11「Hospital」
今回ホシは土砂降りで、イエの窓や入り口が塞がって一同が閉じ込められる話です。
プランジはケガをして、他の二人も具合が悪くなって廃墟の病院に迷い込む感じ。
さて、そこには…
その日20歳位の青年プランジは、ホシにある無限に高い塔:イエの3階にある
バルコニーで彫刻をしていた。ここ数日没頭して創っているそれは、いつもの通り
まだ何が生まれるのか分かってはいなかった。
考えてみると、こうやって彫刻に没頭するのは久しぶりだった。
…何だか、ここ最近色んなことがあり過ぎたのかも。
その日は素晴らしく晴れた青空で、プランジは汗をかきながらノミを振るってい
た。
ネコも気持ち良さそうに側で丸くなっていた。
20代後半の男:ウィズはイエの1階のガレージで、壊れた車の修理をしていた。
それはいつぞやこのホシにやってきた古い2台の旧アメリカ車のレプリカで、前
部が衝突した様に壊れていたものを、ウィズは長い時間かけて修復していた。
外観はそれなりに戻ったものの、内部は足りないパーツだらけだった。最終的に
は一台は観賞用にして、片方だけパーツをヤリクリして仕上げるしかないかーーな
どとウィズは考えていた。
30代後半の女性:リジーは、無限の部屋で見つけた革ジャンを着て、いつもの
様にイエの外の土を試験管に詰めに出てきていた。
見渡す限り広がる肥沃な土地ーー耕せば、何でも育ちそうだ。
自分でも忘れていたが、実は地質学者としてフネに乗っていたこともあったっけ。
もはや遠い過去のコトの様な気がする。
…でもまぁ、何か植えたとしても繁るまでココがそのままである筈が無いか。明
日にはまた姿を変えているかもしれないのだ。
リジーはさっさと土を試験管に入れてコルクで栓をすると、立ち上がって戻ろう
と振り向きかけた。
カチッ。
足に何かが触れた。
観ると、土の中に金属片らしきものが見えていた。
「……?」
リジーがしゃがんで取り出すと、それはいつか無くした筈のリボルバーだった。
「……へぇ!」
リジーは土を払って、シリンダーを開けてみた。
かつて自分で買った、特殊弾6発。
間違い無い。自分のモノだった。
「どうして…?」
リジーは考え込んだ。
あれは、いつのことだったか。このホシに桜が舞っていた時か。
あの時の赤ん坊に夢中になって取り落としたっきり、いくら探しても見つからな
かったっけ。
「………」
リジーは辺りを見渡してみる。
それが今、何故ここからーー?
確かにフシギではあったが、このホシではよくこういうことが起こった。
ココは、そういうホシだった。
「コレ見つかったよ」
ディナー…と言っても缶ヅメに軽く手を加えただけの席で、早速リジーは一同に
告げていた。
「ほぉ」
「大丈夫なの、ソレ」
「え、だってホントそのままだよ」
「貸してみな」
ウィズはリボルバーを片手に取って軽くスキャンしてみた。
「まぁ…大丈夫そうだが」
「でしょ?」
「弾とか大丈夫なの?腐ったりしてない?」
「ちょっと」
「一応、問題は無さそうかな」
ウィズはリボルバーをリジーの方に置いて缶ヅメの残りをかきこんだ。
ネコは既に自分の分は済ませて腹を見せて寝転んでいた。
「何で土の中なんだろうね」
「さぁ?」
「多分、…ホシが返してくれたんだよ」
「え~」
「ポエマーかよ」
「え、そうかな」
言いながらプランジはチタンのコップを傾ける。
どうと言うことは無い、普段の食事風景だった。
先に食事を終えたウィズは立ち上がった。
「ソレ、今晩にでもオーバーホールしとく」
「…ありがと」
リジーは、何となく普通っていいな、などと感じていた。
クジラの騒動から数ヶ月。
あの時の黄色い光が何なのかは未だ分かっていない。
緑色の『ヒュー』の光も、アレ以来観ていなかった。
ホシも特にドラスティックな変化が訪れるでも無く、一同はユッタリとした時間
を過ごしていた。
その日までは。
次の日、一同が起きると、イエのドアや窓が開かなかった。
「ん?」
外は昨日と同じく、素晴らしく澄んだ空と肥沃な大地が広がっていたのだが。
「ドユコト?」
「さぁな」
散々パネルをイジッたり押したり引いたりして見たが、各箇所のドアや窓はビク
ともしなかった。ウィズは窓や壁くらいは破壊できたが、サスガにそこまでする状
況でも無かったので放っておくコトにした。
「プランジ、お前何かした?」
