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お泊まり

 コンクールの二日後、理恵先輩たちの送別会が行われた。

 同じ千秋先輩の家のレストランを貸し切っていた。

 また去年みたいにハチャメチャで、オレは最後だからと理恵先輩に追いかけまわされる始末。それを美香と紗耶香が必死に止めて、めぐがオレを守ってくれたりしていた。

 アリサ先輩が何故か怖いアリサ先輩に急変して、オレが説教受けたり、勇介は人が信じられなくなるほどの仕打ちを受けていた。

 奈美先生は相変わらず酒に溺れて、亜美はオレに酒を飲ませて寝込みを襲うつもりだったらしい。

 愛理先輩はめぐの楽譜を捨てたことをめぐに打ち明けて謝っていた。めぐは気にしてないみたいだったけれど。

 落ち着いてからはめぐとお泊まりの計画を立てながら料理を楽しんだ。

 最後はやっぱり理恵先輩からの言葉で終わった。終始笑顔でオレたちと先生に感謝の言葉を贈っていた。

 そして次期部長。

 それには美香が指名された。美香は驚きつつもしっかりと挨拶をして意気込んでいた。部長発表は毎年恒例のサプライズになりそうだった。

 そして送別会も終わり、終わりと新しい始まりを迎える。

 ――――

 その三日後。夏休みがもう終わりかけの日。今はお昼過ぎだ。

 まだまだ暑くて外を出歩くのには気が引ける。でも…!

 ついにめぐの家にお泊まりする日がやってきた!

 家を出る時、母さんに「あれは自分の小遣いで買いなさい」と言われた。もちろん準備していくつもりだ。そ、それが目的じゃないからね!

 とりあえずコンビニであれを購入して、めぐが待つ隣町の緑ヶ丘町まで移動した。バスに揺られ、今日の出来事を予想しながらめぐの元に向かう。

 ――――

『次は~緑ヶ丘団地前~。緑ヶ丘団地前~』

 すでにバス停にはめぐが待っていた。

「こんにちは!誠二くん!わざわざごめんね?」

 何をおっしゃいますか。これくらいでめぐと一夜を共に出来るなら何度でも。

「めぐこそ。こんな暑い中で待たせてゴメンな?」

「全然平気!さっそく行こう?途中で晩御飯のお買い物するね?」

 晩御飯のお買い物?

「めぐが作ってくれるの?」

「うん!結構得意なんだよ?」

 それは楽しみだな。

「何作ってくれるの?」

「何がいい?特に決めてなかったから誠二くんの好きなものでいいよ」

 いきなりだったから困るなぁ。そうだな…。

「決まらないならとりあえずスーパーに行こうか?そこに行けば何か食べたいって思うかも」

 そうだな、とりあえず行ってみるか。

 そうやって歩き出して数分、すぐにスーパーに着いた。

 店内を二人で見回る。

「えへへ、こうやって食材選びに歩いてると一緒に暮らしてるみたいだね」

 一緒に暮らすっていうのはどんなんだろう。好きな人とずっと居れるって幸せだよな。ふっ、前はこんなこと考えもしなかった。

 しばらく店内を歩き回って、今日は唐揚げを作ってもらうことにした。めぐはいろいろ買っていたけど何の材料なのかはわからない。得意料理の材料みたいだけど。

 スーパーをあとにしてめぐの家に向かう。

 バス停からスーパーの距離くらいで荷物もあり、少し汗ばんできた。

「誠二くん、ここだよ」

 ん、どうやら着いたみたいだな。

 ………

「めぐ、この目の前の家?」

「そうだけど、どうしたの?」

 いや…で、でかいな…。オレの家の倍、いや、それ以上か…?

「さ、入ろう?」

「う、うん」

 オレは目の前のめぐの家の圧倒されながら急かされるように入っていった。

「お邪魔します」

 おお…中も立派なもので。

「遠慮しないでくつろいでね。今日は二人っきりだから」

 いやー、なんか落ち着かないな。リビングだって広いし、それに見合う大きなテレビ。オレの家に置いたら邪魔になるよ。所々に装飾品もあってどれも高そうだった。

「めぐの部屋は?」

「二階なんだけど、少し片付けるからここで待っててね?」

 女の子だからな。ここは大人しく待っていよう。

 ん?

