14「KISS」
14・15話は前後編です。中盤の煌めきってやつでしょうか。
今回、ホシは稲穂が一面に広がっています。
やってくるのは女性。プランジと恋愛になる人です。
あれから、しばらくプランジは落ち込んでいた。
『このホシに来て、死んでしまった人間はどうなるのか?』
その答えは未だ出ていない。
あの時、死にかけの老女を連れて山岳地帯から『飛んだ』プランジは、イエの3
階バルコニーに到着した。だが、腕の中に既に老女の姿は無かった。飛んだ時に、
元のホシに帰ったのか、それとも何処か違う場所に行ったのかーーそれは誰にも分
からない。
あの時、プランジは絶叫した。絶叫し過ぎてしばらく声が出なかった程だ。
助けられなかったーーその思いが、プランジをずっと苦しめていた。ウィズやリ
ジーがいくら「元の世界に帰った方が助かる確率が高かった」と説明しても、気が
晴れることは無かった。
その日、プランジはリビングスペースでヒザを抱えてボーッと外を眺めていた。
しばらくは、彫刻も絵もパルクールもやる気分にはならなそうだった。
ネコはそれでも側にいて、時々目線を送ったり丸くなって眠ったりしていた。
ウィズやリジーはそんな様子を、少し離れて観ていた。
「大丈夫かな」
「………」
大丈夫だろ、とウィズは思っていたがーーウィズとてそういう悩める青年時代の
一つや二つ、短かったとは言えあったのだ。そっとしておいてやろう、そう言って
ウィズはガレージに向かった。
ガレージでは、例のクラシックカーの修理がようやく終わりかけていた。
衝突事故の際にかなり壊れた車体の一つを、ウィズは長い時間をかけて動かせる
様に直していた。幾つかのパーツは、資料を探してきて自作までした。
それは、特にする事が無い時の習慣となりつつあった。
もしも帰れるならーー若しくは別の世界に行けるなら、出来ればコレも持って行
きたいものだーーなどと考えたりしていた。
リジーは、相変わらず無限の部屋を漁ったり料理や洗濯をしたりして過ごしてい
た。
試験管に入れたその時々の土のサンプルは、もう数十本溜まっていた。
ーー正直、ココまで溜まるとは思わなかったな。
リジーは試験管を眺めながら考える。前回の老女はーー本当に自分の未来の一つ
の姿だったのだろうか。そのことは、少し気になっていた。一時は落ち込んだりも
したが、所詮「一つの」未来でしか無いという結論に自分なりに至ったので、プラ
ンジ程は暗くならずに済んでいた。
ーーそうそう、もし何処か違う所に帰るなら、その時はプランジやウィズとも別
れることになるのだろうか。
そのことも、少し気になってはいた。
その日は、イエの外はノーマルな草地だった。
良く晴れた青空が広がっていた。
「遺跡まで行って来る」
いつもの遠出の装備を背負ってプランジが言った。
「…あそ」
洗濯物を干していたリジーは努めて明るく振り返った。
「数日かかる感じ?」
「多分」
プランジは無表情で出て行った。
ネコもトコトコ付いていっていた。
「………」
そこで少し元気になればいいけどねーーとリジーは思った。
「気をつけろよ」
「うん」
ガレージのウィズにも一声かけて、プランジは出て行った。
ネコが当たり前の様にヒョインとリュックに飛び乗っていった。
「……」
ウィズはしばし作業の手を止めてウィズを見送った。
いつもならダッと猛スピードで走って行きそうなモノだが。今は少し力の抜けた
感じで歩いている。別人の様だなーーウィズは少々不安を覚えた。
外は良く晴れた、でもカラリとしていていい陽気だった。
そんな中、プランジとネコはミチーーイエの側からホシをグルリと一周している
道ーーの上を歩いていた。
「………」
プランジは黙ったままだった。
ネコも、揺られながら目を閉じていた。
とても静かな、ザッザッという足音しか聴こえない時間が続いた。
半日かけてホシの反対側の遺跡に着いたプランジは、荷物を降ろして辺りを見回
した。
遺跡は特に変わった様子はなく、相変わらず畏怖堂々としたストーンヘンジの様
な姿を見せていた。
「ふぅ」
プランジは少し安心した。無くなったり、ヘンな姿になっていないか少し心配し
ていたのだ。
プランジはサッサと荷物をほどいて野営の準備をし、それが終わると遺跡の中心
にゴロリと横になった。
…考えてみれば、ここに来るのも久しぶりだった。前は何かと言うとここに来て
いた気がする。そして今まで何度も精神的に救われたーー。もし、ここが無かった
らどうなっていただろうか?それ位、大事な場所だった。
ネコは少し離れてハコを組んだ。今日は久々に二人きりの夜になりそうだった。