「え、いや多分特に」
「怪しいなソレ」
「せっかく洗濯日和なのにね~」
ネコは特に慌てるコトも無く、窓際でノビなどしていた。時折こちらに目をやっ
たりもしながら。
「まぁ…ともかく」
「ブランチかな」
「そだね」
その辺りは既にだいぶこのホシに慣れてきている一同だった。
食事後、プランジは無限の部屋に来ていた。
いつもの様に物資調達の為だったが、プランジはあることを思い出していた。
いつぞや、とある窓の脇の壁を力任せにブチ抜いたことがあったのだ。あれは『
ヒュー』…あの緑色の光を伴った隕石が落ちて来た時だっけ。
「……」
プランジは窓辺に立った。
この辺だった筈。
と言っても、無限の部屋は来る度に変化していて、前と同じ部屋に同じモノがあ
るとは限らないのだが。…ともかく、この辺り。
「よし」
ガラクタが積み上がったその部屋の窓際の壁で、プランジは身構えた。
「フンッッッ」
リジーはとりあえず洗濯をして日当りの良い3階の部屋に干していた。
まぁ外ではないが日当りは十分だし、ここでもいっか。
室内とは言え、リビングはかなり広い運動場くらいはあった。
「……よしっと」
干し終えた洗濯物を眺めてリジーは満足そうに腰に手をやった。
側にいたネコがフト目を開けた。
「リ……リジー」
「ん?」
少しカスれた声に向くと、プランジが手首を押さえビッコを引きながら戸口に来
ていた。
「……あぁん?」
「バッカじゃないの」
リジーは何とかプランジをリビングスペースに移動させていつもの四角いベンチ
に寝かせ、鎮痛用のガムを噛ませた。
プランジは右手首を骨折していて、右足も捻っていた。
「いや、前は抜けた壁だったんだけど」
どうやら全く壊せなくて、少々ムチャをしたらしい。
側にいたネコが、呆れたようにアクビをした。
ウィズがソコへ頭を押さえながら入って来た。
「リジー……忘れてたコレ」
と言ってオーバーホール済みのリボルバーを渡して、プランジの側に横になった。
「あ、ありがと…どうした?」
「何か、調子悪い」
「珍しいねーー」
「って言うか、プランジお前どうした」
「壁を抜こうとして折ったんだってさ」
「あぁ?」
ウィズは頭を押さえたまま起き上がってプランジの身体をスキャンしてみる。
右手首は確かに折れていて、膝と左足首に捻挫が見られた。
「ムチャすんなよ」
「だってーー」
ウィズはオモムロにプランジの手首を取って力を入れた。
「うああああ!」
流石にこの痛みには鎮痛ガムは効かないらしかった。
「ズレは直した。リジー、何か棒と縛るモノある?」
「ほいほい」
「痛い……」
結局、絵画用のイーゼルの足を添え木にして、プランジの右手は包帯ーーと言う
か布切れでグルグル巻きになった。
膝と足首は同じくテーピングしただけでしばらく安静にして治すことになった。
たまに見つかる消炎スプレーは、数週間前に無くなってしばらく経っていた。
「で、ウィズは?」
「ん?」
「症状」
「そうだなーー何となく」
「何それ」
ウィズは横になってそっと目を閉じた。
…ウィズには分かっていた。
全身の機器の調整がズレている。機器の部分と生態的な部分のバランスが崩れつ
つある。その間を媒介しているナノマシンが、何か誤作動を起こしているのか。
今までこんなことは無かった。
とは言え、このホシに来てから色々あったしな。
こないだなんかアレだけの水圧にも耐えたし。
って言うか、いつぞやのリジーの見解によると、自分も何度か生まれ変わったの
かも知れないし。その辺でズレが蓄積して、とかーー?
ウィズは、少々恐怖を覚えていた。
流石にこのホシではメンテ的なことまでは出来ないだろう。
さて、どうするかーー。
それはこの身体になる前……ひ弱だった頃の記憶の名残とリンクしたものだった。
自分の身体が、自分の思い通りにならないーー。
その日の晩、事態は更に悪化した。
それはウィズが夜中にふと起き出してトイレに向かった帰りだった。
とある廊下でウィズはプランジの骨折のことを思い出して、何となく壁を抜こう
かと右手の掌を押し当ててみた。いつもの振動波を使ってみようとしたのだ。
がーー何も反応しなかった。
身体の調子が悪いとは言え、そこまでだったのかとウィズは少々驚いた。
フラッとよろめいて壁にもたれかかり、右手を見つめてしばらく佇んだ。
この身体は、もう自分の意思とは関係なくなっていてーー?
