第十二話 レベル上げをしよう! その二
グニャリとした感覚が足に伝わり、一瞬後その感触が硬い物に変化。大半のスライム種がこのゲームで持つ、瞬間硬化能力。それを逆手にとり、本来効果の薄い物理攻撃、それを“衝撃”と言う形で浸透させる!
同時即座に足を引き戻す。足場が悪いから、油断していると転んで盛大な隙をさらしかねない。
「さしずめホームランてところか?」
見事に一、二メートル湿地を滑空するように吹き飛んだスライムを見て呟く。本来スライム種は物理耐性が高いんだが、物理にも幾つか属性がある。
その内の衝撃はスライム種に中々の効果を発揮すると言うのは、テスターなら周知の事実だ。そして拳は打撃と衝撃に重点を置いたスタイル。
物理属性でありながら、スライムとの相性は悪くない! と言っても弱点でもありはしないが……
「っと」
吹き飛ばした距離を詰めるとそのプルプルの身体が震え、一瞬後に鋭い鞭と化した触手が振るわれる。
足元をなぎ払うかのような一撃を軽くジャンプし回避。その程度の攻撃が当たるなんて幻想、抱かれては数々のVRゲームを経験してきた俺の過去が泣こうと言うものだ。
そのまま身長差でギリギリ届く場所にある、頭部と思われそうな場所に拳を振るう!
瞬間的なゲルの感触に続き、硬質的なナニかを殴る感触に変化。そこを狙い、即座に足技に繋げる。
ミドルキックが硬質化した部分に命中。そこから更に拳の乱打を放つ。気分は今やボクシングだ。
「悪いが、一撃二撃じゃダメージにもならないぞ」
振るわれる触手。それを一歩踏み込み、威力が発揮される前に“わざと当たる”。それによりライフが殆ど削られていないと、感覚的に理解。
一昔のMMOとは違い。VRならではの当たり判定。場所や速度により与える、受けるダメージは大幅に変動する!
「これで終いだッ!」
拳の雨に当てられ、確実に動きが鈍ってきている相手の弱った触手の一撃を“叩き落す”。そのままボールでも蹴り上げるかのように、強撃、パワーアタックで強化された足を繰り出す。
ゴッ! とスライム相手とは思えない音を放ち、その十数キロ以上はあるだろう肉体が数十センチ宙に浮かぶ。
そこに新たに取得したスキル“速撃”、フラッシュアタックを発動。一撃のみ攻撃速度を飛躍的に向上させる効果により、俺の回し蹴りが残像すら伴ってそのゲルの身体に突き刺さる!
「オラァッ!!」
速度とはエネルギーだ。つまり、高速の一撃は相対的にその威力を底上げされる。気合一声、インパクトの瞬間更に腰を捻り、そのままグッと足を振りぬく。
正直、強撃程の威力ではないが、それでも止めには十分。そのゲル状の肉体が地面に落下するのと同時、ブルブルと震え、数秒後まるで水のように周りに溶け出し消える。
「まずは一体目だな」
ウィンドウを見れば先程まで戦っていた猿の魔物。それより二倍以上高い経験値に金、そして重複クエの対象アイテム。“スライムソルジャーの粘液”がパーティー内でランダム分配された事が表示されている。
それを確認し、新たな獲物を求め俺は薄霧に包まれた湿地を歩き出した――――
――――幾度目かの合流をし、課金のMP、HP回復セットでヒットポイントやマジックポイントを保ちつつ、狩を続行してから更に数時間……
『先輩、先輩! フェアリー、レベルが六に上がりましたっ!』
「ソイツは良かったなッと!」
音声チャットで嬉しそうに報告してくるフェアリーに返事しつつ、もう数十体目になるスライムソルジャーに終わりの一撃を叩き込む。
フラッシュアタックによる最速の拳が命中し、そのまま地面に消えていく。速度上昇により、肉体が拳に引き寄せられるが、しっかりと重心を保ちそれを制御。
「ふぅ」とため息を吐きレベルを確認するが、未だ俺のレベルは五。もう二、三体で六になるだろう。
リアル時間で一週間戦闘による経験値を十五パーセント上昇させる、期間契約の課金と経験値上昇POTを併用してこれである。
動く死体の経験値十パーセント低下が如実に現れているのだろう。と言っても、契約やPOTはフェアリーもテレサも使ってはいるが。
『ありゃ、先輩戦闘中でした?』
「いや問題ない。今倒したばかり――おっ」
『あら。レア装備ドロップしたのですねシャノンさん』
「しかも先輩に分配! 流石ですシャノン先輩! 青字ドロップって、百体以上に一個程度の確率だった筈ですよね!?」
「ああ俺もそう記憶している。ちょい効果とか確かめるから、俺は黙るな」
二人から了解の声を聞き。俺はウィンドウに目をやる。
〔スライムソルジャー は 名工のソルジャースピア を落としました〕と書かれており、その装備名が青字に輝いている。
アイテムには所謂レア度って奴がこのゲームには存在していて、最下級が白文字。その上が緑字で、武器名の頭に何々の~と、何らかの名称が付く。
