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024 「届け! 記憶の魔術!」

「ルメナが……」

 この領土争いの発端者の孫。キファルガスの地域を破壊し、己の物にした者の孫。

 ルメナの方に目をやる。するとその表情は暗く、俯いていた。

「キファルガスの言うとおり。私は領土争いの原点、セキマ・キルウの孫娘。祖父がキファルガスの地域を破壊したのも事実だわ」

 それで、キファルガスはひどく怯えていたのか。そして、ルメナを一番簡単な段階で拘束した。

 彼が誰よりもセキマの魔法の強さや恐ろしさを知っている。脳に嫌ほど染みついているのだ。だからルメナが牢から脱出したとき、あんなに取り乱して震えだした。セキマの魔法と漆黒剣がシンクロし合った時、劣勢は自分に回ってくる。

「私も祖父の思考は正直狂っていたと思う。全てを破壊し、全てを手にする。とっても幸福だろうけど、民の幸せがないと国が幸せにならないことを彼は知らなかった」

 それに苦しそうな―おそらく精神的に―キファルガスが会話を始める。

「そうだ。だから魔界の奴……特にセキマには思い知らせてやりたかった。自分の居場所がなくなったらどうなるか。身を持って思い知らせたかった」

「でも、あなたがやっていることと祖父がやっていることとは変わりない。民を奴隷として扱い、様々な人を泣かせている!」

「セキマが言うセリフじゃねぇだろ! お前だって傍観者だったんだ!」

 激しく口論し合う二人。いつまでも止まりそうになかった。

 ただ、キファルガスのやっていることが間違っているのは明白だ。確かに、前魔界王はたくさんの命を奪い、苦しい思いをさせてきたかもしれない。でも、キファルガスがそれでやり返したら復讐以外の何物でもない。復讐なんて、得られるものは一瞬の幸福だけ。気づいた時には何も残っていない。

 彼はまだ道の途中なのだ。完全に自分の物にしていない。ここでやめて本当の幸福を得ればいい。それが彼のお母さんの言う、変わった世界なのではないだろうか。


 これをどうにかして彼に伝えたい。

 取り乱している彼ではあるが、どこかで理解はしているはずだ。この方法が間違っていること。

 それを伝えるにはきっとこれしかない。


 ☆ ★ ☆


 時は少し遡る。暗黒界に乗り込むために睡眠をとっていた時、現魔界王が俺の頬をつついて起こしてきた。

「ん~……」

「起こしてすまんな剣哉。ちょっと話があるからついて来て欲しい」

 それほど深い眠りについていなかったのか、俺は簡単に頷き、スッと立って魔界王についていった。

 ピンクと紫が入り混じった禍々しい道路を歩んでいく。ついた場所は、初めて魔界に来た時、魔界王がいた部屋。すなわち魔界王の部屋だ。

 彼は隠し金庫みたいなところに入り、ちょっと待っててくれ、とだけ言ってあるものを取りに行った。


 数分後、少々息切れしながら戻ってきた魔界王。年齢って嫌よね~、と久しぶりのおねえ口調だった。

「これを、お主に渡しておこうと思ってな」

 そう言って渡してくれたのはペンダントだった。長さはあまりないが、とても綺麗なものだった。その先にあるところには、丸と三角だけで描かれた魔法陣があった。

「これは?」

「魔界に伝わる秘宝じゃよ。前魔界王が残した物なんだけどな。記憶の魔術なんて呼ばれたりする」

「記憶の魔術……」

「効果は使ったことがないから知らぬけどな。……少しでもルメナたちの結びのきっかけになればな」

「……まぁ、ありがたくいただいときます」

「うむ。剣哉は賢いから使い時は大丈夫じゃろ。では、ゆっくり休んでくれ。私は引き続きテレポートを作るよ」


 ☆ ★ ☆


 あのとき渡された記憶の魔術。ルメナたちの結びのきっかけ。それが俺の中で全て繋がった。

 前魔界王が残したペンダント。それは、自分のやっていたことの愚かさに気づき、死に際に残した最後の魔術。繋ぐものは、関係ないのにどうしようもない過去を持ってしまったルメナと、全てを失って破壊し始めたキファルガス。

 きっと記憶の中には思いが巡っているはず。

 俺はポケットにしまっていたペンダントを口論し合う二人に向けた。

「届け! 記憶の魔術!」

 そう叫んだ瞬間、ペンダントの先の魔法陣が光り出し、彼らを記憶の空間へと誘う。



 そこに映った幻想は、威厳のある老人と、優しい笑顔の女性。

「おじいちゃん……」

「お母さん……?」

 二人は同時に、目の前にいる幻想を呼ぶ。それが前魔界王とキファルガスのお母さんだった。

 この記憶の魔術は、現魔界王曰く、本当に言いたかった遺言が聞けるとか。前魔界王が作った理由が少し窺える気もする。


 ★


「ルメナ」

「おじいちゃん……」

「私のせいでお前には関係のない罪をかぶせているようだな。こんな私を許して欲しい」

「……」

「そして、最後のお願いだ。この世界に平和をもたらすために、領土争いをやめてほしい。終戦させて、本当の幸福を手に入れて欲しい」

 ルメナは無言で頷く。

「私の罪を、代わりに償ってくれ……!」


 ★


「お母さん……」

「これがあなたの望む世界なの?」

「それは……」

「私が作って欲しかった世界は、みんなが笑って暮らせる世界よ? あなた昔から頭弱いからそこらへん履き違えたのかしら」

「……そうかもね」

「だから最後に言うわ。新たな世界に変えて……」


 ★


 それぞれの幻想は粉々に消え、空の彼方に消えていった。

「セキマ・ルメナ」

「うん」

「この領土争いはここで終戦でいいな? もちろん、元魔界領域の支配は終える」

「もちろんよ」

 ……ようやく、か。

 ようやくこの長きにわたる領土争いに終止符が打たれた。始まりは前魔界王で終わりも前魔界王と考えると宿題みたいだ。

「それにしても、剣哉。今の魔術……」

「ん? ああ、魔界王がくれた奴で、ルメナのおじいちゃんが作ったものだそうだぞ」

「そう……か」

 少し俯きながら笑みを浮かべるルメナ。うん、まぁ、説明しにくいけど俺にも何となくは分かる。


「帰ろうか、魔界に」

次回、最終回となります。

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