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「誠二、海だ、海に行くぞ」

「……いきなり何だ?」

 コンクールが終わり、吹奏楽部も新体制となり、午前中は部活、午後は遊びの日々が続いていた。

 今日もいつも通りに部活を終えて、オレの部屋で勇介とゲームしてたんだが…。

 何を思い立ったのか、急に黙り込んで出たセリフがこれだ。

「こうやって灼熱の太陽に焼かれるのを避けて家の中でゲームするのもいい。しかし!夏休みらしいことを何一つやっていないと思わないか?」

「朝から部活してるだろ?授業だってないし」

「つまらん!何てつまらない奴なんだ、誠二!夏と言えば海だろ!海だ!そうだ!海なんだ!」

「まぁ、間違いじゃないけど…」

「そうだろう?かと言って男同士で海に行ったって何が楽しい?夏だぞ?水着だぞ?」

 こいつが言いたいことはわかった。

「つまりは誰か女子を誘って海に行きたい、と」

「その通りだ!」

 そんな指をズバッと差されて言われてもな…。

「誘って行けばいいだろ?」

「問題がある」

「あ?」

「すでにみんなから変態のレッテルを貼られているオレの誘いなんて受けるわけないじゃないか!」

「な、泣くな、自業自得だろ」 

 なるほど、つまり…。

「オレに誘えと?」

「理解が早くて助かる」

 ずばり面倒だ。しかし、オレも男なんだ!

「全力を尽くそう、勇介。次の部活が休みの日でいいな?」

「お願いします!!」

 全力で頭を下げる勇介に優越感を感じた。

 それからオレは連絡先がわかる女子に片っ端からメールした。

 そして待つこと十分。

 返事が。

 キターーーーーーーー!

 …………。

「勇介、無理だと」

「くっ…!」

 ちなみに今のメールは理恵先輩。用事があるみたいだ。

 そしてまたすぐに返事が。

 キターーーーーーーー!

「勇介、美香がOKだそうだ」

「それは確定フラグだろ」

 まぁそうだな。

 そのあとも返ってくる返事はどれもNO。

 もしやオレも勇介のように変態的な目で見られているのかと不安になったが…。

「決まったぞ」

「おう!」

 結局は身近な美香と紗耶香と相田さんとの五人で行くことになった。

「ただし条件付きだ」

「え?」

「海に着いたらお前だけ別行動しろだと、紗耶香から」

「くくく、行ってしまえばこっちのもんよ」

 勇介の目つきが危ない。

 やはりお前は変態なんだな。




 そして次の休みの日。

 夏だ!

 海だ!!

 水着だ!!!

 海にやってきた。

 場所は少し遠いけれど歩いて行ける海水浴場。

 ピークは過ぎたのか思ったほど人は多くなかった。

 オレと勇介はすでに着替えて女子三人を待っている。

「た、楽しみだな、誠二」

 勇介は鼻息を荒くして三人の水着姿を今か今かと待ち望んでいる。

 ま、少なくともオレもちょっとだけ楽しみにしている。

 ちょ、ちょっとだけなんだからね!

「お待たせ」

 !!!!!

 ………おおぉ。

 水着だ、水着の美女が三人…。

 美香は白いビキニだった。

 知ってはいるが改めて見てもスタイルが良くてバランスがとれている。オレたちの前で水着になるのは初めてじゃないためか堂々としている。

 紗耶香は赤いビキニ。

 胸はそんなに大きくないがスラッとしていてスタイリッシュだ。すでに勇介に威嚇行動中。

 そして相田さん。

 水色のワンピースなんだが制服の上からでは良くわからなかった、たわわな胸が際立っている。すごいボリュームだ。

 恥ずかしそうにもじもじしている。

「や、やっぱり恥ずかしい…そんなに見ないで…」

 ぐはぁっ!

 は、反則だぜ、相田さん。

「ちょっと誠二、なに恵ちゃんばっかりジロジロ見てんのよ、いやらしい」

 いやいや、美香だって十分ナイスバディですよ。

「美香もよく見せてくれ」

「えっ?そ、そんな……誠二…」

 恥ずかしそうにうつむく美香。

 うーん……。

 オレは美香をじっくりと眺めたあと、相田さんの方へ歩み寄った。

「え?え?」

 相田さんは何事かとうろたえている。オレは相田さんの手を取って…。

「相田さんの勝ちだ!」

 相田さんの右手を高々と上げた。

 すると、みるみるうちに美香の顔が真っ赤になる。

「せ、誠二ーーー!!」

「うわーーははは!逃げろーー!」

 オレはその場からダッシュで逃げ出した。

「あっ!待ちなさい!」

 はははっ!

