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015 「――会いに行かなければならない」

 いくら揺すっても彼は目を覚まさなかった。いくら呼びかけても、彼は返事をしなかった。

「雄也! 雄也!」

 それでも必死で呼び続ける。力が抜けて少し重い頭を持ち上げて。

 心臓に手を当ててみたが、何とか呼吸はしているようだった。肩を大きく傷つけたようだったが、致命傷にはなっておらず――いや、なっているのだけど、私の少ししかない回復魔力で保てるレベルだった。

「少しだけ、休んでてね」

 雷魔法だけを磨いてきた私だけど、それだけじゃ危険だ、とルメナに回復魔法を一時期教えてもらったことがあった。いやいや覚えたような魔法だったけど、今回ばかりは役に立った。

「で、どうするの? 降参するなら今のうちだけど」

 この一連の流れでかなり余裕の出来たグリード。その様子は口調からも窺える。

 ここで負けて、もしくは逃げてしまえば彼はすぐさま上に昇っていった剣哉を追いかけるだろう。剣哉には悪いけど、とても敵う相手じゃない。漆黒剣を最大限に活用できない剣哉にとっては。


 だとしたら私がここで粘るしか方法はないのだ。

「降参? そんなことするわけない」

「ということはあなた一人で戦うと?」

「……そういうことになるね」

「残念ながら、たとえ魔法が達者でも、女の子に負けるほど弱くはありませんよ?」

 そう。私は力量だけではグリードには敵わない。魔法で何とか対等に戦えるが、あの速さを見せつけられてしまってはどうしようもない。彼にとって先ほどの相手は所詮人間。おそらく、力を全然使ってなどいない。そうなってくると、相当な魔法力で攻めていかなければならない。

「強弱なんて今は関係ない。あなたを倒せればただ好都合なだけ」

 私は雷を右手に纏わせた。早くこの戦いを終わらせてしまおう。その思考がどんどん私を急かしていく。


 それよりも、何よりも、雄也をこんな状態にしたグリードが憎かった。

 今まで、私が話したことを真面目に聞く人なんていなかった。サファイアボルトを拾っても、魔界やら暗黒界やら信じられずに去っていく人が全てだった。それもそのはず。人間に魔界なんて言っても信じるわけがない。ただゲーム設定に憧れている、としか思われないはずなのだ。

 ――それでも、雄也は話を聞いてくれた。

 疑いが完全に無かった、というわけではない。もちろん、彼にも疑いというものはあっただろう。それでも話を聞いてくれた。魔界が危ない。それだけを言うと、何も言わずについて来てくれた。そして魔界への扉を開くと、疑いという気持ちを全て消し去ってくれた。


 そんな人、初めてだったから嬉しくてたまらなかった。

 だから、この人を死なせない。どんなことがあっても、死なせない。

 そう誓ったのだ。


「だから……好都合なんて考えずに、私はあなたを倒す。雄也が願う友人の幸せを、叶えるために」

 右手に溜めていた電気を、思い切り、グリードに向かって発射した。


 ◆

 ◆

 ◆


「どうしました? 逃げてばかりでは勝てませんよ?」

「んなこと言われてもっ!」

 俺とキファルガスの側近、キサラが戦闘始めて数分。俺はただ逃げ回っていた。ゴキブリを見つけた女子くらい逃げ回っていた。

 威勢よく漆黒剣を抜いてみたものの、相手と一度剣を交えただけで筋力差が分かってしまった。シャープペンシルばっか握っていた俺に筋力があるわけなくて。あっさりと押し負けてしまった。それどころか、キサラの刃は地面をも切り裂いてしまって、四階のフロアが見えてしまっていたのだ。

 そんな奴に勝てるはずがない。

 というわけで逃げ回っているのだ。


 いや、しかし本当にどうしよう。セイラたちが来るまで待つか? いや、あっさりセイラが勝ったとしてもそんなに早く来れないだろうし、何よりそれまで俺の体力持たないし。こうなったらこの人が馬鹿なことを祈って――。

