという発想はネコには無かったからだ。

 プランジはコトもなげにチタンのマグをクイッと飲み干す。

「……?」

 ウィズとリジーは顔を見合わせた。

 あのモヤモヤについては何度か軽く話したコトはあったが、最近では何となくお

互い会話に出さないようにしていた。

「相変わらず唐突だねー」

「ファントムか…」

 ウィズはかつて戦場で会った例のモヤモヤのことを思い出していた。アイツのこ

とも、仲間内ではそう呼ぶやつもいたっけ。

「まぁ、いいんじゃないか」

「そうなの?」

「じゃあそうする」

「また、そのうち出会わないとも限らないしな…」

 と言ってウィズは立ち上がってかなり離れた窓の方を見やった。

 リビングスペースは二階だったが、その窓の向こうにガレキの様なモノが見えた

からだ。

「あぁ、今日の外はソレみたい」

 窓際に行って見ると、外は一面ガレキと言うかゴミの山だった。

「ほぉ?」

 ウィズは前に映像で見たことがあった。スラムに接したゴミの山で、子供達がそ

こから金に換えるモノを探して暮らしているやつだ。

 目の前に広がっているのは、まさにそれだった。所々で煙が上がっているのも同

じだった。ガレキの内部が高温になっていてゴミの一部が燻っているのだ。

 勿論そこにゴミを拾う子供たちなど見えはしなかったが。


「結構キツいね」

 朝食を済ませた一同が外に出てみると、そこは、結構ゴミの匂いが広がっている

空間だった。

 プランジの肩にいたネコは早速フレーメン顏をしてタタッとイエに走り去った。

「プランジ、今までこんな感じだったコトは?」

「んー無いと思う」

ウィズは軽く辺りをスキャンして見たが、鉄クズやビニールゴミばかりで使えそ

うなモノは無かった。リジーはビンや空き箱的なモノを幾つか拾い上げたが、例に

よって賞味期限や製造場所の表記は無いか読めなくなっているモノばかりだった。

「さて…どうする?」

 リジーは呆れてゴミの山を見渡した。

 近場で一段高い山に登ってみたウィズは、ずっと先までゴミの山が続いているの

を確認して言った。

「ちょっと行ってくる」

「……?」

 そう言えば水とか食料とか用意周等に持ってるな、と今更ながら気付くリジー。

ホントに地図を作る気なのか?

「プランジ、アンタは?」

 プランジは少し考えてから言った。

「俺も、ちょっと行ってくる」


「………」

 一人になったリジーは、自分の赤の部屋に戻ってバフッとベッドに身を投げた。

このイエ…この赤い部屋だけですら、一人には広かった。

 久しぶりの、こんな気分。

 プランジたちのあのはしゃぐ感じに付き合って、しばらく忘れていた感情だった。

「……フゥ」

 リジーは、今では普段からバッグに入れて持ち歩く様になったリボルバーをそっ

と抜いて眺めた。このリジー社製リボルバーは、かつて自分を殺めようとして手に

入れたモノだった。それは子供を失って数年経ち、絶望を繰り返した果てのことだ

った。

 勿論実行はしなかった。

 あれは何故だったのだろうかーー今ではよく思い出せない。リボルバーは今では

もうお守り代わりになっていた。自殺を止めてからは、そこそこ練習はした気がす

る。割とスジがいい、と褒められたっけ。…誰にだっけ?

