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妖怪大脱獄劇  作者: 花畑
5/16

5 闇の前触れ

サブタイは常にてきとーです。



―――おいで。



毒々しい紫や青の、むせ返る程の香が立ち込める暗所。

烏帽子を被り、長くしなやかな黒髪をはらりと狩衣の上に垂らす。

人型を模った白い紙を、それよりも白いかと言う程の針の様な指でつん、と弾いた。

その紙が消えたと思うと、同時に白い衣を纏った人間が現れた。

人間は懐から鏡を取り出し、狩衣の男にそれに写るものを見せると、男は目を閉じ満足そうに微笑んだ。





―――見つけた。




灰色がかった腰までの髪。

凛とした焦げ茶の瞳。

この手できつく縛れば意図も容易く手折る事が出来るであろう、華奢な体躯。





―――――私の愛しい、妹。








*******







「この城はただの城じゃない、と思っとくべきだな」


「まぁ…フツーの城なら当然僕達とっくに飛び出してるからね」


「そうだね。何が起こってもおかしくない」


赤鬼と青鬼の間に挟まれて、畳の上に大きな和紙を広げる。

そこに筆でさらさらと書いていく。

志摩さんや他の皆の偵察の報告を受けて、ある程度予測したこの城の地図。

何階に何があるのか、何が起きているか。


落ちたはずの城が今こうして成しているのは、下の階にいるんだろう強者の術師によるもの。

この城自体が私達を封じ込める檻なのだ。

そして城の外を結界で固めているだけでなく、中にも様々な仕掛けが施されているらしいのだ。


赤鬼青鬼や私、雪緒さん、三つ目君、狛犬達がいるのは最上階で、そのすぐ下の階までは仲間が居る。如何せん大所帯だから、いくつかの部屋に分かれて詰め込まれているのだ。

その部屋を行き来する事は自由なのだけれど、他に問題がある。



「火車や狐火、水蜥蜴みずとかげや猫又のあいつらは…」


「皆総じて殺気立ってるみたいだよ。…気持ちは分かるけどね」


そう言いながら青鬼の額からは角が伸び、瞳は金色に爛々と燃えた。爪は尖り、短い髪は威嚇する猫のたてがみの様に膨らんだ。


このままだと暴走する!

いけない、と思ってとっさに青鬼の腕を掴んだ。



「お、落ち着いて、青鬼。今は…考えなくちゃ」




「………志乃。…ふん。わかってるよ」




しゅるしゅると角が引っ込み、瞳の色は深い青に戻っていった。

ゆっくりと元の姿に戻る。




「落ち着いたんかいな、青鬼。…志乃はんの言うとおり、今は怒りに任せる時じゃないわ。私が火車らに言うてくる」


「ゆっ、雪緒さん!それなら私も行きます!」


「それはあかん。志乃はん。よう聞きや…」



白く細い指で、しなやかに私の顎を掴み軽く持ち上げる。

雪緒さんが神妙な顔つきで私の目を覗き込んだ。



「みなは今、我を失くしとる。あいつらは元々良い意味でも悪い意味でも気性が激しいからな。あんたが知ってる火車や狐火は今、人間を恨んで恨んでどうにかなりそうなんや。そんな所に人間のあんたが行ったら。…私の言いたいこと、分かるな?」




人間のせいで、故郷に帰れない。


人間に災厄をもたらした訳でもなく、悪事を働いた訳でもない。


古くから妖怪達は自然の中で人間達とうまく共存して来た。昔の人間は妖怪を畏怖しながらも、いや、畏怖しているからこそ、必要以上に関わろうとはして来なかった。

彼等に対して悪さをした人間にのみ、ちょっと仕返しをしていたくらいだ。


なのに。

人間は妖怪達を完全に消し去ろうとしている。

あるいはこの畏怖される力を利用しようとしているのかもしれない。

人間同士の醜い争いに巻き込もうとしているのかもしれない。



悪いことなんか何一つだってしていないのに、こんな仕打ち。

『人間』を恨み、怒り狂うのは…当然だ。




そして、絶対に忘れてはいけない事。それは私も『人間』だという事実――…




「…そう、ですね。私…ここにいます。お願いします、雪緒さん」



寂しそうに、泣きそうに眉を下げて私の頬をすっと撫でた後、雪緒さんはひょぉぉと舞い起こった吹雪と供に消えてしまった。



(三つ目君にお花もらったばかりなのに…)



やっぱり私は何も出来ないのかな。




「志乃、元気出せよ。気にすんな」


俯いた私の頭をわしゃわしゃと不器用に撫でて、赤鬼が励ましてくれる。


「ありがとう。…でも、私こんな風に優しくしてもらう価値ないよ。何も出来なくてごめん。ごめんね…」


今にも涙がぼろぼろと零れ落ちそうになったけど、今彼等の前で泣くのはこの上なくずるいと思うから、寸での所で我慢した。

申し訳なくて、情けなくて。なのにこれ以上迷惑をかけるなんて耐えられないから。


「馬鹿だよね、志乃は。僕達が何で火車達みたいに正気じゃなくなったりしてないか、分かる?」


「ってお前さっき危なかっただろ。俺はそんなことないけど」


「うるさいな、また戻ったじゃん。ねぇ志乃、何でか分かる?」



「えっと…どうしてなの?」



赤鬼と青鬼が二人で目配せして、にやっと笑う。




「「お前/あんたが付いてるからだよ」」





二人の言葉が被った瞬間、「あ、やっぱ双子だぁ…」とかそんな事を思って、気が付くと頬に熱いものが流れているのをぼうっとした頭で感じた。

ちらっと出てきました。

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