表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

四体目 初めての日常

「最初に言っておくわ、下手な隠しごとや嘘はやめてね」


ただいまリビングで話し合い中。いや話し合いというよりはむしろ詰問かもしれない。

テーブルを挟んで俺と鈴、向こう側に咲が座っている。

そしてその咲から、どんな嘘で切り抜けようかと思えばいきなり禁止令が出てきた。

仕方ない、ここは無理やりにでも嘘で切り抜けるしか……


「いや実はこいつ、家の親戚の娘でさ……」

「あんた、親戚との付き合いないでしょ」

「…………」

「す、すまん間違えた。俺の古い知り合いの娘さんだった……」

「あんた昔から友達は夕しかいないでしょ」

「……………」

「あ、ああそうだ! 思い出した! 昨日いきなり見知らぬおっさんに娘を頼むって……」

「……ねえ俊二、何があったのか深くは聞かない。だから少しでいいからお願い」


そういう咲の顔はかなり真剣だ。

まったく、いつもはキツイことばっか言ってくるのにこういう時だけ優しいんだよな。

まあ、それがこいつの良い所なんだけどさ。


「……はあ、わかったよ。負けた。ただし、詳しくは話せないぞ。何せ俺でもほとんど理解できてないからな」

「大丈夫よ、私だってそんなに他人のプライベートには踏み込まないわよ。例え俊二がロリコンだったとしても」

「おい、何か勘違いしてないか?」

「そんなことないと思うけど?」

「もういい。んじゃ説明するぞ……」


***************************


「……それホント?」

「明らかに嘘に聞こえるかもしれないが全て本当の話だ。なんなら鈴に聞いてみるか?」


説明し終えて咲の一言。まあそりゃ当り前だ。

この反応以外の反応をする人間はかなり少数派に違いない。

まだバカバカしいと笑わなかっただけマシか。


「え、えと咲さん……でいいんですよね?」


今までずっと黙って話を聞いていた鈴がおずおずと手を上げて発言する。


「ええ、そうよ鈴ちゃん」


対する咲はハキハキと鈴に対して返事する。

こいつには初対面同士の人間に産まれるあの独特の空気がないのか。


「あの、さっき俊二さんも言いましたがこの事は全部本当です。信じてください!」

「そ、そんなに頭下げなくても大丈夫よ! ちゃんと信じるから!」

「ホント……ですか?」

「うっ」


でたよ、鈴必殺の涙目上目遣い攻撃。名前には突っ込むな。

俺も何回かやられたけどあれ、そうとう来るんだよな。なんか、心に直接くるみたいな。

ちなみに言っておくが決して俺がロリコンとかそういうんじゃないからな。

あの様子だと咲も落ちたな。恐らく。


「俊二」

「何だよ?」

「さっき言った事全部信じるから……」

「信じるから?」

「信じるから、鈴ちゃんを私に頂戴」

「帰れ」


この展開、来るとは思っていたがホントに来るとは……鈴、なかなか恐ろしい女だな。


「ふえっ! 私、咲さんに貰われるんですか? でもそれで信じてもらえるなら……」

「いやいや、冗談だから! 落ち着けって」

「ねえ、俊二。鈴ちゃんを……」

「お前は少し黙ってろ」


駄目だ、なんだこの酷い状況は。鈴は勘違いしてるし、咲は完全に我を失ってる。

誰か、なんとかしてくれ……俺には無理だ。



その後、この状況は10分間続いた



**************************************


「よし、落ち着いたか?」

