進路
修学旅行も終わり二学期ももうすぐ終わりを迎える。
教室の外は雪。多く積もる程の雪じゃないけれどキレイな景色が眺められた。
去年、めぐからクリスマスプレゼントにもらった手袋が大活躍だ。今年はちゃんとプレゼントしないと。そう思って随分前から小遣いを少しずつ貯めていた。それでも大した物は贈れないけれど。
ところで、今日は進路相談。
将来のこと。と言ってももうあと一年と少し先のこと。そろそろはっきり決めないといけない。オレは何も決まっていなかった。
「椿くん、どうするの?何かしたいこととかないの?」
今は奈美先生と進路の話しをしているところだ。
「特にまだ…」
「せめて進学か就職くらいは決めなさい。そうしないと、進学なら今からでも勉強するの遅いくらいよ?」
「はぁ…」
「もう…もっと危機感持って。じゃないと相田さんと釣り合わないわよ?」
めぐ…めぐはどうするんだ?
「め…相田さんは進路決まってるんですか?」
「まだ聞いてないわよ。聞いてても言わない。そういうことは本人に聞きなさい」
そうだよな。後で聞いてみよう。
放課後―
部活も終わり、バス停へめぐを送っている。
「めぐ、進路どうするの?」
「えっ!?」
「そんなに驚かなくても…」
「ご、ごめんね。私は…まだ決めてないよ」
めぐも決まってないのか。
「オレもなんだ。めぐは頭良いからまだまだ大丈夫なんだろうな」
「そ、そうだよ!私、頭良いし!」
「…………」
「あ、ごめん…」
むぅ、頭が良いっていいよなぁ。
「はぁー、どうするかなぁ」
「…………」
でも、めぐって…。
「でも、めぐはフルート奏者とか目指さないの?」
「えっ…うん。先々は…そうなるかな」
「…じゃあ楽団とかに入ったらあちこち行ったりとかも?」
「……うん」
やっぱり…そうだよな。イヤだな。めぐと離れるの。
「そうなったら…寂しいな」
「……うん」
オレはめぐみたいに楽団に入ったりとか、そういうのは目指せない。いつでも一緒に居たいっていうのは贅沢なんだろうか?
「でも、頑張って。小さい頃からずっと頑張って来たんだからそれを目指さなくちゃ」
「誠二くんは…それでいいの?」
「え?」
「私がいつもどっか行っちゃったりしてて…」
そりゃイヤだよ。でも…。
「めぐの大事な将来なんだから…仕方ないよ」
出来るならずっと一緒に居たいっていうのは正直な気持ちだけれど。こればっかりはな。
「私は……」
ん?
「めぐ?」
めぐは顔を伏せて…震えているようにも見えた。
「私は誠二くんに止めて欲しい!私がどこかに行っちゃうのなら!それを止めて欲しい!」
めぐは胸に手を当てて涙を浮かべながら急に怒鳴るように言った。
「ど…どうしたんだよ。いきなり」
でも、その表情はとても真剣だった。
「ご、ごめんなさい。今日はここでいいよ。バイバイ、誠二くん」
「えっ、ちょっとどうしたの!?」
めぐは走って行ってしまった。
なんなんだよ、わけわかんねー。
「あら、誠二。めぐは?」
紗耶香。今帰りか…。
「先に帰った」
「ケンカ?」
「知らないよ。急に怒鳴るようにして帰って行ったから」
「…あんた、めぐに何言ったの?」
何って…何だろう?
「わからん、オレが知りたい」
「めぐが理由もなく怒るわけないじゃない」
そうなんだよなー。でも怒ってるってわけじゃなさそうだったし。
「怒ったっていうか、なんか止めて欲しいみたいに言われた」
「何を?」
「何をって…。めぐがめぐの両親みたいにいつもどこかに飛び回るのを、かな?」
「…………」
紗耶香のやつ、考え込んでるな。
「何かわかるか?」
「…さぁ。わからないわ。でも、仲直りすることね。悔しいけど、めぐにとってはあんたが全てなんだから。何よりもあんたのことなんだから」
そう言われると何も言えない。めぐにも同じこと言われたし。
「また明日からいつも通りにしてればいいのよ。何も言わないで」
「…わかったよ」
いつも通りに。めぐの笑った顔を見たいな。
「サンキュー紗耶香。なんとなくすっきりしたよ」
「最後までめぐのそばに居てあげて」
え?
「なんだって?」
「そばに居てあげてって」
「あ、あぁ、当たり前だろ」
「…ホントに…あんただけなんだから。…じゃあね」
「おう、またな」
そして紗耶香と別れた。
明日からいつも通りにまためぐと話そう。めぐもいつも通りに話してくれると思う。きっと。
それにしても進路かー。
どうしよう。頭痛いなー。
「よぉー誠二!今帰りか?珍しいな」
いつもと帰る時間が違うから勇介に会った。
「まぁな」
「元気ねぇなー、ケンカか?」
なーんか、勇介に言われるとムカつくぜ。
「進路で悩んでんだよ。お前どうするんだ?」
「風の往くままオレも流れて行くさ」
「かっこいいこと言ってるけどどうせ決まってないんだろ?」
「オレはおじさんの屋台を手伝うつもりだ。全国のいろんな祭りに行くから転々とするだろうな」
な、なに!勇介には先が決まっているのか!?
勇介ですら…。
くそっ、なんだか負けた気分だぜ。
その後、勇介がめぐとの事を聞いてきたので、勇介にとって夢のような話しをしてやった。
勇介は泣いて悔しがっていた。もちろん詳しい話しはしてないよ?
「ただいまー」
「おかえりなさい。今日は早いわね。イチャイチャしてこなかったの?」
母親が息子に向かってイチャイチャとか言うな!
「今日は進路相談で帰りは別だったんだよ」
ちょっと悔しいから見栄を張ってみる。
「進路ねぇ、あんたバカだからねぇ」
ぐっ…また息子に向かってそんなことを。
「恵ちゃんのおうちお金持ちなんでしょ?婿養子にでもなったら?」
「バカ言うな」
「んま!親に向かってバカなんていつからそんな子に!」
オレはあんたに育ててもらった。
「オレは結構真面目に悩んでるんだよ」
「私も真面目に言ってるわ」
もういい、疲れる。
いろいろ済ませて部屋に入る。
めぐにメールしよう。
『今日はごめんね。また学校で』
返事は…。
『私こそ。また明日ね!』
大丈夫そうだな。
進路はおいおい考えていこう。焦っても仕方ないし。
今のオレじゃ将来のめぐと釣り合い取れないだろうなぁ。
頑張らないとな。
――――
めぐがどんな気持ちであんなことを言ったか。
オレは自分のことばっかりで何もわかっていなかった。
めぐがどんな気持ちでオレの目の前に立っていたのか。
めぐがどんな気持ちでオレに笑顔を向けてくれていたのか。
めぐがどんな気持ちで二人の将来の話しを聞いていたのか。
めぐは…強かったんだ…。