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修学旅行

 めぐの家に泊まりに行った翌日。

 めぐの話しを聞いたら叱られただけだったらしい。そりゃ一人娘が男を泊めたら怒られるよね。

 でも、泊まりに行った日、めぐに会ってから何かが違った。変な違和感があったんだ。なんて言ったらいいかわからないけれど、めぐは何か今を愛しむようなそんな感じだった。今までより積極的に会いたいと言ってきたり、別れの際には泣きそうになったり。焦っているようにも見えた。

 新学期になってからの体育祭でもいつもオレについて回っていた。文化祭でもオレのそばを離れなかった。

「めぐ、ここ最近ずっとどうしたんだ?」

「なにが?」

「なんていうか…前より寂しがりになったっていうか…」

「それだけ誠二くんと一緒にいたいの」

 今は修学旅行のバスの中。隣同士に座っていて通路を挟んで紗耶香がいた。

 修学旅行のメインはスキーと観光。新幹線で旅行先まで来てスキー場までバスで向かっていた。

「相変わらず仲のいいことこの上ないわね」

 紗耶香が嫌味ったらしく言ってくる。

 仲がいいのはいいんだけど何か違うんだよな。紗耶香は何もわからないのか?

 しばらくバスに揺られているとスキー場へ着いた。スキー場にはホテルも併設してあってここには三泊四日の予定だった。

 今日はこのままホテルに泊まり、スキーは明日からだ。

 ホテルの部屋は四人部屋で男女は別棟。

 唯一食事をする部屋だけは一緒になる。浴場も一ヶ所なので顔を合わせるかもしれない。

 部屋には普通に話す程度のクラスメート三人と一緒だった。

 今日この後は夕食と風呂を済ませて寝るだけだ。

 修学旅行で困るのは食事。オレの好き嫌いが最大限に発揮される時なんだ。

「はぁー、憂鬱…」

 一人ぼやきながら食事が容易されている大宴会場へ。このときは学年全員が集まる。

「よぅ誠二。お前にとっては苦痛な時間だな」

「嫌いなものは食べてくれよ、勇介」

「やーだよ。神に感謝しながら味わって食べるんだな」

 くっそー!ここぞとばかりにニヤニヤしやがって!

「私が誠二の嫌いなものと変えてあげるよ。席近いし」

 美香のクラスの女子とうちのクラスの男子は席が近い。

「さすが美香は優しいな」

「でも何でも食べれるようにならないとめぐが料理するとき困るよ?」

 うっ…そう言われたら返す言葉がない。

「大丈夫だよ。誠二くんの好みはわかってるつもりだから」

「めぐー、甘やかしたらダメだよー」

「少しずつ、ね?誠二くん」

「う、うん」

 あれからめぐは異様に優しくなった。逆に気を使うくらいに。

 とりあえず今回は美香にお世話になるか。

 夕食は半分以上がうけつけないものだった。美香にはかなりお世話になってしまった。

 風呂に入る時間はクラス別に分かれている。

「あっ」

 浴場に向かっているときにめぐと一緒になった。

「誠二くん、消灯時間までどっかでお話しできないかな?」

「エントランスの方だと自由に行き来できるみたいだけど」

「そっか、じゃあ後で」

 そして銃路を済ませ部屋で就寝準備をしてエントランスに向かった。

 ――――

 めぐはまだ来ていないみたいだ。

「あら、あんた何してんの?」

 紗耶香がやってきた。風呂上りの紗耶香はなんとなく色っぽい…。む、いかんいかん、よりによって紗耶香なんかに…。

「めぐを待ってるんだよ」

「はぁー、あんたたちはいつでもどこでも…」

「お前、最近そればっかりだな」

「あんたたちは目に余り過ぎるのよ。少しは周りの目を気にしなさい」

「そんなこと言ったって…」

「あ、紗耶香ちゃん」

 ここにめぐが登場だ。

「めぐー!たまには私とも遊ぼうよー!」

「部屋は一緒だろ?」

「あんたは黙ってなさい!」

 うおー、顔つきがオレとめぐじゃ全然違う。

「紗耶香ちゃん…ちょっといい?」

「うん!なになにー?」

「あっちでいいかな?」

「え?…うん、いいよ!」

 なんだろ?オレに聞かれたら困る話しか?…気になるけど女の子同士の話しに詮索は…。

「えーーーーー!!」

 な、なんだ!?