「はい、落ち着きました……」

「ええ……落ち着いたわ」


やっと混沌とした状況から脱することが出来た……誰か俺を褒めてくれ。

あの状況からここまで持ち直すのにかなりの労力と精神力を労したんだよ。

さて、やっと元に戻った事だし話も元に戻すか。


「話を元に戻すぞ。咲、お前はちゃんと話を信じてくれたのか?」

「失礼ねいくら取り乱していたとはいえちゃんと信じてるわよ」

「そうか、ならいいんだが」


ちなみに、咲には昨日学校の屋上で出会った事と鈴が記憶喪失ということしか話してない。


「ねえ、真面目な話になるけど鈴ちゃんの事……警察に届けたりしなくていいの?」


咲が至極まともな意見を言ってくる。

確かに普通なら記憶喪失の少女なんて学生の手に負えるわけがないからな。

ただ、今の状況で鈴を俺の元から離すわけにはいかない。また狙われたら助けることが出来なくなる。


「ああ、そのことか……それも考えたけど、警察に届けた所でどうせ施設送りになるだけだろうからな」

「ただ、鈴がどうしてもって言うなら……」


そういって鈴の方に向き直ると、目一杯に涙を溜めこんで首をふるふると横に振った。


「私、嫌です……俊二さんと離れるのは……」

「ああ、分かってるよ。ごめんな、言ってみただけだ」


慰めるために鈴の傍まで行って優しく頭を撫でてやる。

すると、さっきまで今にも泣きそうな顔をしていたのに途端に笑顔に早変わりした。

その光景を見ていた咲が呟く。


「全く、あんた達まるで親子ね。さっきの提案は取り消すわ。ただし、俊二あんたちゃんと鈴ちゃんの面倒見なさいよ」

「私だって出来る限りの事は手伝うから」

「悪いな、咲。助かるよ」

「べ、別に鈴ちゃんの為に手伝うだけよ!」


何故かお礼を言うと真っ赤に赤面してしまった。何かいけなかったんだろうか?

まあ、いいかそれに咲には早速手伝ってもらいたいこともあるしな。


「なあ、咲」

「なによ?」

「早速で悪いんだが手伝ってくれないか?」

「何を?」

「鈴の衣類全般の買い物だ」

「ああ……確かにあんたじゃ無理そうね、いいわ私に任せて」

「すまんな」


よし、これで朝から考えてた計画成功だ。結果的には意外な形だったけど。

それに、鈴が俺以外の人に慣れるいいチャンスだ。鈴には悪いがここは咲と二人で行ってきてもらおう。

俺はその間晩飯の買い物にでも行ってくるかな。


「そういうわけで鈴、行って来い」

「ふえっ!? 俊二さん来てくれないんですか?」

「ああ、俺はちょっと用事があるからな」

「そんな……」

「まあ、そんな落ち込むなって。すぐ会えるし」

「で、お金とかはどうするのよ?」

「ああ、それは俺が出す。お前に出してもらうわけにはいかないからな」

「ただ……服が無いから買い物に行く為の服を貸してやってくれ」

「仕方ないわね……それじゃ鈴ちゃん。一度私の家に行きましょ」

「おう頼んだ。じゃあ鈴、また後でな」

「はい……」


これが今生の別れかと言わんばかりの雰囲気を漂わせ鈴は咲と共に行った。

まあこれも経験だ鈴。強くなって帰ってこい。

んじゃ、俺もちゃちゃっと買い物済ませるかな。


********************************


「ふうっ、これぐらいでいいか」


晩飯の買い物終了。今は人気の少ない公園で休憩中。

俺って何故か人気の少ない所を好むんだよな。何でだろ?

