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第六話 チュートリアル その二

 高揚感。恐らくは設定上とは言え、人外になった影響。そして胸に宿る熱き思い。これは暗示による効果。

 その二つを抱え、予想より随分と広い屋敷を駆け抜け数分。ようやく巨大なホールの正面にあった、真鍮製らしき両開きの扉を発見し、それを押し開く。

 ギギギィィィ――――と、幾分錆付いた音を響かせ世界への門が開く。窓から既に外の景色は確認している。最後にガコンッ! と重々しい音と共に完全に扉が両端に固定され、遂に外の世界へと辿り着く。


〔クエストを達成しました。該当クエストを確認して下さい〕


 再び響く女性らしき合成音声。そして宙をコミカルに踊るポップアップウィンドウ。今も感じる風の感触、音、周囲から漂う緑の匂い。空の彼方で瞬く夜の星々。虫の鳴き声……

 オープン時より一段とリアル性を増したようにすら思える光景だと言うのに、上記のウィンドウはそれらを見事にぶち壊し、この世界がゲームの中だと思い知らせてくれる。


(まっ、そうでもなきゃ、ここを本当に現実リアルだと勘違いしてしまう阿呆も出そうだからな)


 事実、一時仮想世界のリアル度が問題になった事があるのだが、そもそも電脳化時にかなり危ない内容も同意している為、一定レベル以上の現実性《リアル度》を持つ仮想へのアクセスは同意ウィンドウが出るようになっている。

 このゲームの場合、公式での同意と、アクセスコード購入の二点で確認しており、それらに同意したのなら何が起きても自己責任。

 流石に明らかに運営、ひいては統括AIに責がある場合は別だが、基本的には一切の責を運営会社は負わない。

 電脳化がかなり普及している今、それらは一般的な常識として浸透している。


「クエスト完了っと」


 クエスト覧からクリアしたメインストーリーを選び、完了と書かれたリンクを素早くクリック。アバターの周囲を幻想的な光の乱舞が覆い、ウィンドウにクリア祝福の文字が現れる。

