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第九話 パーティーを募集しよう!

「何時でも来るといい。今は無理でも、鍛錬を積めばお前に任せてもいいかもしれない」


 ステータスを振り終わり、ついでにスキルも取得。メニューの課金ショップからアイテムを購入した後。出されていたパスタ。恐らくはボンゴレの亜種と思わしきものを胃に詰め込み、三十銅貨支払い店を出ると、俺の背に店主の声が届く。

 慌てて振り替えるが既に扉は閉まった後。思わず僅かに前に垂れている髪を全て後ろに掻き流し、ガシガシと頭を掻いてしまう。


「まさか裏クエの店だったのか?」


 裏クエ。クエストは大抵クリアすると報酬とは別に、“名声”と呼ばれる値が増えていく。これには表と裏の二種類があるんだが、裏。

 言わば薄暗い汚い闇の世界の名声。それを上げる為のクエストは通常では先ず受けられない。その理由が先程の店だ。

 テストでも中盤で判明した事実なのだが、あの店、始まりの街にしか存在しない。そして一定のレベル以上で訪れる事でイベントが発生。

 それによって裏クエと通常呼ばれている、裏の名声を上げるクエストが受注できるようになるって訳だ。


「まっいいか。確か十レベが条件だった筈だし、次に来るときにそのレベルになっていればいい」


 そう俺は結論し溜息を零す。なんせ、店主はもとより“場所”も内装も変わっていたのだ。驚かない方が可笑しいだろう。きっと裏クエを知っている者なら店を探す筈だが、元の場所にはないだろうから驚くに違いない。

 と言っても。この情報をネットに流すつもりはなかった。今の時代、貴重な情報は秘匿するのは基本。かなり昔にあった、攻略サイトなどは廃れて等しかった筈。

 完全にその手のサイトが無いわけではないが、それらは大抵電脳用であり。しかもアクセスコードを知らないと出入り出来ないような、一見様お断りの仕様である。

 それすらも情報量的には昔より数段劣るものであり。基本情報は己の足で探すのが当たり前。だからこそ、VRMMOでは情報は価値が高い。それだけでレアなアイテムと交換できてしまうくらいにだ。


「だからこそ。俺も情報を無料で公開するつもりはないんだがな……」


 テストでの情報。その基本は既に公にされているが、それでも特殊なものなどは未だ一般には漏れていない。

 その多くを俺は握っているつもりだが。百パーセントではないだろう。レア中のレア。最高レベルの情報の多くは未だ個人の手の中と考えるのが妥当。

 尤も。情報の大半は俺の手によるものではなく、テスト時における“仲間”達の活躍が大きいのだが――――


「さって。腹も満たしたはいいが、お陰で懐は寒い。どうするかな」


 支払った銅貨三十枚は今の俺では決して安くない。表記では三十B。Bはブロンズ。その銅貨が五十枚でシルバーのS。そして更に五十枚でゴールドのG。

 ありがちな設定だが一応理由がある。最初の超文明である黄金時代からGを。次の超文明である白銀時代からSを、そして現在の残滓が残る青銅の時代からBと、それぞれ取られているとのこと。

 銅貨は俺の見立てでは一枚二十円弱。そして初期で所持している持ち金はなんと一S。つまり、残りの残金二十B。四百円ばかりと言う無残な状態だ。

 正直、店のパスタはかなり高額だった。ゲーム内での平均なら恐らく同じものでも十五銅貨で買えた。店を見つけたのは幸運だが、財布には重い一撃を見舞ってくれたものである。まぁ、美味かったが……


「となるとレベル上げは無論。資金稼ぎもしなきゃいけないな」



 そうなると取れる選択肢は多くない。RMT――リアルマネートレードと言い、現実の金でゲーム内の金やアイテムを購入――しようにも、未だ始まったばかりでそれも無理だ。

 となると地道に魔物を狩って、落とす金かドロップ品を捌くか、だが……第三の選択肢がまだある。それこそ効率的には一番いいだろうと言える、“重複クエスト”。

 重複クエストは、通常のクエとは違い、何度でも受けられる特性がある。名声などはその分低いし、報酬も大抵金や経験値だけだが、これはソロでもパーティでも効率として段違い。

 これを受けず魔物を狩る奴は正直MMOを知らないだろう。非効率に過ぎると言っていい。まぁ、経験値だけなら、パーティで格上を狩る方法もあるのだが、野良だと連携の関係でキツイし、それなら重複の方が妥当と言えた。

