第十一話 レベル上げをしよう! その一
「セッ! ハッ!!」
鋭い呼気に合わせて肉体が勇猛果敢に踊る。武器など必要ない。男なら己が肉体で十分だ。幸い俺には恵まれた外国人譲りの身長がある。
そこにスキル“肉体運用”による“最適”な肉体の動かし方、そのぼんやりとした感覚を取り入れ軌道に混ぜ込む。それらの動き、戦闘は更に戦闘経験が纏め、効率的な戦闘法を徐々に確立させていく。
経験を積めば積むほど、戦闘経験のスキルは俺に有利に働いてくれるだろう。
このゲームでの俺はましく、“拳”を扱うに適していた。いや……肉体を扱うのに適している。
「終わりだッ!」
過去のVRMMOからも引き継いだ戦闘の経験から、ここぞと言う隙を見出しその無防備な頭に強烈な回転蹴りを叩き込む。
女性ですら難しい腰の開脚を見せた俺の足が、まるで右から喰らい付く猛獣のように、そのこめかみにスキル強撃で威力を増した踵が衝突。
一時的に限界すら超えた威力を発揮した一撃はその小柄な――猿の魔物を隣の木に吹き飛ばしそのまま絶命させる。
同時にウィンドウに表示されるドロップ、経験値、金、そしてレベルアップ。
「さっすが先輩! その惚れ惚れするような動き……憧れますッ!!」
「いやいや。見てないで手伝えよ……それに俺の場合はVRMMO長いからな。嫌でも肉体の動かし方なんて覚えるさ」
「それはどうでしょうか。少なくとも私はそこまで上手に分身体を扱う人を知りませんもの」
テレサの誇張なしの言葉に少し戸惑う。彼女は俺ほどゲーム経験は無さそうだし、偶々出会ってないだけだろうが。
「参ったな。嘘は言ってないんだが――」
俺に才能が無いとは言わない。だが恐らく才能だけならフェアリーの方が、こと戦闘に関してでは高いだろう。分身体の持つ、“この世界での才能”を含めれば俺に軍配が上がるだろうが、それも後々成長系スキルを身に付ければ覆ってしまうに違いない。
それにフェアリーは大げさだ。別に大した動きではないし、大部分はこの世界のスキルに助けられている。現実で同じことをやれと言っても、正直無理だろう。
「シャノンさんに色々聞くのは楽しいですけど。次の“狩場”に行きません?」
「ほへ? 別に私はここでもいいんだけど」
「フェアリーもテストに参加していたなら。ここよりこの先の湿地帯、そこに出現する“ソルジャースライム”の方が、クエ的にも経験値的にも。そしてドロップ的にも美味いのは知ってるだろ?」
そう言うとフェアリーの瞳が上下左右に揺れ動く。見事なまでの挙動不審。正直あまりにソレっぽくて逆に演技のように思えるのだが、テストからの付き合いでどうも素らしいことは分かっている。
テレサが微笑ましいものを見る目をし、俺がジト目を向ければ遂に耐え切れなくなったのか、ガバッ! と両腕を天に突き出し、そのまま威勢良く口を開いた。
「ど、どうでもいいことだから忘れてただけだよ!! そ、それより時間が勿体無いし早く行こうよっ!」
ほんのりその白皙の面を赤に染め、手をぶんぶんと振り回しながら一人先に走り出す。何となく動物に例えるなら犬だろうなと、そう思う俺は可笑しいだろうか。
「おいおい!? いくらこの辺りの魔物がレベル一か二だからって、一人で駆け出す馬鹿が居るかっ! テレサ、追うぞ」
「ふふ。はい分かりました」
たっく。まるでやんちゃな餓鬼のようだ。これなら俺の知り合いの双子の方が理性的だぞ。
皮鎧を着けているとはいえ、既にこの辺りの魔物狩りで数時間。レベルは全員四に到達している。クエの報告をすれば更に一は上がるだろう。
俺はVITメインでステータスを振っているが、逆にフェアリーはSTR寄りのその他バランス型だ。その力は既に俺より随分と先を行く。
AGIの力もあり、中々追いつけない。それに回りはそう間隔は近くはないまでも、木々が生える林地帯。中々思うように速度を出せないんだが、それを気にした様子も無くフェアリーは走っている。
これは追いついた後、ちょっと一言言ってやらないといけないな。そう俺は決断し、走りに集中し出した………
「雑魚が相手だからPTで戦闘している訳じゃないが、それでも一応は団体行動なんだ。勝手な行動は頼むから勘弁してくれ」
