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017 「……この電撃、セイラの腕だから。」

 いつも少女と魔界のエンブレムを読んでいただきありがとうございます!

 例のごとく、期末考査とかいう暗黒神が襲い掛かって来てですね。来週は更新できません。その次は出来ればしたいのですが……書き終わるかどうか。

 申し訳ありませんがご了承ください。

 上級魔法――Sアーム。

 雷魔法史上最も危険視され、歴史上、誰も使ったことのない技。Rアームは自分の腕の周りに電撃が迸っているので、戦闘にはかなり有効なものとされている。

 しかしSアームは、自分の腕全てが雷と化してしまう。つまりは、自分の腕が消失する。死ぬことはないが、一生雷とのお付き合いになるのだ。不便にも程がある。鉛筆があっという間にマッチに、なんてテレビショッピングも出来る。燃え尽きているから意味ないけど。

 まぁ、簡潔に纏めると捨て身の技ということ。戦いに不便は生まれないけど、それからが大変。だから誰も使用しなかった。


「躊躇なく使うんですね、上級魔法」

「使うしかないでしょ……こうでもしなきゃ勝てない……」

 悔しいほどに私には余裕がなかった。圧倒的に有利なのは向こうなわけで。

 それに、今まで普通に腕を使用していた、ということはもちろんSアームを使うのは初めてだ。威力は保証付きだが、すぐに扱えるかと言われれば疑問符だったりする。そんな疑問も、今は結論に無理やり導かなければならない。

 ――頼むよ。

 そう、腕に言い聞かせて、稲光に浸食された右手を構え、グリードに殴りかかっていった。刹那――。


 殴りかかろうとしたその手は動かなかった。どれだけ前へ突き出そうとしても、だだをこねる腕の抵抗力が勝ってしまっている。

「……っ!」

「無駄な話でしたか。初めて使う上級魔法。そんな簡単に出来ません」

 言い返す言葉が見つからなかった。まさしく彼の言うとおり。……万事休すだ。

「最後に。なかなかやり手でしたよ、セイラさん? 私をここまで追い詰めた人も久々でした」

「…………」

「さようなら」

 その後、鼓膜を揺らしたのは肩と刃の摩擦で生まれた空気の振動だった。


 ◆

 ◆

 ◆


 静寂が部屋を包み込んでいた。倒れてから結構時間が経つが、こんなに静かになったのは初めてだ。

 セイラは、やられてしまったのか。

 自分の腕まで犠牲にし、立ち向かったというのに、グリードという男には敵わなかった。悔しいが、さすが兵士長と言わざるを得ない。だって、セイラの現時点で使える魔法をいとも簡単に破って見せたのだから。

 しかし、このまま寝ているわけにもいかない。

 まだ勝てる方法は残っている。彼女が――セイラが捨てた腕のおかげで。


 戦っていた本人たちは気づいていないかもしれないが、あの戦いは結構部屋中に雷が走っていた。時々体に当たったりはしていたのだが、もっと当たっていた、というよりは自ら雷を吸い取っていたものがある。

 サファイアボルトだ。

 俺が倒れてからずっと電気を蓄積しているこいつなら、勝てるかもしれない。セイラの稲光をずっと吸い込み続けたこいつなら。

 あとは仕上げ程度に、セイラから腕の電気を貰うことにする。サファイアボルトを、彼女の腕だと思って。

 まだ立つことを拒む体を引きずりながらセイラの元へと近づいて行く。

 しかし、障害物は不意に現れた。

「まだ生きていたのですね。なかなかしぶとい人間だ」

「グリード……!」

「彼女の電力を奪おう。そう簡単にさせるわけにはいきません。あなた人間など全く怖くありませんが、一つ警戒しなければならないものがある。言うまでもなく、そのサファイアボルトですよ」

