入部
吹奏楽部へ見学に行った日から六日が経ち、今日は正式入部の日。
あれから結局一度も顔を出さなかった。
でも、吹奏楽部への入部は変わりなし、今日からは通うつもりだ。
それに伴ってちょっと考えていることがあるんだ。
それは同じクラスの相田恵さんのこと。
美香からの話しだと吹奏楽部の新入部員で、オレのクラスはオレと相田さんだけみたいなんだ。
そこでせっかく同じクラスで同じ部活なんだから少しでも話しておこうかなって…。
実は、話そうと思ったのは今日が初めてじゃない。
今までも何度か話しかけようとしたんだけど、なかなか声を掛けることが出来なかった。
相田さんは教室にいるときはいつも一人で本を読んでいるか音楽を聞いている。
そしていつも無表情で人を近寄らせないようなオーラを出しているんだ。
見た目はすごくかわいい。
茶色がかった背中の中ほどまであるストレートで小柄。
顔のパーツは均等に整っている。見ただけでは誰もが美少女と言うだろう。
でも相田さんはその無表情さから、まるで人形みたいだったんだ。
入学して一週間経つけど人と話すのをあんまり見たことがない。
そんな相田さんと会話すべく、オレのちっちゃな勇気を振り絞ろうとしてる今なんだ。
さぁーて、今日こそは!
オレは気合いを入れて相田さんの席に向かって行った。
「あ、相田さん、おはよう」
「えっ…、あ、おはようございます。えーっと……た…さきくん?」
おっとー、そうきたか。
まぁオレも練習場では相田さんのことわからなかったし、おあいこってことで。
それにしてもかわいい声だな。って声すらまともに聞いたことなかったな。
「つ、椿だよ。相田さん」
「あ、ああ、椿くんでしたね。何か?」
「あのさ、オレこの前吹奏楽部見学しに行ってたんだけど、わからない?」
「いつですか?私は毎日行っているので…」
ん~…絡み辛い。敬語だし。相変わらずの無表情。
「あ、いや、いいんだ。相田さん、吹奏楽部入るんだよね?」
「はい、それがなにか?」
「あ、いや、このクラスでオレと相田さんだけみたいだからさ」
「…それがどうかしましたか?」
「い、いや、これからよろしくね!」
「はい、よろしくお願いします」
っと、ここでオレは退散した。
決して空気に耐え切れなくなったわけじゃないよ!
ほら、いきなりなれなれしく話すのもひかれるしさ。
うん、でもこれで覚えてもらったはずだ。
………いやいや、覚えてもらうことが目的じゃないだろ。
昼休みだ、昼休みにはまた時間がある。
そう思って迎えた昼休み。
いつものように渉と弁当を食べ終えたオレは、また相田さんの席に向かっていった。
相田さんはいつも昼休みになると教室を出て行くが、運良く今日は教室で昼食を済ませていた。
そして、見るとちょうど食べ終わったみたいだった。
「相田さん」
「え、あ、今朝の…」
吹奏楽の話題だ。それで責めるんだ。
「相田さんはフルートなんだ――――」
「めぐーーー!」
くっ!やっと会話が成り立ちそうなところで誰だ!
一人の女子がバタバタと慌ただしく教室に入ってきてこちらに向かってきた。
元気がよさそうな、ショートボブの髪を跳ねあがらせている。
相田さんの友達か?全然タイプが違うようだけど。
「あ、紗耶香ちゃん」
相田さんが紗耶香と呼んだその子が目の前に立った。
「めぐ、ご飯食べた?」
「うん、今食べたとこだよ」
「ん?その人は?」
紗耶香という人はオレを見て疑問符を浮かべた。
「えっとー…、たさ……椿くん。クラスメートで吹奏楽部」
また田崎って言おうとしたな。文字数と「き」しか合ってないのに。あれか?天然ってやつか?
