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別れの現実

 クリスマスが過ぎて冬休みに入り、もう年明けを迎えた。

 今日は初詣。

 めぐと勇介と美香と紗耶香。五人で初詣に来ている。

 めぐの両親は今日帰って来るみたいで、めぐは早く帰らないといけないらしい。しばらくは寂しくなるのかな…。

 チャリン…。

 お賽銭を入れて参拝を済ませる。願い事はもちろんめぐとのこと。ずっと一緒に居られるようにとお願いした。みんながそれぞれ願い事をしていた。

 そんな時、勇介の顔がにやけていた。しばらく様子を眺めていると、目を瞑ったまま笑ったりにやついたりしている。

 こいつ…お参りしながら妄想の世界に旅立ったな。

 勇介をそのままに、めぐと美香と紗耶香をそーっと連れ出した。勇介は動くことなく一人立ちつくしていた。

「ほっといておみくじ引きに行きましょ」

 紗耶香が言うがみんな特に異論なくおみくじへ。

 内容は気にしないけど新年一発目の運試し!

 カランカラン…。

 …大吉!

 みんなも大吉。書いてある内容も同じだった。そんなもんだよね。

「誠二ーーー!」

 現実に戻って来たか勇介。

「見ろ!末吉だ!」

 自慢気に見せて来た。

「ププッ…よ、よかったじゃないか勇介」

「去年は凶だったからな。ランクアップだ!」

 お前の大吉は何年後だろうな。

「誠二くん」

「ん、何?」

 めぐが深刻な表情で呼んだ。

「あの…話しておきたいことがあるんだけど…」

「…何?」

 真面目な話しなんだろうな。目が真剣だ。

 まさか…子供…!?いや、ちゃんと…。

「わ、私ね、今年の春―――」

「みんな!明けましておめでとう!」

「あけおめ~」

「あっ、明けましておめでとうございます」

 理恵先輩とアリサ先輩だ。

「…………」

「みんなもう参拝済んだ?」

「みんな済ませましたよ」

「じゃあ久しぶりにみんなで遊ばない?」

「あ…はい…オレはいいですけど…めぐ――」

 ピリリリリリ…!

 めぐの携帯が鳴った。

「もしもし…あ…うん……わかった…」

 どうしたんだ?

「理恵先輩ごめんなさい。両親が迎えに来ちゃったみたいで、帰らないと…」

「え~!そうなの!?じゃあ誠二くんも?」

「いえ、誠二くんは…」

「じゃあ誠二くんはいいよね!たまにはいいじゃない!」

「あ…はい…」

 めぐ…何か話そうとしてたけど…。

「誠二くん、ゴメンね。行かないと」

「うん…またね」

 そしてめぐは帰って行った。

 その後、新学期になるまでめぐには会えなかった。話しかけてたことも直接話したいみたいで電話やメールでも話してはくれなかった。

 何か…言いようのない不安が駆け巡っていた。

 ―――――

 日は経ち、新学期。

 オレはやっとめぐに会えると心躍らせて学校に向かった。

 でもその影で不安も付きまとっていた。

 学校に着いて急いで教室へ。もうめぐは来てるはずだ。

 教室に入るとめぐの姿はなく、紗耶香が一人で机に突っ伏せていた。

「紗耶香、おはよう。めぐは?」

「職員室よ」

「ふーん、新学期早々何か用事なのかな?」

「……あんた、何も聞いてないの?」

「何ってなんだよ?

「そう…。……私の口から言うことじゃないわ。誠二…お願いだからめぐを責めないで…!」

「は?一体何の話しだよ?」

「…………」

 な、何だよ!?

 紗耶香はすごく辛そうな顔をしていた。

「おい!紗耶香!」

 めぐが話しておかないとって言ってたことか?

 不安が駆け巡った。

 何だよ、何なんだよ一体!

「みんな!明けましておめでとう!席に着いてー!」

 奈美先生がやってきた。めぐはまだ来てないぞ?

「新年明けておめでたいところなんだけど、みんなには非常に残念なお話しがあります。相田さん」

 ガララ…。

 めぐ!?何してるんだ!?