そして更に上が青字。そして更に上が赤字で最高ランクが金字らしいが、俺は見たことがない。テスト時も最高で赤字しか所持していなかった。
大雑把に言えば、白が有り触れた一般品。緑がちょっとした能力が付いた品、青が名品。そして赤字が伝説級になり、最後の金字が世界級。神話で伝えられるようなレベルになる。
アウターワールドをプレイする奴なら、金字や赤字の所持は一種のステータスだ。それも金字なら誰もが憧れることだろう。
俺の記憶じゃ、テスターで金字を所持していたのはギルド“ホワイトナイツ”の団長と、副団長の双子の少女くらいだったと記憶している。
噂じゃテストでは大部分の金字装備が封印されていて、正式では入手率は上がると言われているが、実際どうなるかは分からん。
こう聞くと、青は大したものじゃないように思えるが、名工って言えばかなりの業物だ。ゲーム内で言えば、青字装備複数で一人前って感じだし、青で装備を固めていれば十分と言えるだろう。
それにまだまだゲームも始まったばかり。相対的に数は少なく、この槍の価値は高まる。ウィンドウの装備名をクリック、するとこの槍の詳細な能力が表示された。
〔名工のソルジャースピア(ランク6) STR+7 DEX+2 三パーセントの確率で攻撃時、対象の物理防御力を無視してダメージを与える〕
軽く驚く。どうやらこれは当たりを引いたようだ。アウターワールドでは装備に攻撃力や防御力の概念はなく、ステータスを向上させる効果のみがある。
また、装備名の次のランクは言わば装備出来るようになるレベルであり、同時にその能力向上率の目安だ。白字ならそのランク相応分の数値で能力が上昇。
緑字なら約一.二倍の数値、青なら一.五倍、赤なら二倍、金字ならそれ以上と言うのが各色の平均だった筈である。
そこに更に青字以上でなんらかの能力がランダムで付与されるのだが、今回のはそれなりに有用だろう。
なんせ通常の一撃にも適用されるため、数字上では低いように見えても、発動する回数は決して馬鹿にならない。
惜しむらくはこれが拳装備じゃなかったってところだろうか?
「おーい。フェアリー」
『ほっよっ! ほへ? っとと、先ぱ――わわ!? ちょ、ちょっと待って下さいね!?』
「あー……悪い。戦闘中だったか。倒したら言ってくれ」
取り敢えず合流地点に向かっておく。どうせそろそろ時間だ、問題はないだろう。最初はこのジメジメした空気にうんざりしたが、もう何時間とこの場に居るせいか、すっかりと慣れてしまった。
連戦の影響か、無視できない疲労も溜まりつつある。課金のPOTは疲労回復効果もあるが、それも完全ではないし、流石に疲労の為だけに湯水の如く消費するのは戸惑われた。
『あっ、先輩? もう大丈夫ですよ』
どうやら倒し終わったらしく、フェアリーから音声チャットが入る。PT内でのみ聞こえるシステムだから、エリアやワールドに響くこともない。
「了解。そっちもそろそろ疲れたんじゃないのか? 一旦合流地点で休憩にしよう。疲労でやられて、デスペナルティなんてくらったら目も当てられないぞ。ついでにそこでさっきドロップした青装備、槍だからフェアリーに渡す」
そう言うと向こうからなにやら驚いたような、息を呑むような音が聞こえてくる。フェアリーは槍使いだから丁度いいと思ったが、まずったか?
「うっうっ……先輩流石です……その優しさが私、フェアリーの心を掴んで離しません!!」
あー、うん。まぁ、喜んでくれるならいんだがな。少々オーバーすぎないか?
『でもよかったのですかシャノンさん。マーケットに流さなくても?』
「問題ないさ。第一、今流しても青装備の相場を支払える奴なんてまだいないだろう。それなら次の繋ぎとして持って置いて、後から適正価格で売った方がいい」
そう言えば『なるほど』と、テレサが理解の声をあげる。一方のフェアリーは先程から一人芝居に夢中らしく、正直暑苦しい。女性相手にそれはどうかと思うが、やはり暑苦しい。
容姿は名前負けしないのに、どうしてこうも喧しい性格に育ったのか、世の中はまったくもって神秘に溢れている。
「それじゃあ先に俺は合流地点で待ってる」
『了解です先輩ッ!』
『分かりました』
二人の返事を耳にしつつ、俺は黙々と陰気な湿地帯をウィンドウのマップを確認しながら歩いていった………
後書き
あー。うん。またもスーパー説明ターンでした。攻撃力とか、防御力とか、面倒だったのでああなりました。
重複クエは後二話程で終了出来たらいいな。
それじゃあ、最強モノでも、ハーレムモノでも、成長系なのかも怪しい誰得な本作品ですが、感想や評価、お気に入りや誤字脱字お待ちしております。
追記:レア装備って浪漫ですよね!