「えーっ、こんな人部室にいたっけ?」
ん?ということは。
「正式な入部は今日からだよ、紗耶香ちゃん」
「あ、そっか。じゃあ初めまして、椿くん。私は三組の春日紗耶香、めぐの親友よ!」
自分で親友って言ったな。
「あ、オレは椿誠二。よろしく」
「よろしく、椿くん、部活のパートは?」
「パート?」
パート…なんだ?なにかの分別には間違いなさそうだけど。
「あー、楽器のことだよ。ちなみに私はパーカツ!」
「パーカツ?」
知らない言葉がどんどん出てくる。
「打楽器のことだよ。ドラムとか小太鼓とかシロ……木琴とか鉄琴とかトライアングルとか」
小太鼓!それならオレにも出来るかも!太鼓の鉄人の技術が生かせるんじゃないか?
ん…待て待て、オレは相田さんと話そうとしてるんだった。
「相田さんはフルートなんだよね?」
「めぐはフルートすごくうまいんだから!」
う、うーん……。
「相田さん、い、いつからフルートやってたの?」
「中学の時にはもうすっごくうまかった!」
オレの言葉が春日さんに吸収されていく…。
「あ、紗耶香ちゃん、私、職員室に用事あるんだった」
「そうなんだ。わかったよー、また部活でねー」
そう言って相田さんはそそくさと行ってしまった。
結局話せなかった。春日さんが間に入ってさ。
「えーっと、椿くんだったよね」
ん、なんか攻撃的な感じ…。
「うん、なに?」
「めぐに手出したら絶対許さないからね」
……おう?
「なぜそういう話しになる?」
「めぐはあの通り純粋なの!変な男には近寄らせないんだから!」
…オレの中でこいつは要注意人物確定だな。
それにしてもオレのことを変な男扱いとは…。勇介じゃねぇっつうの。
「そういうつもりじゃないよ。ただ、クラスで吹奏楽部はオレと相田さんだけだから話とこうって思っただけだ」
「ふーん、どうだか……」
警戒されてるな。
「でも……」
「ん?」
「オレって…変な男に見えるのかな?」
少し涙目を見せる。
「えっ、あ、あの、言葉のアヤでさ。そ、そうだ!めぐったらあんな感じだしさ、よかったら話し相手になってあげてよ」
「そんなことなら任せとけ」
ククク……男の涙には案外弱いものよ。
「う、うーん……じゃあね」
納得いってないみたいだったけど春日さんは自分の教室に戻って行った。
目的の相田さんは昼休みが終わるギリギリに戻って来て、話す時間はなかった。
そして午後の授業の授業も終わり放課後。
SHRが終わると美香と勇介が教室へ迎えに来た。
迎えに来てくれるのは案外助かる。一人で部活に行くのはまだ心細いからな。
まだ二回目だけど練習場への道はもう覚えた。一本道だから迷うことなんてないけれど。
練習場へ着くと、この前来た時と同じ席に座った。
部員のほとんどはもう来ていて、中はがやがやと騒がしかった。
新入部員の中には相田さんと今日話した春日さんの姿もあった。
二人は仲良さそう?に話している。相田さんは相変わらず無表情だからよくわからない。話しは弾んでいるようだったけれど。
それからしばらく美香と勇介と話していると奈美先生がやってきた。まだ本人の前では「本田先生」って呼んでるんだけどね。周りのみんなに便乗してオレもそう呼んでるんだ。
「はーい!みんな静かに!…………コホンッ……えー、新入部員の諸君、ようこそ吹奏楽部へ!まずは自己紹介しちゃいましょ!」
それからまずは村田部長から自己紹介をしていった。
自分の学年とパートの楽器と名前。
オレ達新入部員は名前だけ。
吹奏楽部員は全員で六十一人。
三年が十六人、二年が多くて三十人、一年が残りの十五人だ。
その内男子はたった五人。三年に三人とオレと勇介だけだった。二年は全員女子。勇介にとってはまさに天国ってわけだな。
「みんな自己紹介終わったわね。それじゃ、夏まではこの人数でいくことになるわ。改めてよろしくね」
夏まで?
「なあ、美香」
「夏にね、吹奏楽コンクールがあるの。三年生は受験とかあるからその時まで、だからだよ」
さすが美香。何も言わなくても答えてくれる。
「新入部員の楽器のパートは経験者、未経験者別にこっちで分けてあるけど希望があれば後で言ってね。この後はそれぞれのパートに分かれてお互いにまた自己紹介とかしてもらうから。それじゃあ、パートを発表していくわね」
経験者はその楽器か。まぁ当たり前だな。
「まず経験者の人から。相田さん、フルート。春日さん、パーカッション。川口さん、トランペット。椿くん、パーカッション」
…………今、オレの名前言ったか?