次の日、外は相変わらず晴れていた。
が、それはやがて沸き上がった黒雲に覆い隠され、叩き付ける様な雨に変わった。
イエからはずっと出られないままだった。
一同は特にすることも無く、外の天気の移り変わりを眺めていた。
「出られない中でこうやって眺めてると、フシギだね」
「結局ーー、ドアも窓も動かないんだよね?」
リジーは後ろのベンチのウィズを振り返った。
「あぁ」
ウィズは前屈みな感じで腰掛けていた。
故障した振動波や身体のコトは既に二人に話している。
ダルい身体を引きずって朝からアチコチのドアを点検してみたが、外への出入り
口は昨日よりもより強固にシールされている感じだった。
今回、このホシは一体何をしようとしているのかーー。
ネコが寝ながらビクッと左手を振るわせた。
「……」
そんな様子を、ウィズは何となく見つめていた。
「まぁ、水と缶詰が有るウチは大丈夫だけどね」
リジーは努めて明るく振る舞った 。
実際、先日大量の水タンクを無限の部屋で見つけていて、たとえ今無限の部屋自
体が無くなっても、しばらくは持ちそうな感じなのだった。
「でも洗濯が出来ないと困るけどね~」
そうそう、そもそもあの永遠のコインランドリー自体が無くなったら、確かに洗
濯ドコロの話ではない。
「大丈夫だよ、多分」
降りしきる雨を観ながらプランジがボソッと言った。
「多分、ね……」
明るく振る舞いながらも、リジーも漠然とした不安に包まれていた。
プランジはケガで力仕事は出来ないし、結構何でも出来たウィズも調子が悪そう
だ。
今更ながら、自分は何処か守られていたというかーー精神的には一人にならずに
済んでいたのだな、とリジーは思った。
ーーココはチト、自分が頑張らなきゃね。
何となく、感覚でそう思っていた。
午後になって、イエに大音響が響いた。
「な 、何だ!?」
微かにイエが揺れていた。
構造体の何かが動くようなクグモった音。
「地震?」
「ーー痛てて」
寝ていたウィズはバッと…ではなく頭を抑えながらユルリと身体を起こす。
ネコは側でシッポを膨らませ、黒目を広げていた。
「プランジ?」
プランジは既に動いていたが、やはり捻挫があっていつもの様に素早くはない。
「何だろ……こんなこと無かった」
「窓だ!」
ウィズの声に向くと、窓が塞がりつつあった。
「!?」
それは、窓の外側だった。別にシャッターの戸袋等があった訳ではない。シャッ
ターと言うよりは、窓の外の壁面の壁が溶けてでもいるかの様に下に降りて来てい
る感じだった。
「オイオイ」
照明が落ちた。
隅の非常灯ーーこないだ無限の部屋から見つけて来ていたーーだけが点いていた。
…しばらくして揺れはおさまった。
プランジとウィズは薄暗い空間の中、立ち尽くしていた。
「何だーーこりゃ」
ウィズはまず、窓に寄って窓周りを調べた。
いつも窓はパネルを操作して開けている。開けると言うよりはガラス自体が消え
てなくなるのだがーー今はガラスの外側に、外壁と融合した一枚板がある感じだっ
た。勿論相変わらず開閉は効かない。
「……?」
ウィズはしばし考え込んだ。
壁にするなら、同じ様にガラス自体を壁にすれば良い様なモノだが…何故?やは
りこのイエは、フネーー宇宙船なのか?ならばこういう装備もあるいは有るのかも
ーーだが、こんな技術が実用化されていたなんて聞いたことが無いがーー。
ウィズは色々考えを巡らせたが、 すぐに考えるのを止めた。このホシで変化の理
由など考えていても仕方が無い。
「ウィズーー」
プランジがネコを抱えてビッコを引きながら近づいてきた。
「何だ」
「……リジーは?」
「……ん?」
リジーは、ランドリースペースでビショ濡れになっていた。
「マジ……?」
昨日も洗濯はしたが、昼のことがあったので何となく洗濯を始めていたのだった。
無限に続くランドリーマシンの一つの前に居たが、突然揺れが襲い、照明が落ち
た。
普段はミストで洗うタイプのマシンだが、その側のパイプが割れてリジーは軽い
シャワーを被った。
「洗濯モノがーー」
まだ全然洗剤と共に回している最中だった。マシンはもうウンともスンとも言わ
ない。
「ハァ……」
止めとけば良かったか。
リジーはため息をついて立ち上がった。
まぁ皮ジャンを着て無くて良かった。あれを着ていたら水で台無しにーーと思っ
た時だった。
「……あん?」
何気なく振り返ったリジーは目を見張った。
いつもの様に何となく、端から10個目位のマシンを使っていた筈なのだがーー
後ろにあった壁と入り口が無かった。
そこは、前後とも無限に続くマシンの列の真ん中だった。
リジーはアッケに取られて、しばし目をパチクリさせていた。
暗くなったイエの中を、ウィズとプランジとネコは歩いていた。
二人ともやはり足取りが重く、トモすれば側を歩いているネコが追い抜く位だっ
た。
「ウィズ、大丈夫?」
「何とかな……」
実際、ウィズはかなり頭痛がしていたが仕方が無かった。
全身の機器ももはや全く役に立たなかった。
いつもなら気にならない、今は杖代わりのライフルの重さがやけに気になった。
ーープランジが元気なら背負わせるのに。などとウィズは後ろでビッコを引いて
いるプランジを見やった。
「……何?」
「いや」
二人はまず1階を確認していた。
ガレージには車のパーツが転がっているだけだった。
ジャッキが外れて落ちていて、まさか下敷きに…?などと思って覗いてみたが、
誰もいなかった。
そして一同が3人の部屋の辺りに行ってみるとーー
「ん」
「何か…違う?」
廊下辺りの間取りは一緒に見えた。
だが、何かがーー?