……どれくらい経ったか。
プランジは眠りこけていた。
「ハロー」
声がした。
「ーー?」
夢の中だろうか。
「ね~~」
いや、夢では無いらしかった。
何だかいい匂いもする。
「ね~ってば」
何だかあちこちツツかれてもいる様だ。
「ん…?」
プランジが薄っすらと目を開け始めるとーー目の前に大きな瞳があった。
「!!」
プランジは驚いて起き上がり、その誰かと額をブツけた。
「あうっ!」
「痛っ~~!」
尻餅を突いた女の子はーーそうそう、やはり女の子だったのだがーー額を押さえ
て痛がっていた。
「あ、あぁゴメンゴメン」
「気をつけてよ~~」
そう言って、その女の子は笑った。屈託の無い笑顔だった。
「……」
プランジも、やがて笑った。
ネコは、その姿を少し離れたトコロからフシギそうに眺めていた。
その子は、歳は20代前半と言ったところか。
大きな意思的な瞳が印象的な、カットソーにショートパンツにブーツの行動的な
格好をした女の子だった。黒く長い髪の毛が腰まで伸び、クルクルと表情の変わる
様子が面白かった。
プランジは時を忘れて話をした。
女の子は、例によって今まで自分のいたホシや名前のコトなど覚えてはいなかっ
た。だが、その辺りのホシの話を聞いても全く臆する事無く、むしろキョウミシン
シンで聞き入っていた。
そうしてヒトシキリ話をした後、二人が遺跡の外に出て見るとーーいつの間にか
そこには、見渡す限り麦の稲穂が広がっていた。
「わぁー!」
「綺麗……」
時間帯は夕方近くだろうか。
傾きかけた夕日を受けた稲穂は、緩やかに揺れて光の波を形作っていた。
「コレ……」
プランジは、その風景に、何かを感じていた。
前に観た事がある様な、そして誰かに会った様な、懐かしい感じーーデジャヴっ
て言うんだっけ?
「ねぇ、コレ……」
プランジは呟く様な女の子の声にハッと向いた。
「絵に描きたい!」
女の子は顔いっぱいの笑顔でプランジに言った。
「……あぁ!」
自分も思っていたのと同じことを言われたプランジは驚き、そして満たされた気
分になった。
そんなことは初めてだった。
「コッチ!」
プランジはタタッと遺跡の裏の壁に走って行った。
そこに空いた穴の中に、予備の絵画・彫刻セットを置いてあったのだ。
「わぁ、ありがとう」
女の子は屈託無く笑った。
プランジも笑った。
二人は遺跡のフチに並んで座り、絵を描いた。
流石に色まで塗る時間は無いだろうと、二人とも画用紙に色鉛筆でデッサン的に
夕陽と稲穂を描いた。
あぁ、二人で描くとこんなに楽しいんだーーとプランジはワクワクしていた。イ
エではウィズもリジーも勿論ネコも、絵を描く感じではなかったのだ。
「どう?」
女の子の手は異常に早く、早速プランジに見せて来た。
「……!」
プランジは息を呑んだ。
それはプランジが描くモノより遥かにダイナミックで、それでいて何処か繊細な
タッチだった。
「……いい」
「ホントに?」
女の子はジッと見つめて来る。
「ホントに」
プランジはニッコリと笑って言った。
「なら嬉しい」
と女の子はまた次の絵に向かった。
「……」
プランジは、一歩下がって夕日の中で一心に絵を描いている女の子の姿を、自分
の絵に描き入れた。
日が落ちて、星が出ても二人は絵を描き、話をし続けた。
夜になってようやくゴハンをもらったネコは、向こうを向いて寝入ってしまった。
「可愛いネコだね。名前は?」
「……いや、特に無いけど」
「えー、無いと哀しいよ。ねーー」
と言って女の子はネコの背中を撫でた。
ネコは不機嫌そうにしてはいたが、撫でられると流石にネコの習性でグイ~ンと
手足を突っ張ってノビをした。
「はは」
優しく微笑む女の子。
持って来たバーナーで何時のもの様に珈琲を入れたプランジはそっとチタンのカ
ップを差し出した。
「ありがと」
そして二人は、星空を見上げた。
「アタシもーー、」
「え?」
「何か名前が欲しいなーー」
「……!」
プランジは目を見開いた。
思えば、今まで自分からそう言った人間はこのホシに来た中にはいなかった。
そう言えばウィズやリジーの名前も、自分がつけたんだっけ。
っていうか自分も、あの二人が来るまでは自分の名前すらそれほど気にしていな
かったのだ。
「そうだなーー」
プランジは少し考え込んだ。
何が良いだろう。
この子に合った、何かいい名前ーーキレイで、甘過ぎなくて凛としてて、それで
いて優しさもあってーー。
「………ファイ」
ソレは、何の出典がある訳でも無かった。
ただの響きだけだった。
何故、この名前を思い付いたんだろう?
