025 epilogue ――再来の少女(完)
あの激闘から一日が経った。
ボロボロの体でぐっすりと魔界で寝た翌朝は、全身が筋肉痛で起きるのがとても苦しかった。
隣には色んなところに絆創膏が張られている雄也。回復魔法というものはないのかと疑ってしまう。
記憶の魔術が発生してから、ルメナとキファルガスは争いをやめた。それからキファルガスは全国民に向けての放送で、領土争いの終戦を宣言した。それにスピーカーを通して国民の歓喜の声が響いてきた。正直耳が痛かった。
それで終わることなく、魔界王とキファルガスが同盟を結び、魔界と暗黒界は自由に行き来できる安心の世界として成立した。ヨーロッパ連合みたいなものだ。
すっかり平和になってしまった魔界と暗黒界。もちろん領土は返還され、植民地もしっかりとした地域として今日から動きだす。
色々あった戦争だったけど、蓋を開けてみれば最高の形で終わりを迎えている。
「おーい、雄也~。朝だぞ~」
本当は周りは真っ暗なので朝も夜も分からないのだが、もう何年もいるような感覚なので、自然と時間が分かってしまう。
しかし雄也は寝がえりを打ってまた幸せそうな寝息を立てる。
実は今日の朝には魔界王から挨拶があるということで、そろそろ起きとかなければまずい。一応、暗黒界に乗り込んだ戦士なのだ。俺たちは。
そう思っているうちに雄也は目を覚まし、大きく伸びをして「おはよう」と言い返してきた。
用意された部屋を出るとそこにはルメナと右腕が見事に雷と化したセイラが立っていた。
「お、やっと起きてきたか。そんなに睡眠時間を要するとは人間はやはり弱いな」
と、後頭部で手を組むセイラ。髪の毛に引火しているけど大丈夫なのだろうか。
「魔界王が王の部屋に来てくれ、だって。まぁ、起きているなら行きましょ」
コクリと頷いて、俺たちはルメナたちについて行った。
……そしてさりげなくセイラの髪の毛を叩いて火を消しておいた。
★
「おはよう、剣哉、雄也」
豪勢に作られたイスに座る魔界王。するとそこから立ちあがり、俺たちの目の前で頭を下げた。
「本当にありがとう。お主たちの協力なしではこのような形にならなかった」
俺としては、そう大それたことやった感じがしない。結局この状況を作ったのは、ルメナとキファルガスが共に手を取り合ったからであって。
「まだまだ魔界と暗黒界は作られる途中。いつ何時どんな事が起こるかは分からない。断定はできないが、現界にも影響が及んでしまうかもしれない。そうなった時は、どうかまたお願いしたい」
それに俺たちはコクリと頷いた。
「さぁ、現界に戻るための魔法陣はもう用意してある。そこに入って帰るんじゃ。もうこんな暗い世界はこりごりじゃろ」
笑いながら魔界王は言う。
まぁ、確かに嫌じゃないけど、たまには明るい世界も見たいしな。帰らせてもらうことにする。
「来た道と少し異なるから、ルメナたちに案内してもらってくれ。最後に、本当にありがとう」
なんか珍しいほどに頭を下げてくる。それに俺たちもお辞儀をして王の部屋を後にした。
★
「ここから現界に繋がるわ」
ルメナに案内されてついた現界へのゲート。その先には青い空が映っていて、俺たちの知っている地球だった。
「二人とも、本当にありがとう。そしてごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」
「いや、いいよ別に。今さらじゃん」
今更謝られても困ることだ。もう良い形で終わったのならそれでいい。
その瞬間、俺の頬に柔らかい感触が伝わった。淡いピンク色の――。
と、考えているうちにルメナにドン! とゲートに押しこまれて現界へ戻っていく。
「おわ!」
「剣哉! 雄也! ありがとね~!」
そして視界は青い空へと変わっていく。
「きゃ~! ルメナったら大・胆」
