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第五話 チュートリアル その一

 意識が完全に空白に飲み込まれた後。気づけば俺は豪奢な部屋の一室、血溜まりの中で倒れ伏していた。同時に感じる微妙な倦怠感と、不思議な高揚感。


(っっ……目が覚めたら知らない部屋で、しかも殺人現場の殺された被害者のような格好だな)


 クリアになる思考。部屋中を満たす血臭に幾分気分が悪くなるが黙って黙殺。

 グッと肉体に力をいれ起き上がる。大理石のような石が嵌め込まれた床。その一面一杯に飛び散った血液が俺のものだと、そう訴えるかのような貧血によろりと立ち眩みを起こす。

 それでもここが“記憶に無い場所”だと言うのは把握できた。そこから考えられるのは――――


「ッッ……まさか、バックストーリーはテストデータを引き継がないのか?」



 何とかよろけつつも近くにある木製の品の良い椅子に座り込み口にする。

 直ぐには歩けそうもない。完全データ化の世界だが、一昔と違い仮想世界のリアル度は比較にならないほど向上している。今俺が感じている貧血もその賜物だろう。

 暫く椅子に座っているしかないと判断し、ついでに予想外の事態に思考を巡らせる。

 恐らく今起きている事態はバックストーリーのせいだろう。バックストーリー。その名の通り、過去話。あるいはその人物の背景的物語。

 実はアウターワールドオンラインの目玉の一つに、この“バックストーリー”が挙げられる。これはメイキング作成後、その設定から一定の方向性が選択され、その中から更に細かいランダム組み合わせによる、キャラの“過去の物語”が作成されるのだ。

 


 これによって開始地点がバラバラであるのだが、その膨大なデータ処理をここのメイン統括AIは苦もなく捌いているのだから凄まじい。

 このバックストーリーなどによって“メインクエスト”がプレイヤーそれぞれで変化する。まさに自分だけの物語ストーリーが綴られるのだ。

 異なる世界の名前の通り。自分と言う世界の他に、プレイヤーの数だけ主人公と世界が存在してると言えた。

 更に面白いのが。クエストなどでこの世界での知名度が上がったりすると、“他のプレイヤー”の“クエスト”などで自分の名前が出てきたりする。逆もしかりで、他のプレイヤーの名が自分のクエストに出たりもする。

 時間軸によってかなり矛盾が生じたりするのだが、そこはお約束。ゲームなのだからと言ったところなのだが、案内役のNPCの行動から思うに、他のNPCも甘く見ない方がいいだろう。見た目や話だけだとプレイヤーと変わらない可能性も高く、間違えてしまう事もあるかもしれない。



 まさかバックストーリーが変わるとは思っていなかったが、それはそれで悪くない。新たな“俺と言う”物語を楽しむだけだ。

 思考していると貧血が治まってきた。立ち上がり改めて周囲を見渡す。雰囲気は自宅の寝室に近いが、それよりも華美で豪奢。何かと言うと“理想”の中世時代の貴族の部屋と言った風情か。

 アウターワールドでの技術レベルは一言で言い表す事が出来ない。中世レベルの場所や、近代レベル、あるいは現代レベルのところもある。

 世界観的には今の文明は通算三度目となっており、過去には超科学文明、超魔法文明。それぞれ黄金期、白銀期。そして今の時代をそれらが風化し消え、名残だけが残る“青銅期”と呼んでいる。

 と、これはメイキング時に説明される世界創生をかなり端折った内容だ。実際はもう少し複雑な事情が絡むのだが、面倒で俺はあまり覚えていない。



〔メインクエスト“動く死体(リビングデット)”を受理しました。クエスト覧から詳細を確認して下さい〕


 急に脳内で合成音が響き、目の前にポッアップウィンドウが表示され、文字が躍る。


「なんだ。もう受理していると思ってたんだが、随分と遅かったな」


 大抵始まりの地はバックストーリー由来の地であり、最初のチュートリアル的なクエストはメインストーリーでもある。

 さてはて、俺の過去はどうなっているのか。多少の興味と、これから待ち受ける第二世代セカンドと目される世界への興奮が俺を包み込む。

 思考でメニューと強く意識すれば、そのプレイヤーにしか視認出来ない物理干渉の出来るホログラフメニューが出現する。

 