 フッとリジーは笑った。

 そんなコト、今はどうでもいいのにーー。

 気がつくと、ネコが脇に体をくっつけて来て横になったトコロだった。

「……」

 まぁいいか。

 今日は男達も自由にしてることだし。

 リジーは少し微笑んで、やがて眠りについた。


   *   *


 プランジは、ゴミの山の中を進んでいた。

 ウィズが向かったのとは逆方向へ。いつもの遺跡方向だ。

 ただ一本道を歩くのも何なので、突き出した鉄骨やら足場の悪い所をワザと選ん

で進んだりしていた。歩くと言うよりも例の体術ーーパルクールでヒュンヒュン跳

んでいる感じだった。

「……」

 あれ以来何度か試してみたが、やはり自分の意思で『飛ぶ』ことは出来ない様だ。

 じゃあ誰が決めているのか?それはやっぱり、『ヒュー』なのだろうか。

 後、こないだの黒人と別れた時のことを少し、彼は反省していた。

 もう少しちゃんと送ってあげれば良かった。自分のことだけだったーー

 時にプランジはこうして落ち込んだりもする。

 それは何時の頃からだったか。

 もっと昔は違ったりしていたのだろうか。

 と言ってももうよくは思い出せないのだけれど。

 そうそう、こないだのフラッシュバックで観た、プランジを大きな手で抱き上げ

てくれた存在は誰だったのだろうか。あの黒人の様な気もするが、確証は無い。

 分からないコトだらけだーー。

 そう思いながら、プランジは起伏の激しいゴミ山の中を突き進んでいた。

 今日は何故か少し調子が悪く、時折鉄骨にぶつかったりしながら。


   *   *


 ウィズが歩き出してから、数時間が経った。今のところ、ホシは急激な変化など

見せずにスモーキーマウンテン風な景色を広げていた。

 歩いている先は赤道では無く、北方の極点方向だった。実はまだウィズは行った

コトが無かったのだ。何度か行こうとはしたが、その度にホシの変化とかプランジ

が何かやらかしたとかで、完遂には至らなかった。

 今日はこの分だと行けるかーーイヤイヤ、このホシに限って油断は禁物かーーな

どと考えながら、ウィズは歩みを進めていた。

 今朝のファントムの話ーーウィズは久しぶりに思い出していた。

 思い出す度に体がゾワッとする、あの感じに肌がヒリつく。あの時何も出来なか

った自分、そして無くしたこの左目ーー。

 ウィズは軽く目頭を拭った。

 と同時に、ウィズはもう一つの目ーー右目の角膜を与えてくれたという女性に、

思いを馳せていた。

 兵士時代にウィズはとある戦場で傷つき、ベッドで昏睡状態だった。そこは辺境

の惑星で、少数民族の集落だった。ウィズが気がついた時には既に手術は終わって

おり、結局その女性とは会うことは無かった。すぐにその集落も襲われて戦闘にな

り、結局その少数民族はこの宇宙から消えた。提供者の女性の情報は全く無い。だ

がウィズは昏睡状態の中で優しく手を握ってくれた感覚だけは覚えていた。

 勿論それが提供者とは限らないが、ウィズの中ではその手の優しいイメージだけ

が強く残っていた。

「………」

 ウィズは少し空を見上げ、また歩みを進めた。


 それは、久しぶりに3人がそれぞれで過ごす、実はウィズやイジーが来て以来ほ

ぼ初めての時間だった。


   *   *


 リジーは洗濯を済ませると、何となくその日は外ではなく室内に干した。室内と

言ってもイエは広い空間だらけで、特に問題は無かった。

 ネコは日が差し込むアイランドキッチンで丸くなっていた。

「フフ」

 リジーはネコを一撫でして洗濯カゴを片付けると、ダブッとしたワンピースのポ

ケットに小さな試験管を忍ばせて、少し外に出た。

 少し前から、リジーは姿を変えたその時ごとのホシの土をサンプル的に採ってい

た。ベッドの脇には、既に10数本分の土がキレイに並んでいる。

 別に解析しようと言うのではない。しようにも、ホシにはそういった機器は存在

しなかった。ただ、特にすることが無いこのホシで何か残るモノ…といった感じで

始めた感じだった。

 外は朝から特に変わっていなかった。ムッとする様なゴミの匂い。空気が乾燥し

ていて、生ゴミ風ではないのが救いだった。

 リジーはゴミ山の側の土を試験管に入れ、コルクでフタをしてゆっくりと立ち上

がった。

 その時、リジーはゴミ山の向こうにカメラを構えている女性の姿を見た。それは

あまりに当たり前のようにそこにいて、しばしリジーは見とれた。周り中がシルエ

ットの中、彼女にだけ日が当たっていてまるで天使か何かの様に見えた。

「え…?」

 特に近場に隕石が落ちた様には感じなかった。もしホシの反対側に落ちたのなら

気付き様が無いのだが。

 リジーはジッと女性を見つめた。この人は、誰ーー?

