りそう
はろはろー。
みんなげんきー?
りせた。だよー。
先日、元同僚のHと久しぶりに会ったんだけどさ。
まぁ、電話とかでは話してたりしたけど、直接会うのは、かなりご無沙汰だったわけなんだが……ね。
対面した瞬間、筆者は一瞬——ピタリと動きを止めた。いや、そうしようと思ったわけではない。止めて、いたんだ。
なぜなら。
彼は、変わり果てた姿に——なっていた、からだ。
「おいおい、H……お前、それ……ヤバくないかぁ?」
再起動した脳から、そんな言葉が紡ぎ出された。
「いやぁ、まぁそうなんよなー」
Hは、笑っていた。
すっかり埋まってしまった目を、更に……細めて。
——そう。
Hは、見ない間に、激太り——していたのだ。からだ、でかい。
「これでも10kg痩せたんだぜー? 一時期100kg超えたからなぁー」
いや、100kgて。
「おま……死ぬぞ?」
おそらく、筆者も——5kgくらい——結構太ったはずだが……これを見たら、そんなもの誤差の範囲でしかないだろう。
10kg痩せたら、理想体重下回るわ。57か58くらいをキープ出来れば、理想的だからなぁ。スラッと細マッチョが好ましいのである。多分。世間的に。
「はっはっは。まぁそう言うなって。ダイエット頑張ってるからさぁ」
「そうかぁ……」
「まぁ、気が遠くなる作業やし、ゆっくりやるよー」
「せやなー。無理せん範囲でってのが大事やな」
……急にダイエットして、リバウンドしてたもんな、昔。アレでは本末転倒……ってか、もしかして、あれから延々とリバウンド生活してたんか?
……などと思うなどした。
「まぁいいや。とりあえずタバコ吸おーぜー」
「お? まぁいいけどさ」
Hに言われ、外に出た。少し前までの夏の空気は、すっかりと旅に出たようだ。金木犀の香りがそよ風に漂っている。赤みを増した夕焼けが、綺麗だった。
「俺さぁ、タバコめっちゃ吸うやんか? りっせー。は今なに吸っとる?」
「あー……オレはコレ。プルーム」
「CAMELのヤツかぁ。値段上がったやろ?」
「せやなー。他よりは少し安くても、高いわ」
「コレ、見てみ。リキッドのヤツなんやけどさ」
「……ん?」
紫色をした、透明な平たい何かだ。口元だけ瓢箪徳利のように細くなっていた。
「最初噎せるかもやけど、吸ってみ?」
「おお」
受け取ってスッと吸い込むと、甘ったるいフレーバーが口の中へ一気に広がった。……そして、舌の上にはベッタリと後味が残った。取れぬ。
「おー? 噎せんかったなー。初めて吸うひと、噎せるんやけどなー」
「……結構残るな、口に」
「んー……ああ、グレープ味だかんな。んでコレ、1500回吸えるんよ。時間換算すると、大体1、2週間持つんやわ」
「へー」
「で、1500円くらい。安くね?」
「せやなー」
「俺、なんも得ないけど、コレかなりおすすめして、結構売ったわー。タバコやし、営利で販売出来んからさー。勝手に買ってなーって感じやけどさ」
「まぁこれ、吸い殻出んのがいいよな」
「そうそう。いいやろ? 車ん中とか、楽やでさー」
「……って、相手に商品のいいところ言わせるの、営業の基本よな」
「おー。確かに。はっはっは」
と、しばしの間、しょーもない話をしていたのだが。
「最近さ、よく一緒にいる女の子、最高なんよ」
Hは、もっとしょーもない——いや、危険な話を始めたのだった。
「おん? こないだ結婚したばっかやろ」
「いやいや、そういうんじゃないよ。飲み仲間」
「ふーん。まぁ、やりすぎんなよ? ってか、貯金しとけー。相場的には、300万くらいあればいいやろー」
「いやいや、不倫はせんて」
「でも、怪しまれたら危ないぞ? 決定的な証拠はなくても、不利にはなるからなぁ」
「マジかー……。いやでもさ。奥さん、かなり理想的だかんなぁ。俺が飲みに行くの好きってのは、織り込み済みで結婚したからさ。なんも言わんよ」
「そらすげーな。理解あるってか、心広いってかさ。マジで理想的やん」
「てか、りっせー。はどうなん? どんな女ならいいのさ」
「ん? オレ?」
「おん。そろそろ考えてみたらいいんやない? アプリとかあるんやしさぁ」
「んー……いや、アプリはいいわ」
「なんでよ?」
「固定費上がるサブスクって、嫌いなんよ。あんまり増やしたくない。それに、なんつーかさ。前の会社って、女多かったやん」
「せやな」
「あーゆー感じのやつ、嫌なんよ」