 元陸上部のオレについてこれるかな?

「逃げるなーー!!」

 そう言われて黙って待つもんか!

 さすがオレ!

 美香の姿がどんどん遠ざかって行く。

「うおっ!じんばぶえ!」

 ズシャッ!

 …ああそうさ、転んだんだ。

「誠二ーーー!!」

 終わった…。

 さよなら、オレの海…。

「きゃっ!」

 ズシャッ。

 お?

 美香まで転んだみたいだ。

 チャーンス。

「はっははは!さらば!」

「ふぇっ……」

 あ、あら?

「ふえぇぇぇん!誠二のバカーーー!ふえぇぇぇん!」

 美香は起き上がったもののその場に座り込んで泣き出してしまった。

 う~ん…。

 しょうがないな。

 オレはこのまま泣いている美香を放置するなんて出来ずに歩み寄って行く。

「うえぇぇぇん……」

「お、おい、美香。泣くなよ。悪かったから」

 そう言って手を差し伸べると…。

 ガシッ!

 !!!!!!

「捕まえた!」

「なっ!?き、汚いぞ美香!!」

 美香はウソ泣きだったんだ。

 まんまとそれにだまされたオレは美香にしっかりと手を掴まれてしまった。

「覚悟してね」

「なんだ?何をする気なんだ!?」

「そうだなぁ、とりあえず埋めちゃおうかな」

 埋める!?

 聞き間違いか?

 美香がそんなことするわけがない!

「スコップ借りてこなくちゃ」

 どうやら美香は本気らしい…。

「はっ!離せっ!」

「あっ!暴れるな誠二!紗耶香ちゃーん!」

「はーい!」

 紗耶香!?

 助っ人を呼ぶとは予想外!

「何?美香ちゃん」

「誠二を埋めちゃうから押さえるの手伝って!」

「了解!」

 紗耶香はにんまり笑って近寄って来る。

「紗耶香!来るな!」

「うるさいわよ!」

 二人がかりでオレを押さえ込もうとしてくる。

 オレだってこのまま黙って埋められるのを待つわけがない。

「うおぉぉぉ!」

 必死で二人に抵抗する。

「きゃっ!あっ…あんたどこ触ってんのよ!こうなったら…勇介ーー!」

 勇介?ばかな、勇介が紗耶香の美香の味方をするわけがないだろう。

「はいはいっと」

 えっ?勇介!?

「変態、誠二を押さえてなさい」

「御意」

「てめえっ!勇介!」

 勇介がしっかりとオレを押さえつける。

 性格はなよなよしてるくせに体格はいいもんだからオレは身動きが出来なくなる。

「すまん誠二。だが、お前は間違っちゃいなかった」

「あんたも埋まりなさい!!」

 ドカッ!

「ぐぼえっ!」

 余計な一言を言ってしまった勇介に紗耶香の回し蹴りがクリーンヒットした。

 そして勇介は夢の世界へと旅立って行った。

 ん?

 二人の注意が勇介に向いている今なら…。

「さらば!」

「あっ!」

「あっ!」

 オレは現役陸上部さながらのスタートダッシュで走り去った。

「あーあ…逃げられちゃった」

「どうせならこいつで憂さ晴らししちゃおうか」

「そうだね」

 オレは遠くからその様子をうかがっていた。

 勇介は二人の手によって本当に砂の中に埋められてしまった。

 安らかに眠れ、勇介。

 それからも遠くから様子を恐る恐るうかがっていると…。

「誠二ー!もういいから一緒に遊ぼうよー!」

 美香が手招きしながらオレを呼んでいる。

 本当か?信用していいのか?

 オレはゆっくりと美香の近くまでやってきた。

 だがそれでもオレの中の警戒アラームは鳴ったままだ。

「美香、わ、悪かったよ」

「うん」

 美香はにっこりと笑ってくれた。

 どうやらこの笑顔に裏はなさそうだ。

「私はいいんだけど…」

 え?

「ふんっ!」

 ドカッ!