「ねえ!」

 リジーは叫んだ。

 サングラスをかけたその女性は、微かに聞こえたリジーの声に反応した様だ。

「こっち!」

 リジーは手を振った。

 女性はリジーを視認した様で、ゆっくり笑顔になった。


 土の試験管がまた一つ増えた赤の部屋。リジーはとりあえず女性を自分の部屋に

招き入れていた。ネコは何時の間にかやって来て不思議そうな顔をして2人を見比

べていたが、やがて女性の方のヒザに収まった。

 女性はジーンズに洗いざらしのシャツにカメラバッグ。

 例によってカメラメーカーは分からなかった。

 年の頃は30後半位。リジーと同世代の筈だ。

 彼女は無口なのか話せないのか、全く言葉を話さなかった。

 なので、必然的にリジーは割と積極的に話しかけ、女性は頷き、微笑で返してい

た。リジーはあぁ、こんな感じ久しぶり、と自分でも妙な気分だった。

「で、アナタはどこから来たの?」

 女性は「分からない」的に苦笑した。

 特に手話が出来る訳でもないリジーには、それ以上追求しようが無かった。

「これ」と言うように女性はカメラを再生モードにして差し出した。

「へぇ…!」

 そこには、今まで女性が行ったと思われる数々の場所、自然や動物や建物や子供

達が映っていた。何処のホシかは分からない。おそらく一つでは無いだろう。

 それはリジーが久しく忘れていた、幸せとか輝きとかいうモノたちにも見えた。

「………」

 そんなリジーの表情を、女性はサブカメラを取り出してパシャリと一枚撮った。

「?!ちょっと」

 女性は微笑んで、今度はいつの間にか寝入っていたヒザのネコも何枚か撮ってリ

ジーにも見せる。

「わぁ、ぶちゃいく」

 2人は笑った。確かにネコは半分シュンマクがかかったヘンテコな寝顔になって

いたが、2人の笑い声と揺れるヒザに少し起きて不服そうな顔をした。


   *   *


 プランジはイエの反対側の遺跡に到達していた。

 やはりそこはゴミに埋もれていて、危うく見逃すトコロだった。

「あーあぁ」

 プランジはしばらくゴミを片付け、いつも寝転がる遺跡の中心を確保はしたもの

の、周りがゴミだらけなので昼寝は止めて周りを捜索することにした。

 しばらく周りを探したが、特に目新しいモノは無かった。

 来る途中にぶつけた頭が少し痛んでいた。

 プランジは遺跡に戻って先程作った中心のスペースに寝転がった。

「………」

 こうやって、何かあるごとにココにやって来る。もう何百回目だろうか?いや、

もっとかも知れない。ここに来たからと言って、常に何かしらの答えが見つかる訳

ではないのだが。

 それでも、プランジはココが気に入っていた。

 ーーまた、『飛べ』たらなーー。

 やはりあの感覚は特別だ。次はいつのことになるだろうかーー。


 少しうたた寝してフッと目が覚めたプランジは、目の前に寂れた建物があるのに

気がついた。

「?!」

 驚いたことにプランジが寝ていた遺跡は無くなっていた。

 プランジの前にははコンビニと言うにはおこがましい程の、旧西部的な街道沿い

の商店と言った感じの建物があり、プランジはその前の駐車場スペースにポツンと

座っていた。

「え…?!」

 プランジはガバッと起き上がって辺りを見回した。遺跡にいたのに?!

 まだ少しズキズキする頭を抑えながら見ると、辺りは商店以外は何もない、乾い

た土の地面だった。百メートル程先には例のゴミ山たちがグルリと周囲を取り囲ん

でいるのが見えた。

「………」

 またかーー?プランジはそう思いながら、ユックリとその商店に入っていった。


   *   *


 ウィズは、極点に達していた。

 振り返ると、ウィズの極限の目では微かにイエの先が見えていた。

 ココも一面ゴミの山で、辺りを見渡せる小高い山に登ると、そこは昼の面と夜の

面が半々になった、中々の絶景だった。

「………」

 ウィズは空を見上げた。

 そこは、夕方っぽい空と星空が見事にグラデーションになっていた。

 小さなホシだと、こう見えるのだな。

 ウィズはその光景を見つめていた。

 ーーと、ウィズはその星空の中に、小さな流れる光を見た。

「!?」

 それはいつもの流星では無かった。明らかに、船の航跡の様なーー?

