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六体目 無能力での戦い

「なんで……? くそっ何でだよ……!」


俺は焦っていた。何故か能力が使えない。どんなに頭で思っても全くあの時の感覚がない。

このままだとただの一般人と何も変わりない、戦闘力なんて以てのほかだ。


「どうした! 青柳 俊二よ! 能力なんぞ使わなくとも私に勝てるとでも?」


末次が右の拳を思い切り突き出してくる。


「うおっ! 違うっ! 能力が使えないんだっ!」


間一髪のところで攻撃を避け拳が空を切る。

そう思ったが……


「ふんっ!」

「が……は……っ!!」


甘かった。左拳が高速で振りぬかれ鳩尾にめり込む。身体からメキメキと嫌な音が聞こえる。

しかも、この籠手ただの籠手じゃない。微弱ではあるが間違いなく振動をしている。

振動で身体が震わされて視界が眩んできた。


「能力が使えないだと? 甘えた事をぬかすな! そんな言い訳が戦場で通じると思っているのか?」

「くっ……」


反論をしたいが、さっきの一撃が身体に重い痛みを残してくれているおかげで出来そうにない。

それに悔しいが、あいつの言う事は正しい。確かにそんなのは向こうからしてみれば無抵抗の相手を殺すチャンスでしかない。

ましてや、それが自分の目的の物だったとしたら。そんなチャンスをやすやすと逃すバカがどこにいるだろうか?

むしろ、この場合はそんな理由で相手に情けをかける方がおかしい。


だが、能力が使えない以上末次に勝つのは不可能に等しい。

しかし、その倒すための能力が今何らかの理由で使えない。これじゃ負の無限ループだ。

焦りと恐怖からか、冷や汗がぽたりと滴り落ちる。そして、それを合図にしたかのように末次が口を開く。


「俊二よ、主が先ほど私に堂々と口にした信念とはその程度のものなのか! たかが、力の一つが使えなくなっただけ。

 主はもしここにあの娘がいたらどうする? 

 もし、その状況で能力が使える状態でいて腕が一つ吹き飛ばされたらどうする? もう無理だと諦めるのか!?」 


「…………」


もし、鈴がここにいて、能力も使えて、それでも末次に敵わなくて腕が一本吹き飛ばされたら諦めるかって?

……そんなの決まってるだろうが。


「俺は……何が何でもあいつを守るって決めたんだよ……だから、絶対諦めない!

 例え、両腕が吹き飛んでも、意地でもお前を倒して鈴を守る!」

「………ふっ、分かっているではないか! 