「ぐほぁ!」

 紗耶香がオレに右ボディーブローの不意打ちを浴びせた。

「な、なにをする!」

「どさくさに紛れて変なとこ触ったお返しよ!」

 オレは胃の中の物をお返しするところだったぜ、紗耶香。

 せめてこの手に感触が残っているならがよかったものを…。いやいや何を言っている。

 その後は四人でビーチバレーをすることになった。

 チームはオレと美香、紗耶香と相田さん。当然っちゃ当然か。

 前にも言ったがオレは球技が苦手だ。もう一度言おう、球技が苦手だ。

「うおりゃあぁ!」

 バシッ!

「うおっ!」

 バシッ!

「誠二!!ちゃんと受けてよ!」

 紗耶香のスパイクはオレの正面にきたが受け切れなかった。

「す、すまん」

 いやいや、紗耶香の打つスパイクには常人には取れない強烈なスピンがかけられている……はず。 

 そしてまた紗耶香のスパイクが。

「うりゃあ!」

 バシッ!

「うげっ!」

 またもや受けきれないオレ。

「あっははは!点取り放題ね!」

 紗耶香が気持ちよさそうに高笑いしている。

「誠二~」

 美香が頬を膨らませている。

「そう睨まれてもなぁ…」

 取れないものは取れん!

「じゃあ私が受けるから誠二がトス上げてよ」

「おう!」

 そしてまたまた紗耶香のスパイク。相田さんはただ立って紗耶香にトスを上げているだけだ。

「うりゃあ!」

 バシッ!

「誠二!」

 バシンッ!

 美香が華麗に紗耶香のスパイクを受けてオレにボールがやってきた。

 さらに言おう。

 オレは球技が苦手だ。

 そりゃ、トーーーース…。

「ぎゃっ!」

 バスン…。

 オレはボールをスカして顔面に受けてしまった。

「あっははは!なにそれ!ヘディングで上げるつもり?」

 紗耶香が腹を抱えて笑っている。

「誠二、かっこ悪い…」

 美香もあきれたようにオレを見ていた。

 ぐすん…。

 お、男の子だって泣いちゃうんだからね!

「ちょっと二人とも!」

 そこで相田さんがオレに駆け寄ってきた。

「誰にでも苦手なことはあるよ。ひどいこと言ったらダメだよ。大丈夫?椿くん」

 ああ…。

「天使だ…。相田さん、オレは今日天使に出会ってしまったよ」

 まさに相田さんの優しさは天使のようだ。

「すごぉーい!天使に会ったなんてすごいね!私も会ってみたいなぁ」

「…へ?」

 マジか?マジで言ってるのか?相田さん。

 ……嫌な予感がする。

「…ぷっ………ふふっ……」

「……ふぐっ……くくっ………」

 見えるぞ…。

 背後だが笑いをこらえている二人が!

「笑いたきゃ笑え」

 いや、むしろ笑ってくれ!

「…くくっ…せ、誠二、どんな天使だったの?」

「……ぶふっ!………わ…私も聞きたいわ」

「二人の悪魔をしかってくれる心優しい天使だよ」

「…埋めるよ?」

 埋めることから離れられんのか!

 また二人に対して警戒する。

「紗耶香ちゃん、おなか空いちゃった」

 あ、相田さん、なんてマイペースなんだ。

「めぐ…。そんだね。誠二、何か買ってきて」

「何でオレが」

「埋めるよ?」

 美香…。

「オレは優しい美香が好きだな…」

「え!?あ、わ、私も行ってあげる!」

 優しい美香は一緒に昼食の買出しに行ってくれておまけに荷物まで持ってくれた。

 それから相田さんが用意してきたパラソルの下で昼食を済ませた。

 勇介は顔以外埋められていたので、顔をそばにおにぎりを置いてやった。

「さあ、行くぞーー!!」

 紗耶香は我先にと海へ駆けていく。

「紗耶香ちゃん、待ってー!」

 相田さんは紗耶香の後を追って走って行く。水玉の浮き輪を抱えて…。

 に、似合い過ぎてるよ、相田さん。

「ね、ねえ、あれ…」

 美香も相田さんの姿を見て苦笑いしている。

「ああ、すばらしい」

「……表現おかしくない?誠二」

「い、いや…ほらっ、乗り遅れたぞ!」

 美香がじと~っとした目で見ていたのでなんとなくごまかして海に向かった。

 そしてしばらく海で遊んでいるときに事件が起こった。

「めぐ!?めぐがいない!」

 紗耶香が突然叫んだ。

「なんだ?どうした?」

 オレは何事かと紗耶香に尋ねる。

 紗耶香は取り乱して言った。

「誠二!めぐ!めぐ見なかった!?いつの間にかいなくなってて!」

「お、おい、落ち着け!」

 相田さん?