 あれは紗耶香の声だな。

 ………

「ごめんね、誠二くん」

 めぐだけ戻ってきた。紗耶香が帰って行くのが見えたけど…何か…泣いてた?

「めぐ、紗耶香は?」

「お友達のところに行ったよ」

「何か泣いてたように見えたけど?」

 めぐは少し驚いた顔をした。

「……気のせい…じゃないかな?」

「でも…」

 確かに泣いてた。涙が見えた。目にゴミ…ってこと?

「それよりスキー楽しみだね!誠二くんしたことある?」

「あ、ああそうだな。やったことないから楽しみだよ。めぐは滑れるのかなぁ?」

「失礼しちゃうなぁ。私はスキーしたことあるもん」

 そんな何気ない会話をしていると消灯点呼の時間になった。

「そろそろ部屋に戻らないとな」

「うん…」

 また…。そんな悲しい顔をして…。

「明日はすぐに会えるよ。ね?」

「キス…して?」

 おおぅ…毎度毎度その目には参るよ。

 必殺の上目使いだ。

「ん…」

 周りに誰もいないことを確認してオレはキスをした。

「えへへ…また明日ね」

「うん、おやすみ。めぐ」

 こうして一日目の夜は過ぎていった。

 ――――

「あっ…めぐ。おかえり」

「さっきはごめんね?紗耶香ちゃん」

「…誠二には?」

「まだ…。怖いんだ…。今ね、私はすごく幸せ。誠二くんに話したら…誠二くん優しいから、きっと気を使い過ぎちゃって今の私たちがなくなっちゃうんじゃないかって…」

「めぐ…でも…」

「みんなとこうしていられるのもこの二年生の間だけ。誠二くんとも。私は普通にしていたい」

「うん…」

「もう少しだけでいいから、今はこのまま…」

「めぐ…私…イヤだよ。めぐと離れたくない」

「私もだよ…紗耶香ちゃん。でも逃げられないの。来年の春には向こうに…」

「う…うぅ~…めぐ~…グスン…」

「誠二くんには私から話すから黙っててくれる?」

「…うん…」

「ありがとう。紗耶香ちゃん」

 ―――――

 二日目―

 外には白い雪が降って…はいなかった。

 スキー場は半分は自然の雪で半分は人口の雪だった。

「みんな集まってるかしら?インストラクターの人の話しをよく聞いてから行動してね?くれぐれも勝手な行動しないように!」

 奈美先生が注意を促す。

 クラスの中でも細かい班に分かれてインストラクターの話しを聞いてから練習する。

「誠二、この靴歩きにくいったらありゃしないな」

 勇介が近くに居た。

「全くだ。お前の歩き方はさらに変だ。いや、変態だ」

「なにぃ~!」

 勇介がとってかかろうとした。

「こらー!そこ!勝手に動くなー!」

 ぷぷっ、怒られてやんの。

「誠二くん、お、重いよ」

 わたるが歩いているだけでひーひー言っている。

「まだ板もつけてないのに。しっかりしろよ」

「誠二くんと一緒にしないでよ」

「ほらっ!手貸せよ」

「えっ…誠二くん…」

 お、おいおい渉。なぜ頬を赤く染める?

「誠二ー!早く来いよー!」

「わ、悪い渉!クラスメートが呼んでいる!オレは行かなければならない!」

「あっ!待ってよー!」

 すまん!オレにはめぐがいるんだ!いや、そもそも男には興味はない。

 ――――

「足!折れるー!」

 あの叫び声は勇介だな。

 おお…足が変な方向に…。

「あー、折れるかと思ったー」

 えっ!折れてないの?明らかに逆に曲がってたよね!?

 オレは勇介のそばに寄っていく。

「お前、大丈夫だったのか?」

「おぉ、間接外れたけど戻した」

 この変態が!妙な特技持ってるな。

 トンッ…。

 勇介が立ち上がったのでオレはそっと背中を押してみた。

「ちょっ!おまっ!誠二ー!オレはまだ止まれなぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 勇介は流星のごとく流れていった。

 グッ!

