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ショートショート

自殺か他殺か事故死か

掲載日:2026/04/18

ショートショートです。

女刑事と名探偵とニートが謎解き対決する、ゆるゆるコメディ推理です。



この作品は、web小説投稿サイト「ハーメルン」にも投稿しています。

 幼馴染の、女刑事と名探偵とニートがいた。推理トリオとして、コントのような芝居じみた言い合いを楽しむ仲だった。

 名探偵とニートは男で、二人共、女刑事に秘かに恋していた。しかし、女刑事は二人を恋愛対象にはしていない。ただの片思い。

 二人は互いに、恋の好敵手と認めていて、女刑事に告白する勇気も無い。

 今日は、三人で日帰りの小旅行。ちょっとした観光地。

「どうして、俺達を誘ったんだ?」

「楽しい思い出を作って……。まあ、そのうちに、わかるよ」

 豪快でかっこいい女刑事は、今日はこれまでで最も美しい。

 これは、間違いなく、何かがある! この奇妙な三角関係が、終わるのだろうか?


 女刑事を先頭に歩き、二人が左右の後ろに追随し、地元の名産を食べている。

 騒ぎになっている。その中心に向かっていると、観光客の話し声が聞こえた。

「何があったの?」

「誰かが、崖から転落したんだってよ」

 三人は目を合わせ、急ぎ足で現場に向かう。

「これは、あたし達、推理トリオとしては、行かなきゃね」

 この観光地は、所々に崖がある。

「観光地だから、通常では乗り越えられない手すりや柵がある」

「ということは、自殺か?」

「いや、他殺かも知れない」

「では、なぜ、転落したのか?」


 現場は混雑していたが、女刑事は、観光客に警察手帳を見せて、無理矢理通った。

「警察だ、道を開けろ! ホラホラ、あたしの行く手を阻む者は、公務執行妨害にするわよ」

 名探偵は、ニートに小声で言う。

「地元でもないし、休暇中だ。公務ではないだろう」


 現場には、「立ち入り禁止」の看板があった。ここはインフラ用の設備の敷地。

 ニートが素早く、現場の特徴を言う。

「事務所、設備、重機などがある。道路からの死角も多いな」

 女刑事は、柵の近くで立ちすくんでいる人に駆け寄り、話を聞く。

「直接は見ていませんが、ここから落ちたようです」

 崖の下を見ると、人がいた。大声で呼び掛けたが、反応しない。

 名探偵は、下を覗き込む女刑事に言う。

「気を付けろよ。この柵は、観光客のためではない、腰までの高さだから」

 目撃者は、既に当局に通報しているので、やがて、本物の警察やレスキューなども、来るだろう。

「(チャンス! 今のうちに、情報収集よっ)」


 女刑事がメモした、目撃者の証言をまとめると、こうなる。

「あの人が、立ち入り禁止の敷地の中を、じっと見ていたんです」

「すると、周囲を見渡した後、立ち入ったので、注意しようと、追い掛けたんです」

「私服の作業員ではなく、見るからに観光客だから」

「しかし、観光にしては薄幸そうで、足取りが重いので、胸騒ぎを感じた。何か、心身共に、ヤバいと感じた」

「その人が重機の死角に入りました。そして、地面の砂利を足で擦るような音がして、何かがぶつかった音もしました」

「嫌な予感が的中し、走ったら、もう、崖下にその人が落ちていたんです」

「崖下を見ていたら、視界の端、建物の向こうを、誰かが通ったように見えました。でも、見間違いかも」

 目撃者は、言い誤りや誤解もあったが、丁寧に優しく接することで、確度は高い。


 ニートは、我関せずのように、ぶらぶら、歩き回っている。

 名探偵は、落下現場と思われる柵の周囲を観察しているので、女刑事が叱る。

「こらっ、名探偵。鑑識が来るまで、現場を汚すな」

「この柵の高さなら、軽く腰掛けることもできる。それなら、腰掛けた状態で、うっかりと後ろに倒れることもある」

 名探偵に近寄りながら、女刑事が推理する。

「だったら、これまでの可能性の、自殺、他殺に、事故死もあり得るな」

「腰掛けなくても、前向きの状態でも、バランスを崩すこともある。ほら、ここを見てごらん」

