002 「石魔瑠芽菜です。よろしくお願いします」
あれから10年の時が過ぎた。俺は高校1年生になった。
花坂高校。
俺が住んでいる花坂市の中でもトップクラスの高校だ。それから考えてもらえば分かるように、あの後も俺は親の言いなりで生きてきた。
そんな今日、俺のクラスでは転校生とかでにぎわっていた。学級長が校長に聞いたところ、すごく可愛い美少女だという。それで今日の男子はテンションが高かった。
逆に女子は、『これだから男子は……』、みたいな感じで男子をジト目で見ている。
もちろん俺はそんなのに興味はなかった。いつもと変わらず小説を読んでいる。桜が散っていく季節で、窓側の席の俺は、散っていく桜を眺めながらいつも読んでいる小説を読む。
そんな時、1人の男子が俺に話しかけてきた。
「あれ? 剣哉は転校生が気にならないのか?」
「なるわけないだろ」
「だよな~。昔から女子を好きにならないもんな」
「うるさい……ってか、お前もだろ」
「まぁ……そうだけどな」
話しかけてきたのは五月雨雄也。同じ学年の幼馴染である。
彼は俺と一緒で、あまり人と関わらない静かな奴。だから個人的にこいつは話しやすい。なにかと話が合うからだ。
彼は結構イケメンで、ひそかに女子から人気がある。巷ではファンクラブまであるとか。
雄也と話していると、あっという間にHRの予鈴が鳴り、各生徒が教室に戻って席に着いた。
チャイムがなり、朝のHRが始まった。
担任の先生が教卓の前に立ち、授業簿を置く。
生徒たちは、まだかまだかと転校生の紹介を待っていた。そこでお待ちかねの言葉が先生から発せられる。
「みんなはもう聞いていると思うが、転校生を紹介する」
周りからは『ひゅ~、待ってました~!』という声が聞こえてくる。はっきり言ってうるさい。ちょっと黙ってほしい。
「石魔さん。入りなさい」
先生が転校生を教室に入れる。全く興味がない俺は小説を読んでいて、転校生の姿なんて見なかった。
石魔さんはとても美少女らしく、男子の鼻の下はのびていた。そういう姿が嫌な女子も、思わず見入ってしまっていた。それほど可愛いのか?
しばらくすると、転校生の石魔さんが黒板に名前を書く。それなのに俺は本を読み続ける。
「石魔瑠芽菜です。よろしくお願いします」
とても可愛い声で自己紹介をし、一礼をする。
「じゃあ石魔さん。城崎君、あの本読んでる人の隣の席に座ってください」
先生にそういわれて初めて転校生の顔を見る。その姿を見たとき、一瞬、俺の目を疑った。
ラベンダーのような薄紅色の長いさらさらの髪の毛、真っ白な肌、少したれている綺麗な碧眼。小柄で低い身長。一○年経っても忘れるはずがなかった。
――あの時の少女だった。
石魔さんはどんどんとこちらにやってくる。男子がその姿に見とれているのが分かる。もちろん俺も含めてだ。
あの時と変わらない美しさに、あの時と変わらずに見とれてしまった。
そんな俺の姿を雄也がおもしろそうに見ているのが分かる。
なんとか自分の本心を取り戻したかったが、それでも石魔さんの方に目がいってしまう。
そして俺の隣の席に座る。まだ注目は石魔さんに集まっている。
その注目を黒板に集めた先生は、いつもと変わらないHRを始める。
すると石魔さんは辺りをきょろきょろし始めた。まるで何かを探しているかのように。
そして、ある女の子を見つけて手を振っていた。振られた少女も石魔さんに向かって手を振り返す。
振られていたのは魔狩星羅。金髪のツインテールで、少しいたずらっぽい、ちょっと釣り目の女の子。こちらもかなりの美少女で、男子からは人気がある。
そんな2人が手を振り合っているということはやはり知り合いなのだろうか……そんなことを考えていた。
HRが終わると、早速男子が石魔さんのところにやってくる。それに混じって女子もたくさんやってきた。そんな人の隣にいるのは居心地が悪かったが、そのまま小説を読んでいた。
「彼氏いるの?」とか「俺とメアド交換しない?」といった声がたくさん聞こえてくる。
それらの質問に石魔さんは答えずに、スタスタと星羅の方へといった。
その光景は男子にはすごくありがたいものだったらしい。
何しろ、転校してきた美少女と今までも大人気だった美少女が会話をしている。もう死んでもいいというやつもいた。
1時間目の授業が始まり、みんなは自席へと戻っていく。その時にチラッと石魔さんと星羅の目が合うのが分かった。
そして昼休み。教室はいつもうるさいので、いつも昼食をする屋上へと俺は向かっていった。
案外屋上は人が少なく、俺にとっては絶好の食事場所なのだ。昼休みもずっとここで本を読んでいる。静かで気持ちいい風が吹いてくるこの場所が大好きだった。
しかし今日は先客がいた。こっそり覗くと、いたのは石魔さんと星羅だった。2人の会話が意外と聞こえるため、俺は2人が出るまで屋上のドアの手前で待っていた。そしてそのまま会話を聞いていた。
◆ ◆ ◆
「ルメナ。あんた何しにここに来たの?」
「当たり前でしょ。パートナーを探すためだよ」
「やっぱり……私と同じ目的なんだ……」
「セイラもなんだ!?」
「当たり前じゃん! でも私はもうパートナーに決めて人がいるもんね!」
「私だって決まったよ! じゃあさ、いっせいのーで、で言おうよ!」
「いいよ。いっせいのーで!」
パートナーがなんちゃらかんちゃらという話が聞こえてくる。気になったが、生憎「いっせーのーで!」の次の瞬間に放送が流れてしまった。
パートナーということは……恋人の事か?そういった思考が俺の中を駆け巡る。
てことは……石魔さんはすでに恋しているだと……!