「ーーどうかな?」
プランジは自信無さげに女の子の方を覗き込んだ。
「……うん」
「うん?」
「いい」
「ホント?」
「それがいい」
「なら、良かった」
プランジは心の底から安心した。
そうして女の子ーーファイは、ネコを抱いて眠り込んだ。
「………」
プランジも、側に横になった。
ふと、ファイに抱かれたネコと目が合った。ネコは迷惑そうではあるものの、柔
らかそうな胸に抱かれ居心地は良さそうだった。そしてネコは、しばらくずっとプ
ランジの顔を見透かす様に眺めていた。
「……なんだよ」
小声でそっと呟くプランジ。
ネコはヤレヤレと言うようにヒトアクビしてから目を閉じた。プランジは少しム
ッと眉根を上げたが、いやいやコレは嫉妬かな、などと思い直して少し笑んだ。
それから、プランジは星空を見上げて考えた。
この子ーーファイは、今まで来た他の人とは違う気がする。いやいや、そもそも
同じ人なんていなかったのだがーーそれでも。こんなに安心出来て、同時にソワソ
ワワクワクする人はいなかった。
でも、そのファイもーーいつかは帰っちゃうんだよな。
プランジは少し寂しく思った。
「……」
横ではファイとネコの寝息が聴こえてくる。
ーー帰るまでは、一緒にいよう。
そう思って、プランジは目を閉じた。
「ああああああああ!」
夜更け、ただならぬ叫び声でプランジは飛び起きた。
「な、何?!」
「フーッッ」
叩き起こされたネコも毛を逆立たせていた。
見ると、ファイが悶えて絶叫していた。
「ファイ!どうした!?」
プランジは駆け寄ったが、振り払ったファイの手がキレイに鼻を直撃して踞った。
「イテテーー」
「あああああーーーーーーーー!」
突然、声が聞こえなくなった。
「?!」
見ると、ファイは気絶していた。
「ファ、ファイ?!」
プランジは駆け寄って抱き起こした。
ファイは、全く目を醒まさなかった。
「!!」
プランジはファイの心臓に耳を当てた。微かに鼓動が聴こえてきて、プランジは
フッと息を吐いた。何とか息はしているようだ。
プランジは焦って考えた。イエまで連れて行ってウィズに見せるべきだろう。だ
がーー。夕方から気がついていたが、周りの稲穂に埋れてミチは見えなくなってい
た。と言うか、今現在は例によって消えているのだろう。この状態で出てもイエに
着けるかどうか分からないのに、迂闊に動かしてもーー。
「ファイ……」
プランジは、ファイの上体をユックリと抱き起こして優しく抱き締めた。何時の
間にか涙が流れ落ちていた。
どうか、消えたりしないでくれーーー。
「ーーーーーーごほっっっ」
ファイが突然咳き込んだ。
「ファイ?!」
プランジは覗き込んだ。
「ーー?」
「ゴホッッーーあぁーー」
ファイは何度か咳き込んだ後、やがて落ち着いてプランジを見上げた。
ファイの頬には、プランジの涙が何粒か落ちていた。
「………」
ファイは力無く笑った。
「泣くなよ」
「ファイーー」
「男だろーーーでも」
「ん?」
「男に抱かれて自分の為に泣かれてるのって、思ったより悪く無いね」
ファイは、遠い目で呟く様に言った。
「ーー二度とやだ」
プランジは、ユックリと涙を吹いた。
「大丈夫?」
「大丈夫ーーと言っても、説得力無いよね」
ファイは、あまり焦点が合っていない様だった。
「でも大丈夫だよーーまだ」
「まだ?」
「んーー眠い……」
やがて、ファイは眠りについた。
その夜、プランジはずっとファイを抱いていた。
一度離したら、すぐに何処かに行ってしまいそうな気がしたからだ。
次の朝、ファイは目を覚ました。
プランジはヒザにファイを乗せて抱いたまま眠っていた。
「……」
ファイはそっと微笑んだ。
まだ身体のアチコチが痛んだ。
気がつくと、側にネコが来ていた。
「……?」
ネコは不思議そうな何かを見透かした様な顔をしてジッとファイを見つめていた。
「ゴメンね、ヒザ取っちゃって」
ファイは弱く笑いかけた。
ネコはフイとキビスを返してプランジの手の方に向かい額をゴンとやった。ゴハン、
とでも言うかの様に。
そしてプランジは目を覚ました。
「んあ…」
「………」
ファイは、下からその様子を見ていた。
「んーーファイ?」
「ーーオハヨ」
「あ…良かった、まだいた」
プランジは安心して笑った。
「いるよ」
「うん」
ファイは、立ち上がろうとしたがフラッとよろめいて、プランジに掴まった。
「大丈夫?」
「ダイジョブ」
プランジの力を借りて立ち上がったファイは、外を見渡せる遺跡の端に出た。
稲穂は朝日に揺れ、光を撒き散らしていた。
「………」
「気持ちいいね」
ファイの肩を抱いたプランジは、一抹の不安を抱いていた。
ーー何処か悪いのだろうか。
この間の老女の様に、また自分には助けられなかったりするのでは無いだろうか。