 名探偵が指した地面には、靴で擦った跡があった。そして、落下現場から離れた場所で、前向きに柵にもたれた。

「この向きでも、靴が砂利で滑って、前向きに落ちることもある」

「そうね、確かに、前向きでも、後ろ向きでも、事故になる」

 ニートが帰って来た。

「砂利の、あの場所は、本人の靴の跡だろうが、すぐ近くには、別な擦った跡がある。それは、本人のものか?」

「確かに、事故の時の跡とは思えない、おかしな向きの跡もあるわね」


 警察やレスキューよりも早く、設備関係者が到着した。近所の店舗の店員から、知らされたらしい。

 女刑事は、警察手帳を見せる。

「警察の者です。お話しを伺いたい」

 名探偵とニートは、「愉快な仲間たちです」とは言わず、会釈するだけ。設備関係者は、三人とも警察官だと、勝手に勘違いした。

 ニートが女刑事に、敷地内の防犯カメラを指す。歩き回っていたのは、防犯カメラを確認するためだった。

「防犯カメラは、四つあるんだ。そして、重機や小屋の位置から、死角を推測すると……」

「あんた、さすがだねえ。株が上がったよ!」

 ニートが褒められたので、名探偵は嫉妬し、大声を出す。

「これは自殺だ!」

 名探偵が、柵の根元の、見えにくい場所に落ちている、手帳を見ている。

 手帳は、随分と念入りに、開き癖を付けたのか、開いた状態で落ちている。

 女刑事は、駆け寄る。

「おお、よく見付けたな。さすが名探偵だ」

 褒められたことで、名探偵はニートに、得意気な顔を向ける。

 女刑事とニートも、手帳を見る。そこには、遺書のようにも思えることが書かれている。


  絶望が生み出すものは、2つ。ひとつは信じられないこと、もうひとつは信じたいこと。


「さすが名探偵……。なるほど、これが遺書ならば、自殺ということも……」

「名探偵は遺書と断定しているが、自殺と考えられなくもない。つまり、自殺と確定するには弱い」

 ニートは嘆息し、立ち上がる。女刑事の注意が、自分に向くようにする。

「それよりも……」

 ニートが女刑事に促す。

 女刑事は設備関係者に、防犯カメラの映像を見せるように頼む。


 敷地内の事務所で、防犯カメラの映像を見る。

「やはり、このカメラは、建物の裏を通る人は、映らないんですね」

「はい。過去に盗難被害がありましたが、予算の都合で、重機を盗んだり、事務所に侵入するところを、優先しています」

 名探偵が、仲良し相手の、芝居じみた意地悪な口調で、ニートに言う。

「カメラの映像が三つだな。四つあるというのは、間違いか?」

 設備関係者が、代わりに答える。

「実は、崖を撮影するカメラは、ダミーです」

 ニートが尋ねる。

「カメラらしいと思わせることで、防犯の役にも立つと」

「はい。これも、予算の都合でして……。まさか、崖を通って来る泥棒もいませんし」

 ニートが呟く。

「柵を乗り越える場所も、死角なのか……」

 画面を睨みながら、不敵な笑み。


 けたたましいサイレン音が近付き、本物の警察とレスキューが到着した。

 そのため、女刑事と名探偵とニートは、何の権限も持たない、興味で関わったことが、設備関係者にばれてしまった。

 とはいえ、ひとつだけ、はっきりしたことがある。転落した人が、亡くなっていること。

「これではっきりしたわね。意外な結末としての、生きているは、除外される。……ということは」

 三人の意見が分かれる。

 名探偵「自殺だ」

 ニート「他殺だ」

 女刑事「事故死だ」


 女刑事「これは、事故死ね。地面の、靴が擦れた跡が、それを物語っている」

 名探偵「あの遺書を読んだだろう。何を悩んでいたのかは、これから明らかになるだろう」

 ニート「いや、これは計画殺人だ。犯人は、防犯カメラの死角を、熟知していたのだから」

 女刑事「計画殺人なら、犯人の指定した場所に、被害者が来ることは、考えにくい」

 名探偵「不自然な靴跡は、飛び降りようか、逡巡して、足取りが重くなったんだろう」

 ニート「手帳に書いてあったのは、絶望ではなく、勇気づける意味にも読める。小説や歌の、ネタ帳だろう」