「別に、あんたが恐れるほどの雷が出るとは思えないけど……?」

「……どうやら、セイラさんは本当のサファイアボルトの恐ろしさを伝えていないようだ」

「サファイアボルトの……恐ろしさ?」

「まぁ、あなたに火をつけると面倒なので教えませんけど」

 どういうことだ? サファイアボルトの性質と言えば蓄電させて放つことで、一度の雷攻撃よりも効率よくダメージが与えられる。それがセイラに教えられたものだった。そうじゃないとしたら、一体何なんだ。

「ま、とりあえず、ですね」

「……何」

「私は上の階を目指すとします。ちょっと時間がかかってしまいましたからね。では、御機嫌よう」

 グリードは踵を返し、階段の方へと歩を進めていった。

 当たり前のことだが、その先のどこかには剣哉がいる。どういう状況かは計り知れないが、こんな強敵をこのまま行かせたら……あいつはキファルガスの元にたどり着けない。

「待てよ……!」

 そう考えていたら、口は勝手に動いていた。

「ん?」

 それにグリードも振りかえる。

「行かせねぇ……ぞ」

 どこもかも破裂してしまいそうなくらい体が痛むのに、脳は立ち上がれという指令を出し続ける。最後の放電を信じて。

 今まで役に立っていなかった自分の足が動いている。足の裏はしっかりと地面に接触し、力強く、体を持ち上げてくれる。

 そして手には、しっかりとサファイアボルトが収まっていた。

「今更立ったところで遅いですよ。あなたにはたった一回の放電しか残っていない。外せば即試合終了です」

「だからその一回に賭けるんだよ」

「無茶すぎる。人間の腕力で放たれる電撃の速さなど底が知れている」

「知られてるかもしれないけどさ……この電撃、セイラの腕だから。当たれば俺が勝つ」

 そう、セイラのありったけの電気を吸収し、育ったサファイアボルト。当たれば勝ち。外せば負け。命をかけたPK戦だ。


「おおおおおおおおおおおお!」

 サファイアボルトを両手で握り、グリードに接近していく。速さなんて期待していない。所詮人間のスピードは暗黒界の者には敵わない。でも、近距離からなら、当たる確率は上がる。

 その分、自分が傷を負うリスクも増えるわけだけど……こういうときはポジティブに考えるのが俺だ。この先の結末は、あいつが電気で黒焦げ。そうなるように――。

「そんな真正面からかかって来て、勝てるとでも思ってるのか!」

 しぶとい俺たちにお怒りなのか、さっきまでの余裕な口調はどこかに捨て去られていた。

「生憎、思ってる!」

 確実に勝つ方法。それは一つしかなかった。

「セイラ!」

「行くよ、雄也!」

 俺の右腕は黒い妖気で溢れている。その中に、微粒子となったセイラが流れ込んでくる。

憑依(ポゼッション)!』

 髪形は雄也の肩まで伸びたもの。しかし色はセイラの稲光に愛された黄色。目は、まっすぐに電撃だけを見据えたオレンジ色。そして腕にあるのは、Sアームに握られたサファイアボルト。

 もうあいつの剣なんて怖くない。上級魔法とサファイアボルトが一緒になれば、俺たちは最強だ。

 下から上へ思い切り薙ぎ払ったサファイアボルトからとんでもない速さの電撃が放たれた。グリードは持ち前の反射神経で剣で一度防ぎにかかるが、その刃はあっさりと砕かれた。

「嘘……だろ……!」

 彼の表情は最初にあった余裕のものではなくて、苦戦を強いられたものだった。

 そして部屋を包む稲光と共に、彼の叫びが響き渡った。


 ☆


 憑依を解除した俺たちはその場に座り込んだ。

「……終わったな」

「……終わったね」

 正直、俺にはもう話す力は残っていない。今すぐにでも家のベッドに寝転びたいところだ。

「剣哉、大丈夫かな」

「大丈夫だよ。あいつの心が助けてくれるさ」

「……そっか」

 俺はもう一度、仰向けになった。ピカピカだった天井は、突き破ってピカピカな三階の天井に変わっていた。

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