 報酬がインベントリ――アイテムなどが仕舞われている道具袋――に追加された事が記述され、新たなメインストーリーが発生。

 先に初心者装備セットをメニューのインベントリから選択して使用。ウィンドウに防具と装備一式ずつ選ぶ項目が出現する。


「今回はどうも“肉体一筋”で行きたい気分だし。ここはやはり“拳”か?」


 前回はオーソドックスに片手剣に盾。これが前の戦闘スタイルで、大部分を防御に費やし、残りを攻撃や命中に当てていた前衛防御型だった。

 MMOでの俺のスタイルは火力――ダメージを効率的に与えていくスタイル――か壁――前衛でモンスターのターゲットなどを維持し、味方を守るスタイル――である。

 火力の場合も前衛火力。ようは戦士系ばかりで、どうも前線で肉体を使った戦闘の方が俺には性に合っているらしい。


「選んだ装備は初心者の皮鎧。初心者のブーツ。初心者の拳か。ついでにLポーション(小)五個も入ってたな。早速装備してしまおう」


 他にも色々あったが、この三つを選んだ。実際最初の装備もあって、余程変な装備を選ばない限りは問題ないだろう。

 メニューを呼び出し、装備覧から入手した装備を別ウィンドウのインベントリから選びドロップしていく。

 衣服が光子の群れとなり溶けるように消え、拡散するまえにまた集合。僅か一秒程度で皮の鎧、同じ皮製の編み上げブーツ。そして皮製の手袋となる。

 今まで来ていた衣服。貴族的だったソレはアイテム覧に表示されることもなく消えた。言わば一時の仮装備だったと言うところだろう。


「やっぱ皮鎧で正解だな。前回は鉄鎧を選んだが、動きにくくて大変だった……」



 軽く肉体を動かし、分身体アバターの感覚を馴染ませていく。よく急に歩き出してこける者が居るが、よく考えれば当たり前の事だ。

 なんせ今までとは違う肉体を使うのである、当然重心やら力の入れ具合が違う。結果覚束ない赤子のように転んでしまう。

 VRMMOをプレイする際の一種の通過儀礼と言われる、イベント扱いにすらなっている現象だ。そしてそれは現実と肉体の差異を大きくすればするほど顕著となる。

 だからこそあまり弄らないように俺はしているのだが。それでも僅かな違和感をこうして軽く肉体を動かす事で馴染ませていく。

 本来ならこんなに早く馴染むことはありえない。そこは全てデータの世界、アバター作成時にある程度の補助をデータとして受けている。

 具体的にはアバターの肉体も自分の肉体だと、そう言う情報が無意識下に刻まれるらしい。俺もその辺は門外漢の為詳しい事は分からない。



「こんなところか」


 十分ちょい肉体運動を屋敷の前で行い、違和感がほぼ無くなったところで止める。ついでに肉体の運動性能も大体把握した。

 精々高校一年か二年のレベルだろうか。現実の俺にさえ適わない。最初から成人レベルだと後半とんでもない事になるので、当たり前の処置かもしれないが、現実にさえ劣ると言うのはやはりもの悲しい。

 それでもレベルや装備を整えていった中盤以降の現実ではありえない万能感。超絶的な能力が齎す快楽は想像を絶するものがある。

 VRMMOをプレイするプレイヤーの何割かはそれが目的だと、そう言ってもいいくらいだ。


「さぁて。次のクエストの内容はっと――」


〔メインクエスト:動く死体(リビングデット)二〕

内容:君は無事に屋敷の外へと出る事が出来た。道中屋敷には誰にも合わなかったことから、恐らくは何かが起きたのだと君は推測する。

 途中持ち出した装備がある筈だ、装備していないのならするといい。メニューの装備欄にインベントリの装備をクリック&ドロップで装備出来るぞ。

 ――――君が準備を整えていると何処からか獣の遠吠えが聞こえてくる。段々と近づいてくる足跡……不味いッ! どうやらこれは野生の狼の足音だッ! 屋敷から漏れ出す血の臭いに誘われたに違いない!!

 このままでは君は狼に無残にも食い散らかされるだろう。記憶を失う前、君は戦闘を幾度もこなしてきた筈だ。恐れず立ち向かえ! 君は記憶と真実を取り戻す為、こんなところで立ち止まってなどいられないのだから!!


クリア条件:野生の狼の討伐〔三/〇〕

報酬:経験値五十.記憶の欠片



 ページの下部にある読了を押すとのと同時、どこからか不気味な遠吠えが響いた。闇夜を照らす月光の光。それは同時に屋敷と周囲の深い森を照らしている。

 群雲が空を覆い、星が瞬く幻想的な世界で俺は緊張感を高めていく。何せ初の戦闘。言わば俺にとってのデビュー戦。高鳴る心臓――――は停止しているが、熱く迸るパッションは本物だ!

 きっと鏡を見れば笑みを浮かべているに違いない。近づく遠吠え、この近さならもう森からいつ飛び出してきても可笑しくない。

 思考だけでメニューを表示、同じく思考選択でスキル覧を確認。そこに全職業使用可能な、放浪者スキルを確認し即座にショートカットに登録。これで思考内か、スキル名を口にするだけで使用が出来る。

 

「さぁ、来いよッ! 俺のデビュー戦の為に華麗に散ってくれ!」


 声に反応したのか、遠吠えが止み。一瞬の静寂が場を満たす。程よい緊張感が漂う中、ガサリ! と前方の茂みが揺れるのと同時、俺は拳を構えて走り出した。

 同時に姿を現したのは三頭の中型犬程の大きさを有する灰色の狼。所々汚れが目立つのが生々しい。

 こんな奴らに時間をかける気などない。なんせ、まだゲームは始まったばかりなのだから………





後書き


次回は初の戦闘シーン。戦闘シーンは苦手なので、お見苦しいものになるかもしれませんが、まぁ作者なりに頑張ってみようと思います。

と言っても、そんなに文字数はとらないと思いますが。


お気に入りや評価、感想をくれた方々には感謝の念が絶えません。現金な作者なものですから、やはりそれらは嬉しいものです。


次回でチュートリアル編は終了します。ここまで目を通して下さり有り難う御座います。

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