 ウィズは勿論、全身の機器でそうしたモノを探知出来た。ある程度の長距離通信

も出来たし、何ならこの星系にフネが入って来た時点で反応出来た。

 今まで特にSOS的な行動を取らなかったのは、このホシが外界からは隔絶された

場所で、そうした反応が全く無かったからだ。

 なのに今、初めてフネがーー?

 ウィズは全身の機能で呼びかけたが、全く返事は無かった。

「ん……?」

 彼は、しばし試みを続けてから、接続を諦めた。

 普通のフネなら当然捉えられるべき反応が無かったからだ。

 何かが違うーー。彼の目でも判断出来なかったが、見えている星空が何処かホン

モノでは無い様な気がした。分からないくらい精巧なモノだが、何処かがーー。

 それでも、ウィズはしばらく空を見続けていた。

 光跡は一つでは無く、現れては消えてを繰り返していた。

 あぁ、やはりココは何処か世界から取り残された場所なのかーー。

 ウィズはそう実感した。

「 」

 何か聞こえた様な気がした。

 ウィズはハッと目線を戻すとーーいつの間にか目の前はゴミ山の上では無く麓に

なっていた。ソコだけゴミの無い大理石の様な地面にテーブルがあり、一組の男女

が座ってこちらを観ていた。

「……?」

 ウィズは振り向いて、ユックリと近づいていった。

 この場に全くソグわない大理石。白いテーブル。男は60位、長身でスーツに丸

いサングラスだった。

 女性は革のブーツにジーンズ、革のロングジャケット。まるで西部劇から抜け出

て来た様な出で立ちだ。こちらも50代と言ったところか。濃い茶色のサングラス

で、目はよく見えなかった。

 二人ともウェッジウッド風なティーカップで紅茶を飲んでいた。

 これはーー?

 ウィズは、テーブルの上にある写真立てに気付いていた。ちょうどティポットに

隠れているが、そこに映っているのはーー?

 ウィズはユックリと2人に近付いていった。2人は笑みを絶やさない。

 女性の方が一つ残っていたグラスを掲げて首をかしげた。

「あ……いただきます」

 何故かウィズは答えていた。自分の声が、自分では無い様だった。

 男性の方は微笑んで自分のカップに口を付けている。

 そして女性の手がポットに伸び、ゆっくりと持ち上げたーー。ウィズは、その影

にあった写真を凝視した。

 そこにあったのは、家族らしい写真。

 20年位前と思われる目の前の男女の姿と、2人の間で屈託のない笑顔を見せて

いる幼児の姿だった。

 これはーーまさか?

 認識ソフトにかけるでもなく、見覚えのあるこの子供はーーープランジ?

 ウィズはボウッと写真に見入っていた。

 気がつくと、目の前にソーサーに置かれたティーカップが差し出されていた。ウ

ィズは女性に少し会釈してからカップを取った。


   *   *


 プランジは、無人の商店の中にいた。

 恐らく、こういう品物が陳列してある場所は初めてだったと思う。

 普段無限の部屋で観るのはもっと雑然とした空間で、こんなに整然と物が並んだ

場所はひどく落ち着かなかった。 

 恐る恐る足を踏み出す。乾いた床に足音が響いた。何時の間にか頭の痛みは消え

ていた。

 プランジはーーいくつか商品を手にした。

 無限の部屋にあるモノとは何か違うのだろうか?