い、いや、聞き間違いだよな。経験者なんてそんなこと一言も言ってないし。
パーカッションはいい。その楽器がいいなって思ってたから。
経験者ってなに?
経験者ってずばりパーカッションをやってたってことだよね。
いやいやいやいや、やってないし!
どこからその間違った情報が流れたんだ?
………………まさか、部長?
経験者って太鼓の鉄人のことじゃないだろうな。
「―――――以上がパートの振り分けよ。じゃあ後はパートリーダーの人に任せるわね」
えっ!いつの間に……。
「じゃ、誠二。部活終わったらまたね」
「あっ、ああ」
美香すら経験者ってとこに突っ込まないのかよ。
それにパートリーダー?パートリーダーって誰?
「椿くん!椿誠二くん!こっちだよー!」
ん?あの人かな?
一人手招きしてオレを呼んでいる人がいた。
その人の周りには春日さんが言っていたドラムや木琴、鉄琴なんかその他にも小さいものから大きいものまでところ狭しと楽器が並べられていた。
そこには春日さんも立っていた。
オレも足を進める。
「じゃ、自己紹介しちゃおっか。改めまして、私はパートリーダーの田口理恵、二年生だよ。よろしくね。みんなからは下の名前で呼ばれてるからそっちで呼んでね」
手招きしていた人だ。
理恵先輩って呼べばいいのかな。理恵先輩は春日さんと似ているショートボブで身長も高くナイスバディだ。
「わたしは~新居理沙だよ~。アリサって~呼んで~」
アリサ先輩…でいいのか?
おっとりした話し方だ。長めのツインテールをなびかせている。
理恵先輩もアリサ先輩も美人だ。
っていうかこの部は女子のレベルが高いよな。
今年のパーカッションは四人でこの二人の先輩とオレと春日さんだ。
「春日紗耶香です。よろしくお願いします」
「よろしくね、紗耶香ちゃん」
「よろしく~さやや~」
あ、あだ名ついた。
「椿誠二です。よろしくお願いします」
「誠二くん、よろしく」
理恵先輩は誰でも名前で呼ぶんだな。
「よろしく~つじく~ん」
ん?辻?津路?ツジ?オレのこと?
「椿ですけど?」
「あたまと~おしりで~つじく~ん」
紛らわしい!まるっきり違う人じゃんか!
「出来れば他の呼び方がいいんですけど……」
「う~~~ん、思いつかないから~思いつくまで~きみは~つ~じ~」
ま、まぁいいか。
「ところで、部長から誠二くんも経験者って聞いてるけど前は何を担当してたの?紗耶香ちゃんは来てくれてたから鍵盤って聞いてるけど」
「私もびっくりした。教室で話した時にはとてもそうは思えなかったけど」
部長……やはり部長か。となればやっぱり…。
「太鼓です……」
「え?ああ、スネアドラム?」
「太鼓の鉄人です…」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
くっ、長い!長いぞ沈黙が!