 ドクン…ドクン…。

 なんなんだよ…。

「この春、相田恵さんが学校を辞めることになりました。そして音楽の勉強のためにフランスに行くことになります。みんなとはこの二年生の間までになるけど、それまでたくさん相田さんとの思い出を作ってね」

 …………えっ?…。 

「相田さん」 

「はい…。えっと…私はこの柳ヶ浦高校ともうすぐお別れになります。みんなとも。今まで仲良くしてくれたみんな、本当にありがとうございました。そして、残り少ない間ですけどみんなとの最後の思い出を作りたいと思います。それまで…よろしくお願いします」

 な…なんだ?めぐは何を言ってるんだ?

 みんなはめぐに何か声を掛けてたけど全然耳に入らなかった。

 めぐ?

 めぐはオレに視線を合わせようとしなかった。

 わけがわからない。何が起こってるんだ?みんな何を騒いでる?

 紗耶香…。紗耶香は?

 うつむいている。紗耶香は知ってたんだよな。そんな素振りだった。

 めぐがフランス?

 何で?

 どうして?

 何でなにも知らなかった?

 何で言ってくれなかった?

 何で気がつかなかった?

 いつ決まってた?

 何も…何もわからなかった…。

 めぐが変わったと感じたときがあった。もしかしてその時くらいから?

 悲しい顔はこの理由から?

 止めて欲しいってこの事だったのか?

 ”離れても大丈夫だよね?”って聞いていたのもフランスに行くから…。

 思い返せばいくらでもおかしいことはあった。

 めぐを責める?

 …とんでもない。

 何で気付いてやれなかった。

 オレが二人の先のことを話すたびに悲しい思いをしてたんじゃないのか?

 辛かったんじゃないのか?

 オレは…。

 …………バカだ。

 こんなことならもっと一緒に…。

「…うっ……くっ……」

 涙が…。

 止めないと。こんなの見せたらめぐがまた辛い思いするじゃないか!

「………っ!……誠二…」

 紗耶香がこっちに気付いた。

 見ないでくれ。

 めぐにも気付かれるから。見ないで…。

 でも…。

 止まらないよ…。

 せめてめぐから聞きたかったな…。

 そうしたらオレはどうしたんだろう。

 止めたのか?

 オレのために残ってくれって言えたのか?

 ……言えないよな。

 めぐの大事な将来なんだから。止めて欲しかったんだろうけれど…。

 …………

 その後はめぐはみんなから質問責めにあっていて話せなかった。

 始業式が終わり放課後。

 今日は部活はない。

「めぐ…」

「…誠二くん、ごめんなさ――」

「帰ろう」

 めぐの言葉を遮って帰りを急かした。

 二人になりたかった。

 学校を後にしてバス停までの道のり、普段は寄らない広場に寄り道する。あまり人目にはつかない。

「少し話そう」

 そこに着くまで会話はなかった。

「誠二くん…ごめんなさ――」

 また謝ろうとしためぐを、首を横に振って止める。

「めぐ、ごめんな」

「え?」

「気がついてやれなくて。辛かっただろ?」

「あ……。せ、誠二くん……」

 我慢していたのか涙をぼろぼろこぼしだした。

「ご、ごめんなさい。…ごめんなさい…!わ、わたし…!」

「うん…」

 聞こう…めぐの話しを。

「わがままなの…。私のわがままなの。話せなかった…。誠二くんとのその時の幸せが変わってしまいそうで…。怖くて…」

「うん…」

「普通に…笑い合っていたかったの…。誠二くんに心配かけたくなかった。…ごめんなさい。私のわがままなの…」

 普通に…か。この事を聞いていたらオレは普通に笑えただろうか。

「離れたくない…。行きたくないよ…」

「いつまで…?」

「わからない…帰って来るのかも…」

 そんな…・もう行っちゃったら会えないかもしれないってこと?

「イヤだ…行って欲しくない。でも…」

 オレなんかのために…。

「めぐの将来が大事だよ」

「私は…誠二くんがいない将来なんて考えられない。何よりも誠二くんが私の全てなの」

 めぐ…。

「お父さんとお母さんは?」

「え?」

「いつまでいるの?」

「明後日にはまた行っちゃうけど…」

 ………オレは…。

「じゃあ、今から行こう!」

「えっ!?」

「二人で話そう!どうにかならないか」

「で、でも…」

「やれることはやる!」

「う、うん!」

 めぐの手を引いてバス停まで急いだ。

 あーっ!バスが出る!