やがて、プランジが気付いた。
「……色だ」
最初は暗くてよく分からなかったが、全体の色自体が暗く落ちていた。
元はプランジの部屋は白、ウィズの部屋は青、リジーの部屋は赤だったがーー今
はそれぞれドス黒い何かの色に見えていた。
だが、よく見るとそれぞれの部屋は微妙に違っている様だった。
「マジかよ……」
自分の部屋に入ったウィズは、枕の下に入れておいた予備弾を確認した。間違い
無くあった。
部屋の色以外は全て元のままだった 。
「……」
弾を懐に入れ、ウィズは自分の部屋を後にした。
ひょっとしたらもう、戻れないかもーー何処かで、そう思っていた。
プランジは部屋に自分の物をほとんど置かない方だった。
ベッドとイス以外特に無い広い部屋で、しばしプランジは立ちずさんでいた。
「……うわぁ……」
色以外は特に何も変化は無い様だ。
いつもは白い部屋が、こんなにドス黒く変色していると気味が悪かった。
ちゃんとベッドの下も確認してから、プランジは部屋を出た。
ネコも目を丸くしながらもちゃんと付いて来ていた。
だがーー天井の薄暗い空間の一角が、一瞬モヤッと歪んだのは気がつかなかった。
「……プランジ?」
廊下に出たウィズは、スグに異変に気付いた。
ソコは、先ほど見た色だけドス黒い廊下では無かった。
「?!」
ウィズは振り返ってみる。
さっきまで居たドス黒い自分の部屋はソコにあった。
だが一歩外に出ると、またしても風景は一変していた。 薄暗い廊下にシンプル
な壁。弱く青白い照明。まるでどこかの政庁とか病院の様なーー?
だが、そこは廃棄されてしばらく経っている感じの風景だった。
そして、廊下沿いにあったハズのプランジとリジーの部屋は、無くなっていた。
「……ヤレヤレだな……」
ウィズは、ライフルを突きながらユックリと廊下を進んで行った。
「あれ?」
プランジも、部屋の外に出てビックリした。
ソコには、廃墟となった病院風の廊下が姿を見せていた。
ネコもフシギそうに辺りを窺っている。
「えっと……ウィズ?」
辺りを見回したが、ウィズの部屋もリジーの部屋も姿を消していた。
後ろの自分の部屋以外は、病室風の部屋が並んでいるだけだった。
だが人影は全く見えない。
「そっか……」
プランジは、ビッコを引きながら歩き出した。
ネコもソロソロとついてくる。
その後を、ユラリと揺らいだ空間が横切った。
ネコだけが、一度振り返っていた。
リジーは歩いていた。
一応、出口が有った方を目指して。
だが既にかなりの時間、歩いていた。
周りは、ランドリーマシンがずっと続いたままの景色が続いていた。
「……寒っ」
濡れた身体が乾くに連れて、ドンドン冷えていくのが分かる。
リジーはじっとりと濡れたジーンズを脱ぎ捨てた。
そのポケットに挟んであった見つけたばかりのリボルバーは忘れずに握った。
プランジやウィズはどうしただろうか。
サスガに気づいてるよね。
…でも探しに来ても、そのランドリースペースに、アタシは居ないかも知れない。
ココはーー本当にイエなのだろうか。それともまた別世界なのか?
いやソレ以前に 、男たち二人は大丈夫だったろうか。
普段なら何とか大丈夫だろうが、今はケガ人に病人に……無事だといいが。
こんな場所にヒトリキリかーーチト、厳しいかな。
今更ながら、プランジはそんな中でどう暮らしていたのだろうか。
…ソレは、このホシで未だに分からないコトの一つだけど……。
リジーはそんな風にボウッと考えながら、歩いていた。
ウィズは歩きながら、だんだん呼吸が荒くなってきているのに気付いた。
頭痛と目眩がヒドくなってきているようだ。
だがそれよりも、この廃墟の様な病院は、前に来たことがあるんじゃないか?
ーーウィズは少年時代、身体が弱かった。
いつも微熱気味だったし、すぐに風邪をひいた。
年に一度はナゾの病気に侵され、何度も生死をさまよった。
そんなウィズに父親は愛想を尽かし、消えた。
友達もやがて離れて行った。
その辺りで来たコトのある場所かーー?