「じゃ、じゃあリズム感はバッチリだね!」
…ありがとう理恵先輩。オレはこの人を尊敬しよう。
部長め、後で会ったら何か言ってやる。
「部長~いたずら好き~だから~」
いやしかし、みんなに経験者として認識されたのは問題だぞ。
「やっぱそうよね、何も知らなかったし」
春日さん、君の見解は間違いじゃなかった。
「とりあえずみんなで基礎練習でもやろっか」
理恵先輩がパートリーダーらしく練習を提案する。
パーカッションの基礎練習は主にゴム盤みたいなやつのリズム打ちだった。
まずはドラムスティックの持ち方から教えてもらう。鉄人のバチの持ち方とは違うんだな。
軽く握って人差し指を上に添えるように持つ。そんなに違和感はなかった。
そして楽譜を見ながらメトロノームに合わせてゴム盤を叩いていく。
楽譜は音階がないから音符の長ささえわかれば大丈夫だった。それくらいは音楽の授業で身についていた。
四分音符、八分音符、三連符、十六分音符の順番で打ち、その繰り返し。
「さすが~リズム感は~バッチリ~」
アリサ先輩が意地悪そうに笑って言う。
フッ、太鼓の鉄人で大達人まで上り詰めた腕を舐めてもらっちゃあ困る。
そこでオレは得意げな顔をしていると…。
「じゃあこんなのは出来る?」
春日さんが楽譜のページをめくり別のリズムを打ち始めた。
アクセントというらしい、「<」がついている音符だけ強く打つ。それが変則的についていた。
それくらい…とやってみるものの。
「うぬぬ…」
右手と左手がバラッバラだ。リズムすらまともに取れてない。
「フフッ、これは?」
今度はロールというのをやって見せた。
手品なんかのクライマックスでダララララ~っと連続で太鼓を叩いているあれだ。
ひたすら早く打つんじゃなくて柔らかく手首を使っている。片方の手で連続で叩いてそれを両手で繰り返している。繊細だ…。
「うおっ!」
思わず驚いてしまった。見ただけで出来そうにない。
なんてこった…。
オレなんかまだまだ見習いの腕前だったんだ…。
「練習もこれだけじゃないからね。ここに置いてある楽器は全部パーカッションだから」
これ全部…。
少なくとも十種類は置いてある。それぞれに練習が必要ってわけか?
先が思いやられるな…。
もちろん簡単に出来るなんて思ってはいなかったけど。
「誠二くん、大丈夫だよ。誠二くんがリズム感バッチリっていうのはホントだし。それだけ上達だって早いと思うよ!」
理恵先輩がオレを気使ってか、励ましの言葉をかけてくれた。
そうだよな、せっかく入部したんだし、しっかり頑張らないとな。
まだ何にも始まっちゃいないんだし。
「誠二~、唇が痛ぇよ~」
しばらく基礎練習をしていると勇介が涙目でやってきた。
勇介のパートはトランペット。美香と同じだ。
「なんだその唇?」
勇介の唇は腫れて真っ赤に膨れ上がっていた。
聞くところによると唇を震わせて音を出すらしい。
「あ、変態が来た」
そう言ったのは春日さん。すでに勇介を変態扱いだ。なかなか人を見る目がありそうだな。
「その唇どうにかしないと変態密度が増していくぞ?」
「みんなオレの努力なんてわかっちゃくれないんだー!!」
そう泣きながら勇介は逃げて行った。
誰も勇介を見ようとはしていなかったな。
それからは部活の終わりまでひたすらに基礎練習をしていた。
悔しかったし、オレ以外経験者だ。早く追いつきたかった。
でも、同じ練習してたってこのままなんだ。
「これ、持って帰っていいですか?」
そう、家に帰ってからも練習だ!
新しいことは楽しかった。単純で地味な練習だったけれど。
だからこそ出来ない自分が悔しかったのもあるかもな。
「いいけど~忘れずに~持ってきてね~」
みんなと一緒に演奏したいなって思ったから入部したんだ。あの一体感に混じりたかったから。
早くうまくなって一緒に出来るようになりたい。
部活の終わりには特別なミーティングなんかはなかった。終わりの時間を迎えるとそれぞれが楽器を片づけて下校する。
楽器を片づける場所は練習場とは別に部室があった。
木造校舎の一室を使っていた。パーカッションは別として他のパートはそこに楽器を片づけていた。
「誠二ー、帰ろうー!」
美香が呼びにやってきた。
こっちもちょうど終わったところ。
勇介は買い物とかで先に帰ったみたいだ。唇に塗る薬でも買いに行ったか?
「あっ!」
そのまま校門まで歩いてきたところでオレは大事なことに気がついてしまったんだ。
「どうしたの?」
「わりっ、基礎練の道具忘れちまった。先に帰ってていいからさ」
「あっ、ちょっと……」
どうしたもんか、あれだけ練習しようと思っていたのに基礎練習の道具を部室に忘れて来てしまった。
呼びとめようとした美香を尻目にオレは部室へと急いだ。
みんな帰ってしまっていたら鍵を閉められてもう入れないから。
誰かいてくれと願いながら走る。
そこで部長のいたずらを思い出した。もしまだ居たら一言物申してやる!