 誰かの声が聞こえた様な気がして振り返った。

 勿論誰もいない。

「 」

 プランジは叫んだ。

 だがその妙に反響した声は静寂に飲まれた様で、誰にも聞こえなかった。

「………」

 プランジはやがて諦め、ディスクで観た映画の様に、レジまで行った。

 誰もいない。

「………」

 映画でする様に、一枚だけポケットに入っていた何処かのホシの紙幣を置いて、

外に出た。

 微かに香るゴミの匂い。

 乾いた風の音。

 ーー時間が戻って来た様だった。

 プランジは辺りを見回した。

 入った時と、特に変わりは無い様だ。

 またか、とプランジは思った。

 またなのかーー。

 自分に、何をしろと言うのか。

 何を感じろと言うのか。

 いやーー経験上、そんなコトを言っても仕方が無いのは分かっていた。

 ただ、今日のプランジは、何かを、全身で叫びたかった。

「!!!!!!」

 言葉にならない叫びを上げた。

 足元に落ちる品物たち。

 勿論、誰も答えはしない。

 それは、今までこのホシで何度と無く繰り返して来たコト。

 何十度目かの、爆発だった。

 息の続く限り叫んで、彼は仰向けに倒れた。

 乱れた息のまま、宙を見つめるプランジ。

 ーー徐々に整っていく呼吸。

 そして、また静寂。

 だがその時、プランジは身体の中から、何かが沸き起こっていくのを感じた。

 こんがらがった感情や思考の先に見えた、一筋の光。

 それは時に彼を奮い立たせるモノ。

 『飛ぶ』のとは少し違う。

 それよりも力強く、懐かしい感じ。

 これは……『ヒュー』!?


 爆発が起こった。

 それは商店を遠く取り巻くゴミ周辺で起こった。

 隕石が落ちた訳ではない。

 だが気持ち緑色の、円状に広がった光の爆発。それはゴミたちを高く吹っ飛ばし、

緑色のチリに変え、消していった。

「…!?」

 それはどんどん奥に広がって行き、ホシを覆っていくかの様に見えた。

 プランジはそれを目で追っていた。

 そのキレイな光は、プランジを徐々に落ち着かせていった。

「………?!」

 プランジはハッと振り返った。後ろにあった商店は無くなっていた。唯一、足元

に落ちた商品だけは残っていた。

 プランジは、しゃがんで、それをゆっくりと拾い上げた。

「………」

 しばしそれを眺めて、プランジは立ち上がった。

 そして振り向いて、イエの方へと歩き出した。


   *   *


 リジーたちは、外に出ていた。

 ゴミ山の中でネコやお互いを撮りあったりしていた。

 リジーも女性も、笑っていた。

 だが何度目かのシャッターの後、リジーを、あの恐れていた目眩が襲った。

 リジーはフラッとしてゴミ山の上でヒザをついた。そのまま横に倒れようとした

トコロを、女性が素早く駆け寄ってきて支えた。

「あ……」

 リジーは意識を失いそうな中、女性の顔を見上げた。

 懐かしい様な安心する様な不思議な感じ。

 これはーー?