 そう、言ってみれば今の状況は片腕がなくなったのと同じ事。

 主のその信念ならばそんなもの大したハンデにもならないはずだ!」


全く……敵に叱咤激励されて立ち上がるとは……


「はあ……あんたは、ホントに敵なのかよ?」


皮肉を交えて笑いながら問いかけてやる。一応感謝の気持ちもこめて。


「ははっ、よく言われる」


だが、末次は大して気にも留めない様子で笑い飛ばす。

しかし……毎回戦う相手にこんな事してんのか。なかなか大変だな。

まあ、何にせよ俺もこれで戦える。

能力は無いけど、そんなこと言ってたら大事な時に鈴を守れなくなるからな。

さて、ここは気合いを入れる為に敵ながら末次の言葉を借りるとするか。


「ふう……よし! 青柳 俊二 行くぜ!」

「それでいい。だが、私も手加減は嫌いでな! 本気でいかせてもらう!」


地面を蹴って末次の元まで一気に駆ける。

能力を使っている時に比べたら歩いているのと変わらない速度だが、これが俺の今の全力だ。

軌道もロクに定まっていない拳を、末次に向けて叩きこむ。


しかし、拳は末次に届く事は無く、飛んできたボールをキャッチした時ほどの軽さで簡単に止められる。


「そのような拳では私には届かんぞ!」

「え? ……ってうわあっ!?」


末次の言葉と共にいきなり視界が上下逆転したかと思うと、身体がブン!と軽々投げ飛ばされる。

強い衝撃を身体に受け地面に落ちるが、幸いにも芝生の所に落ちたからか痛みはほとんど無かった。


「くっそ……これじゃ、近づくことすら出来ない……」


というよりもそもそも、能力以前に末次とは力の基礎的な部分で勝てる気がしない。

背の高さもそうだが、何よりあの筋骨隆々が決定的な力の差を表している。


「どうした? もう終わりなのか?」

「そんなわけ……!」


すぐに立ち上がって今度は末次の足に目掛けて一直線に走る。

足を払って倒れさせるという算段だ。少々ズルな気もするがそれは仕方がない。

これだけ戦力に差があるんだ。多少の事には目を瞑ってもらおう。


「これで……どうだ!」


末次より少し前の所でスライディングして一気に距離を詰める。これなら掴まれて投げられる心配もないだろう。

しかし、やっぱり甘かったみたいだ、相手が能力を使えるという事を忘れていた。

末次が両の拳を使い地面を叩きつぶす程の力で殴ったかと思うと、轟音と地響き、そして途端に周囲が揺れ始めた。

そのまま、俺の身体は揺れに巻き込まれて態勢を崩してしまう。


「ふむ、私の足を狙って倒れさせようという魂胆か。

 考えは評価しよう。だが私には通用しない。私は腕に超振動を起こす事が出来る。

 それが私の能力だ。その気になればこの広場を沈めることなど造作もない」


マジかよ……そんなの反則だろ。俺はこの広場にいる限りあいつの攻撃範囲にいるのと変わらないってことかよ。

ちなみにこの広場は全周400mぐらいだ。つまりあいつの攻撃範囲は400m。そう思って戦えってことだ。


けどそんなの今さらだ! こうなったら絶対一発あいつに入れてやる。

揺れだろうが何だろうが知ったことじゃない。


「……揺れ? ………そうか」


ふと頭に一つの作戦が思い浮かぶ。 ………成功するか分かんないけどやってみるか。


「よし!」


腹を括りさっきと同じように走りだす。そして、また末次に向かってスライディングをする。


「またそれか……何を考えているかは知らぬがそれは通用しないと言っただろう!」


こちらもさっきと同じように両拳を地面に叩きつけようとする……


「それを待ってた!」

「何!?」


拳が地面に到達するより速くスライディングの姿勢から一気に態勢を変え、ジャンプする。

地面に拳が叩きつけられ揺れが起こるが、空中にいる俺には関係ない。

目の前には両腕を地面に突きつけ、呆気に取られて驚いた様子の末次の顔。


「今までの仕返しだ! 受け取れ!」


今度は狙いを定めて的確に顔の中心に拳を叩きこむ。

堅い……さすが身体が大きいだけのことはある。鉄を殴っているみたいだ。

だが、このチャンスを失うわけにはいかない。

拳に出せる限りの全力を注ぐ。握りすぎて爪が皮膚に食い込み、血が滲み出てきたが気にしている暇はない。


「いっけえええええ!!!」


腹の底から雄叫びをあげ、一心不乱に拳を振りぬく。

遂に末次の巨体が揺らぐ、そのチャンスを逃さないよう、更に拳に力をこめる。

片足が浮いた! あと少しだ。これが決まればあいつにも相当のダメージが入るに違いない。




だが、現実はそう上手くは行かない。

いきなり末次が動いたかと思うとそのまま態勢を立て直し、その反動で俺は後ろに吹き飛んだ。


