零体目 プロローグ
「いやっ……来ないで!」
目の前には見知らぬ男が武器と思われる鎖鉄球を持って迫ってきている。
なぜ私はここにいるのか、なぜこんな事になっているのか分からない。
ただ意識が覚醒した時には私はここにいた。
「なんで……?」
誰に問いかけるわけでもなく疑問が呟きになって唇から漏れる。
すると、目の前の男が呟きに気付いたのか、反応する。
「なんでって、そんなこと別にお前が知る必要ないんだ……よ!」
言葉が終わると同時に男が軽々と1mはある鉄球を片手で振るう。
鎖が独特の音を響かせ、全て伸びきる頃には鉄球が私の身体まで到達してくる。
それとともに私の身体は重量感と強い衝撃に襲われる。
「うっ……」
轟音と共に私の身体は背後の障害物にがむしゃらに叩きつけられた。
ぐにゃり、と障害物が私の身体の形に合わせて曲がる音が聞こえる。
「か……はっ」
途端に息が苦しくなってくる。さっきの攻撃で身体が相当なダメージを受けたらしい。
真っ赤な鮮血が雨のように身体から滴り落ちる。段々、意識まで朦朧としてきた。
……なんで私はこんな目にあっているの? ……何も覚えていないのに。
……何で?
薄れゆく意識の中で誰かに届く事を信じて言葉を紡ぐ。
誰か……誰か……
「助けて……」