ファイは、プランジの肩に頭を乗せてジッとしていた。
「アタシね………」
ファイはそれを察したのか、オモムロに口を開いた。
「うん?」
「死んじゃうかも、ココで」
二日目の朝を迎えたウィズとリジーは、流石にプランジの心配をし始めた。
「反応はあるの?」
「あるような無いような」
「何よソレ」
普段のウィズであれば、ホシ全体はおろかこの星系全体の生命反応をスキャン出
来る筈だが、このホシの裏側辺りはいつもハッキリしない反応なのだった。一応ボ
ンヤリと一匹と二人(?)らしき反応が出てはいたが、『ヒュー』の隕石もしばらく
来てはいなかったので、誤作動か何かだと考えていた。
「久々に、行って見るか」
「そだね」
プランジ程ホシを何往復もしてはいない2人だった。
昨日からイエの周りは麦の稲穂が取り囲んでいる。ミチも見えなさそうだった。
「……」
イエに戻ろうとしたウィズは止まったままのリジーに気付いて声をかけた。
「どうした?」
「……いや」
リジーは、その稲穂の風景に少し心をざわつかせていた。
ーー前に何かのイメージで観た稲穂の中で、確か自分の子供に会った様なーー。
プランジとファイは、稲穂の中を走っていた。
ファイは取り合えず元気を取り戻した様だった。プランジも、思い切り走るのは
久しぶりだった。二人は稲穂を踏み潰さない様に気をつけながら、何処までも続く
稲穂の海を突っ切っていた。
ネコはそんな様子を遺跡から眺め、呆れた様に腹を見せてゴロリと横になった。
ひとしきり走った二人は、遺跡から少し離れた場所で見つけたミステリーサーク
ルの様な場所に横になった。
「さっきの話だけど」
「うん」
空にはクッキリとした雲が流れていた。
「アタシ、弱いのかもーー時々、感情がーー悪い方の感情が、爆発しそうになる」
「悪い方?」
「うん、恨みとか妬みとか、そういうの」
「そうなの?…見えないけど」
「多分ココに来たのも、前の世界がそれでアタシを追い出したんじゃないかなーー
とか思うんだーー覚えてないけど」
プランジは考え込んだ。
そんなこと、あるのだろうか。このホシなら、結構色々あって振り舞わされるこ
とはよくあるのだがーー他のホシでも、そうなのか?
だが、ウィズやリジーの話だったり映画だったりからすると、元の世界はそうい
うモノでは無いらしい。もっとちゃんとしていて、世界の意思とかは無い、それぞ
れがそれぞれで生きているーー。
ファイは続けた。
「生きにくいっていうのかなーー時々自分が、さっきみたいに全然コントロール出
来なくなる時がある」
「………」
時々は自分もだ、とプランジは言いたかったが、恐らくファイのそれと自分のは
かなり違っているのだろう。なので代わりに、黙ってプランジはファイの頭を撫で
た。
「フフ」
ファイはプランジの腕の上をゴロゴロ転がって来てプランジの肩口に頭を乗せた。
「もしも」
「ん」
「アタシが本当に訳分かんなくなったら、殺しても良いから」
「ーー!」
プランジは少し驚いて、ファイの方を観た。
ファイの顔はすぐ近くにあって、その瞳は優しかった。
「ーーやだな……」
プランジは困った顔をしてみせた。勿論、本心でそう思っていたのだが。
「ありがとーーでも、お願い」
そう言ってファイはまた空を見上げた。
「………」
プランジはそんな意思的な瞳を見つめ、そしてまた空に目をやった。
抜ける様な青空が二人を包んでいた。
「………ハァ?」
「やるな」
半日かけて稲穂の海を突っ切って来たウィズとリジーは、遺跡の側のミステリー
サークルの中で女性に腕枕をしているプランジを見つけて呆れた。
「心配してソンした」
「帰るか」
「ねぇ」
その時、お腹をすかせてネコがやってきた。
「ニャアァァ」
「あぁ、アンタも放っとかれたんだ。可哀想に~」
リジーが荷物からカリカリを出してやると、ネコは嬉しそうにガッついた。
「んぁ~?」
ようやくプランジたちが起き出した様だった。
「!?」
ファイは目を覚まして知らない大人が二人見下ろしているのに気付き、ハッとプ
ランジに身を寄せた。
「おーおー」
「よろしくやってんね」
「あ、ウィズ。リジーも」
プランジはまだ眠そうに目を擦りながら言った。
「大丈夫。話したウィズとリジーだよ」
説明すると、ファイは少し恥ずかしそうに頭をペコリとやった。
「……」
ウィズとリジーは顔を見合わせた。
遺跡に戻って、その日は野営することになった。
リジーの缶詰系メニューはプランジが作るよりは遥かに豪華だった。
「おいしいー!」
「でしょでしょ?」
リジーとファイは意外と話が合う様だった。
ネコは一人、距離を置いて丸くなっていた。
「で、彼女は?」
女たちが話をしている間にウィズとプランジは持って来た小瓶のバーボンを軽く
空けていた。
「は、って?」