まあ、そんなことはどうでもいい。それより、今日は鈴が来て初めての夕食だからな。

豪勢にしようとして少し買いすぎてしまった。まあ、咲も呼べばいいか。

夕は……まあ咲との相談次第だな。

ちなみに一人暮らししてるのでそこそこ料理は出来たりする。そんなに凝ったものは作れないけど。


鈴たちは……もう終わったのか? 咲にメールしてみるか。

携帯をポケットから取り出しメールの作成画面を開く。


『もう、買い物終わったか? 終わったら俺ん家来てくれ。晩飯ご馳走する』


こんなもんでいいか、送信と。

携帯を閉じポケットに無造作に放り込む。

さて、じゃあ帰って準備でもするか、そう思い歩き出そうとした途端


――待て、青柳俊二


後ろから忘れたくても忘れられない声が耳に響いた。


「お前……銀か!」


いつ襲われてもいいように身構える。しかし、目の前に現れた銀は手ぶらだった。


「だから待てって言ってんだろうが、バカが。別に今日は戦いに来たわけじゃねえよ」

「俺としては今すぐにでもお前を血祭りに上げたいがな」


相変わらず頭の中が物騒なやつだ。ただ、戦いに来たわけじゃないのか。

俺としても今から戦うのは厳しかったからちょうどよかった。


「じゃあ、何の用だよ」

「警告だ」

「警告?」

「一度だけ言う。耳の穴かっぽじってよく聞け。聞けなかったら……殺す」


おいおい、そりゃないだろ……。と思いつつもこいつなら本当にやりかねないので黙って聞くことにする。


「お前とあのガキはこれからも俺たちに狙われ続ける。何処に逃げようとな」

「ただし、お前があのガキから離れるってんならお前は今なら助かる。どうする?」


警告って言うぐらいだからどんな恐ろしい事を言い出すかと思えば。

そんなこと、考えなくても答えは決まってる。


「俺は逃げないし、あいつからも離れない」

「いいんだな?」

「ああ」

「そうかい、まあ俺としてはその方がお前を殺せるからいいけどな」

「せいぜい、俺に殺されるまでは生き延びろよ、じゃあな」


そういって颯爽と姿を消す銀。あいつこれだけの為にわざわざ会いに来たのか。

案外律儀な奴だな。まあ物騒なことには変わりないけど。


この事、鈴には黙っておこう。あいつを怖がらせることになりかねないからな。


~♪


おっ、メールが帰って来たみたいだな。どれどれ。


『今、終わった。これから、そっち行くから』


おっと、俺も急いで帰らないと。待たせたら怒られそうだからな。

鈴がどんな風に変身してるか楽しみだな。


********************************


「おお!? どちらさま?」


家に帰りついて扉を開けると、見知らぬ美少女が中にいた。

純白のワンピースに眼深く被ったお嬢様が被ってるような帽子。

とても綺麗な、空色の髪を下ろして腰まで届くほどのロングにしている。

それが雪のように白い柔肌と相まって本当のお嬢様みたいだ。

ただ、恥ずかしいのか服の裾をぎゅっと掴んでいる。

むしろその仕草がとても愛らしい。守ってあげたくなる感じだ。

でもマジで誰だ? 俺にこんな可愛い知り合いいたっけか?


「えっ……あの……えっと……」

「ちょっと俊二、あんたそれ本気で言ってるの?」

「お、咲か。いや本気も何もマジで知らないんだが……」

「…………えっ?……」

「本当に?」

「ああ、絶対だ。神に誓う」

「はあ……あんたは本当に……」

「…………うっ、うっ…ひっく……」

「え? え? ちょっと待て、何で泣いてんの!?」


いきなり謎の美少女が目の前で泣きだす。

見た所、我慢の限界が来てしまったらしい。我慢していた分、滝のように涙が瞳から零れ落ちる。

しかし、少女が泣くような事を一切した覚えがない俺は右往左往と慌てることしか出来ない。


「えっと何かよくわからんけど俺が原因なら謝る! ゴメン!」


こういう時はとりあえず謝っておくのが吉だ。何か誰かが言ってた気がする。


「ホントに……ホントに分からないんですか?」

「いや……そう言われても……」


分かんないものは分かんないからな……


「これでも……ですか?」


そういうと少女は深く被っていた帽子を脱いだ。

帽子を脱いだ時に髪の毛のいい香りが漂ってくる……って!


「うえっ!? 鈴!?」


嘘だろ……まったく気付かなかった。すごくよく出来たドッキリに引っかかった気分になる。

なるほど……道理で急に泣き出すわけだ。俺に気付いてもらえなかったからか。


「普通すぐに気付くでしょ! あんたどんだけ鈍感なのよ!」

「やっと、気付いてくれたんですね……よかったです……私、このまま気付いてもらえないのかと思って……」

「せっかく鈴ちゃんが頑張ってオシャレしたってのにあんたは救いようのないバカね……」

「いや! 少し言い訳をさせてくれ!」

「わかってます……私なんて、結局オシャレなんかしたって……」

「違う! 違うぞ鈴! お前は凄い可愛かった! うん、認める!」


このまま行くと鈴が鬱になりかねない空気を醸し出していたため急いでフォローに入る。

って言ってもさっき言った事は全部本音なんだけどな。まあ恥ずかしいから言わないけど。


「嘘です!」

「ホントだって。可愛いよ鈴」

「ホントのホントですか……?」

「ああ、ホントのホントだ」

「……そうですか! よかったです!」


ふう……なんとか、鈴も落ち着いてくれたか……。悪気がなかったとはいえ鈴には悪いことしたな。

さて、お次は魔王こと咲さんのお説教タイムですかね。

こっちは鈴みたいに単純にはいかないぞ。咲は怒ると聞く耳持たないからな……

それとさっきから指を鳴らす音が聞こえてくるのは何でだ。暴力はやめろ、暴力は。


「俊二~」

「な、なんだ?」


やばい、声が優しい! というよりいつもと明らかに喋り方が違うんですけど。

俺の本能が激しく告げてくるここから逃げろと。うん、俺も出来る事なら全力で逃げたいよ。


「これからどうなるか……分かるわよね?」

「いやーちょっと分かんないかな……」

「そう、だったら……私が直接体に分からせてあげるわ」

「えっ! ちょっ! 待てって! ……ぐはっ!」


これからはよく人を見てから話しかけよう。これ家の家訓にしようと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