いや、確かに暗い雰囲気は似ているがーーココはもっと、恐ろしい場所の様な気
がする。
それは、何だったかーー
「くっ!」
ウィズはヒザが抜けて手を突いた。
そしてしばらくライフルを杖にして這う様に進んでいたが、やがて意識を失った。
「わぁ……」
プランジとネコは朽ち果てたロビーに来ていた。
窓はあったが、その外はすぐ壁で、青白い非常灯のみの暗い空間だった。
プランジはビッコをひきつつ、古ぼけて固くなったソファに近づいてドッカリと
腰を下ろす。
まだ足首と膝はズキズキと痛んでいる。
ネコは側に来て太腿に寄りかかった形でハコを組んだ。
「……」
プランジは、ネコがいて本当に良かった、と思った。
プランジはゆっくりと辺りを見回す。
こういう場所ーー『病院』は、プランジは初めてだった。
勿論映画等では観たことがある。
そこにはヒトを治す人たちが常にいて、色んな人が来て、日々生死と向き合って
いるーー。
プランジには、そういう場所は無かった。
大怪我をしても、寝ているか自分で縫うかーー後は何時の間にか治っているか。
ただ、凄く幼い時の微かなイメージーー誰かが、自分の看病をしてくれていた記
憶はある気がする。
それが何なのかーープランジにはよく分からなかった。
「!!」
リジーはふと立ち止まった。
「…動いてる?」
ズラリと並んだランドリーマシンの先にある一台が、何故か稼動していた。
これはーー?
リジーは辺りをそっと窺った。
ーー誰もいない。
自分たち以外の、誰かが、イエの中にいるのか?
また『ヒュー』の光に導かれて、誰かが来たのならいいがーーソレ以外の、何か
だったら?
リジーはリボルバーを構え、そっと近づいて行った。
「……?」
段々、ドラムの中が見えてくる。
中には、何やら黒っぽいモノが回っている様に見えた。
「…何?」
それはーー何かの固まりの様な、生物の様なーー?
「!!」
リジーはハッと飛び退り、その拍子に斜め奥のマシンにブツかった。側にリボル
バーが転がって音を立てた。
呼吸が荒くなる。
アレは、まさかーーアタシの、ーー?
リジーは目眩を覚えた。
視界が歪む。
腰が落ちた。
震えが止まらない。
あぁ、また、自分はーー
リジーは目眩を覚え、そして気を失った。
「……?」
ウィズは目を覚ましつつあった。
目を開けようとして、辺りが凄まじい光に包まれているのに気付き、顔を背けた。
「!?」
手をかざして光を避けながら辺りを窺うと、そこは手術台の上だった。
相変わらず廃墟の中っぽい雰囲気だったが、何故かベッドを照らす無影灯だけは
点いていた。
身体の調子は悪いままだった。視界がボウッとしている。
辺りには誰もいない。
ウィズはただ一人、光に照らされた手術台の上に転がっていた。
「ココは……」
何かが、引っかかっていた。
またズキズキと頭が痛み出す。
ココは、確かーー。
「!!」
プランジは謎のモヤモヤに襲われていた。
ソレは最初子犬程度の大きさだったが、今は段々大きくなっている様に見えた。
「『ファントム』……!」
プランジがそう名付けたそれと相対するのは、久しぶりだった。
それは突然上から降って来て、プランジは咄嗟にネコを抱えて脇に飛んだ。かな
りギリギリだった。
そのモヤモヤは、今ベンチの上でモゾモゾとしながら、辺りを警戒しているよう
だった。
『ファントム』ーーそれが何なのかは、誰も知らない。
時折このホシに現れる、謎の存在。
悪意、邪悪なモノーープランジにはそんなイメージだった。
一度蹴ったことは有るが、確かすり抜けたと思う。
だがその時のオゾマしい感じは強く残っていた。
それに意思はーー果たしてあるのだろうか。
ネコはプランジに抱えられたまま、シッポを膨らませていた。
巨大な獣に追い立てられる様な感じーーいやそれ以上の何かーー確かに、コイツ
はヤバいーーネコの本能が、そう訴えかけていた。
「”ニャッ」
突然、プランジがネコをロビーの廊下の奥に放った。そのモヤモヤが、爆発する
様に四方に触手(?)を伸ばしたからだ。
ネコはビクッとしながらも習性で身体を翻して着地した。プランジも何とか躱し
ていた。普段ならもう少し軽やかに動けるのだろうが、今はソコまでのパフォーマ
ンスはムリだった。
四方に弾ける様に身体を散らせたそれは、またウニュウニュと戻りつつあった。
だが、プランジの気配は確実に感じ取った様だった。
ネコは、目をマン丸にして、毛を逆立てていた。
コイツはーー一体、何なのだ?