「何者だよ」
「さぁ、またホシに来た人、なんだと思う」
「しばらく流星は来なかったがな」
「んー、まぁ今までもソユコトあったし」
「でも、お前……名前、付けたんだよな」
「うん」
「ってことは……帰らなかったりするコトもあるのかな」
「え?!」
プランジは思ってもみなかったその仮説に、目を丸くした。
ウィズは呆れた様に観る。
「……お前……」
「え」
「そんなに嬉しそうな顔もするんだな」
「”あ」
プランジは、少し照れてうつむいた。
「まぁ、いいさ」
ウィズは呟く様に言った。
「もし帰った時は、少し寂しいがな」
「……うん」
プランジは分かっている、と言う風にユックリと頷いた。
「まぁ、元気になって良かったよ」
ファイが寄って来て、女たちもバーボンに手をつけ始めた。
「え、プランジ元気無かったの?」
「そりゃもう。落ち込んじゃって落ち込んじゃって」
「もう、ソレはいいでしょ」
プランジは少しくすぐったい様な、恥ずかしい様な、フシギな気分だった。
今まで、そんな感じになった事は無かったと思う。
ウィズとリジーも、プランジの兄弟か両親にでもなったかの様な気分だった。そ
して、その相手がプランジに害を与えたりしないかーーそんな事まで考えたりて、
その感じに自分で驚いたりもした。
ただ一点、プランジからこっそりと聞いたファイの夜の叫びの事だけは気になっ
ていた。一見明るいが、それは時に負の方に爆発するときの裏返しーーみたいな不
安定感は、確かに何処かにあった。
今回のこの子ーーファイは、何の為にホシに来たのだろうか。
そして、今回このホシは一体ーー?
次の日、一同はイエを目指す事にした。
ウィズやリジーが特に問題無くイエから遺跡にたどり着けたので、大丈夫だろう
という判断だった。外は相変わらず麦の稲穂が広がっていた。
「コレ、実は刈った方が良かったりする?」
「あぁ、いいパンが出来るかもだな」
「わぁ、食べたい」
「とりあえず、イエが先」
「え~~」
などと言いながら、一同は稲穂の海を進んでいた。
イエに着く頃には、プランジは大量の稲穂の山を抱えていた。
「パンーー!」
ドサリと稲穂の山を置くと、ファイとプランジは無邪気にハシャいで脱穀系の器
械を探そうと無限の部屋へと向かった。
「……」
その様子を、ウィズとリジーは眩しそうに見つめていた。
ネコもヤレヤレと言った感じでリビングの定位置へと戻って行った。
結局その日は何も見つからず、晩ゴハンを済ませたファイとプランジは3階のバ
ルコニー外で絵を描いていた。
その様子を、ウィズとリジーは入り口で見ていた。
「どう思う、あれ」
「若者っぽくていいんじゃないか」
「…アンタもそんな歳でもないでしょ」
「リジーもな」
アラ、と言った感じで見るリジー。
「まぁ俺は興味ないが」
とキビスを返すウィズ。
そう、自分は随分と前に、そういう感情は置いて来てしまったなーー。
「パン、残念だったね」
「うん、また明日だね」
絵を描きながら、プランジとファイは語り合っていた。
「何かこんなにユックリしたの久しぶり」
「そなの?」
「何だか、前は何かと追いつめられてる気がしてた、と思う」
「そうなんだ…」
「ココは優しいね」
フッとファイは笑った。
「こんなに楽でいいのかなって感じ」
夜空には月が上がっていて、二人を優しく照らし出していた。
「プランジはーーそういうコト、無い?」
「うーん……」
プランジは考えた。
自分はーーもっと、楽をしてきたのかも知れない。このホシでサバイバルはして
いたけど、そういう状況や人間関係なんて。ウィズやリジーとの関係は、そういう
のとは違うしな…。
いつの間にか、ネコが来て離れた所でハコを組んでいた。
「ファイの方が、頑張ってると思う」
「そう?」
「だから、こんな絵も描けるんじゃないかな」
プランジはファイの絵を指し示した。
今回は筆と絵の具で色を付けていたが、やはりファイの絵は格別だった。ダイナ
ミックで、月明かりを受けた稲穂が海の様に鮮やかに描き出されていた。少し嫉妬
を感じる位だった。
「俺も、そんな風に描ける様になりたい」
「プランジは、今のままでいいよ」
「……そう?」
「上達してくから、って言うかしてるから。いい感じで」
「だといいな」
「ダイジョブダイジョブ」
そうしてファイはまた絵に戻った。
「……」
プランジは、笑んで、また自分の絵に戻った。
独りで描いている時とは違う、何かが溢れて来る様な感覚があった。
そうかーー明日は彫刻も試してみよう。今なら、あの固まりから色々出て来そう
だ。
プランジがそんなコトを考えている間に、ファイが筆を置いたカタリという音が
した気がした。
「ーー!」
プランジは、何かの気配を感じ取っていた。ゾワッとする様なヘンな感じ。
これはーー?
