禁じられた遊び
しいなここみさまの「華麗なる短編料理企画」と夏のホラー参加の一品です!
「わぁ、今日の給食カレーだ!」
4時間目の終わり頃、そうたが叫んだ。
たしかに、窓の外からカレーの香りがする。
「やったね!」
クラスの空気が途端に明るくなる。
先生も微笑んでいる。
「お前ら、盛り上がるのはいいけどあのゲームはしたらだめだからなー」
先生の警告に、みんなが頷いた。
僕たちの学校には、ある都市伝説がある。
それは、「じゃんけんをすると学校の神に消される」というものだ。
すごく眉唾だけど、“消される”とみんなの記憶からも消えてしまうから、真相は誰にも分からない。
だからみんな、給食は“じゃんけん”じゃなくて“ルーレット”だ。
普通のじゃんけんにはみんな気をつけているから引っかからない。
でも、カレーの日には落とし穴があるのだ。
それは、「カレーライス」というゲーム。
簡単にいうと、「カレーライス!」という掛け声でじゃんけんの手を出して、全員の手がそろうか「あいこ」の状態になったら「水!」と叫ぶゲームで、「水」というのが1番早かった人が勝ちだ。
出すのがじゃんけんの手だから、やると“消される”と言われている、禁忌のゲームだ。
もちろん僕もやったことはない。
そんなことを考えているうちに、4時間目が終わって給食の時間になった。
今日のカレーは、肉だくさんだ。
みんなも気分があがっている。
その高揚感の中、ともやが言った。
「なあ、“カレーライス”やろうぜ」
「え?」
「だめだよ」
「消えるんだよ?」
みんなは反対する。そりゃそうだろう。消えるんだからな。
「いやでも、やってみないとわかんないじゃん?」
ともやはやる気満々だ。
「じゃあもう俺が証明するわ!“カレーライス!”」
その瞬間、チョキの手を出したともやのすがたが――消えた。
「え?」
「どうしたの?」
近くにいた女子が、僕に聞いた。
僕はわかった。だれも、覚えていないのだと。
◇ ◇ ◇
僕は、祠の前に来ていた。
この祠は、この学校の七不思議のひとつで、「秘密が隠されている」と言われているのだ。
ともやが消えたことのヒントがここにあるのではないか――そんな僕の考えは、当たっていた。
祠には新しく、「ともや」の文字が刻まれていたのだ。
――どうすれば元に戻るのか。
考えた僕は、思いついた。
「“カレーライス”で最後に言う言葉、“水”を唱えればいいんじゃないか?」
僕は、祠に向かって叫んだ。
「水!」
――その瞬間、祠から水が噴き出した。
そして、僕は早くも自分の決断を後悔していた。
僕の頭の中から、「ともや」の記憶が失われていく。
「“水”って、終わらせる呪文なのか……!」
今や「¥%*」としか思い出せないかつての友に別れを告げ、僕は目を閉じた。
◇ ◇ ◇
僕は、目を覚ました。
周りを見渡すと、ほとんどの子が外に出ていた。どうやら昼休みに少し寝てしまったみたいだ。
何か大切なことを忘れている気がする。
でも、そんなことより早く外に出なくては。
そう思いながら、僕は教室を飛び出した。
◇ ◇ ◇
ある時、給食にカレーライスが出た。
僕は、何か胸の奥底がざわめくような気がした。
僕は、嫌な予感がして教室を出た。
僕の耳に、教室からの声が届いた。
――「“カレーライス”しようぜ!」
みなさんの学校にもこのゲーム、ありましたか?