 勇介の班のメンバーからグッドサインをもらった。良いことをしたな。実にすがすがしい。

「誠二いぃぃぃぃぃ!!」

 うおっ!

 勇介が上から滑って突進してきた。リフトを使ったな?

 ひょいっ!

 オレは軽やかに身をかわす。

「あっ!ちくしょおおぉぉぉぉぉぉ……!」

 さらば勇介。無事ならまた会おう。

「誠二、滑れるようになった?」

「ぼちぼちな」

 美香が華麗に滑って来てオレの横に止まった。

「さすがに経験者は違うなぁ」

「誠二もすぐだよ。運動神経だけはいいんだし」

「だけって言うな。見てろよ、すぐに追いつくからな」

「ふふふ、頑張ってね」

 美香はまた華麗に滑って行った。

 うん、美しい。

「誠二くん、美香ちゃんに見とれてる」

「め、めぐ!違うよ、参考になるなぁって」

 あくまでも滑っている姿が美しいだけだ、うん。

「誠二。めぐを泣かせたら本当にぶん殴るからね」

「おいおい、怖いぞ紗耶香」

 二人とも滑れるみたいだな。

「わかった?」

「な、なんだよ。怖いって」

「ふんっ!めぐ、先に行ってるね!」

「あっ…うん」

 紗耶香は滑って行った。

「どう?誠二くん」

「まだどうしても腰が引けちゃうんだよ」

「ふふふ、怖がらないで。余計に転んじゃうから。早く一緒に滑ろう?気持ちいいよ」

 あぁ、めぐ。このゲレンデに二人の愛の軌跡を。

「そこ!イチャイチャしない!」

 ビクッ!

