少し昔ばなしをしようかな [高校時代:世界最速]
やあみんなー。げんきー?
りせた。だよー。
スピード出世とか、最速デビューとか、いい響きだよね。
物書き界隈でも、デビュー早いひとは早いもんなぁ。
実に羨ましい限りである。
だが。あやかりたくとも、あやかれないものなのだ。
羨もうが、意味はない。
しょんぼりである。
ところで。
あなたは、世界最速というと、何を思い浮かべる?
うんうん。
やはり、光だよね。
それを超える速度を持つものはない……とか言われてるとかなんとか。
乗り物で言うと、ロケットとか? 飛行機とか?
地上に限ると、リニアモーターカー?
生物だと、チーターかな?
そして。
我らが人類で言えば、ウサイン・ボルトだよね。
時速換算で、約40キロらしいねぇ。
熊よりは、遅いのだ。だが、人類の限界値は、今のところ、そこから更新されていない。
筆者の高校時代、いくつか流行ってた遊びがあった。
その中で、バイクや車なんかの、乗り物を使ったものがあったわけだが……。
その日。
「おい、ちょっとお前、そこに立てよ」
「……え? なんすか?」
リーダーに命じられ、筆者は、車の横に立った。
運転席側、後部座席の扉の横だ。一体なんだというのか。
車内を見ると。
後部座席には、メンバーが3人いた。
「よし! やれ!」
——ガシッ……
「え、ちょ……」
車内から伸ばされた腕、腕、腕……。それにガッシリと——いきなり左腕を掴まれた。動けない。
……意味が、解らなかった。
「いくぞー?」
リーダーの、弾んだ声と共に、エンジン音が大きくなった。
進みだす、車——。
「は? ま、マジか……」
「ハハハッ! 何キロまでいけるかなー? 今10キロ~」
小走りで、車に並走した。
「おらおら、走れー!」
楽しそうなメンバーたち。
「スピードアーップ! 20キロ~」
「おおお……?!」
かなりのスピードだった。少なくとも、持久走では出したことのない速さだ。
「おおー? 走ってんじゃねーか! 30キロ~」
「ちょ、やば……」
どだだっという、自分の足音が、やたら大きく響いた。車内の笑い声を、掻き消すほどに。
「フハハッ! 40キロ~」
最早、一歩一歩が、ジャンプしているかのようだった。
「おおー? やっべー! おもしれー! 50キロ~」
人類の、限界を超え————————なかった。
——ガシッ!
筆者は、咄嗟にルーフバーを掴み、車体にしがみ付いた。
カースタントアクションだった。
「あ! 掴まりやがった!」
「ズルだ!」
「落とせ落とせ!」
メンバーたちの腕に、更に力が込められた。
「やめろ! 死ぬわ!」
「なぁに~?! 掴まってるだぁ~?」
リーダーの、声。嫌な予感しかしなかった。
「そんなやつは、こうだ!」
グンッっと、身体が後ろに持って行かれる感覚。アクセルが踏み込まれたのだろう。
「おらおら~! 落ちろ落ちろ~!」
そして、左右に振られた車体。必死に食らい付いた。
「ギャハハ! 60キロ超えてんじゃん!」
メンバーの嗤い声が、やけに遠かった。
その日。
筆者は、世界最速を手に入れ——味わったのだった。