 あれは…家族の写真か…?

 飾られていた写真を手に取って見た。

 真ん中がめぐで左がお父さん、右がお母さんかな。めぐはお母さん似だな。

 きれいな人だ。

「お母さん、美人でしょ?」

 うわっ!

「めぐー、驚かさないでくれよ」

「お父さんもお母さんも普段はすごく優しいけど、フルートのことはすっごく厳しかったんだ」

 写真でもすごく優しそうだもんな。

「私の部屋に来る?」

 あぁ、そうか。片付け終わったんだな。

 めぐに連れられて二階のめぐの部屋へ。

「どうぞ、誠二くん」

 想像通り広いな。ベッドがあってそれでも十分なスペースがある。そんなに物は多くなくてテレビとコンポと机。それと部屋の中心のテーブルがあった。中は水色を基調としたコーディネートがされていた。

「めぐは水色好きなんだな。そういえば、水着も浴衣も水色だったっけ」

「そうだよ!」

 それにしてもいい匂いだな。めぐの匂いか。

「き、今日はここで一緒に寝ようね」

「オレはこの辺に寝ていいの?」

「やだなぁ、一緒にだよ。ベッドで」

 おうっ、そうか!そうだよな!

 めぐのベッドは二人でちょうどいいくらいの大きさだった。

「今、えっちなこと考えてたでしょ?」

「そんなことないって!そういうめぐの方こそ」

「えーっ、考えてないのぉ?」

 めぐは意地悪く残念そうな顔で見る。

 や、やたらと挑戦的じゃないか。

 よーし…。

 オレはめぐを強引に抱き寄せてキスをした。

「……んっ……んっ……」

 やばい…早くも限界…。

「め…めぐっ!」

 そうやってめぐに襲いかかろうとした時…。

「残念、また後でね。夕飯の支度しないと」

 めぐに止められてお預けをくらった子供のようだった。

 う~どうするよ、この中途半端な感じ…。なんかいいように遊ばれた感じだよな。

 そして部屋に放置…。

 ん、これは…!

 物色タイムじゃないのか?めぐもあの時居たしな。

 でも女の子の部屋を不用意にあさくるなんて…。

 うーん…。

 あ、アルバムくらいいいだろ。

 少し部屋を見て回ると、机の上に小学校と中学校の卒業アルバムがあった。

 まずは小学校の時から…。

 えーと、めぐは…っと。

 これか!か、かわいい!抱っこしたくなってしまうようだ!どの写真もよく笑ってるな。

 さて次は中学校…。

 あ……。

 そっか…中学の時は…。

 めぐの写真は笑っているものもあったけど、全く表情のない写真もあった。別人と言われても納得してしまうような…。集合写真でも無表情で影があるような感じだった。

「そんな私を変えてくれたのは誠二くんなんだよ」

 ―――!

「めぐ…ごめん、勝手に…。オレはそんなたいしたもんじゃないだろ」

「ううん、私にとっては誠二くんが全て」

 面と向かって言われると照れるよな…。

「ふふふ…その写真、隣が紗耶香ちゃんだよ」

 そう言われて見ると確かに。写真は無邪気に笑ってるのに今は邪気だらけだよ。

「もうご飯の準備済んだの?」

「まだ途中だよ。お肉に味付けしてるところ。もうお腹空いちゃった?」

「まだ大丈夫。期待してるよ。何か手伝うことある?」

 最初に聞くべきだったかな。

「ううん、大丈夫。誠二くんはゆっくりしてて?そろそろまた準備に行ってくるね。でも、あんまりいろいろ見ちゃやだよ?」

「だ、大丈夫だよ」

「ホントかなぁ。変なことしてたら後でお仕置きだからね?」

 お仕置き…。めぐのお仕置きなんてかわいいもんだろ。

「ホントに大丈夫だよ」

 めぐは最後まで疑いの目で料理を仕上げに行った。

 さ~て…。

 ダメだと言われたらいろいろ見たくなっちゃうよね~。

 どこから…。

「誠二くん」

 ビクッ!