「はあ……はあ……俊二よ……主の一撃、中々効いたぞ……。だがな、私にも信念がある。

 私は曲りなりにもドールズで上の立場に立つ人間……組織の為にもこれしきの事で倒れるわけにはいかんのだ……」

「嘘……だろ……? あれで、倒れてないのか……?」

「嘘では……ないぞ……見ての通り私はこうして立っている……。これが……私と主の力の差なのだ」


そう言う末次は顔から血を流してはいるものの、足元は全くふら付いた様子はない。

意識もはっきりとしているし、言葉も普通に話せている。

俺の全力の拳もあいつにはどこかにぶつけたぐらいでしかないって事かよ……

そう認識した途端、一気に身体から全ての力が抜け落ちてその場にへたり込んでしまう。


「ふむ、主はもっと出来る男だと思っていたのだがな。私の見込み違いか。

 なら仕方がない。少々名残惜しいが主には死んでもらうしかないな」


横で末次が何か言ってるみたいだが、もう何も頭に入ってこない。

俺は魂の抜けた、ただの人形のようにその場で下を向いてただ座りこむ。


「主よ………もう私の言葉も届いてすらいないのか……」


少し悲しそうな顔をして拳をこちらに構える。止めをさすのか……


「はあっ!」





「やめてください!!!」

「「!?」」


不意に思いがけない方向から今日一日ですっかり聞き慣れた声が聞こえてくる。

その言葉がストッパーになって間一髪、末次の拳は俺の顔面目の前でその鋭い動きを止める。


「しゅ……俊二さんには……こ、これ以上近づかせません! 

 それでも来るのなら……わ、わた……私が……相手になります!」

「鈴……。なんで? なんでここに? それに俺みたいな何も出来ない奴の為にどうして?」

「……俊二さんは何も出来なくなんかありません! 私を守ろうとしてくれて、たった一人でここに来てるじゃないですか!

 俊二さんは……十分に私を守ってくれてます……だから……何も出来ないなんて……言わないでくださ……」


最後の方は涙と嗚咽でほとんど聞き取れなかったけど、ちゃんと俺の心には届いた。


「鈴……」

「うっ……うっ……俊二さん……ふえええ!!」

「ごめん! ごめんな、お前にそこまで言わせて……俺、馬鹿だよ本当」

 

鈴を強く抱き締める。小さくて細すぎる身体。俺が守ってやらないとすぐにでも壊れてしまいそうな身体。

でも、鈴はその小さな細い身体で俺を守ろうとしてくれた。こんなに恐怖で震えてまで……


「ふっ……主らは仲睦まじいな。主らを見ていると私も昔を思い出す。

 今日はいいものを見せてもらった。俊二の強さに主らの絆。そこで俊二、話があるのだが……」


そう切り出す末次。鈴が少しその巨体を見て怯えているが大丈夫と言って落ち着かせてやる。


「話? 何だ?」

「まあ、少し待ってくれ」


末次が言葉を紡ぐと同時に、近くにあった樹に拳をぶつける。


「にゃっ!」


すると、何故かリリアが猫の鳴き声に近い甲高い声をあげて落ちて来た。

リリアは確か鈴がいないと帰ったはずだが。俺の記憶が正しければ。


「痛ったーい! ……あらジミー君。そうね、キミの記憶は正しいわよ」

「えっ!? 俺、今声に出してたか!?」


そんな俺の驚く様子に末次は溜息を吐いてリリアの方を見る。


「……リリア。いつも他人の心を勝手に読むなと言っておるだろう……」

「えっ? あっ! そうね、忘れてた。ゴメン、ゴメン」

「心が……読める?」

「そっ! 私の能力よ。他にも念話とかテレポートも出来るわ」


すげえ……これこそ正に一般的な人が思い浮かべる超能力者だ。


「リリアよ、あの娘をここに呼びだしたのはお前だな?」

「あ、やっぱバレた? いやー、だってどうしても来てほしかったんだもん。このままだとジミー君死にそうだったし」

 ちょっとヤバいかな~って。ちゃんと、ここまでナビゲートもしてあげたんだからね。感謝してよ!」

「え!? あの声は貴女だったんですか!? 私、本当にびっくりしました……」

「あらら……ゴメンね、鈴ちゃん……でいいのかしら? 私はリリアよ。よろしくねー」


どうやら俺の知らないところで勝手に話が進んでいたみたいだ……しかし、ついていけん。


「ははっ、俊二よ。すまんなうるさい奴で」

「いや、面白い人だと思うよ」


ついさっきまで殺し合ってたのに今こうして平和に話してるってのは不思議な感覚だ。

銀の時はあいつが常に殺気を放ってたし。


「それで話って?」

「おお、そうだったな。話というのはだな」







「私たちを俊二の仲間として迎えてほしい」

「…………………え?」





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