「奈美先生…」

「なぁんてね。先生は羨ましいわ、君たちのこと。私もこのゲレンデで素敵な出会いを~…」

 そう言いながら滑り去って行ってしまった。

 …彼氏と別れたな。いつかは大人の事情とか言ってたし。

 オレとめぐの事はもうみんなが知っている。

「ほらっ、誠二くん。ハの字」

 その後、めぐに教えてもらって二日目のスキーは終了した。

 ホテルに戻って夕食はまた美香にお世話になった。

 そして風呂を済ませまためぐと待ち合わせだった。

「また待たせちゃってごめんね」

「いいよ、紗耶香たちはよかったの?」

「うん、大丈夫。誠二くんと少しでも長く居たいから」

 嬉しいこと言ってくれるな。

 また話しをして、別れ際にはキスをして。

 それが当たり前だった。めぐがそばにいることは当たり前だと思ってた。

 三日目―

 午前中には大体滑れるようになってきた。

 今日は雪がよく降っている。一面銀世界だ。

「キレイ…」

 今はめぐと滑っていた。リフトで上に登っているところだ。

「オレたちが住んでるところじゃ見れない景色だもんなー。まためぐとスキーしに来たいな」

「…………」

「めぐ?」

「…うん…。そうだね!また来よう!」

 一瞬すごく悲しそうな表情をした気がした。

「…ねぇ誠二くん」

「ん?」

「もし私がどこか…」

 そこまで言って口ごもってしまった。

「何?」

「…ううん、何でもない。あっ、もう着きそう。山がキレイだね」

「え?あぁホント。壮大な景色だな」

 上に着くと、めぐに急かされて滑った。

 さすがにまだめぐにはついていけなくて、オレのペースに合わせてもらっていた。

 オレは滑ることに一生懸命だったことと爽快感でリフトでのことは頭には残っていなかった。

 その夜も前日、前々日と同じように過ごした。

 四日目――

 今日は午前中はスキー。午後からは観光のために少し離れた街に移動する。観光って言ってもみんなは買い物が目的だった。

 スキー場から三時間ほどバスに揺られて次のホテルに着いた。

 街の観光は明日の一日だけだ。自由行動になっていた。

 ホテルは今までと同じ部屋割り。ただ男女はフロアが別になっているだけで同じ棟だった。

 夕食はめぐにお世話になった。

 風呂を済ませたあと、今度は多少目に付くけど階段の踊り場でめぐと話していた。

 明日はめぐと観光デートをする予定なんだ。

 街の中心にある繁華街を回る。一応ちょっとしたレポートを提出しないといけないので観光名所を見てからだ。

「明日は楽しみ。やっと誠二くんと二人っきりでデート出来るもん」

「オレも楽しみだな。ちゃっちゃっと観光済ませて遊ぼう」

 時間も決められていたために、効率良く回れるルートなんかを話していると就寝時間になった。

「じゃあ明日ね」

「うん、おやすみなさい。誠二くん」

 そしてその夜は更けていった。

 五日目――

 朝は全員が一旦集合してから自由行動となった。

「行こっ!誠二くん!」

「よし!行こう!」

 それから午前中はバスでいろんな観光名所を回っていた。

「うわぁ、すごい!」

「写真じゃ見たことあるけど実際この目で見るとすごいな。いいもんだね、こういうのも」

「うん、ホントすごぉい!」

 感動してしまった。こういうのって歴史やその背景を知っていたらもっと感慨深いものになるんだろうな。

「誠二くん、これ…」

 ん?

『よく当たる!恋愛おみくじ!』

 なんだこの場違いなものは…。ここって古いお寺なんだけどな…。

「やろ?」

 えー、なんか胡散臭いなー。

 でも、めぐがどうしてもやりたそうだったので仕方なく引いてみることに。

 ウィーン…。

 ん、出て来た。

 二人の名前を機械い入力して、二人の今と未来を占うという内容だった。そうそう、こんな機械がこんなところにあることが間違ってるよね。

 どれどれ…。

『あなたたちの幸せは今が絶頂期です。この後大きな困難が待ち受けているかも知れませんが、あなたたちがお互いを信じることでさらなる幸せが訪れるでしょう』

 案外、当たってる?

「お互いを信じて…」

「めぐ?」

 めぐは考え込むように結果の紙を見つめていた。

「大きな困難だって。何なんだろうな」

「…………」

「めぐ、どうした?」

「えっ…あ…誠二くんが浮気でもするんじゃないの?」

 めぐが気がついたかのようにじとーっとオレを見て言った。

「そんなことしない!オレはめぐ一筋!」

「その大袈裟な否定の仕方が怪しい…」

「めぐ!怒るぞ?」

「あははは!ごめんね、行こう?」

 ん、ん~…なんか調子狂うなー。

 それからはバスで繁華街へ移動した。

「うわー、人多いねー」

 確かに。制服姿が少し恥ずかしい。修学旅行丸出しだもんな。

 そんな人の気も知らずにめぐは「うわー!うわー!」とキョロキョロしている。

 恥ずかしいよー。

「やっぱりこういうの買わないとね」

 ん?ご当地キーホルダー…。

 定番だな。

 とりあえずめぐと同じものを買った。

「ここでしか買えないんだよ。しかもお揃い。えへへ…」

 嬉しそうなめぐがかわいい。よかったな。

「あれも…」

 ううん、そうだよね。ご当地プリクラ。もうプリクラにも慣れっこさ。

「もっと近くに、誠二くん」

 この気恥かしさだけはね…。

 近くに寄ったポーズにキスしたプリクラ。もうオレたちの定番になっている。らくがきもいつものようにめぐ担当。

「はい!誠二くんの分!」

 段々とプリクラが増えていく。それと共にオレたちの思い出も増えていってるんだな。

 その後も買い物や名物を食べたりなんかして過ごした。

「もう戻らないとダメだね」

「うん、急がないと。ほら、走ろう!」

 オレはめぐの手を引いてバス停まで急いだ。

 ………

「はぁっ…はぁっ…待って…誠二く……」

「あっ…ごめん!」

 急ぎ過ぎたか…。

「ゴメンゴメン。まだ間に合いそうだから歩いて行こうか。荷物貸して?」

「はぁっ…うん、ありがと…」

 ゆっくり、めぐに合わせて。

「もう置いて行かないでね?」

「うん、ごめん」

 少し歩くとバス停に着いた。

「少し疲れちゃった」

 無理矢理走らせちゃったからな…。

 バスの停留所でめぐはオレに寄り掛かって座っている。こういうのが一目を気にしろってことかな?