 少しの沈黙。

 それぞれが、ナレーションのように自身の信条を口にする。自説の強調として、「これが結論だ。もう、話し合いは不要だ」の拒絶っぽくするため。

 女刑事は「真実を暴くのは、誰かを責める目的ではない」

 名探偵は「推理には、ロマンが必要だ」

 ニートは「楽しむために、努力を惜しまない」

 偶然にも、三人が同時に言ったので、言葉が混ざって、他者の言葉が聞き取れない。


 三人の言い合いは、エスカレートする。情報はあるのに、どれも推理の決定には足りない。

 ついに、名探偵が女刑事を力強く指し、恋の告白をする。

「よし、もしも俺の推理が外れたら、お前を諦める。その代わり、お前の推理が外れたら、俺と結婚しろ!」

 女刑事は、思い切り否定する。

「そんなの、無理ムリ無理ムリ、絶対に無理」

 ニートも追随する。

「俺も、俺の推理に、お前との結婚を賭ける」

「ずるいぞ。俺が先に言ったんだ」

「関係あるかっ! こんな、いい女、諦められるか!」

 女刑事は呆れる。

「あのさっ、二人で勝手に盛り上がっているところ、悪いんだけどぉ、あたし、もうすぐ結婚するから」

 極めて冷静に、あっさりと言った。まるで「楽しみにしていたプリン、食べちゃったから」のような軽さ。

 名探偵とニートは茫然。幼馴染に、こんなに長い間、片思いしていたのに、あっさりと二人が同時に失恋。

「だから今日は、それを、あんたたちに報告するために、二人を誘ったの。だって……」

 突風で、季節の香りがした。女刑事は、乱れた髪を押さえて、遠くを見つめながら言う。大人になった女性が、懐かしむように。

「あたしたち、あんなに仲良しだったんだもの……」

 二人は、いくつもの思い出を回想するが、どれも、女刑事に翻弄されていることばかり。

 今日の女刑事が、これまでで最も美しかったのは、結婚を控えて幸せだったからだ。

「本当はさっ、三人で沈み行く夕日を見ながら、あたしがそっと結婚報告して、ポロポロ涙を流して……なんて、ロマンチックなことをしたかったんだけどさっ。台無し」


 警察官が、三人に話し掛ける。

「もう、大丈夫ですので、お引き取りください」

 警察官は、三人のうちの一人が女刑事であるので、こうしてあいさつに来た。

 女刑事「それで、自殺、他殺、事故死の、どれだったのでしょうか? 私は、うっかりの事故死だと推理しているのですが」

 名探偵「遺書があるので、自殺ですよね」

 ニート「計画殺人。防犯カメラに映っていないことが証拠です」

 三人が同時に。「これ以外は、考えられません!」

 強い口調で迫られて、警察官は一瞬、たじろぐ。しかし、気を取り直して、あっさりと告げる。

「病死です」

 へ?

 警察官は、敷地の外の、定点カメラを指した。

「あのカメラで、立ったまま亡くなった場面が、映されていました。亡くなって、柵の上に倒れて、転落しました」


 三人は、帰路でも言い合っていた。

「倒れたのが、柵の上だったから、事故死ってことに、しようね」

「いや、死ぬために、ここに来たんだ。病死の方が、たまたま先だっただけだ」

「事前に犯人から飲まされた毒薬が、柵の近くで効いたんだ」

 少し沈黙。

 女刑事は、くるりと振り返り立ち止まる。グラビアアイドルのように、後ろで手を組み、斜め向きに腰を曲げる。

「ねえ、結婚祝いが欲しいな。だから、事故死ってことで。ねぇん、いいでしょっ!」

 二人の手を取る。色っぽい声を出し、おでこに皺ができる程、眉毛を上げて、笑い掛ける。

 二人は、目を合わせて、テレパシーのように会話する。

「人が亡くなっているのに」

「それを結婚祝いにするのか」


 ……。


 設備関係者の独り言。

「あれは、ポエムのノート。あんな所に落としていた」

「遺留品だからと、警察が持って行ったけど、いつ返してくれるかな」

「鑑識さんとかが、丁寧に調べるのかな? 読まれるのかな?」


この作品の一部は、『ガクテン』から流用しています。




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