「うるさいセイラ!」
そんな声が聞こえた気がした。
★ ★ ★
「ルメナちゃんもなかなかやりますな」
現界に戻っての雄也の第一声がそれだった。正直、訳分からん。
マンションがとても懐かしく思える。魔界に行ったのがつい昨日のことのようだ。
「てか、今何時だ?」
「五時。あ~、塾サボりだな。俺塾サボるの初めてだわ」
……俺は二回目だな。どちらもルメナ関連。
「今から電車に乗るのも金の無駄だし、俺はひとまず帰るわ」
そう言って立ちあがった雄也はマンションの敷地から出ていった。
俺も電車賃無駄にはしたくないし、かといって遊ぶところもないし、家に帰るとするかな。
俺もまた、ゆっくりと歩き始めた。
★
「あんたやるわね!」
帰って来ての親からの第一声がそれだった。雄也に続いて訳分からん。
「塾サボって何やってるのかと思ったらあんた……」
まぁ、この姿を見たらそりゃあ驚くだろうな。ほぼ全身に絆創膏が張られている息子が帰ってきたらどんな親だって心配する。……でもやるわねの意味は分からない。
「ま、大人の階段昇ったってことで許してあげるわ。その青春の紋章は大事にしなさい」
「すまん、母さん。さっきから言っていることが理解できないんだが」
「……お風呂場で左頬を見てきなさい」
言われるがままに俺はお風呂場にある洗面所で鏡を覗き込んだ。そしてすぐさま左頬に着目する。
そこについていたのは口唇型のマーク。世間一般に言うキスマークだろうか。
――って、キスマーク?
……理解した。これはきっとルメナの……口唇で……。
ああ、ダメだ! 想像したら男子としての何かが目覚める!
とりあえずお風呂で左頬を入念に洗っといた。
★
翌朝、どんよりした顔で登校した。お風呂に入って以降、母さんが「誰!? 誰となの!?」と食いついてきたのでそれは疲れた。まさか母との久しぶりの勉強以外の話がこんなものになるとは。
今は教室の自分の席でノートで振り返ったりしてみる。こちらの時間がそんなに経っていないとはいえ、俺としては何日も勉強していないのだ。忘れていることが多い。
「おはよう。剣哉」
登校してきた雄也が前の席に座る。
「俺も忘れていることが多いからな~。ちょっと見せてくれよ」
と言って俺の右ひじ部分にあった国語ノートをとる。
「私も英語見せてよ」
と、金髪美少女が英語のノートを取る。
……ん? 金髪美少女?
「じゃあ私は日本史」
そう言って今度は薄紅色の髪の毛をした美少女が日本史ノートを手に取る。
……薄紅色の髪?
「ルメナとセイラ!?」
「やっほー、剣哉」
「おはよう剣哉」
軽く手を振ってくるセイラとルメナ。
「お前ら、何でここに……」
「別にお別れはしてないじゃん。学校に行かなくなるなんて言ってないし」
そんな馬鹿な。
うーん、ルメナの顔を見てるとあの事がフラッシュバックしてしまう。
「これからもよろしくね、剣哉!」
満面の笑みでルメナは言った。
――どうやら一生、魔界関係からは離れなさそうだ。
これを持ちまして、少女と魔界のエンブレム完結とさせていただきます。最後まで読んでくださりありがとうございました!
実はこの作品は色々と冒険したところがありました。初めての一人称主体からちょっとしたラブコメ要素。そして異世界バトル。なかなかに詰め込んだ作品になりました。
なかなか視点がコロコロと入れ替わり、混乱させてしまったかもしれません。申し訳ないです。
これまで感想を寄せていただいた、
麟龍凰さん、柊緋色さん、Hirarenさんありがとうございました! とても励みになり、参考になりました。
次回作は二月ごろに考えております。よろしければいらしてください。
改めまして、最後まで読んでいただきありがとうございます! 矛盾点や不明な点がありましたらお知らせください。
……エンブレム=キスマーク。しょうもないな~……。