リジーは、目を覚ました。
ソコは暗い部屋だった。
「……?」
廃墟の様な、寂れた病院の一室。
ERだろうか。同じ様なベッドがいくつか並んでいる。
「ココはーー?」
まだ頭がボウッとしている。
アタシは、どうしたんだっけーー
リジーはユックリと身体を起こした。
ベッドが幾つかある間の床に、リジーは居た。
その暗い部屋には、他に誰もいなかった。
「……?」
その時、リジーを騒音が襲った。
リジーはバッと耳を塞いだが、音はずっと聞こえていた。
それは体内から聞こえてくる何かだった。
喧騒ーーERのごった返した現場の様な雰囲気が、リジーを包んだ。
「!!」
あぁ、ここはーーリジーは悟った。
ここは、あの日、運び込まれた場所ーー子供を失い、オーバードーズで訳が分か
らなくなって、ーーそして全てを失った場所だ。
リジーはソロソロと起き上がって、ベッドを出た。
ココを、離れなきゃーー。
何故かそう思った。
そうしてフラリと歩き出してーー
カチリ。
何か金属片が足に当たった。
「……?」
見るとソレは、先程取り落としたリボルバーだった。
「ーー!!」
リジーは、目を見開いてソレを見つめた。
ーーまたか。
どこまでも、追いかけて来るのか。
逃れられないのか。
ーーコレを、自分に使えとーー?
再び目眩がしてきた。
リジーはユックリとしゃがんで、自分を抱きかかえる様にして震えていた。
だが視線は、リボルバーから外すことが出来なかった。
ウィズは激しい頭痛の中、ハッキリと悟った。
「あの場所だ」
それは、戦闘で激しく傷ついたあの日ーー弱い自分も、使えない兵士であったコ
トも、その他自分を取り巻く全てのシガラミもーー全てを捨てるコトにして受けた
あの手術。
それは、ここでのことでは無かったか?
その結果、自分はこの身体を手に入れて無敵の兵士になり、やがて孤独になり、
そして今はこのホシにいる。
その転換点が、ここーー。
ウィズはよろめいて、座り込んだ。
何故か落ちていたライフルが、手に当たる。
頭痛が更にヒドくなる。
歪んだ目の前に、手術風景がボウッとフラッシュバックした。
ウィズは目を見開く。
手術台の上から伸びた無数のアームが、自分を切り刻んでいる。
「ーー!」
ウィズは声にならない叫び声をあげた。
「クッ!!」
プランジは、モヤモヤの攻撃を躱し続けていた。
膝と足首はズキズキと痛む。呼吸もかなり乱れていた。
相変わらずそのモヤモヤーー『ファントム』は、時にそのドス黒く半透明な身体
を明滅させ触手らしき部分を逆立てたりしている。落ちていた鉄パイプやコンクリ
ート片を投げたりもしてみたが、予想通り軽くすり抜けて向こう側の壁が砕けた程
度だった。
だが、プランジは諦めていなかった。
……倒さなくていい。
どうにか、出来るならーーせめて、ネコだけはーー。
ネコは身を縮めてシッポを膨らませていたが、目は離さなかった。
離してはいけないと思った。
プランジーーこの青年は、どうするだろうか。
恐らく自分を守って戦っているのだろうーーだが、ネコである本能は、怖れは、
それ以上何もすることを許さなかった。
ネコは思った。あぁ、自分にもっと力があったならーー。いや、あったとしても
あのモヤモヤには敵うまいがーー。
ネコは宙を見つめた。『ヒュー』よ、何とかしてくれーーー。
「!!」
モヤモヤがザッと広がり、四方から向かって来た。
プランジは咄嗟にジャンプしようとしたがその瞬間、膝が抜けた。
「……!」
プランジはもう避けなかった。
代わりに最後に力を込め、モヤモヤの中心めがけて左手で全力の掌底を放った。
「セイッッッ!」
ネコは見た。
放った掌底は今までと違い一瞬光を放ち、モヤモヤの中心を一瞬捕え揺らせた様
にも見えたがーー同時に、プランジの身体はそのモヤモヤに飲み込まれていった。
「フギャーー!」
ネコは声を上げた。
「………!?」
プランジは、ゾッとした。
何も見えなかった。
それはいつか砂に飲まれて暗黒の中漂っていた時。
深海で巨大な水圧の中、何の光も見えなかった時。
その他今まで幾多経験した、同じ様な圧迫感と絶望感。
やはり、自分には何も出来ないのかーー?