重複なら資金も名声も稼げるし。後々の苦労が軽減出来るのも嬉しい。名声値が低いと受けられないクエストも多く、稼げる時に稼いでおくのが鉄則だ。



「となると善は急げだな」


 店から歩き、五分ちょい。中央広場の一角に辿り着くと、俺はそのまま円の端に一定間隔で置かれたベンチに腰掛ける。

 そのままメニューを開き“チャット”と言う項目を選択。すると音声チャット、文字チャット。専用のチャットルーム等が項目に現れる。

 その中から文字チャットを選択。そうすると一つのウィンドウが目の前で物質化する。次々と変化していく画面をよく見れば、それがプレイヤーが発信した言葉だと分かるだろう。


「やっぱ募集系は殆どまだ居ないか……自分で募集主やるしかないな」


 ウィンドウ左下の小さな長方形の枠。“全チャット”と表示されているのを確認し、その横にある枠をタッチ。するとウィンドウが真下に拡張され、その部分がキーボード化する。

 音声チャットなら口に出した言葉がそのまま文字に変換され楽なのだが、たまに妙な変換ミスが出るので、未だなぜかこの古典的なやりとりは根強い勢力を誇っていた。

 

「まぁ。レベル十までは一次職に就けないし。枠は適当でいいよな」


 カタカタッと。実際は音なんてないが、そんな気持ちでキーボードを打ち込んでいく。傍から見れば、きっと宙で可笑しな動作をする変態とでも見えるかもしれない。

 考えてちょっと口元が引き攣るが。流石にこの手のゲームに参加しているプレイヤーなら察してくれるだろうと、そう思っておく。

 打ち込んだ文章を確認し、問題ないのを見てエンターキーを押し込む。


シャノン:こちらレベル一、職放浪者(ストレンジャー)。重複クエレベル上げPT募集中、@四。レベル差五以内であれば誰でも歓迎。囁き待ってます。


 と言う文がウィンドウを流れる。後はのんびり参加者から囁き。または笹、WISなどと呼ばれる、対象だけに直接チャットを送る囁きを待つだけだ。

 ふと。空をぼぉーっと眺めていると。森での時刻と今の時刻が違う事に気づく。森では夜だった筈なのだが、どうみても今は真昼頃。

 空は青々とし、僅かな薄い雲がゆっくりと移動していっている。特殊なフィールドでは時間が狂っている場合があると聞くが、もしかしたらあそこもその類かもしれない。


「んっ?」


フェアリー:もしもーし。聞こえてますか? ハロハロ! メイデーメイデー!? シャノンさんですよね? そうですよね。と言うか間違いないし。


 俺は何も見ていない。別にテスト時の知り合いで、妖精フェアリーなんて自称する奴なんて知らない。


「いい天気だ……睡眠欲求があれば眠たくなる日和だな」


フェアリー:あっ。もしかして放置プレイですか。そうですね? じらそうってことですね!? えへへへ。シャノンさんの愛を感じます……

シャノン:おい変態! 今何かもの凄く悪寒が奔ったんだが、ナニやった!?


 フェアリーのチャットと同時。形容し難い悪寒が背筋を舐め回し、思わず反射的にチャットを返してしまう。馬鹿が! これじゃあ、相手の思う壺だろうが俺ッ!

 内心で自分を罵倒するが時は巻き戻らない。それはこの機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナが支配する電脳世界でも不変である。


フェアリー:あっ! やっと反応してくれましたね! シャノン先輩はフェアリーにもっと優しくするべきだと思います!

シャノン:はいはい。お前のおふざけに付き合っている余裕は俺にはないんだよ。でっ? 重複するけど来るのか?

フェアリー:勿論です! シャノン先輩に合う為に私は正式にも参加したんですからねっ! 場所はどこですか? 箒星の如く刹那に駆けつけて見せますよ!!


 テンション高いなオイ。見てもいないのに、ノリノリでキーボードを打ち込む姿が想像出来るんだが……

 それに規模もあるが、箒星なんかが来たら死ぬぞ。俺も、お前も。

 残念ながら。こいつのPS――プレイヤースキル――は高い。ここで抜かすのは選択肢としてあり得ないとさえ言える。

 溜息一つ。俺は顔を顰めながらも現在位置を打ち込んだ――――





 

 

後書き


亀速度の展開に我ながら頬が引き攣る思い。申し訳ない。

主人公のブレが暗示といえど酷い。後から最初の方改訂するかもしれません。

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