ネコがピクリと目を開けてニャンと泣いた。
プランジがふと見るとーーファイが倒れていた。
「!?ファイ?」
絵を放り出してファイを抱き起こすとーー呼吸が止まっていた。
「ファイ!!」
叫び声を聞いて、ウィズとリジーがやってきた。
「どうした!」
「ファイがーーまた!息してない!」
「見せろ!」
ウィズはプランジを退かせてファイを診た。確かに呼吸も心臓も止まっているが
ーー特に外傷も内部の損傷も見受けられなかった。プランジから聞いた、ただ気を
失っているのとは違った。
ウィズは手早く人工呼吸をして、それから心臓マッサージを行った。リジーも手
伝った。
「ファイ……」
プランジは、ファイの手を握っていた。
「大丈夫なの?」
「分からん」
ネコも、側にかがんで様子を見ていた。
リジーがファイに口を付け、息を吹き込む。反応は無い。
プランジは、また誰かがいなくなるーーそれもファイがーーという思いに、身体
を震わせていた。
またかーーまたなのかーー??
その時、大音響がして、外の稲穂の海に黄色い光の柱が降り立った。
「!!」
「え?!」
「あれはーー?」
それは、今まで何度か見た、黄色い光。
おそらく、『ヒュー』とは違う、別の存在。
そして『ファントム』とも違う何かーー
「!」
そこでプランジは思い出した。
…『ファントム』?!
そう言えばさっきの気配は、微かに『ファントム』だった様にもーー?
「クッ!!」
プランジは、走り出した。
「プランジ!」
プランジは3階から飛び降りて壁を蹴り、稲穂の中を猛スピードで黄色い柱へと
向かった。
あの光!
今日こそ、触れてやるー!
それは、色々なものがナイマゼになった感情だった。
『ファントム』。それはこのホシに現れる、モヤモヤした謎の存在。先ほど感じ
た気配がヤツなら、おそらくファイに何か悪影響を与えているのだろう。
いや、これまでも色んなコトに悪しき影響をーー
でも、今はいい。
今はあの黄色い光をーーそれが何なのかを、突き止めてやる!
「!!!!!」
プランジは、声にならない声を上げていた。
だが、全力で走るその先で、黄色い光はドンドン弱くなっていき、そして消えた。
「ーー!」
プランジは、足を取られて激しく転がった。
「ぐっ!!」
それでもバッと起き上がったが、既にその光は全く見えなくなっていた。
「………」
プランジは痛みをこらえつつ、ビッコを引きながら進んでいき、そして立ち止ま
った。
「これはーー?」
おそらくあの光が降り立った辺りだろう。
そこに、巨大なミステリーサークルが出来ていた。
「ーー!」
プランジはゾワッとした。これは、一体何だーー?
「プランジ!ファイが!」
リジーの声にプランジはハッと振り向いた。
「鼓動が戻った!」
「!!」
プランジは走り出そうとしてフト踏みとどまり、目の前のミステリーサークルに
目をやった。
プランジは思った。
どっちなのだーーあの黄色い光は、テキなのか味方なのかーー?
「プランジ!」
プランジは後ろ髪を引かれつつ、その場を後にした。
ーーファイは、よく覚えては居ない様だった。
ただ、怖いものが追って来たーー的なコトは口にしたが、一同はよく分からなか
った。
プランジは、『ファントム』が何かをして、ソレをあの黄色い光が撃退したのだ、
と思ってはいたが、それは何の確証も無い。何も分からない、何も出来ないーー歯
がゆさがあった。
一応ウィズが異常がないか診てから、その日はファイはプランジの白い部屋で寝
かせることになった。
「………」
プランジの腕枕の中で、ようやく安心した様に眠りについたファイ。
プランジは、しばらく寝付けなかった。
遺跡の時も、実は気付かないうちに『ファントム』が忍び寄っていたのだろうか。
そして、ファイが目を覚ました時には、黄色い光も降りていたのだろうか。
自分は、何も気付かなかったというのか?