遠くで、音が聴こえた。
それは微かな鈴の様なーー
いや、それは音では無かった。
気配ーーそれは、何処か懐かしいーー
ネコはハッと空を見上げた。
勿論空は見えず朽ちた病院ロビーの天井が見えただけだったが。
だがネコは、その先の、壁の向こうの流星を感じ取っていた。
それも緑色の光を伴ったーープランジの言う、『ヒュー』の存在を。
「!」
プランジは、暗闇の中で目を見開いた。
プランジも感じ取っていた。
『ヒュー』…あの緑色の光の存在を。
「!!」
全身に力がミナギった。
開いた目には、何も映ってはいなかった。
だがその光の存在は、暗闇の中のたった一つの光の様に、自分を導いてーー。
「 !」
プランジは、声にならない声を上げた。
プランジは感じた。
別の場所にいる、ウィズとリジーの存在を。
そして今このホシで二人が感じている、同じ様な絶望と閉塞と孤独とーー全ての
感情を。
プランジは、身体の中から沸き上がる様な、例の感じを認識した。
「!!!」
そして、プランジは『飛んだ』。
それは、今まで感じた瞬間移動とは、何かが違った。
プランジは光に包まれーー時空を移動していた。
壁を抜け、ホシを抜けーー
プランジは、数々のフラッシュを見た。
その中に、自分の手術風景を見ているウィズがいた。
自分のリボルバーを見つめ、かつての自分を思い出しているリジーがいた。
「リジー!」
「ウィズ!」
叫んだが、声にならなかった。
いや、そもそも自分が、光に包まれた別の存在だった。
ココはーー?
ウィズは光を見た。
それは、緑色の光。
手術中ーー自分は死にかけていた。
意識が別の場所に有って、そこから見ている様だった。
その光のお陰で、自分はーー。
リジーも、緑色の光を見た。
そうだ、あの時、誰もいないERの一室でーー
訳も分からずリボルバーを握った時、混濁した意識の向こうで、あの光に出会い
ーー
それで、踏みとどまったのだ。
そう、自分たちは、前に『ヒュー』に会っているーー!
ゴゴゴという地鳴りの様な音が近づいて来た。
ーー『ヒュー』の流星だ!
それは、ホンの少しの間の出来事だった。
ネコは見ていた。
『ファントム』に捕えられたプランジの身体が、一瞬光った。
『飛んだ』のだと思ったがーー光はその場で瞬くと、プランジはそのまま残して
ユックリと消えて行った。そして、激突ーー恐らく流星がイエを直撃したのだろう
ーーの揺れがロビーを襲ったのとほぼ同時に、もう一度プランジの体から光が放た
れ、『ファントム』…プランジを包んでいたモヤモヤは、緑色の光の粉となって散
っていった。
それはプランジが放った光のせいなのか、それとも流星のーープランジの言う『
ヒュー』の何かに反応したのかーーネコには分からなかった。
「……!」
プランジはその場に尻餅をつく様に倒れた。
今自分が見たのは?
『飛んで』いる間の風景ーー?
その中で見た、ウィズや、リジーのイメージはーー?
ネコがソロソロとやってきた。
「……」
プランジはそっと見つめて、呼吸を落ち着け、やがて手を伸ばしてユックリとネ
コの頭を撫でた。
足の痛みは何故か無くなっていた。
ネコは気持ち良さそうにゴロゴロと言っていた。
まだ揺れは続いていた。
だがそれは激突のものではなくーー例の、イエのシャッターが閉まった時の揺れ
と同じく、イエの中が動いている様な感じに思えた。
ウィズはハッとして立ち上がった。
頭痛はいつの間にか消えていた。
「……!」
ウィズはそっと側の診察台を見つめた。
もう恐れは無かった。
懐かしさと郷愁と、確かな思い。
ウィズはフト、側のモニタの側のタブレットに気がついた。
「これはーー?」
それは、医療機器調整用のスキャナー兼データトランスファーだった。イエでは
ついぞ見かけたコトのない電子機器だった。
何となく手を伸ばすとーー驚いたことにそれだけが起動した。
「ん……!」
スキャナーが立ち上がり、掌が認識されると、自動で何かがダウンロードされて
いる様だった。
「なんだ……?」
終わると、装置は自然にオフになった。
「これは……!」
やがて、ウィズは理解した。
身体を、治したのだ。
ーー何故かは分からない。
だがそれはとても優しい何かでーー。
部屋の外は、段々明るくなって来ていた。
ウィズは笑んで、ライフルを取り手術室を出て行った。
リジーは、明るくなりつつある部屋で、手の中のリボルバーを見つめて立ってい
た。
ーーもう。
自分に使うことは無いだろう。
使うとしたら、何かを、守る為だ。
そう思った。
そうしてふと顔を上げると、そこはランドリースペースだった。
「……ったく……」
相変わらず無限に続いてはいたが、振り向くとちゃんと出口はあった。
「………」
見ると、側に脱いだジーパンも落ちている。既に乾きつつある様だった。
リジーは微笑んで、ジーパンを取り足を通した。
そして出ていこうと歩みを進めーー立ち止まった。
先にある一台のランドリーマシンが動いている。
「……!」
リジーはそっと近づいた。
先ほど見た中にあった黒いモノは、やはり…?
リジーはリボルバーを握りしめた。
ゴクリとツバを飲み込む。
マシンはゆっくりと止まっていって、リジーが側に来て中を覗く前に、完全に停
止した。
「……?」
リジーは、ソオッと覗き込んだ。
中にはやはり黒っぽいものが入っていたがーーー
それは、先日来ていた黒い革ジャンだった。
「……はぁ?」
見ると、そこは入り口から10番目のランドリーマシンだった。
自分が、間違えて入れてしまっていた、だけーー?