「と、これか」


 メニューにある一覧の一つ、クエスト。それに指を走らせると画面の内容が切り替わり、現在受けているクエストが表示される。

 クエストには四種類あって、一つは言わずもながらの“メインクエスト”。二つ目が“サブクエスト”。三つ目が“スペシャルクエスト”。最後が“ワールドクエスト”だ。

 一つ目の説明は今更だろう。二つ目のサブクエストは基本的にはメイン以外のクエストと言ってもいい。

 NPCから受けるクエストの大半はサブクエストになる。と言うか、スペシャルとワールド以外全て、と言った方がいいだろうか。

 そしてスペシャルクエストは名の通り、少し特殊なクエが多い。言わばレアクエストとかと言う区分だ。


 内容も難しかったり、特殊だったり、受注条件も様々だが、総じて報酬が破格なクエストとしてテストでは有名だった。

 最後は世界と付く通り、不特定多数の参加が可能な超大型クエストを指す。一般的には運営から出されるのだが、今回は統括AIが結構な頻度で出すと言われている。

 なんせ小型アップデートは告知無しで統括AIが管理するのだが、ワールドクエストもその範疇に含まれている。

 ワールドクエストも報酬が場合によっては破格であり、下手をするとバランスブレイカー級の品が出る場合も多い。 

 と言ってもレベル上限解放などであっさり過去の遺物になる事も多いのだが……



「今回の俺は“記憶が無い”のか。と言っても、場を見ればなんとなく出身の予想は出来るレベルだが」


 メインクエスト覧に表示された“動く死体(リビングデット)”。その内容は以下。


〔メインクエスト:動く死体(リビングデット)

内容:気づけば屋敷の一室で倒れていた君。訳も分からず部屋を探索するが見つかったのは、明らかに致死量の血液溜り。赤黒く変色したそれは、恐らくは君から流れ出たものだ。

 その事実に驚愕するものの、君は生きている。不思議に思い思わず心臓に手を当てて更に驚く。なんせ“鼓動”が聞こえない。そう、君はアンデットとして有名な、彷徨う亡者の仲間、動く死体(リビングデット)になっていたのだ!!

 更に驚愕の事実。君は過去の記憶を失ってしまっていた!!

 誰も居ない屋敷。一人だけ闇の住人となってしまった君。その真相を探らねばならない。そう決意を君は一人誓う。

 さぁ、先ずは屋敷を出よう。君は失った記憶と、これからどうするのかを考えなければいけない!!


クリア条件:屋敷の外へと出る〔一/〇〕

報酬;初心者装備セット



 微妙に漂うチープな香りは昔から続くMMOのクエストの説明による伝統と、そう言ってもいいのではなかろうか。それでもこのアウターワールドはマシな方なんだが。

 とにかく、これを見るにバックストーリーを知るにはメインクエストをこなしていくしかないようだ。

 これは少し特殊なケースと言えた。なんせ、大半がメニューの“バックストーリー”から己の物語を見る事が出来る。

 それが俺の場合、その項目が灰色になっていて選択できない。噂ならテストでも聞いていたが、まさか自分がその境遇に陥るとは思っていなかった。

 これが見れないからと言って、ゲーム進行にはなんら影響がないのは幸いだろう。すっかり治まった貧血、そして鼓動しない心臓。

 まぁ、無駄なところまで忠実に再現しているのがこのゲームの良い所だし、俺は好きだ。



「さってと。それじゃあ行きますか。っと、そう言えば今回のロールプレイ忘れてたな――――」


 クールでホット。そして戦隊バリの熱血。なんとも言えない要素だが、実践するしかない。それがマイルールなのだから。

 瞳を閉じ、今はデータで構成された己の自己を深く見つめる。何度も何度も己に言い聞かせる。刷り込みにも似た暗示。それが俺のちょっとした才能。

 カチリと、まるでスイッチの入ったような音が聞こえた気がした……


「よし。世界は舞台。俺と言う役者を引き立てる為にある。精々遊びつくしてやるさ。一先ずは屋敷を出ないとな」


 暗示の効果か、不思議と熱くなる思いに従い俺は部屋を飛び出した。






後書き


質問などがあったら積極的にどうぞ。先で説明予定の場合は答えられない場合もあります。

コンセプトのオンラインゲームがやりたくなる。を頑張ってみようと思います。

少しでもプレイしたくなったら作者の勝ちなんですッ(キリ


と、訳分からないことは置いといて、感想評価、誤字脱字の報告などお待ちしております。

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