このホシは、自分の世界なのにーー。
翌朝、プランジが目を覚ますと腕の中にファイが居なかった。
「!?」
驚いて辺りを見回すとーーベッドから離れた壁に寄りかかって、ファイは絵を描
いていた。
と言うより描きなぐっていた。
「……?」
プランジがユックリと起き出して近づいて行くとーー床には、それまでに描いた
であろう絵が散らばっていた。
驚いたことにその絵は、描かれているのはキレイな風景なのに昨日までとは違う、
ドス黒くて怨念に満ちた様な悲壮感のある絵になっていた。
いつの間にかやってきたネコも、目を丸くしてその絵を眺めていた。
「これはーー」
「どうしよう」
ファイは半泣きになっていた。
「どうしたの」
「こんな絵しか描けなくなった」
朝食の席でも、ファイは元気が無かった。
「まぁ、調子の悪い時はあるんじゃない?」
「………」
リジーたちの励ましも、あまり届いていない様だった。
朝食後、プランジはファイを彫刻に誘ってみた。
ノミの使い方など一通り教えたが、ファイは何処か上の空で、気分は晴れなさそ
うだった。
外は相変わらず一面の稲穂が風になびいていた。
「ハイハイ、そういう時は一度離れてみる」
リジーは、ファイを連れて洗濯に出かけた。
「ーーー」
プランジは付いて行こうとしたが、ウィズがソッと止めた。
「女同士で話させとけ」
「あ……」
プランジは後ろ髪を引かれる様に二人を見送った。
初めて永遠のコインランドリー…洗濯機が無限に続いたフロアを見て、ファイは
少し驚いた。
「無限の部屋みたい」
「でしょ?」
一応プランジに習って、最近ではリジーも洗濯機を順に使うことにしていた。
入り口からそこそこ中に入った場所にあるマシンに洗濯物を入れ、スイッチを押
す。
ブーーーーーーン。
静かな作動音が辺りに響いた。
「何でも、このホシで出来るんだね」
「まぁ……足りないことは色々あるけど」
そうして、ファイは少し黙った。そして呟く様に言った。
「……アタシも、足りないことだらけだと思う」
「……」
リジーは、ファイの側の乾燥機に腰掛けた。
ふと見ると、その側にネコが既に丸くなっていた。
「これは、バチなのかなーー」
ファイが呟く様に言った。
「何か、ーーしたの?」
ファイは、首を振った。
「分からないのーーでも、アタシは時々、ドスグロイ気分でどうしようも無くなる
からーー」
ファイは俯いた。
「…ヨシヨシ」
リジーはその頭を撫でた。ファイは少し笑った。
「……こうされたの、スゴイ久しぶりかも」
「そう?」
「あ、昨日プランジにされたのは別でね」
「へぇぇ」
そしてしばらく、ファイは大人しくなった。
「…昨日のアレさ……」
「ん?」
やがてファイは顔を上げて聞いた。
「よく、来るの?」
「ん~と、それは光の柱の方?それとも『ファントム』?」
「…どっちなのかなーー」
「ソレが、何か?」
「あの時は、ゾワッとして、それからフワッとしてーー多分、ソレに追われてるん
だ、アタシ」
「そう…それはーー感覚で?」
「え」
「感覚で分かるから、ってプランジがよく言ってる」
「はは」
二人は、少し笑い合った。
ネコが、ふと顔を上げた。
二人も何となく入り口の方へ顔を向けた。
プランジが、そっと覗いていた。
「あっと……だ、大丈夫?」
「何がよ」
「大丈夫、何もされてないよ」
「あん?」
「あ、いや、ソユ意味じゃなくてさ」
「はは」
プランジのヘンに気にしている感じが面白くて、ファイは笑った。
「大丈夫だったか」
3階のスペースに戻って洗濯物を干していたリジーにそっとウィズが近づいて来
て言った。
「あんたも?」
「え」
「プランジもコソッと覗いて来て言ってた」
「へぇ……」
尚も聞きたそうにしてるウィズを少し放っておいてからリジーは言った。
「大丈夫、とは言い切れないけどーー」
「けど?」
「とりあえずは大丈夫かな」
「そうか」
「ただーー」
リジーはバルコニーに出て行くプランジとファイに聴こえない様に気をつけて言
った。
「追われてる、ってのはやっぱり言ってた。ーー『ファントム』なのか、あの光の
柱かは分からないけど」
ウィズはバルコニーの二人を眺めた。
「確かに、その辺は気になるよな……」
ウィズは、その朝から稲穂をーー特に新しく出来たミステリーサークル近辺を調
べて回っていた。だが何かのエネルギーで出来たとしか分からず、その倒れた稲穂
も特に以上は無かった。
その日、彫刻は少しだけ進んだ。
ゴツゴツした固まりに二人で手を入れたが、まだ何が出て来るかは分からなかっ
た。
ファイは相変わらず元気は無かったが、時々目をやるプランジに笑顔は作ろうと
していた。
そんなファイの顔を見て、やっぱり強いのだな、とプランジは思った。
自分には描けない、あんな絵を描く人間。今は一時的に描けなくなっているとし
ても。
そして、ーーやっぱり自分よりもリジーやウィズたちの方が人間が出来ているの
だなーーというコトも感じていた。
「………」
プランジは、ファイを見て考えた。
ーーファイに、自分は何をして上げられるだろうーー自分の無力さに、歯がゆさ
を感じるプランジだった。
夜、プランジとファイは外に出ていた。
相変わらず稲穂は地平線まで続いていた。
「風、気持ちいいね」
ファイはリジーのロングのワンピースに着替えていた。少し大き目ではあったが、
風に揺れるスカートと髪に、プランジは少し見とれた。
「……ヘン?」
「い、いやーー、凄く似合ってる」
「そう?アタシこういうの着たことがなくてさ」
「……」
プランジは、そっと近づいてファイをハグした。
ファイはされるままになっていた。
「こうされてると、気持ちいい」
「……ゴメンね、何も出来なくて」
ファイもプランジの腰に手を回した。
「ううん……大丈夫」
本当に、そうだろうかーー。
プランジは少し不安になって、より強くファイを抱きしめた。
「痛いよ」
「あー…、ゴメン」
プランジは力を抜いて、ファイと顔を合わせた。
「このまま、死んじゃうのかなーー」
「そんなコトは、させない」
プランジは真剣に言った。
「絶対に」
ウィズとリジーは、バルコニーからそんな様子を見ていた。
「青春だね」
「押し倒したりするかな」
「え~」
そんなことを話しながら、二人は笑んでいた。
ネコも、窓際に座って眠そうに目を細めていた。
ーーそして、ピクリと上空に目をやった。
「!!」
プランジはザッとファイを後ろにして構えた。
「何?!」
少し怯えるファイ。
プランジは油断無く辺りを見回した。
何かの、気配がーー。
これはーーまた、『ファントム』なのか?!