「……プッ」
リジーは、笑い出した。
「あははは」
肩を振るわせて、腹の底から笑った。
3人とネコは、それぞれ光の方へ歩いて行った。
とある壁の前で、一同は出会った。
そこは、恐らく隕石で開いたであろう大きな穴があった。
「相変わらず隕石本体は無い…か」
「大丈夫だった?」
「アタシはねーーっていうかアンタたちこそ」
「俺は治った」
「俺はーー手首はともかく、足はもう」
「へぇ…」
「何だその革ジャン」
「濡れちゃってるけど?」
「いいの」
「え?」
「そうなのか?」
「…いいの」
いつもの調子の二人に、リジーは頬が緩んだ。
そして一同は、開いた穴から外を眺めた。
そこは、ちょうど4階辺りで、すぐ下に例のバルコニー辺りが見えていた。
外は晴れていて、肥沃そうな大地が広がっていた。
「……何だか、あの絵本みたいだね」
「ホントだ」
「人数はダイブ違うがな」
「まぁね」
3人は、お互いの顔を見合った。
「……何?」
「いやーー」
「まぁーー、また今度」
「そう?」
3人は笑い合った。
ネコは、一同のそんな様子を見ていたが、やがて興味を移した様に外を眺めた。
ネコは今回、ほぼプランジと一緒にいた。
流石に壁を殴って骨折する所までは見なかったが、その後のホシの、そしてイエ
の変化は鋭敏に感じ取っていた。それは、今までの些細なズレが重なっていって起
こったことの様だった。ウィズの体の不調も、ホシでの度重なる試練の積み重ねで
出来たものだった。だがあの日あの時、ホシはビュワッと揺れた。それはほんの僅
かで、プランジたちは気付かなかったと思う。だがそれにより、イエは突然変化を
始めた。それはホシの何かから、イエの中を守る為の変化だったのかも知れない。
とにかく一同はイエの中に閉じ込められ、外からは隔絶された。
ネコは、小さな光のプランジ『ヒュー』の姿を探した。いつもホシに変化が現れ
る時には姿を見せる、あのネコにしか見えない幼児の様な『ヒュー』。ネコは気付
いた。『ヒュー』は、永遠のコインランドリーに取り残されたリジーの側にいた。
ネコにはそれが手に取るように感じ取れた。『ヒュー』は興味深げに、だが真剣に、
自分の中の恐れに翻弄されるリジーの姿を見ていた。同じイエの中だが、離れてし
まったリジーと男たち。男たちはリジーを探して部屋に向かい、そこでまた離れば
なれになった。リジーの恐れに、ウィズの恐れ。それがあの『ファントム』を呼び
寄せたのだろうか。プランジはそのモヤモヤ『ファントム』と相対し、それでも恐
れることなく立ち向かっていった。
その頃、『ヒュー』はリジーとウィズの側にいた。同じ様に病院に変化した世界
でも悪しき記憶に襲われている二人。形を変えたイエの姿は、その影響を受けたも
のなのかも知れなかった。ネコは『ファントム』と闘い続けるプランジの姿を見な
がら思った。『ヒュー』は、何をしようとしているのか。プランジを、助けてくれ
たりはしないのか。そして、プランジはネコの目の前で『ファントム』のモヤモヤ
に飲まれた。ネコはゾッとした。ーー死んでしまうのか?だが、その時初めて『ヒ
ュー』はクアッと口を開けた。そして、プランジが名付けた方の『ヒュー』…あの
緑色の光を伴った隕石がホシに現れ、その時ネコはその場の全てが繋がった様に感
じた。プランジは、一瞬『飛び』、病室で恐れるリジーやウィズの姿を見た。そし
て二人も、かつて緑色の光を見ていた記憶に触れた。それは事実だったのか、妄想
だったのかは分からない。だがそれによって、悪意は、『ファントム』は姿を消し
た。『ヒュー』の隕石はイエに激突し、その穴の前で元に戻った3人とネコは再会
したのだ。
その場で、『ヒュー』は微笑みながら消えた。今回は、助けてくれたのだーーネ
コはそう思った。それよりも、ネコは今回『飛んだ』時に一瞬感じたプランジの姿
が気になっていた。光に包まれ、時空を飛び、別世界にいたウィズやリジーに触れ
たあの姿。あれはネコだけに見える『ヒュー』がそのまま大きくなった姿だったの
ではないか?
…だとしたら、この世界は、そしてあの『ヒュー』とプランジの関わりは?また
大きな謎が生まれたのではないか?
ネコはそんなことを考えながら目を細めた。
まあいいか。
ーー気持ち良さそうな空だ。
また、日常が戻ってくるーー。
ネコはシッポで軽くプランジのスネを叩いた。
プランジが笑顔でいるのは分かっていた。




