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妖怪大脱獄劇  作者: 花畑
3/16

3 黒と喪服

暴れ疲れて眠っていたはずの狛犬達が、また牙を剥き出しにして唸り始めた。

各々に話し合っていた仲間達が皆、揃って志摩さんを見る。



「あらま。敵さんは存外近くにおったんやねぇ。閉じ込めるだけ閉じ込めておいて、自分らは遠いところで胡坐かいとるんかと思ってたわ」


「おい、志摩。どういう事だよそれは。それなら今すぐにでもぶっ殺しに行けるじゃねぇか!」


爛々と赤い炎を燃やした眼で、赤鬼が志摩さんを睨む。


「お前の耳は節穴か?私は下に降りる程結界が強くなっていると言ったはずだが」


「じゃあさ、あいつ等は下で何やってんの?その結界を張る事に一生懸命な訳?」


冷え冷えとした氷のような眼を尖らせて青鬼が問う。

それにもただ無表情のまま、志摩さんは淡々と言葉を返す。


「その様な程度の相手ならば我々はここにいない」


という事は、相手は結界を張ると同時に他の何かをしようとしている、という事だ。

そして、私達の力よりもっと大きな力でもって、私達を封じ込めている。

私達が束になっても破れない結界を張り、まだその上で何かをしているのだ。

一体そんな強大な力を持った人間がいただろうか?旅の修験者?もしそうならば、…何の目的で?



「…志摩さん、ちょっといいですか」


私は遠慮がちに彼に目配せした。

真っ黒の喪服姿は圧倒される。何もかもを拒絶するかのような闇の色。

私は、唯一、彼が何の妖怪なのか知らない。

ただ彼について知っていることは、大王の直属の部下で、それもかなり優秀だという事。

黄泉の世界での仕事柄、たまにしかこの世に帰らない大王の陰となり右手となり、一族を守ってくれている。…らしいと言う事。

実際、彼は忙しいのか普段はあまり姿を見かけなかった。

前に雪緒さんが、彼は陰の存在だとかなんとか教えてくれた。彼は陰で私達の生活を支えてくれているんだとその時思った。

きっと、縁の下の力持ちなんだ。私は彼と仲良くなりたいと思った。それで、感謝の気持ちを伝えたいと。


でも、もしかしたらそれは私の思い上がりだったのかもしれない。そう思うのは、どうやら志摩さんは私の事、あんまり好きじゃないみたいだと分かったから。



「…いいですよ。志乃様のご命令とあらば」


私は雪緒さん達に会釈して、志摩さんが示す襖の向こうに入った。



本当は、ちょっと怖いんだけど。志摩さんと二人きりになるのは。

あ、この人私の事嫌いなんだな って思う人と二人になるのは、きっと誰だって気まずいと思う。そんな感覚。

それもあるし、他にもある。これは言葉で説明できないのだけれど、何故か胸騒ぎがするのだ。彼といると。


私を先に部屋に入らせて、自分は後から入り後ろ手で襖を閉める。

ぴしゃり、という音が静かな空間に嫌に響いた。



「どうしました」


「あの、先に言いたいんですけど…」


「何です」


「私前にも言った気がしますけど、私に対して敬語とか、私の前で跪いたりとか、そういうの、その…しなくていいと思うんですけど、、」


「何故ですか?」


「えっと、その。私まだ17ですし、どう見ても志摩さんの方が年上だと思うし、それって年功序列的には変じゃないですか。…何より私はお嬢様でも何でも無いですし」


「お嬢様ですよ。我が君、閻魔大王様の養女であられる」


「そうですけど、でも」


「『でも』、どうしました?」


淡々とした態度は崩さない彼に、どんどん声が小さくなっていってしまうのをぐっと堪えて、まっすぐ彼の眼を覗き込んだ。


「でも、私は人間です。今ここに皆が閉じ込められてしまったのは、人間のせいです。私もその仲間の人間なのに、今みたいに皆に良くされる事の方がおかしいのに」


襖の一歩前にいた志摩さんのあたりに黒い霧が立ち込め出した。さっき視察から帰って来た時とはまた違う濃さ。


怖気付きそうになりながらも言葉を続ける。


「私は、私が唯一皆に出来る恩返しは、あいつら人間を倒すことです。同じ人間として許せない」


「敵も貴女と同じ『人間』であるから、『人間』である貴女は責任を感じている、という事ですね」


切れ長の眼が一瞥する。無表情を崩さないけれど、それが逆に恐ろしいのだ。


「お心遣いありがとうございます。しかし、相手が『人間』であれば『人間』が倒さねばならない等という掟は無い。それとも貴女は我々が『人間』ごときを倒せないとでもお思いですか」


つまり、「お前は引っ込んでろ」の意ですね…


「いえ、そんな事は全然思ってないですけど…」


「ならば貴女は何も考えずそこにいるだけで良い。引き続き報告は致しますが、貴女が特別一人で何かをする必要はありません」


「志摩さん」


「話はもうお仕舞いですか」


「………志摩さんはやっぱり私のこと嫌いなんでしょう」



渦巻いていた黒い煙が、ふいにはたっとかき消された。

無表情を通していた志摩さんの目が、ほんの少しだけ見開かれる。


「……何故そうお思いで?」


「えーっと、…なんとなく」



ああ、聞いてしまった。

そのまま流しておけばよかったものを、私っていうやつはそうもいかない性格らしい。嫌になる。



目を細めて私をじっと見る。急にそんな事を聞いた私の一挙一動すべてを観察するように。


「…好き、嫌いなどというものではありませんね。貴女は我が君の娘…。その事実がすべて私の行動に反映されます。只それだけです」



霧はすっかり晴れ、気づくとそこには志摩さんの姿は無かった。



不思議系男…

どうなるんでしょうか

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