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016 「やるよ。カードが残っている限り……!」

先週は更新出来なくて申し訳ありませんでした><

「あああああああああ!」

 一筋の電撃がグリードに襲い掛かる。しかし、グリードはその電撃を剣で受け流す――。

 この攻防がずっと続いていた。私が電撃を放っては彼は受け流し、斬りかかってくる。それを今度は私が避けてまた電撃。という風に循環していた。

 私も一番基本的な雷魔法を使っていて、力の消費は最も小さいが、グリードはというとただ剣を持っているだけ。雄也のように能力を使ったりせず、私に余裕で対抗してくる。

 もちろん基本的、というだけあって上の魔法はいくつもあるのだが、それに彼が合わせてこられなくなるとは考えづらい。だからといってこの攻防を永遠に続けていては、やがて私の攻撃方法が全て消去され、敗北がほぼ確定する。

 だから私はここで、初めて基本魔法から抜け出してみた。


「術式展開! Rアーム!」

 右腕全てに電撃が迸った。中指の先から肩甲骨まで電気の黄色と青。周りから見たら新手のイルミネーションかもしれない。

「っと、急に基本魔法やめますか」

 ずっと斬り続けていたからか、グリードはその循環に身を任せたまま接近してこようとしたが、回転の速い頭からの指令で足にブレーキをかけた。

「Rアームですか……中級魔法はまだ序の口なんでしょう?」

「そういうことだけど、変に力削るよりは全然いい」

 もう変な術式展開や魔法陣は必要ない。今の武器は魔法じゃなくて腕だ。

 グッと拳に力を入れて地面を蹴る。

 それから後ろに振りかぶって思い切りグリードに向かって突き出す。しかし、グリードも剣で私の拳を受け止めて、また受け流してきた。

「くそっ!」

 先ほどと違って近距離戦に持ち込んだ影響もあるのか、すぐ目の前に彼の刃が迫っていた。反射的に横に体を揺らして顔面直撃なんてグロテスクなものにならず、肩を少し掠った程度で済んだ。

 その出来た彼の隙を突く。再び右手で、今度は先ほどのグリードのように腕を突きだし、腹部を思い切り掴んだ。そのまま壁の方へ押し詰めていく。


「……へぇ……結構力あるんですね……っ!」

 グリードには隠せない表情が浮かんでいた。おそらく、これは本当に効いている。まぁ、ここで効かないなんて言われたら困るんだけど。

「女子だからってなめられたら困るよ。それにまだ攻撃は終わっていないし」

「何!?」

 そう、Rアームの最大の長所は――。

「手のひらから電撃が発生するの」

 腹部を思い切り壁に叩きつけているこの状況では百発百中だ。どう足掻いたって電撃発射までに抜け出すことは不可能だ。この序盤戦は、私の方が有利だ!

 雷の力全てを手に集中させる。じわじわと生じる静電気が喧嘩し合い、やがて大きな雷へと変化していく。

「術式展開! Rバースト!」

 その声と共に雷の爆発が発生し、グリードの姿は黄色で埋め尽くされていった――。



 凄まじい砂煙が引いた。先ほどの爆発でかなり部屋を荒らしてしまい、辺り一面黒焦げだ。

「はぁ……はぁ……」

 体力は限界まで削られていた。中級魔法というのは私はかなり使っている方なので普段は疲れないのだが、ここまで放電してしまうとさすがに……ね。

 でもそれくらいに威力は発揮したはず。暗黒城兵士長と言えどもそんな簡単には反撃してこられないだろう。というか反撃してこられたら困る――。


 ――という状況なのに。彼はところどころ破けた服を身に纏ったまま立っていた。剣も子供のおもちゃくらいしっかり握っていて。

「なん……で……」

「あれはさすがに効きましたけどね。それで倒れるくらいでは兵士長なんて務まりません」

 そう言うグリードは地面を一蹴りして一瞬で私の前に近づいた。

「今まで暗黒城に乗り込んでこようなんてするものなど誰もいなかった。キファルガス様の存在、それもある。だけど、理由はそれだけじゃない。どんなに大切なものがキファルガス様の手の上にあっても乗り込まない理由。あなたも分かっているんでしょう?」

 一瞬だけ。一瞬だけ私は思った。こいつにもしかしたら勝てるかもしれない、と。

 でも所詮無理な話だった。まだ対等に戦えるというのは「まだ」に過ぎなかった。

 だってこいつは――。


 ☆


 まだ魔界領域の侵略が始まる前の事。私は何気ない日常を母親と父親と過ごしていた。私の父親、セーガは魔界の中でもかなり力を持っている剣士で、魔界の出兵にも参加しているほどだ。

 しかし、そのころから暗黒界とは深刻な関係にあった。出兵は全部が暗黒界へ行くもので、少しでも暗黒界の侵略を止めようとするものだった。

 だけど出兵した人々はみんな帰ってこなかった。お父さんも暗黒界へ行ったまま、帰ってこない。こうして戦っている今も。


 そんなことを知らなかった幼いころの私は無邪気に遊んでいた。友達と追いかけっこしたりボールを投げ合ったり。そんな残酷な世界を知らず、平和な世界だと錯覚していた。

 それが間違いだと気づいたのは二年ほどの月日が流れた頃。一人の青年がこの魔界にやって来た。真っ黒な鎧を身に纏い、歩くたびにかちゃかちゃと音が鳴る。その男は暗黒界の使いで、たった一人で魔界を侵略しようと言う。

 何とも馬鹿げた話であった。私の住んでいた場所は雷魔法の聖地と呼ばれ、暗黒界の兵士が何人も来て勝てるような、魔界でも強者が集まるとして有名だった。そんな地域に一人で足を踏み入れるなんて自殺行為である。

 きっと追い払ってくれるだろう。そう安心していた。いや、油断していた。

 その男は己の剣一本で全てを粉砕した。古来より伝わる雷魔法を全て薙ぎ払い、受け流し、斬りかかり――。その一連が高速で物を製造する工場の機械みたいだった。

 私は母親にどこでもいいから逃げるように言われ、夢中で走っていた。一瞬、その男と目があったが、そんなこと知らずに走った。どんなに幼くても逃げなければならない状況だと分かっていたから。

 今から思うと、あの時あいつは見逃していたんだ。それも意図的に。さすがに幼い子供を殺すわけにもいかなかったのか、すぐに他の人をターゲットにしていた。


 その男が――。このグリードだった。あの顔は今でも忘れない。いや、忘れられない。


 ☆


「で、まだやるんですか? あなたにはもう戦う余力がないように見えますが」

「…………」

 彼の言うとおりだ。私にはもう力は残っていない。

 だが、戦う選択肢は残っているのだ。

「やるよ。カードが残っている限り……!」

 私は拳をより一層強く握り、上級魔法を展開させた――。

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