奪われた騎士
王宮を後にしてから数日後。
「本日をもって、アレクシス・ヴェルトハイムは第一王女マリアンナ殿下の専属騎士として任命する」
魔塔に来た王宮からの使者により、命令が下された。
ロザリアだけは静かに座ったまま、何も言わなかった。
「ロザリア様……」
アレクシスが辛そうな顔で言葉を紡ぐ。
「……構わないわ」
ロザリアは涼やかに微笑み、彼の青い瞳をまっすぐ見つめた。
「……これは決定事項なのでしょう?」
アレクシスの体が、少し震えているように感じた。
ロザリアはゆっくりと立ち上がり、彼の手をそっと握る。
「では、貴方の務めを果たしなさい。ただし、私の騎士であることを忘れないで」
アレクシスは彼女の手を強く握り返し、誓うように囁いた。
「はい、ロザリア様」
***
それから数日後、アレクシスは王宮に正式に移った。
ロザリアは彼の不在を感じることが増えていた。
──そして、ある日のこと。
ロザリアは、そこで信じられない光景を目にした。
マリアンナがアレクシスの腕に絡みつき、学院の庭で生徒たちとマリアンナが談笑している。
「それでね、アレクシスったら私に毎日付き添ってくれるのよ!」
マリアンナは満足げに笑う。
ロザリアの指先が、ふと震えた。
(……アレク、貴方は今、どんな顔をしているの?)
マリアンナの後ろに控えているはずのアレクシスを見る。
──
(……ふぅん)
ロザリアは微笑むと、ゆっくりと彼のもとへ歩み寄る。
「ごきげんよう、お嬢さん」
「……ロザリア様?」
マリアンナが驚いた顔をする。
「そろそろ、わたくしのアレクを返していただけるかしら?」
ロザリアは可憐に微笑むと、アレクシスの手を取った。
そして、指を鳴らす。
次の瞬間──アレクシスの体がロザリアのもとへ引き寄せられた。
彼は驚きながらも、すぐに膝をつき、ロザリアの手を取り、蕩けた顔で誓うように囁いた。
「私の身も心も、すべてロザリア様の為に…」
その言葉に、マリアンナが顔を赤くして叫ぶ。
「な、なにをするのよ!これは王命で──」
「いいえ」
ロザリアは彼女を見つめ、微笑んだ。
「わたくしの騎士が、誰に仕えるかを決めるのは王ではなく、わたくしなのです」
そして、ロザリアはアレクシスと腕を組み、学園を後にした。
その後ろ姿をカイロスが憎悪にまみれた瞳で見つめていたことに、2人は気付かなかった。
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