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021 「一人でダメなら二力で」

 その手は酷く冷え切っていた。氷をずっと握っていたのじゃないかと思うくらい。

 しかし、そこで冷静になって考えてみた。こういう状況であるとはいえ、女の子と手を握り合っている。次第に顔の周りが熱くなっていく。

「どうしたの? 顔赤いよ?」

「え? いや、あのだな……ここ暖房効きすぎてるじゃん?」

 そんなわけがない。春に暖房なんて使うはずがない。

「あ、そういえば暖かいね」

 だが、ずっと寒いところにいたルメナにとっては納得だったらしい。


 話は戻って戦い。右膝を地面についているキファルガスに視線を向ける。……手をお互い繋いだまま。

「でさ、これからどうやって戦っていくの? まさかこれでキファルガスがギブアップなんてことは……」

「あるはずないでしょ。だけど、もちろん対策はあるわ」

 やけに自信満々のルメナ。そう言えば、ルメナが脱走したと知った途端にキファルガスは顔色を変えていた。理由はさっぱり分からないが、とりあえず何かはあるサインだ。

「その対策って言うのは、憑依ね。やり方覚えてる?」

「ああ、問題ない」

 憑依と言えばこの暗黒城の門で一回使っている。あれが戦闘での初めての使用だったから、経験という意味ではきっと役立つだろう。

 それに俺が一番初めに憑依したのはルメナ。よって彼女が正式なパートナーということになっている。パートナーとなら、セイラの時みたいに時間制限はない。戦闘はずっと進めやすいはずだ。ましてや、頂点のキファルガスが相手となれば。

 でも、憑依して意味があるのだろうか、というのが正直な心境である。というのも、確かルメナは通話魔法といった『日常』に特化した魔法が専門だと言っていた。戦闘となってしまっては不利なんじゃないだろうか。


「あ、そうだ、剣哉」

「ん?」

「まだ説明していないことがあるんだ。言わせてくれる?」

「まだ何かあるのか。魔界って複雑だな」

「と言っても今更な説明なんだけどね。本当は第三訓練が終わったら言うつもりだったんだけどこういうことになっちゃったし。で、説明したいことは――漆黒剣の能力について」

「漆黒剣の能力?」

「うん。今までに何度かあったんじゃない? 少なくとも私が知っているのは第二訓練の時。急に黒色の盾が自分を覆いかぶさったでしょ?」

 その現象なら何度だって起きている。彼女の言うとおり、毒弾訓練の時にも発生した。それにさっき、キファルガスから攻撃を受け止めた時も盾は出現した。

 その他の現象では五階でキサラと戦った時に、黒い衝撃波を発生させた。だけどその現象は意識的に起こることはなかったため、基本、ただの剣だと思いこんでいた。もちろん、発生に規則性は見られない。

「漆黒剣はね、人の感情によって威力が変わる剣なの。何かを強く思えば、それに剣は答え、何かに対して弱気になれば、剣は答えない。きっと、剣哉が何かを強く思ったから、ここまでこれたんだよ」


 人の感情で威力が変わる剣――か。やっとキファルガスの言っていたユニークな剣の意味が分かった気がする。キファルガスの場合、破壊や侵略を強く思えば漆黒剣は答える。だけど俺の場合――ルメナを助けたかったという気持ちがここまで導いてくれた。善にも悪にもなるのだ。本当にユニークである。


「さ、お話は終わり。最終決戦と行くわよ」

「ああ」

 俺たちは向け合っていた視線を、気づけば立ち上がっていたキファルガスに向けた。


 ◆

 ◆

 ◆


「ふぅ……これでほとんどかな?」

 蝋燭だけが頼りの灯りである牢屋街。僕、ナイツは魔法制限結界を破ってからルメナちゃんを王の部屋へ行かすために監視員を抑えていた。というか、普通に向こうが襲い掛かって来たので抵抗したのだけど。

 その結果が、この地面に倒れまくっている監視員だ。

 もともと通話魔法などに力を入れていた僕は、ルメナちゃんから度々武術を習っていた。まだまだ彼女のレベルには追いついていないものの、暗黒界の兵士たちには負けないレベルになっているはずである。


 そのとき、僕の通話魔法端末に通知が来た。表示名はセイラである。彼女は攻撃魔法に特化しているとはいえ、同じ場所くらいの距離では通話魔法くらい容易いものだ。

「もしもし、セイラ? どうしたの」

『お、出た。何か上の方が騒がしいから何かあったのかと思って』

「珍しく察しが良いな。ついさっき牢屋から脱走してルメナが王の部屋に行ったところだ。おそらく城崎と一緒にいる。ちなみに、僕はそれを追いかける監視員をボコボコに」

『なるほどね』

「そっちはどうなんだ?」

『グリードを倒してからだいぶ時間も経って体が楽になってきたし、ぼちぼち上に向かおうとしているところ』

「ふーん。ま、あまり無理すんなよ」

『……そっちこそね』

 そしてセイラから通話は切れた。

「……そっちこそね、か」

 黒色でしかない天井を見上げて、もはや座り慣れてしまった冷たい床に座り込んだ。


 ◆

 ◆

 ◆


「城崎剣哉。セキマ・ルメナ。絶対に許さんぞ……! ここまで計画を邪魔して!」

 低く威圧感のある声が耳に響く。もうあの時の余裕は完全に消え去って、俺たちを破壊することしか頭になさそうだ。

「おい、大丈夫なのか? ルメナ」

「何が?」

「何がって……お前って日常魔法を重点的に磨いているんだろう? こんな相手に勝てるのか?」

 そう言うと、軽くポンと頭をルメナが叩いた。

「甘く見ないで欲しいわね。これでも色々鍛えているの。攻撃方法が魔法だけだと思っていたら大間違いよ? 前にも見せた武術をもっと強化させればいいの」

「武術を強化? なら憑依せずお互いに戦った方が――」

「それであんたは死にそうだったでしょ? 一人でダメなら二人で。あなたの常識にあるはずよ? それで魔界は、一人でダメなら二力で、なの」

 ……一人でダメなら二力、か。

 それが何だか心に響いた俺は手を差し出した。満足げな表情を浮かべたルメナは、真っ黒なナイフを取り出して、肩から中指まで一筋の切り傷を付けた。そこから黒い妖気が溢れだし、彼女が微粒子となって入り込んでくる。


『憑依!』


 俺の黒い髪の毛のところどころにルメナの薄紅色がメッシュとして入る。そして黒かった右目は青色になる。


『さぁ、最終決戦の幕開けよ』


 俺は漆黒剣を再び手にとって、キファルガスへ剣先を向けた――。

 え~これが今年最後の更新となります。

 お世話になりました。来年は一月か二月の完結になると思います。来年もどうぞよろしくお願いいたします。


 そして運のいいことになかなかに年末なので、次回も通常通り更新させていただきたいと思います。


 では、みなさんよい年末年始を^^

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