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妖怪大脱獄劇  作者: 花畑
2/16

2 城の中で



「人間メ…!アイツラ、許シハセヌ…!」

「ココカラ出セ!我等ヲ侮辱スルノモ好イ加減ニシロ!」


「落ち着いて、狛犬ちゃん達」


針鼠さながらに毛を逆立てた2匹の狛犬は、部屋の障子をボロボロにし終わると今度は牙で畳をめちゃくちゃに毟り始めた。

破れた和紙の向こうに海が見える。

それを遠目で見て、またすぐに狛犬達に向き直る。


「おいで」


両手を2匹に差し出すと、我を失いかけた幼い狛犬が、その牙と爪をひとまず収めてしわしわと擦り寄ってきた。

2匹の耳の後ろや顎をかいてやると、落ち着いたように眼を閉じた。


「志乃はんは昆布茶とほうじ茶どちらがええの」


「あっ雪緒さん。ええっと、じゃあ昆布茶で」


「ふふ。ほんならうちもそうしよかいな」


何かあっちでかちゃかちゃと音が聞こえるなぁと思っていたら、雪緒さんがお茶の用意をしてくれていたみたいだ。

細くしなやかな、この世のものとは思えない程真っ白な大人の指が、これまた大人の女の所作で茶器を扱う。

湯のみにお茶を注ぐ時、湯気がふわっと立ち上る。

その熱で、雪緒さんの指先が少し溶けた。


「あらら。許してや。爪の分が入ってしもたわ」


「ううん。丁度よくなるから大丈夫。私猫舌だもの。それより、お茶ありがとうございます」


「やめてや。お安い御用よ」


雪緒さんの入れてくれるお茶は、いつも美味しい。

こんな状況でも。




私は志乃しの

物心ついた時にはもう彼等と一緒にいた。


彼等は皆総じて妖怪だ。

妖怪なんていやしない、って思うかもしれないけれど、それがそうじゃないの。だって今ここに彼等はいる。

そして私は普通の人間。

何で普通の人間が妖怪と一緒にいるのかというと、実は私にも分からない。

ただ、私が幼い時、この妖怪一族の長である閻魔大王(通称 皆のお父さん)に拾われたらしいという事だけは知らされている。

何で大王が人間の私を拾う気になったのか、私の元々の両親はどうなってるのか、というのは未だ不明だ。

大王に聞いてもいいのだけれど、私は今までそうしたことはない。

皆との生活に何一つ不満は無かったし、楽しいし、孤児だったらしい私を拾ってくれた大王に何より感謝していたから。

人間の私に分け隔てなく接してくれる皆が大好きだから。



だから、余計に苦しい。

同じ人間として、皆にこんな仕打ちをするのは許せない。

人間のした悪行は、人間の私が止めてみせる。

それが私に出来る、皆への恩返しだと思う。

いっぱい幸せをくれた皆への、きっとそれでも足りない恩返し…。



「志乃、俺らに何でも言ってくれ。あいつ等倒す策練るんだろ」

「早く殺しちゃおうよ」

「おい、青鬼。お前はいつも発言がストレートすぎるんだよ。だから彼女できないんだよ」

「嘘、赤鬼知らないの?君も彼女いないっていうこと」



私と同い年か少し上の人間に見えるこの二人は、髪の色が違うそっくりの双子だ。

燃えるように赤い髪の方が赤鬼、深い海のような青い髪の方が青鬼。そのまんまだから覚えやすいと思うけど。

正反対な色のまま、性格も正反対な二人。いつも喧嘩ばかりしてるけど、やっぱり兄弟だからなのか気が合うみたいだ。

また喧嘩が始まったみたいだから、雪緒さんの方に向き直った。


雪緒さんはお察しの通りの雪女。

透き通る様な、っていう形容が洒落にならない程白い肌に、白い着物。そのせいでよく映える漆黒の黒髪。長い睫毛に、真っ赤な唇。引き込まれると誰も帰って来れなくなりそうな瞳。

大人の上品な色香を持つこの女性は、いつも私の相談に乗ってくれる優しい人だ。



「どないします、志乃はん」



「…まずはこの城の中がどうなっているのか知りたいです。見た感じ私達は最上階にいるみたいだから、ここから下にいったら何があるのか、調べないと」



城。

人間同士の争いで城落ちされ燃えた城が、何故か復活した。

そして今、私達妖怪大一族はその城に閉じ込められてしまった。

人間の手で、出られないよう特殊な結界を張って。

ただし、本当にただの人間には結界を張ることなんて出来やしない。

人間が雇ったんだろう術師がいる。陰陽師か、僧か。

そしてその目的はまだ分かっていない。

ただ私達が邪魔だから、それとも利用しようとしているのか、はたまた両方なのか、まだ何も分からない。

だから焦っている。このまま、どうなってしまうのか…



とりあえず城の中は快適だった。

捕らえられた事を忘れそうになるくらいの普通の部屋、普通の暮らし。

きっと、私達をここにすっかり慣れさせて抵抗させない様にするためなんだと思う。

この張りぼての城に、自ら住み続けると、私達にそう言わせたいんだ。




「志乃様」


ふいに襖が3寸ほどずらされた。黒い影がその隙間から覗く。


「志乃様。只今帰りました」


「志摩さん」


襖の向こうはこの世の果てかと思うくらいに真っ黒なのに、その黒を染み出させている張本人も黒い髪、黒い瞳、黒いスーツを纏っている。喪服のような格好だ。

志摩さんは私の前に跪いて、ただ無表情で何事も無かったかのようにつらつらと報告を述べた。


「下部に降りるにつれ、結界の色が濃くなっております。また2階程降りてみて、推測することなのですが…」


その、私なんかに跪くの、止めてもらえないのかなと思いながら聞いていると、目を伏せて淡々と報告していた志摩さんが、ちら と私と目を合わせた。ほんの一瞬だけ。




「下に、術師もしくは人間が居ます」


「えっ…!?」


志摩さんの言葉に、部屋にいた皆が息を呑んた。


方言は適当です。特にどこの地方かというのはありませんが、イメージとしては舞妓さん的な感じです。

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