 まさか浮き輪持ってたから流されたなんてことはないよな!?

「めぐー!めぐー!どこー!?」

 紗耶香は必死に相田さんを呼んでいた。

「誠二、どうしたの?」

 異変に気がついた美香が近くに来た。

「相田さんがいなくなったんだ!オレはビーチを探してくる!美香は紗耶香をどうにかしてくれ!」

「えっ!?ちょっと…!」

 美香の制止も聞かずにオレは砂浜の方へ駆け出した。

 浮き輪を持っているから目立つはず。

「相田さーん!」

 声を出しながら探すが返事はないし、もちろん相田さんの姿を確認することは出来なかった。

 くそっ!

 まさか本当に流され…いや、よく探すんだ!

 そうだ!勇介!

「勇介!お前、相田さん見なかったか!?」

「見てないっていうか首すら動かせない」

「そうか!」

「ちょ!待ってくれー!!」

 オレは勇介の叫びを無視して砂浜の周りにある林の方へ行ってみた。

 確かこっちには公衆トイレがあったはず。

 単にトイレならいいんだけど。

 そうあって欲しいと願いながらトイレの方へ急いだ。

「相田さん!」

「きゃああ!」

「あっ!すいません!」

 普通そうなるだろ!

 オレはそのまま女子トイレの方へと入ってしまった。

 見知らぬお姉さんと対面してしまったんだ。

 そしてトイレの外に出てキョロキョロと周りを見ていると、さっきのお姉さんが出てきた。

「あっ!あんたさっきの!」

 目の仇のように睨みつけながらオレを指差した。

「さっきはすいません!あの!水玉の浮き輪を持った子見てませんか?」

「え?ああ、さっきの子かしら。なんかあっちの民宿の方に誰かと行ったみたいよ」

「え!?誰と!?」

「あら、知り合いじゃなかったのかしら」

 民宿?

 まさか誰かに連れて行かれたのか!?

「あ、ありがとうございます!」

 オレはお姉さんが指差していた方向へ急いだ。

 マズイぞマズイぞマズイぞ!

 万が一のことがあったら…!

 急げ!

 急げ!!

 急げ!!!

 全力で走るとそう遠くないところで民宿が見えた。

 オレは勢いよく民宿の入り口を開けた!

「すいません!すいませーん!!」

 はぁっ、はぁっ、はぁっ…。

「はいはい、どちらさまですか?」

 中からは人の良さそうなおばさんがエプロンで手を拭きながら出てきた。

「ここに水玉の浮き輪を持った子が来ませんでしたか!?」

「ああ、あの子の知り合いかい。ちょっと待っててね。理恵ーー!ちょっと来てー!」

 ん?理恵?まさかな。

「なーにー?あれ?」

「理恵先輩!?」

 奥から面倒臭そうに理恵先輩が出てきた。間違いなく理恵先輩だ。

「誠二くんも来ちゃった」

「理恵先輩、今日は用事があったんじゃ…」

「そうだよ、ここの民宿のお手伝い。私のおばさんがやってるところだから」

「そうだったんですか…。あっ、相田さん来てます?」

「うん、呼んで来るね」

 よかった。

 理恵先輩が連れて来たのか。

 オレはほっと胸をなでおろしていると相田さんが出てきた。

 おいしそうにアイスを食べている。

「あっ、椿くん。もう来たん―――――」

「相田さん!!どうして何も言わずに来たの!みんなすごく心配してたんだよ!!探し回って!!」

 オレはつい大声で怒鳴ってしまった。

「あっ……」

 相田さんはしゅんとうつむく。

「ちょ、ちょっと誠二くん」

「みんなを呼んでくる」

 オレはそれだけ言ってみんなを呼びに行くために民宿を出た。 

「怒られちゃった…」

「だ、大丈夫だよ。ちゃんと説明するから。誠二くんも話しくらい聞いてくれてもいいのにね」

「どうしよう…椿くんに嫌われたら…私…」

「え?め、恵ちゃん?」

 

 オレは早く二人に伝えないとと思いまた走って二人の元に向かっていた。

 そして遊んでいたところまで戻ってくると…。

「あははは!」

「それー!!」

「やったな~~」

 あれ?