「ちょーっと待ったぁぁぁぁ!!」

「誠二くん!待って!」

 めぐはとりあえず置いて全力で走る。

 ドンドンドン!

「運転手さん!待って!あと二人!」

 今にも走り出そうとしていたバスを止めた。

「君!危ないぞ!!」

「すみません!乗りますから!めぐ!」

 めぐは後ろに待っていた。だけど動こうとはしない。

「めぐ?早く!」

「誠二くん…行き先違う…」

 なっ!?なんですと!?

 …………

 た、確かに…。

 運転手さんはジロッと睨んだ。

「す、すみませんでしたぁ!」

 深々とお辞儀をして謝った。

 ブロロロロ~…。

「めぐ~…」

「私は待ってって言ったよ?」

 …………

「…ぷっ…あっはははははははは!―」

「ふふふ…あはは…ははっ…誠二くん、おかしー!」

 それからすぐに緑ヶ丘町行きのバスが来た。

「急がなくてもいいからね」

「もう言うなよー」

 バスに揺られて向かう。

 さすがに緊張してくるな。

「誠二くん、大丈夫?」

「え?あ、あぁ、大丈夫」

 少し震えていたみたいでめぐがそっと膝を押さえてくれた。

 バスを降りてめぐの家まで。

 勢いで来たけど何を言えばいいんだ?

 めぐを連れて行かないでくれって言うのか?ただの高校生の彼氏が?どうする?

 ガチャッ。

「ただいま」

「めぐちゃんおかえり…あら?あなたは…」

 めぐのお母さんは笑顔でめぐを迎えたあと、オレの顔を見て少し複雑そうな顔をした。

「椿です。今日は少しお話しがあって来ました」

「……いいわ。どうぞ、椿くん」

 そしてリビングへ通された。

「恵、おかえり。ん?君は…。確か椿くんだったかな?」

「はい、少しお話しがあってお邪魔しました」

「……まぁそこに掛けてくれ」

 少しため息交じりでそう言った。

「失礼します」

「母さん、コーヒーでも淹れてくれ」

 ソファーにめぐと二人で腰掛ける。

「ふぅ…。それで?」

「あの…めぐは…いえ。恵さんはどうしてもフランスに行かないといけないんですか?」

「恵のことは普段通りに呼ぶといい」

「あ…はい」

 落ち着いて聞いてくれるみたいだな。

「めぐはフランスへ?」

「そうだよ。春…三月には向こうへ連れて行く。あっちには優秀なフルートの先生が居てね、恵を見てもらうことになっている」

 そうか…。

「日本じゃダメなんですか?」

「君も聞いていると思うが、私たちはいろんな場所で公演するために飛び回っていた。それが大体フランスで落ち着きそうでね。恵には今まで寂しい思いをさせてきた。そばに置いておきたい」

「え…?それじゃ…」

「正直に言おう。恵も聞きなさい。向こうへ行けば…おそらくはもう日本へは戻らないだろう」

 なっ…!

「なにそれ!お父さん!そんなこと聞いてない!」

 めぐも初めて聞いたのか。

 怒鳴って抗議している。

「私は絶対イヤだよ!そんなの!」

 オレも…二度と会えないなんて絶対イヤだ!

「それは…ひどいんじゃないですか?黙って連れて行こうなんて」

「今まで散々一人にして来たじゃない!そんなの今さらだよ!」

「それは私たちが転々としていたからだよ。子供の恵を連れまわすのはかわいそうだったからね。友達も出来なかっただろうし」

 そんなことが…。でも、納得は出来ない!

「今まで寂しい思いをさせて来た分、これからかわいがってやりたい。それに恵の将来も向こうじゃ安心なんだよ。私たちの楽団に入れる」

「私は…私はそんなこと望んでない!」

「なら恵は家族よりも椿くんが大事だというのかい?」

「そ、それは…」

 家族…か。めぐは今まで寂しい思いをしてきただろう。唯一無二の家族。ホントは思いっきり甘えたいはずだよな。

 オレがどうこう言う問題なのか?