だが、何かが微妙に違う気がした。
何だーー?
プランジは焦った。
そう言えば昨日感じたのも、いつものハッキリとした『ファントム』の感覚では
無かった。
今回は、何かが違うーー?
「!!」
その時ウィズも、他の何かに反応していた。
それは、上空ーー突然ホシの軌道上に現れた、今まで無かった反応ーーフネーー
それも艦隊だ!
「オイオイ」
「どうした?」
「フネだ」
「えぇ!?」
「あぁ……!」
ファイは、身体の中から込み上げて来る何かと、必死に戦っている様だった。
「ファイ!」
プランジは辺りを警戒しながら、それでもファイを気遣っていた。
「ああうっ!」
ファイはガクと膝を付き、ガタガタと震え出した。
「来たーーアレがーー」
「アレ?!何?」
プランジは、ファイが何を言っているのかは分からなかった。
だが、じっとしてはいられなかった。プランジはファイを抱き上げて、イエへと
走り出した。
ドンッッ!!
その時、黄色の光の柱が、降り立った。
それはちょうどプランジとイエの中間辺りだった。
「!!」
プランジは驚いて足を止め、空を見上げた。
「これはー!!」
ウィズも、同時に違う何かを見ていた。
「何?何なの?」
焦るリジー。
ウィズはずっと上空を見ていた。その先で起きていたのはーーー
撃っていた。
あの黄色い光はーーその艦隊の旗艦らしきモノが、撃っていた。
そうして艦隊から次々に放たれたその光は、最初の一本に続いて地表のアチコチ
に降り立っていた。
「あぁ……!」
その光景に、一同は震えた。
ウィズも、リジーも、プランジも、目撃した。
地表と黄色い光の柱が接する所で、緩やかにミステリーサークルが出来ていた。
「!!」
ウィズは思った。
何だーーあの光は。ビームやレーザーではないーー別の何か。そして、何の認識
信号も出さない、影の様に見えるあの艦隊。
何だーー何が起こっているのだ?
そしてーーアレを、自分は何処かで見たことが無かったか??
そして、ホシが揺れ始めた。
「あああああああ!」
ファイが絶叫していた。
いつの間にか、プランジたちは光の柱に取り囲まれている感じになっていた。
星の揺れはどんどん強くなっている。
何だ、これはーーまるでこのホシ自体が、無くなりでもするというのか?
プランジは膝を付き、ファイを抱えたまま恐怖した。
「……!!」
がーープランジは、激しい揺れの中、ゆっくりと立ち上がった。
「ファイ……」
この子だけは、助けなくちゃ。
今まで色んな人が来て、結局大して何も出来ずーー助けられなかった人もいる。
でも、この子だけはーーー。
「プランジ!」
「ファイ!」
遠くで、ウィズやリジーの声がする。
ファイが、苦しげに目を開いた。
「プランジ……」
「ファイ……」
「下ろして……」
プランジは、ユックリとファイを下ろした。
まだ揺れは続いている。
プランジはファイの腰を抱いて、倒れない様に支えていた。
ファイは少し辛そうにしていたが、まっすぐプランジを見ていた。
「お願いーー」
「ダメだ。いかせない」
「プランジーー」
プランジは、何故かもう恐怖は感じなかった。
「ファイーーキスして、いい?」
何故そう言ったのかは分からなかった。ただ、今はーー。
「え……うんーー?」
ファイは辛そうだったが、笑顔を作った。
やがて、二人はギコチなく顔を近づけてーーファイは、少し笑った。
「キスの仕方、忘れちゃった」
確かにーーとプランジも思った。
「多分、こうーー」
そして、お互いの唇が近づき、触れた。
それは、二人とも久しぶりの、何かが始まるキスだった。
「ーー?!」
ウィズも、リジーとネコも、目撃した。
プランジとファイの身体はそのまま緑色の光を放ちーーーそして、『飛んだ』。