 何かを思い出せそうな、そんな気がしていた。

「………」

 その時、ネコがピクッと顔を上げた。

 遠くで地響きの様な音がする。

「ニャオーー」

 ネコが誰かを呼ぶ様な甲高い声を上げた。

「!」

 女性はリジーを支えて側のイエまで連れて行った。イエの入り口前のポーチにリ

ジーを寝かせた後、女性はスックと立ち上がった。

「あ……何処へ?」

 辺りは微かに揺れが始まっていた。

 女性はサブカメラをリジーに握らせると、側で見つめているネコを一撫でしてか

らカメラバッグを肩にかけ歩き出した。

 ドンドン揺れが大きくなる周囲。山の向こうでは緑色の爆発が見えてきた。

 それはコチラに近づいてきている様でーー。

「待って……!」

 弱々しく伸ばした手の向こうで、女性は歩いていった。リジーの視界は明るくな

っていき、女性の姿はその光の中に消えていった。

「あぁ……」

 光を浴びながら、やがてリジーの意識は溶けていった。


   *   *


 ウィズは、紅茶を飲んでいた。不思議に美味かった。

 いや、写真のコトをーープランジのコトを聞かなければーー。

 だがウィズの舌は動かなかった。

 微笑む初老の2人の間で、ただ紅茶を味わっていた。

 遠くで起こった揺れを、ウィズは感知した。

 遅れて地鳴りの様な微かな音も。

 ウィズはゆっくりとカップを置き、振り返った。

 ゴミ山で地平線は見えなかったが、このホシの遠くで何かが起こっているのは分

かった。

 視線を戻すと、2人も何事かは分かっている様だった。

「あの……」

 ようやく声が出せた。

「    」

 男性が何かを話した様だが、ウィズは聞き取れなかった。

「え…?」

 揺れはひどくなって行った。

 かなり大きな緑色の爆発が、ゴミ山の向こうからドンドンこちらに近づいている。

 女性の方が、ウィズに手を差し出した。

「あ……」

 ウィズは少し戸惑って、それから飲み干したカップを差し出した。

 その時、女性と手が触れた。

「!!」

 ウィズはビクッとしてその場で止まった。

 何故か分からないが、感じるものがあった。

 それは遠い昔、自分に触れてくれた手の様な感触ーー。

「まさか……」

 ウィズは、改めて女性のサングラスの下の瞳を見た。その目は光に反応していな

い様だった。

「あなたは…!」

 ウィズは、動けなかった。

 だが彼の感覚は、それを確信していた。

 男性は優しく頷いてーーその時、ウィズの背後で一際大きな爆発が起こった。

「!!」

 ウィズはとっさに振り向き、対衝撃姿勢を取った。一応二人を庇ったつもりだっ

た。遅れて側でカップとソーサーが落ちて跳ねた。辺りを凄まじい爆発が襲った。

 だが思ったほど衝撃は無かった。剥き出しの大理石部に居たウィズは特に吹っ飛

ばされるでも無く、右手で頭部を守り左手と体で後ろの二人を守ったまま立ちつく

していた。

「く…!」

 柔らかな爆風の中、細めた目にうっすらと緑色の光が見えた。それはウィズに優

しく語りかけている様だった。

 やがてその嵐の様な風が収まりーーーー

「……?」

 ウィズが顔を上げると、そこにはウィズしかいなかった。

 ゴミ山は全て消え、乾いた白っぽい土の地面が広がっていた。

「……」

 足元を見ると、ウィズの周りだけ古くなった大理石が残り、後は土に埋れていた。

 勿論、テーブルも2人の男女も、何も無かった。

 辺りを見回したウィズは、少し離れた場所に半分土に埋まったカップを見つけた。

 近付いて掘りだしてみる。

 取っ手は無くなっていたが、予想通りそれは先程ウィズが飲むのに使っていたモ

ノだ。

「マジかよ……」

 だがそれは、明らかに数十年を経たモノの様だった。

 ウィズは軽く深呼吸をした。

 あの二人は、プランジの両親?そして母親の方は…俺に角膜をくれた人?

「出来過ぎだよな……」

 ウィズは一人呟いてから、ゆっくりと歩き出した。

 不思議な気分だった。

 知らない間に、過去と現在を行き来した様な感じ。

 …まさか本当に俺抜きで時間が経ったりしてないよな?

 ジジババになったプランジとリジーが出迎えたりしたら、ソレはソレで笑えるな。

 ーーイヤイヤ。

 ウィズはもう大抵のコトには驚かなくなっていた。

 さて、帰ったら今回のコトを何て言おう。

 ーーそんなコトを考えながら、ウィズは歩みを進めた。


   *   *


 イエのポーチで、リジーは目を覚ました。

「あ……」

 少しまだ目眩ーーと言うか、立ちくらみが残っていた。

 ゆっくりと体を起こした。

 辺りには誰もいない。

「ニャ」

 ネコは側で寝転がっていた。

「……」

 もう、辺りは夕方近くになっていた。

 ゴミ山はすっかり無くなり、乾いた土の地面が広がっていた。

 ーー夢だったのか?

