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三年生へ

 四月。

 また桜が咲き乱れる季節、オレたちは三年生になった。 

 めぐが居ない生活にもだいぶ慣れた。でもまだ、めぐを思い泣く夜も少なくはなかった。

 しっかりしろ!

 自分にそう言い聞かせて学校へ行く。

 美香、紗耶香、勇介、渉、みんな同じクラスになった。めぐがいれば…そう思わずにはいられなかった。

「誠二、今年はついに卒業だね」

「そうだな、卒業かー。今から言っててもしょうがないけど」

「あはは、それもそうだね」

 美香が居て。

「あんた卒業とか言う前に勉強しなさいよ」

「やるさー。頭の良い奴にはオレたちの苦労はわからん。なぁ勇介」

 紗耶香が居て。

「オレをお前と一緒にするな」

「こっちこそゴメンだ」

「なにぃ!」

 勇介が居て。

「誠二くん、これ誠二くんのために一生懸命作ったんだよ」

「な、なにこれ?」

「フィギュアだよ」

「はは…気持ちだけもらっておくよ」

 渉が居て。

(誠二くん、だーい好き!)

 めぐだって…オレの中にいつでも居るんだ。

 でもやっぱり寂しい。これが本心だ。

 めぐを思わない日はたった一日だってない。

 二人の約束だけがオレたちを繋ぐ絆。今はそれに向かって行くだけだ。

「はーい!席に着いてー!」

 担任は三年連続で奈美先生。

 もう何でも相談出来る。

 オレの気力がない時だって話しを聞いてくれた。学校のっていうか人生の先生?大袈裟かな。

 今年からは進路別に授業が分けられる。

 進学と就職。

 美香、紗耶香、渉は進学。

 オレと勇介は就職。

 オレはまだ何をしていかなんて決まってない。ただ、この町は離れたくなかった。生まれ育って、めぐと出会った場所だったから。

 そういえば、めぐから初めての手紙が届いたんだ。

 いろいろ大変そうだったけど元気でやっているみたいだった。フルートの先生も優しくしれくれてるみだいだ。最初はオレと同じで何も手につかなかったみたい。その様子を想像すると今すぐにでも飛んで行きたい衝動に駆られた。

 最後に書いてあった”会いたい”の文字に思わず涙が流れた。

 返事を…。

 オレもめぐと同じ状況だったこと。クラスにみんな集まったこと。最近の出来事。めぐへの想い。

 ”オレも会いたい”

 この一言を書く時、手が震えていた。

 会いたい…。

 胸が締め付けられる。今すぐ抱きしめたい。

 今は叶わない思いを手紙に託す。

 いつまでも二人の思いが続いていくように。

 ――――

「せーんぱい!」

 亜美は相変わらずだ。めぐが居ないことを良いことにいつでもくっついてくる。

「これを機会に亜美と付き合っちゃいましょうよー!」

「毎日同じこと言ってて飽きないか?」

「誠二先輩が亜美とラブラブしてくれたら言わないですよー」

「あぁ、めぐが恋しい」

「もー!いつもめぐめぐめぐめぐって!そんなに巨乳がいいんですか!」

 そこかよ…否定はしないけど。

「胸じゃなくてめぐの全てが好きなんだよ!笑顔、声、性格、どれをとっても亜美が勝てる要素はない!」

「むぁーーーー!そこまで言わなくったって!」

「それだけめぐを愛してるんだよ」

 話してたら会いたくなってくるじゃないか。

「けっ!ですっ!亜美、他の人のところに行っちゃいますよ?」

「出来ればそうしてくれ」

「誠二先輩のバカーーーー!」

 毎日のことだ…。嘘泣きかどうかも見抜けるぞ、亜美。

「あらあら、亜美ちゃんかわいそう」

 紗耶香もやれやれといった感じだ。

「紗耶香ならオレとめぐの愛がわかるだろ?」

「はいはい。なんとでも言いなさい。それより、めぐが写真送ってきたら見せなさいよ?」

「えーーー!どうしよっかなー」

「ふんっ!」

 ドカッ!

「ぐぼぇ!」

 グーだったよね!今!キズものになっちゃうじゃんか!

「あんまり私を舐めんじゃないわよ?」

「は、はい!送ってきたら必ず!」

「私の親友であることも忘れないことね!」

 部室での出来事もこんな感じで前のように。

 めぐが居ないこと以外は。

 今年の新入部員は十三人。相変わらず女子ばっかり。

 亜美も先輩らしくなってくれればいいけど。

 美香は部長としてよく部員を仕切っていた。真面目で優しく、時には厳しく部員に当たり、みんなを引っぱっていた。

「誠二ー、また亜美ちゃん泣かせたでしょ。走って行ったよ?」

「もう見慣れた場面だろ?」

 美香は世話焼きでもあるから毎日亜美を慰めている。

「もうー、毎回慰める私の身にもなってよね?」

「毎度ご苦労さまです」

「はぁー、行ってきまーす」

 行ってらっしゃーい。

 …………

 こいつらが居れば大丈夫かな?

 楽しく過ごせるかな?

 最後の一年間。

 めぐは居ないけれど、楽しい思いでをたくさん作ろう。

 そして、めぐに会った時にたくさん話そう。みんなのこと、オレのこと。

 良い一年になるといいな。


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