 逆の立場ならどうする?

「椿くん、向こうでの音楽は私たちの仕事なんだよ」

 フランスで仕事しないといけない。それは仕方ないよな。

 だけどめぐと離れたくない。でも…何も言えない。

「日本にはもう二度と?」

「公演があるなら来るだろうね」

 めぐに会えるのはそんな時しかないのか…?

「椿くん、これは家族の問題なんだよ。わかってはくれないだろうか?」

「…………」

「コーヒーよ。お菓子もあるからね」

 めぐのお母さんがコーヒーとお菓子を持って来てくれた。

「椿くん、私たちも好きで一人娘のめぐちゃんを一人ぼっちにしてたわけじゃないのよ。たった一人の娘なんだもの」

「お母さん…」

 元々…オレが入りこめる話しじゃなかったのかな…。

「椿くんには感謝してるわ。一時期めぐちゃんは塞ぎ込んでた。それを救ってくれたんでしょ?」

「救ったなんて…」

「いいえ、救ってくれたのよ。おかげでお友達もたくさん出来たみたいだし」

「…………」

「でも、私たちもめぐちゃんが大事なの」

「……はい」

「誠二くん…」

「わかってくれる?」

 わかる。それはわかるけど…離れたくないよ。

「お父さん、こっちで仕事は出来ないの?」

「契約があるんだよ、大きいね」

「…そう…なんだ…」

 めぐにはそれがどういうことかわかってるみたいだ。

「…………」

「…………」

 オレもめぐも言葉が出て来ない。

「せめて…」

「なんだい?」

「めぐが日本を離れるまでの間、会ってもいいですか?」

 もう…オレには…。

「会うなとは言ってないよ。私たちは明後日にまた飛ぶ。そして一ヶ月後にまた戻る予定だ。それから一月の間に日本を離れる準備をして三月半ばに日本を発つ」

 三月半ば…。

「それまでは自由にするといい」

「……はい」

「誠二くん……」

「椿くん、ごめんなさいね」

 謝られても、なんて答えればいいのか…。

 めぐのお母さんも申し訳なさそうにしている。

「今日は…帰ります」

「あっ…あの…誠二くん」

 めぐもオレになんて言えばいいかわからない様子だった。

「送ってあげなさい」

 そしてめぐと一緒に家をあとにした。

 …………

「…………」

「…………」

 なんとか、めぐを連れて行かないで欲しかった。でも、ああ言われたら何も言えなかった。

「ごめん、オレ何も言えなかった」

「誠二くん…」

「ごめんな…」

「謝らないで。ありがとう…誠二くん」

 めぐ…ありがとうって…。

「めぐ……めぐ……うっ…め…ぐ……うっ……くっ……」

「せ、誠二くん…うっ…グスン…誠二くん!うぇ~~~~ん!誠二く~~ん!…グスッ…」

 周りの目線なんか気にならずに、二人で抱きしめ合って泣いた。

 目の前に別れの現実を突きつけられた。

 めぐと一緒に居られるのもあと二カ月。あまりにも短すぎる。

 この二カ月でめぐに何が出来る。何をしてやれる?

「めぐ…オレは…」

「いつも通りの誠二くんでいて?」

 えっ…?

「いつも通りに話して、いつも通りの笑顔で…いつも通りに私を愛して?」

「……うん」

 それがめぐの望みなら。

「最後まで…笑った顔で」

 泣き顔なんか見せなくていい。いつも笑顔で、めぐと会おう。

「めぐ、ここでいいよ」

「うん。また明日ね!」

「また学校で!」

 会えなくなることは考えないで、今を大事に。何気ない普通を大切に。

 めぐが笑って旅立てるように。

「誠二くん!」

 もう背中を向けていたオレは呼びとめられて振り返った。

「私…誠二くんに出会えて…あなたを好きになってよかった!」

 笑顔で…少しだけ頑張った笑顔でめぐは言った。

「オレも…めぐを好きになってよかった!」

 いつまでも…大好きだよ。

「じゃあ、またねー!」

 離れたって…心は繋がってるよ。

 きっと…。




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