一体目 出会い
「はあー」
大きな溜息を対照的な小さな口から放つ。
今は世界史の授業中、老教師の歴史に関するトリビアを聞き流しながら窓際の席から外を眺める。
俺、青柳俊二はここ久々津町に存在する柳林学園に通う普通の高校生。
特に秀でたものは無い。体力、頭脳共に平均レベル。
顔も人並みだとは思う。彼女なんてものはいたことないけど。
まあ、変わったところがあるとすれば、
両親が俺が小さい頃に事故で他界して、今は俺一人で両親の残してくれたお金と家で生活している。
今時には珍しい家が隣同士で幼少時からの幼馴染がいること。
それと今、俺の隣りの席で教室の半数には聞こえるであろう大きないびきをかいているこいつ、柿本夕と友人ということだ。
だけど俺が変わってるわけじゃなくてこいつが変わってるだけなんだけど、まあそれは後で追々話す事にする。
なんて、余りの暇さに誰が聞くでもないが長々と自己紹介をしてみる。もちろん心の中でだ。
――それでは今日はここまで
お、ちょうど授業も終わったみたいだ。老教師が荷物をまとめて教室から出て行く。
さて俺も飯の準備……の前に隣のうるさい奴を叩き起こさないとな。
クラスにも俺にも騒音が迷惑になって仕方がない。
「おい、こら起きろ」
さっきの宣言通り、振り上げた手を勢いよく脳天に合わせて叩き落とす。
鈍い音が辺りに響き、じんわりとした痛みが俺の手に響く。
少しやりすぎたかもしれない……
「まあいいか。夕だし」
「よくないよ! 痛いよ! しかも夕だしって何!?」
起きぬけから元気な奴だな、寝てたと思ったらいきなり飛び起きたよ。
そしてどうやらさっきの呟きは心の中だけに留めておいたはずなんだが声に出ていたらしい。
「気にするな、ただの本音だ」
「ヒドイ! ヒドイよ! せめてもう少しオブラートに包んで!」
うるさい奴だな、我が友人ながら鬱陶しく感じてきた。
まあ今のは冗談のつもりだったんだが、こいつは寝起きなので本気に捉えているみたいだな。
これ以上長引かせると昼飯の時間が無くなってしまう、そろそろ終わらせるか。
「ねえ! さっきの言葉嘘だよね! 僕たち親友だよね!」
「うるさい、落ち着けさっきのは冗談だ。さっさと飯食うぞ」
「あ……なんだ冗談かビックリした~まあ僕と俊二の仲だもんね。
そんな事あるわけないない! 学食でパン買ってくるから待ってて!」
僕以外の奴と食べるなよ~と反吐がでそうなセリフを笑顔で吐いて夕は教室から出て行く。
……一人になって初めて気づく。クラスメイト、特に女子からの変な視線が怖い。
くそ、あいつ帰ってきたら全力で無視してやる。
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「さて、どうするかな?」
夕を全力無視しながら昼飯の時間を堪能し、教室から出てくる。
後方の教室付近から聞き覚えのあるような謝る声が聞こえる気がするのは
満腹になって眠くなったことによる幻聴だろう。きっとそうだ。
当てもなくふらつくかなーと残りの昼休みをどう有効活用するか考えていると
―――助けて
「!?」
なんだ!? 今の! 脳に直接語りかけてくるような感覚。
辺りを見回してみるが、俺の近くに人はいないし、さっきまでいた気配もない。
じゃあ今のは一体誰が!? ああっ駄目だ! 頭が混乱して思考が働いてくれない。
まずは落ち着け……考えるのはそれからにしよう。
落ち着くためには深呼吸だ。息を吸い込み小さく吐きだす。
「ふうっ、落ち着くまではいかなくても気休め程度にはなったか?」
さて、さっきの声? について考えてみるか。
とは言っても情報なんてものはさっきの奴しかないんだけど。
この際誰が言ったかなんて関係ない。何処から聞こえてきたかが重要だ。
場所が分かれば声の主もそこにいるはずだから。
……………
「だが、分からん」
当たり前だ。俺はどこぞの天才探偵でもないし、ましてや超能力者でもあるまいし。
一端の学生の俺には色々と無理がある問題だ。
少し気になるが分からないものは仕方がない。諦めて教室にでも戻って昼寝するか。
そう思って教室の方向へ踵を返そうとした瞬間。
「ねえねえ、さっき屋上で何か変な音しなかった~?」
「ん? 何か、工事でもやってるんじゃない?」
「そっかー、まあ別にいっか。それでね……」
ふむ、屋上か……行ってみる価値はあるな。
これで駄目なら諦めよう。これが吉と出るか凶と出るか…少し楽しみだ。
屋上への階段を駆け上がる度に気持ちも弾む。
何かありそうな予感がする。子供の頃に戻った気分になる。
案外俺も子供なのかもしれない。