「めぐ…みんな見てるよ?」

「…ダメ?」

 う…また必殺の上目使いか。

 わざとじゃないんだろうなぁ。

「人の目があるからさ。制服だし」

「……うん」

 …泣きそう…。

 あーっもう!弱いなオレ。

 そっとめぐの方に手を回す。

「…ありがと」

 ”ありがと”…か。

 なんだろう、不思議な感覚だ。

 ホテルに戻って食事と風呂を済ませ、また階段の踊り場に向かった。

 今日は帰る準備をしないといけないので、早目に部屋に戻るつもりだった。そのことも含めてめぐと話しをしていた。

「もう終わっちゃうね、修学旅行」

「そうだな。まためぐとの思い出が作れたよ。帰ったらまたいつもの毎日だね」

「いつもの…」

 最近のめぐは時折悲しい顔をする。今だってそうだ。

「何か最近悩み事あるの?オレに話せないこと?」

「なんでもないよ。修学旅行が終わっちゃうのが寂しいだけだよ」

「でもさ、帰ったら帰ったでいっぱい楽しいことあるし、また時間がある時なんかはさ、二人で旅行なんか…いいよね!」

「…………」

「めぐ?」

「……せ…せい……じ…くん」

 ―――!

 めぐがいきなり泣き出してしまった。一瞬何かしてしまったものかと思ったけど、何も思い当たらない。

「ご、ごめん!何か変なこと言ったかな?」

「ううん…違うの。……ゴメンね、今日はもう戻るね」

「あっ!ちょっとめ――」

 めぐは逃げるように部屋に戻って行った。

 あの涙の訳はなんなんだろう。

 ………

 わからない。

 ――――

「めぐ、何してるの?…げっ!今日撮ったの?プリクラ。キスしてるし…」

「紗耶香ちゃん…。そうだよ。まだまだいっぱいあるよ。こっちは初デートの時で、これは…まだ付き合う……前…に…撮った…グスン…やつ…で…グスッ…こっち…は…グスッ……」

「めぐ…」

「紗耶香ちゃん!私!わた…し…!やっぱりイヤだよ…!みんなと…せ…誠二くんと離れたく…離れたく…ないよ…」

「…うぅ…めぐ~……」

「どうしても…今が幸せであればある程辛いよ。誠二くんの前で泣いちゃいそうになる。私、心配かけてる」

「まだ…言えないの?」

「何度も言おうとしたけど言えなくて。変わっちゃうのが嫌なの」

「誠二は…ああ見えて優しいからきっとわかってくれるよ」

「それでも…誠二くんと普通に話したい。誠二くんの普通の笑顔が見ていたい。優しいからずっと笑っててくれると思うけど…それは多分ホントの笑顔じゃないんだ…」

「めぐ…。めぐも誠二も…かわいそうだよ…」

 ―――――

 修学旅行最終日―

 今日はもう帰るだけだ。バスで移動して新幹線で。

 みんな今回の思い出話しをしていた。もちろんオレとめぐ、紗耶香も例外じゃない。

「あんたたちのプリクラ見たわよ」

「なっ!め、めぐ!?」

「えへへへ、ごめんね?」

 う~、恥ずかしい。

 結局、昨日の涙の訳を聞く機会がないまま車内で話しをしていた。

 めぐは元気そうだったし、もう泣き顔なんて見たくないから聞かないことにしたんだ。この時、聞いていたらどうにかしてたのかもしれない。どうにもならなかったことかもしれないけど。

「まぁあれね、いつまでもお似合いのカップルでいることね」

 おぅ?

「な、なんだよ紗耶香。昨日の夕食には頭がおかしくなるようなものはなかったぞ?」

「いっぺん本気でおもいっっっきりぶん殴るわよ?」

「あははは…はは…」

 変わってない。何も変わってないようでよかった。

「あはは!誠二くん腰引けてるよ?」

「いや、だって見た?今の顔」

「顔が何か~?」

「い、いえ!何でもありません!いつでも見目麗しゅう」

「バカにしてるわね!絶対バカにしてるわね!バス降りたら覚悟しなさい!」

 ――――

 こんなことが、何気ないことはすごく愛しく思える時が来るなんで思ってもいなかったんだ。


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