選ばれし魔女
朝焼けの光が魔塔の高窓から差し込み、白磁の床に淡い輝きを落としていた。
ここは、ヴァルフォルニア王国の最奥にそびえる“魔塔”──選ばれし魔女たちが集う場所。
その最上階にある一室。純白の帳が揺れるベッドの上に、一人の少女が静かに座っていた。
銀糸のような髪が柔らかく広がり、燃え上がる焔のごとき紅い瞳がゆっくりと瞬く。
ロザリア・エーベルライン。十六歳の魔女。
彼女は十歳の時、"予言の魔女"によって「暁光の魔女」と告げられ、この塔へ迎え入れられた。
暁光の魔女──それは、この世界にただ一人だけ存在する特別な魔女の称号。
そして、世界の法則を司る“神の代理人”となる運命を持つ者。
(──今日も、何も変わらない朝)
ロザリアは静かに息を吐いた。
この六年間、魔塔で研鑽を積み、知識と魔力を磨き続けてきた。
しかし、他者との交わりにはほとんど興味がなかった。
必要な会話は交わすが、それ以上の関係を求めたことはない。
そんな彼女に、ある一つの転機が訪れた。
「ロザリア様、お時間です」
扉の向こうから、執事のように整った声が響く。
ロザリアはゆるりと立ち上がり、朝の支度を整えた後、扉を開けた。
そこには、整った軍服に身を包んだ青年が跪いていた。
アレクシス・ルーヴェン──彼女に仕える、たった一人の魔法騎士。
漆黒の髪に、氷のように透き通る蒼い瞳の美丈夫。
凛とした佇まいに、確かな剣の実力を宿す男。
十五歳の時に選ばれた魔女は、一人の魔法騎士を選ぶことができる。そしてロザリアは、彼を選んだ。
彼の剣技と忠誠心は、彼女の想像を超えていた。
「行きましょう、アレク」
「御意」
彼女はそっと微笑み、塔を出る。目的地は、ヴァルフォルニア魔法学院。
そこでは王族を含む名家の子女が学び、魔法と政治を学んでいる。
そして、ロザリアもまたその生徒の一人だった。
だが、学院には一つの厄介な問題があった。
──ヴァルフォルニア王国第四王子、カイロス・フォン・ヴァルフォルニア。
彼は執拗にロザリアへ求愛を繰り返していた。
「ロザリア嬢、今日こそお茶でも──」
学院の庭園。いつものように現れたカイロスに、ロザリアは静かに微笑んだ。
「申し訳ありませんわ、王子。授業がございますので」
カイロスの顔が歪む。その隣で、アレクシスは目を細め、無言で彼を睨んでいた。
(……本当に鬱陶しい)
ロザリアは心の中で溜息をついた。
そんな日常が続く中、ある日、ロザリアとアレクシスは学院裏に広がるダンジョンへと向かった。
「ロザリア様、お一人で向かわれるのは危険かと」
「大丈夫よ。アレクがいるもの」
彼女は微笑みながら、ゆっくりと階段を降りる。
だが、その奥深くに足を踏み入れた時、予想もしない事態が起きた。
──突如として、全身の魔力が霧散したのだ。
「……!」
「ロザリア様!?」
足元の魔法陣が怪しく光る。
これは**魔力封じの魔物**の仕業だ。
彼女の魔力が完全に封じられたことで、無防備な状態になってしまった。
──ガルルルル……
魔物が牙を剥く。しかし、その瞬間──
シュンッ──!
閃光のような剣が、魔物を貫いた。
「ロザリア様、ご無事ですか?」
アレクシスが剣を構え、蒼い瞳をこちらへ向けていた。
彼は次々と魔物を斬り伏せ、その圧倒的な剣技でロザリアを守り抜いた。
──ロザリアは、初めて気付いた。
自分は、彼に命を預けていたのだと。
彼がいなければ、今の彼女は存在しなかったかもしれない。
「……ありがとう、アレク」
彼の名を呼ぶと、アレクシスの表情が驚いたように揺れた。
ロザリアはそっと微笑む。この時、彼女の心に小さな変化が芽生えた。
それは、彼女にとって初めての“特別”だった
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