「アリサ先輩!」

「つじく~ん、やっほ~」

 いざ戻ってみると二人はアリサ先輩と楽しそうに遊んでいた。

「どうして?」

「理恵のとこの~手伝い~。めぐめぐが来てること~伝えに来た~」

 ………あ~~~~、やっちまった。

 どうりで相田さんも理恵先輩も落ち着いてるわけだ。

 理恵先輩、何か言いかけてたよな。

 一方的に怒鳴っちまったな…。

「誠二、めぐは見つけたの?」

「ああ、行くか?」

「うん!」

 とにかく相田さんに会ったら謝ろう。

 オレたちは民宿へとやってきた。

「あっ、誠二くん」

 まず理恵先輩が迎えてくれた。

「あの、相田さんは?」

「裏庭にいるよ。さっきは…」

「行ってきます」

 それに理恵先輩はにこっと笑って返した。

 オレは裏庭へと向かった。

 相田さんは縁側で元気がなさそうにうつむいていた。

「あ、相田さん…」

「あっ、椿くん…さっきは―――――」

「さっきはごめん!」

「え?」

「話しも聞かないで一方的に怒鳴って…。もっと落ち着いてれば…」

「…ううん。私も一度戻るべきだったし…」

 相田さんは少しだけ笑って言った。

「でも、ごめん」

「椿くん、もう怒ってない?」

「え?怒るどころか申し訳なくて…」

 うっ…。

「よかったぁ…」

 うわっ、なんて顔して笑うんだ。

 相田さんの安心した笑顔はすごく眩しかった。

 一瞬、時が止まったかのように立ち尽くしていた。

「椿くん?」

「えっ!あ、み、みんな来てるよ!」

「うん!」

 そして二人でみんなのところへ向かった。

「めぐー!心配したんだよー!」

「ごめんね、紗耶香ちゃん」

 紗耶香は相田さんに飛びついていた。

「理恵先輩、さっきは……」

「誠二くん、アイス食べる?」

 理恵先輩は笑ってアイスキャンデーを差し出した。

「…はい!」

 オレもそのことを理解してアイスを口にほおばった。

 美香は理恵先輩から話しを聞いたらしくて「ドジ」と、一言笑って言っていた。

「理恵ー!あとはいいから遊んできなさーい!」

「ありがとー!!」

 理恵先輩は勢いよく返事して…。

「と、いうわけで……レッツゴー!!」

 それからは理恵先輩とアリサ先輩を交えて遊んだ。



「あ~…疲れた~」

「ガキみたいにはしゃいでたな、紗耶香」

「なによ、文句あんの?」

 今は海水浴場を出てもう帰っているところだ。

 理恵先輩とアリサ先輩は今日は民宿に泊まるみたいだった。

「誠二も人のこと言えないでしょ?」

「お前と紗耶香から逃げてただけだっつーの」

 美香と紗耶香は何かといたずらしてくるからな。勇介だってひどい目に。

 ん?

 勇介…、勇介!

「勇介忘れてきた!」

「オレはここにいる!」

 うおっ!

 背後から忍び寄っていた影。

「ど、どうやって出てきたんだ?」

 あれじゃ身動き取れなかったはず。

「ライフセイバーの人に文字通り命を救ってもらった。もちろん、友達に埋められたなんて言っていない」

 それは己のプライドからか?オレたちをかばったか?

「かくれんぼだと言っておいた!」

 …さすがに無理な言い訳だろう、勇介。

 天然のサウナでシェイプアップした勇介は帰りも誰にも相手にされず一人歩いていた。

「つ、椿くん」

「あ、なに?相田さん」

 なにかもじもじしている相田さん。

「あ、あのさ、明日こっちで夏祭りあるんだよね?」

 そうなんだ。

 明日は柳ヶ浦町の年に一度の夏祭り。

 この辺では上がる花火の数が多くて人が集まり賑わう。

「よ、よかったらさ、その……夏祭り、い、一緒に行かない?」

「うん、いいよ」

「ほ、ホント!?」

「美香も行くし、みんなで行こう」

「あ……う、うん。みんなで…行こう…」

 ん?急に元気なくしてどうしたんだ?変なこと言ったか?

 それから紗耶香とも明日の夏祭りの約束をしてその日は別れた。

 ちょっと疲れた一日だったけれど楽しかったな。

 明日は夏祭り。

 一年に一度のお楽しみだ。

 今年は相田さんと紗耶香も一緒で楽しくなりそうだな。


 

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