暁光と暁影
──それは、静寂の中で囁かれる神の予言だった。
「暁の魔女よ、お前は世界の均衡を司る者」
「だが、決して一人で歩むことはできぬ」
「お前の影となる者が、お前を守るだろう」
ロザリアは夢の中で、その言葉を繰り返し聞いた。
目の前に広がるのは果てしなく続く暁色の空。
そこに、ただ一人、深い蒼の瞳を持つ騎士の姿があった。
──アレクシス。
彼の姿が滲んで消える瞬間、ロザリアはふっと目を覚ました。
魔塔の天井が視界に広がる。
窓の外を見ると、まだ夜明け前だった。
(……また、あの夢)
幼い頃から、何度も見てきた神託の夢。
しかし、そこに登場する「影の騎士」の顔は、いつも霞んでいた。
けれど、今ははっきりとわかる。
──それが、アレクシスであることを。
ロザリアは静かに起き上がり、身支度を整える。
今はまだ魔塔の朝の鐘が鳴る前だ。
少し、気持ちを落ち着けよう。
(こんなことで、動揺するなんて)
そう思いながら部屋を出ようとすると──
「……ロザリア様?」
聞き慣れた低い声が、扉の向こうから聞こえた。
扉を開くと、そこにはアレクシスがいた。
「……なぜこんな時間にここに?」
ロザリアが尋ねると、アレクシスは微かに眉を寄せた。
「……何となく、ロザリア様が目を覚ます気がして」
「……勘?」
「いえ、確信に近いものです」
彼は微笑むでもなく、ただ真剣な目でロザリアを見つめていた。
ロザリアは胸の奥に微かなざわめきを覚えた。
(本当に、影みたいね)
彼は、まるで彼女の心を読んでいるかのようだった。
ロザリアは小さく息を吐く。
「……ちょうどいいわ。散歩に付き合ってくれる?」
「もちろんです」
アレクシスはすぐに歩調を合わせ、ロザリアの隣に並ぶ。
魔塔の外へ出ると、夜明け前の空気は澄んでいて、静寂の中にわずかに魔力の流れを感じた。
ロザリアは、ふと空を見上げる。
夜の闇を切り裂くように、東の空がわずかに淡い朱を帯びていた。
──暁の光。
彼女の「暁光の魔女」に刻まれた、特別な時間の色。
(私は、何を選ぶべきなのかしら……)
今までは“暁光の魔女”としての宿命を受け入れるだけだった。
だが、もしも“選ぶ”ことができるのなら──
「アレク」
「はい」
「貴方は、ずっと私の傍にいてくれる?」
ロザリアの問いに、アレクシスは迷うことなく答えた。
「当然です」
ロザリアは彼を見つめた。
アレクシスは少しだけ目を細め、静かに微笑む。
「ロザリア様が何を選ぼうと、私は変わりません」
彼の言葉は、ただの忠誠ではなく、もっと深い何かを感じさせた。
──それは、彼女の心を静かに、そして確かに揺らした。
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