「あ、UFO!」

「乗り物ではしゃぐほど子供ではありません」

 うわぁー、めっちゃ大人だったー。というかこの人の中でUFOって珍しくないのか? 車みたいに乗り物って言いやがって。

「助けを求めているようですが、それはありません。グリードがたとえ負けるようでも、そんなに簡単には敗れませんから」

 なぜ心が読める!? ……じゃなくて、やっぱりそう簡単には行かないか。

「あなたも分かっているんでしょう? 先に行く方法は、あなた自身が私を倒さなければいけない。ま、最も、あなたの気持ちが中途半端なものだったら知りませんけどね」

 逃げ回る俺に呆れ始めたのか、手より口が動くようになっている。

 そう、俺はこいつからも、戦わなければならない現状からも逃げているんだ。逃げちゃいけないなんて言われなくても最初から分かっている。でも、ここで下手に動いて死んでしまったら元も子もない。

 ――こんな時、力があればなぁ……。

 力があれば、こいつも倒して、すぐさまキファルガスの元に足を運ぶことが出来るのに。生まれて初めて人間であることを後悔している。

 ……ただ、こいつは言葉を間違えたようだ。中途半端な気持ち? そんなものでここまで来るものか。絶対、ルメナを助けなくちゃならないんだ。

「そう――絶対に」

 もう逃げるのはやめよう。体は傷つかなくても、心がどんどん痛んでいく気がする。中学の体育教師が言っていたな。やらずに負けるならやって負けろ、って。暑苦しいとしか当時は思わなかったが。

 もう迷う必要はない。立ち向かってやる。今まで上の奴に勝負を挑もうなんて思ったことないけど、今回ばかりは挑んでやる。傷だらけになっても、死にかけても、役に立たない体を無理やり動かして君の元へ行く。


「あああああああああああああああああ!」

 漆黒剣を右手に構え、キサラの方へ向かって走った。全ては、この刃であいつを切り裂くために。

「やっと来ましたか。ただ――」

 自分の最大限の力を使って、思い切り漆黒剣を腹部目掛けて振った。これならあいつも少しくらいはダメージを食らう――。

「――攻撃方法が単純すぎです」

 ――はずだったのに。剣先は何かに触れた感触はなく、ただ空気を切り裂くだけ。そして、当のキサラは俺の背後に回り込んでいた。

 ただでさえスピードで勝てないのに、重心が前へ行っているせいで体勢が整えられない。

「残念でしたね」

 キサラの銀の刃がどんどん迫って来て、やがて俺を切り裂く――瞬間。


 脳裏で色んな事が過った。

 このまま死んでしまうのか。こんなところまで――次元を超えてまで君を助けに来たのに、死んでしまうのか。

 思えば十年前、君と初めて出会った時。あの日が俺の唯一、理由なしで塾を休んだ日だった。あの美しい容貌に惹かれ、全然関係のない駅で降りてしまった。あれから一度も忘れたことはない。話したこともないし、目があったこともない。なのに、ずっと思い続けていた。

 君が存在するだけで、僕は心を癒すことが出来た。救われた。なら、今度は俺が、君と君の愛する魔界を守る番だ。

 だから、負けたくない。いや、負けてはいけない。こんなところで、最後の敵に出会う前に敗れるわけにはいかない。絶対に――


 ――会いに行かなければならない!


 そう心の中で強く叫んだ。これが心の遺言だとしても、意志は最後まで持ち続ける。

 すると、俺の右手が黒く光り出した。いや、俺の右手が光っているんじゃない。漆黒剣が、絵にかいたような黒い光を放っている。

「な、何だこれは!?」

 予想外の出来ごとにキサラも思わず声をあげている。


 ――守りたいものがあるなら、剣を振れ。

 どこかそう剣が喋りかけているような気がして。俺は何も考えず、グリップをしっかりと握った。そして、意志と声の赴くままに薙ぎ払った。

 黒の衝撃波が剣先から飛び出した。それは一直線にキサラの方へと向かっている。目にも留らぬ速さでキサラに襲い掛かり、やがて大きな爆発が生じた。

「……ほえ~……」

 ポカン、とするしかなかった。今までただ色が黒いだけだった剣が、急にこんな威力の大きい技を放ったら、そりゃあポカンとするしかない。

 煙が引いた時には地面に倒れているキサラの姿があり、動く気配はなかった。

「とりあえず……勝ったんだよな……?」

 フェイントかもしれない、という推測が体中を流れたが、今となってはどうでも良い気がする。

 ――昇るか。

 俺は倒れているキサラのいる5階を後にし、キファルガスと囚われのルメナがいる最上階へと足を運んで行った――。

 おうおう、物語ももうすぐクライマックスでございます。

 次回はおそらくセイラ戦闘オンリーになると思います。よろしくお願いします^^

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