息を切らせて走り部室のそばまでやってくると、練習場の方から音が聞こえてくる。
よかった、まだ誰か居たと、ほっと安心してゆっくりと息を整えながら練習場へと向かった。
近づくにつれ、音がよりはっきり聞こえてくる。
この音は……。
どの音よりもひときわ耳に残っている音だった。
練習場のドアの前に立ちそっとドアを開けて中を覗いた。
やっぱり…。
そこで一人フルートを吹いていたのは相田さんだった。
この音色…やっぱり引き込まれる。
でも、オレが目にした相田さんは相田さんじゃなかったんだ。
一人でフルートを吹いていた相田さんの表情は普段の無表情とは違い、豊かで、何もかも包み込むような暖かな表情だった。
音色も違う…。さらに引き込まれるかのような……。
オレは見とれていた。
普段の相田さんからはとても想像出来ない豊かな表情。
見とれていたんだ…。
不意に、音が止まった。
ぼーっと、ただ黙って立ちつくしていたオレに、相田さんの視線が向けられていた。その表情はいつもの無表情に戻っていた。
「あ、ご、ごめん。邪魔するつもりは……なかったんだけど…」
「椿くん、まだいらっしゃったんですね」
「あ、うん、……わ、忘れ物…取りに来てさ」
な、なんだ?うまく喋れない…。
「そうですか」
「う、うん。ごめんね」
「いえ、私ももう帰るところでしたので。でも、部室の鍵は私が預かってますから……」
「あっ、す、すぐに帰るから」
オレは急いで基礎練習の道具を取った。
「じゃ、じゃあね、相田さん」
「はい。練習、頑張って下さいね」
「う、うん。ありがとう」
そしてオレは練習場から出ようとした。
でも…、今は話す機会なんだと思って…。
「あの、相田さん」
「はい?」
「その…同級生なんだしさ、敬語なんていらないから」
「…ごめんなさい、誰とでもこんな話し方なので…」
「そ、そっか。じゃあね」
「はい」
そして練習場をあとにした。
ゆっくりと歩いて校門に向かう。
…………ふぅ……。
緊張した…。
なんだったんだろう。
相田さん…あんな顔するんだな…。
そんなことを思いながら校門までやってきた。
「あっ、誠二」
校門では美香がまだ待っていた。
「なんだ、待っててくれたのか?」
「荷物、あるんじゃないかって思ってさ」
そうか、基礎練するって言ったから。
「これだけだよ、サンキューな」
「うん、帰ろう」
それから一緒に歩いて家までの道のりを歩いていた。
途中、美香がいろいろと話しかけてきていた…んだろう。
「――――じ!誠二!聞いてる?」
オレは相田さんの表情が頭の中に残っていて、そればかりが頭に浮かんできていた。
「よっ、お二人さん、今帰りか?」
「勇介…」
偶然、勇介が通りかかった。今買い物の帰りなんだろうか。
「なんだ?誠二、元気ねぇな」
「そうなの、誠二がなんか変なんだよ」
「まさか、ついに誠二にも恋の悩み到来かー?」
恋?
「ま、まさか!誠二に限ってそんなこと……つ、疲れてるだけだよ。初めての部活でさ、ね、誠二?」
「そうだな、少し疲れたのかもな」
そんなこと言いつつ、なぜか美香に対しての罪悪感を覚えた。
それがどんな気持ちからきているのかわからなかった。
「誠二、どうだったの?パーカッション」
パーカッション。そうだ、パーカッション!
えーい、あれこれ考えるのはやめた!
練習だ!帰ったら練習するんだ!
それからオレは人が変わったように喋りまくった。
美香からは「誠二が変になっちゃった」なんて言われるほど。
家に帰って夕食を済ませ、風呂に入り、部屋で基礎練習をした。
少し疲れたなと思ってベッドに潜り込む。
すると、またフルートを吹いている相田さんの姿が浮かんできた。
その日は、なかなか寝付けなかった。