10 人間
短いです
「文孝様、こちらを…」
「よろしい。それは君が持って帰っていいよ。私はいらないから」
「へっ?そそ、それは真に…?いやしかし、私めも上から言われていますもので…貴方様に受け取って頂く様にと…」
「そうなんだ。じゃあ、貰った事にしておいてあげるよ。…だから早く此処から出て行け」
「…はっ、ははーっ!」
見掛けは小奇麗にしている男が包みに金を戻し懐に収めるのを横目で見て、それを最後に踵を返した。
私も人間であるけれど、人間は好かない。
人間とはどいつもこいつも馬鹿だ。
仕様もない者ばかり。
金と権力、それに性欲。
男も女もそういったものに左右され、志というものを持つ者は数少ない。
時たま、信じられる者だろうと思う人間もいるが……
窮地に陥れば皆同じ行動を取るものだ。
幾度となくその光景を見てきた。
28年間。
まだ三十も生きていない若造が、と年寄りは言う。
しかしもう十分に生きた。この能力のせいで、この一族の長男として生まれたせいで、ただの何の力もない人間の倍以上は濃い人生であっただろう。
お陰で遠い昔のことばかり思い出す。
懐かしい声。温もり。無邪気に私に縋る小さな手。無垢に笑いかける、…私だけに。
「漸く掴まえた。――志乃」
使えぬ人間も上手く利用してやれば捨て駒くらいにはなるだろう。
音もなく取り戻してみせる。
誰にも邪魔はさせぬ。
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さて。ちゃんと喋りまして名前も出てきました、敵さん。
これから志乃とどう絡んでいくのか、お楽しみに…!