簡単にショックを受けてしまった俺は、しぶしぶと2番目に静かな図書室に行くのだった……
それから放課後。生徒たちは部活動をやる時間だが、俺は部活をやってないため、そのまま下校する。
いつもと変わらない帰り道。
そこで今日は色んなことがあったな~、と、おじさんみたいなことを考える。
まずはずっと逢いたかった少女、石魔さんと再会できた。出来れば「運命の」がついてほしかったが、つかないのも無理はない。
そしてパートナーがあーやこーや……石魔さんと星羅に好きな人がいるのが分かった。石魔さんに好きな人がいる時点で、初恋はあえなく散ったのだが……
と、そんなことをボーっと考えていると、目の前に真っ黒な剣が落ちているのに気づいた。ファンタジーっぽくいったら漆黒の剣だ。
カッコいいな~と思って、その剣を持ってみる。綺麗に手に納まって、なんだか嬉しい気持ちになる。
すると後ろから気配を感じた。振り向くと、1人の少女がこちらにすごいスピードでこちらにやってくる。そしてその少女は剣を構える。
「えええええ!? ちょっ……何!?」
その少女はあきらかに俺を狙っている。だって俺の後ろに誰もいない状態で剣を構えてるんだもの。
俺は咄嗟に持っていた剣でその攻撃を防いだ。
彼女の攻撃はずっしりと重く、耐えるのが困難だった。
「はは……人間のくせにこの攻撃に反応できるとは……」
「え?」
なんだか異世界の人みたいな発言をした彼女。それから顔を上げて、さっきの異世界人みたいな発言からは考えられない笑顔で、その少女は謝ってきた。
「急にごめんね。城崎君」
「石魔さん!?」
なんとさっきの異世界人っぽい発言をしたのは、石魔さんだった。いや~、相変わらず可愛いな~……ってそうじゃなくて!!
「あの……さっきの異世界人みたいな発言は……」
「へ? 異世界人?」
「う……うん。なんか、人間のくせにこの攻撃が……とかなんとか……」
「あ~、聞かれちゃったか~。じゃあ、単刀直入に言うね!」
そう言って、石魔さんは俺に顔をグイっと近づける。ダメだ! 可愛すぎる! もう俺の鼻血がそこまできていた。
「私のパートナーになって!」
「え? ……」
えええええええええええええええええええええええ!?
まじかよ! これってまさか告白ってやつじゃ……生まれて始めての告白が……俺の初恋の相手石魔さんだなんて……今日は本当に色々あるなぁああああ!
気持ち悪いほどテンションアップの俺。見た目はクールに接しているが、内面はもうデレデレだ。
「ああ、いいよ」
「本当に!?」
嬉しそうにこっちを見てくる石魔さん。こんな人にパートナーになって、なんていわれたら誰も断れないんじゃないか?
「じゃあ早速……」
嬉しそうに下を向く石魔さん。もしかして……もうキ○するのか!? 早い! それは早い! ○スはまだ早いってぇええええ!
と、気持ち悪い想像をした俺。俺はこんなに石魔さんが好きだったのか……自分で自分が恥ずかしい。
しかし、石魔さんが取り出したのは恐ろしい物で……
真っ黒な小刀だった。
……パートナーって……何? 殺し屋の? 強盗の? そんなことを考えたが、更に彼女の仰天行動は続く。
また俺の顔をまっすぐに見つめて、俺の腕に切り傷をつけていく……
って、おい待て! 何をしてるんだ!
結構深く傷をつけられた。
しかし、真っ赤な血は出てこなかった。何かさっきの剣みたいな黒色の妖気が腕からあふれ出ている。はっきりいって気持ち悪い。
「あの、石魔さん、これって……」
「説明は後でします」
さっきまであった笑顔は少し消えていた。さっきよりも真剣な眼差しで俺を見てくる。何か深刻な問題でも抱えてそうな……
すると彼女は目の前のマンションの壁に、魔法陣を描いて、その部分が、どこかにつながる結界、入り口となった。中は藍色の世界が広がり、先は何も見えない。
『さぁ、行きましょう……魔界へ……』
亀更新ですいません。
次話は3月10日に更新予定です。
そして、この日が私立受験の日なのであります。
怖いよ! 怖いよぉおおおおおおおおおおお!
三月十日以降、不定期更新で行きます。
よろしくお願いします。