「……ご、ごめんなさい先輩……テレサさん」
「構いませんよ。お陰で早く着きました。“経験値増加ポーション”の持続時間を考えれば、走って正解でした」
そう言って茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせる。確かに課金で購入出来る経験値増加POT――時間内の間、戦闘で得られる経験値が三十パーセント上昇する――はその効果時間がゲーム内で三時間と短い。
ここまで走ってきたお陰で短縮出来た十五分ちょいは、そう悪くない勘定だろう。お陰様で俺はともかくテレサもフェアリーも息が上がっている。
俺はVITの影響でスタミナは既に生前と変わらないレベルだから、あの程度の距離と時間は問題なかった。
「誰かPTが居るかと思ったが、居ないな」
グルリと、街から東に数キロ先の林を抜けた先にあった湿地帯を見回す。通常よりあしの長い草が生え、ジメッとした空気。うっすら靄の掛かった風景。
瞳を凝らせば何か体長一メートル程の不定形のシルエットが、あちらこちらで蠕動しているのだが、どう見ても人ではない。
「この湿地帯広そうだし。靄も掛かってるから見つけられないんじゃないんですか、先輩」
「それにソルジャースライムって、不人気の魔物でしたから、そのせいもあるのではないでしょうか?」
二人の意見は尤もだ。特にソルジャースライムは沸きもドロップも経験値もいい癖に、実はあまり人気ではない。とある重複クエの対象でもあるから、かなり美味い魔物なんだがな。
と言うのも、適正レベル四~六の魔物ながら、その不定形の動き、予想し辛い触手の一撃、不気味な見た目、足場の悪い地形。
正直VRMMO初心者が知らず来た場合、間違いなく死亡確定だろう。言わば玄人向けの狩場と言えるかもしれない。
「まっ、広いと言っても数キロもない。かえって都合はいいだろう。それじゃ取り敢えず三十分毎にこの場所に集合で、基本的に俺は一人、そっちは二人で行動してくれ」
「え? みんなバラバラじゃないんですか、先輩」
テレサは分かっているようだが、どうもフェアリーには伝わらなかったようだ。
「俺はこの中で一番防御力が高い。反してフェアリーは低く、少しでも被ダメを減らすのなら一人でも戦闘参加者が少ない方がいいだろう? それに、今はまだまだ俺の方が“上手い”」
そう言ってにやりと笑って見せるとフェアリーが食って掛かってきた。
「むむ、むむむむ! 悔しいけど、事実ですから言い返せないです! でも、何時か先輩より戦闘上手になって見せますっ! そうと決まったらテレサ先輩、ハリーハリー! 先輩を見返してやるですよ!!」
息も荒くやる気を見せ、早く早く! とテレサを引っ張っていく。もしかしたら俺が思っているより歳は下なのかもしれない。
いくらベースがリアルでの容姿とは言え、ある程度弄ることは出来るから、実年齢より二・三歳上に見せる事も可能だ。
「俺も行くか」
笑みを浮かべ。それこそ妹でも見るような瞳で、フェアリーと奥に消えていったテレサが見えなくなるのと同時、俺もゆっくりと歩き出した………
ヌチャヌチャと不快な音を響かせつつ、シルエットの一体に忍び寄る。数分もしないでその姿が目に映った。全体的に中心部が盛り上がった半液体状の肉体。
色はヘドロのようであり、端々にはまるで獲物を探すかのように伸びた触手のようなものが蠢いている。
スライムソルジャーと呼ばれる、レベル一で出るスライムの上位互換。幸いこちらから攻撃しない限り滅多に襲ってこない。
俺はグッと腰を屈め、足腰に力を溜め込みそのまま力強くぬかるむ地面を蹴り出した。瞬く間に距離が零へと近づく瞬間、スキルポイントで強化した強撃を発動。
渾身の一撃を込めた無骨な“蹴り上げ”を放ったッ!!
後書き
暫くは戦闘描写交じりのレベル上げです。二話三話で終わらせると思います。
その後は一端日常に戻ります。
結構いろいろキャラ出していけたらと思っています。
と言うか。珍しくキョヌーキャラ出したな……作者は基本ヒンヌー派。
お気に入り、評価して下さった方々に感謝です。どうもあまり受けはよくなさそうですが、作者自体はノリノリなので進みますw