 しばらくボーッと夕日を眺めていたリジーは、気がついて女性が残して行ったサ

ブのカメラを探した。カメラは、ネコのお腹の下にあった。

「ウー」

 ネコは少し迷惑そうなカオをしたが、カメラを取り上げた後はまたハコを組んだ。

その目は、じっとリジーを見つめていた。


 ネコは、考えていた。

 今回も、あの小さな光のプランジ、『ヒュー』はあの女性と一緒にフラリと現れ

た。今回は緑の光を伴った隕石は無かった様に思う。その不思議な女性の雰囲気に、

ネコはしばし目をパチクリさせていた。そのヒザの上に乗ると、彼女の雰囲気がリ

ジーにとてもよく似ていることが分かった。『ヒュー』は少し上空にいて、フラフ

ラしながら笑っていた。

 そして、その日はホシ全体が何か違っていた。ゴミの山に覆われていたが、それ

は3人それぞれの、記憶のカケラの様にも見えた。特にそれにちゃんと触れたのは、

リジーだったのだ。

 ウィズやプランジがホシの裏側で経験したことも、何故かネコは感じ取ることが

出来た。それは側にいた『ヒュー』の力のせいだったのだろうか。ネコが感じたの

は、ネコも知らなかったプランジの昔の記憶。やはり、プランジにも親という存在

がいたのだーー。そしてウィズの残った右目の角膜のことや、リジーの昔のこと。

それぞれの思いを、ネコは全身で感じていた。

『ヒュー』もそれぞれの感情を、興味深そうに眺めていた。

 今回、プランジの名付けた『ファントム』ーーこのホシに時々現れる邪悪な意思

の様なものーーは、その姿を見せなかった。

 だが、あのプランジの咆哮の時。『ヒュー』も少し口を開けて叫ぶ様な仕草をし

た。同時に、ホシがビュワッと震えた様だった。そしてあの緑色の光の輪ーー今回

は爆発状の激しいものだったがーーが起こり、それによって記憶のカケラたちは消

えた。『ヒュー』の姿も見えなくなった。そして3人はまた出会うのだ。それぞれ

の思いを抱いて。

 あぁ、このホシは、こんな姿も見せるのだーーネコは、不思議な思いだった。た

だ、自分だけはこの輪の外にいる…何故なのだろう?とも思っていた。

 …まぁ、ゴハンさえ貰えるならば日々過ごしてはいけるのだが。

 そう思って、またネコはゆっくりと目を閉じた。


 リジーは、カメラを再生モードにして撮った写真を探した。

 確かにあったが、女性の顔は逆光だったり露出が合わなかったりでよく見えなか

った。

「けど、夢じゃ無い……」

 リジーは安堵して一人呟いた。

 ちょうど太陽が頭の横から見えている、素敵にキレイな写真でイジーの手は止ま

った。

 空と太陽と女性のバストショットだけの写真。その光の具合は、光線の具合か気

持ち緑色っぽく見えた。

「これは……」

 その時、リジーは、何となく理解したーー

 あれは、目眩の中、アイツと会わなかったアタシ?

 そして、銃を練習したりしている時に側にいたアタシ?

 だからあんなにーーー。

 何時の間にか、リジーは涙していた。


「リジー!」

 遠くからの声に観ると、ウィズとプランジが歩いて来ていた。

「何かあったか?」

 リジーはあわてて涙を吹いて、しばし言葉に詰まった。

 あったと言えばあったけれど。

「ううん……そりゃまぁ色々とね」

「何だそれ」

 二人はポーチ前にやってきた。

「はい、お土産」

 プランジが差し出したのは、キレイな紅茶の缶と、小さなケーキの箱だった。

「だいぶ崩れてるけどね」

「遺跡辺りで店を見つけたんだと」

「……」

 リジーは品物と2人を見比べて、言った。

「もっと役に立つモノは無かったの?」

「んー、その時は思いつかなかった」

「何かあるでしょ」

「後コレは…俺から」

 差し出されたのは、古ぼけたウェッジウッド風カップだった。

 しかも取っ手が取れている。

「……何コレ」

「こっちも色々あってな」

 リジーは少しウィズを見つめてから、フッと笑んだ。

「アタシはコレ」

 女性が持っていたサブカメラだった。

「お、カメラ?!」

「へぇ、初めて見る」

「マジかよ……」

 言いながらウィズは軽くカメラをいじって画像を出した。

 次々に観ていったウィズは、ある写真で止まった。

 それは、先程リジーが観ていた写真の数枚先ーー実はグルリと回って一番古い写

真だったがーーそれには、見覚えがあった。

 豊かな森の側で佇む家族の写真。

 紅茶をご馳走になった夫婦と幼いプランジ?の写真だった。

「……!」

 ウィズは、動けなかった。

 これはーー?

「ホント、色々あってさ」

 リジーの声にノロノロと向くウィズ。

「とりあえず、お茶にする?」

「いいね!」

 プランジは嬉しそうに言った。

「ケーキなんて実は久しぶり」

「持って来て良かったでしょ?」

「まぁね」

 リジーは箱を持って立ち上がった。

「まぁ積もる話は後で」

 ウィズに目配せして箱を預けてから、イエに入っていく。

「ニャン」

 ネコもトコトコとスマした顔でついて来た。

「…そうだな」

 ウィズもプランジの後に続いた。

 本当に、イッパイ話すコトがあるーー。

「このカップ、まだ使えるかな」

「さぁ…飾っとくだけにしとけば」

「で、積もる話って何?」

「それはまぁ後で」


 今日は濃いお茶の時間になりそうだった。

 イエは、相変わらず白くそびえ立ち、凛とした姿を見せていた。




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