「ああー。酷いやつ多かったもんなぁ……」
「もうちょっと言うとさ。会話にならんやつ、嫌いなんよ」
「ああー……。ヤツら、会話出来んかったなぁ……。俺もめっちゃぶつかったわ……」
「んでさ、傾向的にやけどさ。営業とか夜職とかの、競争社会の女ってさ、あんなタイプ多いやん?」
「あー……。確かに。わかるわ。俺も嫌だわ。競争意識高い系。付き合うとか無理無理」
「せやろ? あの、ひとを見下した感じとかさ。蹴落とす感じとか、気の強さとか。めっちゃ嫌」
「まぁ俺も、あの会社の女たち、そういう目で見れんかったもんなぁ……」
「な? まぁ、そういうこと」
「ふーん。……あ、でも今の仕事場にさ、りっせー。の好きそうなタイプおるよ?」
「ん? それがなんよ?」
「小さくて色白で華奢で可愛らしい感じがいいんやろ?」
「まぁ、見た感じはな?」
「おるんやてー。最近結婚したけどさぁ」
「いや、なんの話しやねん。なんの『でも』やっての」
「はっはっは。あ、そうそう。Sちゃんも結婚して、妊娠中やしな、いま」
「ほー。そうなんかー。めでたいな。ってかまぁ、そういう歳かぁ……」
「そやでー。あれから結構経ったしなぁ」
「せやなー。結構経ったなー」
「んで、りっせー。は、どんな女がいいんよ?」
「またそれか。……んー。オレは、ちゃんと会話になる、優しいひとがいいんやわ。論理的……までいかんくてもいいけどさ。メンヘラとかヒスは勘弁なんよ。疲れるやろし」
「あー。前の女、メンヘラのあたおかやったもんなー」
「いや、アレは、ステータス厨というか、権威崇拝型というか、自己顕示欲と承認欲求のバケモン。やで、メンヘラとはちょっと違う」
「でも、二股されとったんやろ? ヤバい女やてー」
「まぁ、ヤバい女なのはそうよ。てか、大体女ってあんなイメージやん」
「いやそれ、酷いほうのやて! まぁ、多分おるて。論理的……は微妙やけど。優しいくらいなら普通におるって」
「うーん……。優しい……? 女が……? ……まぁ、世界のどっかにはおるんかもやけど。そんなひと、あんまり見た事ないからよー。普通に無理な気がしてるわ」
「いやいや、おるけどな? なら、まぁさ。とりあえず、転職頑張れよ。りっせー。が絶対やらんやろう仕事なら、紹介出来るぜ?」
「いや、要らんわ。なんの情報や」
「あのさ、ショッピングモールあるやんか」
「いや、要らんて」
「えー。だってよ、気に入りそうなやつは、紹介出来んからなぁー」
「なんやねんそれ。要らんがな」
「はっはっは!」
「んなことより、Kに無理な仕事紹介すんなよなー」
「いや、だって金ないって聞いたしさ。善意やて善意」
「結局経歴に傷付いただけやん。善意ってんなら、ちゃんとアイツに合った仕事紹介したれよな」
「えー……。いけると思ったんやけどなー」
「ハードル高過ぎるわ。最初Kから聞いた時、一応止めたけどさ。『Hさんが、Kはやる気あるから大丈夫! って言ってくれたから。いけると思う!』とか言ってたからな。それ以上言わんといた。まぁ、一年持てばいいけどなって感じだったけど」
「マジかー……。え、こうなるって予想してたん? いつから?」
「だから、最初から」
「えー……? 最初からダメって思ってたんかー。そうかぁー。じゃあKは、何の仕事ならいいんやろ……」
「まぁ、アレ系の仕事をKがするんなら、かなり段階踏まんとアカンやろなぁ」
「そっかー……。やる気だけじゃダメかぁ」
「そりゃそうやん。それに、やれそうなこと自分で探す方がいいって。自分自身を、ちゃんと把握しといた方がいいからさ。……とはいえ、人気職は倍率高いけどな。オレも就活、ハードル高いもんよ」
「なるほどな。てかさ。求人出てなくても、会社調べて直接聞いてみたら? 俺、結構そうしてたぜ。入りたい業界決まってたからさ」
「……マジかよ。そんなんでいけるんか? 募集してなかったら無理やないんか?」
「まぁほとんどは無理やったけど。でも、当たったとこもあったぞ?」
「マジかー……。H、お前すげぇな」
「で、どんな仕事——」
——ブンッ
不意に、Hのスマホが震えた。
「うわ、やっべ」
「どした?」
「コイツ、契約解除とか言い出した。なんか詐欺被害に遭って金が無くなったらしい。俺、行ってくるわ。またなー」
「おぉ……」
お互い、まだまだ理想には程遠いようだった。