「は…ははは…」

「やっぱり一緒に来て!下でじっとしてなさい!」

 仕方なくリビングでテレビを見ていることに。

 めぐは鼻歌なんか歌いながら料理をしている。同棲とかしたらこんななのかなぁなんて考えながら待っていた。

 …………

 …………

 ヒマだ…。

 テレビも面白いのやってないし…。

 いたずらしよう!

 オレは思いつきでめぐにそろりと近づき…。

 ガバッ!

 そして勢いよく料理をしているめぐの後ろから抱きついた。

「きゃっ!」

 ふふふ…。

「せ~い~じ~く~ん~!」

 ぷぷぷっ!怒っても全然怖くないよ、めぐ。

「何笑ってるの!ごはん作ってあげないよ?」

 それは困る。

「ごめんごめん。めぐの後ろ姿があまりに愛しくて、つい…」

「むぅ~~~~」

「ご飯は?」

「もうすぐ出来るけど…すぐ食べる?」

 少し早い気もするけど…。

「そうしようかな。早くめぐの作った料理食べたいし」

「じゃあもう少しだけ待っててね」

 言われた通りに椅子に座ってめぐの料理風景を眺めながら待っていた。

 ――――

「お待たせしちゃったね。はいどうぞ」

 目の前のテーブルには炊きたての白ご飯と唐揚げと味噌汁、それに肉じゃがが用意されていた。

「す、すごいね」

「いつも自分でご飯作ってるから。これくらい出来ないと」

 さっそくいただこうかな。

「いただきます」

 モグモグ…。

 ん…うまい…。

「おいしい。おいしいよ、めぐ!」

「えへへ…よかった。誠二くんの口に合ったみたいで」

 いや、ホントにうまいなぁ。

「めぐはいいお嫁さんになるだろうな」

「せ、誠二くんは私みたいなお嫁さんがいたら幸せ?」

「そりゃあそうさ」

 お嫁さんか…めぐとなら結婚したいな。子供の戯言かもしれないけど。

「私は誠二くんとなら…」

「え?」

「な、なんでもないよ!冷めないうちに食べてね?お風呂の準備してくるから!」

 そんなに焦らなくても食べてからでいいのに。

 それにしても肉じゃがも唐揚げもご飯によく合うなぁ。箸は止まることなくキレイに食べ終えた。

 めぐも戻ってきて二人で話しながら夕食を終えた。

「片付けくらいやるよ。今度はめぐがゆっくりしてて」

「じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」

 それから洗い物をしていると、外はだんだんと薄暗くなってきていた。

 めぐはお風呂の様子を見に行っていた。

「♪~~♪♪~♪♪~」

 鼻歌が聞こえてくる。

 ご機嫌だなぁ。

「ふぅ…」

 洗い物が終わって一息つく。

「誠二くん、ありがとう。お風呂はどうする?」

 慣れない洗い物で少し疲れたし汗も流したいしな。

「お風呂借りようかな」

「うん!お先にいいよ!」

 めぐに浴室まで案内される。

 ………

 おぉ!足が伸ばせる!

 それじゃ、お先に失礼して…。

 ポチャン…。

 う~ん、気持ちいい…。うちの風呂は窮屈だから余計に気持ちいいや。

「誠二く~ん、湯加減はどう~?」

「いい湯加減だよー!」

 いちいち優しいな、めぐは。

 ガタン…!

 ―――!

「めめめめめめぐ!?」

 めぐが浴室にタオルを巻いて入って来た!オレは突然のことに動揺が隠せない。

「なっ、何してるの!?」

「ふふ…背中流してあげるね」

「いや…あの…」

 タオル一枚って…まともに見れないよ。そりゃあタオルの中身は見たことあるけどさ。

「ふふふ…誠二くん、この中が気になるの?」

「気になら…ないわけじゃないけど…」

「じゃあ…」

 バッ!

 うわっ!

 めぐは勢いよくタオルをはぎ取った。

「…………」

 ん?

「残念でした」

 めぐは意地悪そうに言う。タオルの下は水着だった。

「今年は海とか行けなかったからね。去年と同じ水着だけど」

 その姿は一年前の海で遊んだめぐの姿だった。

「あの時に初めて誠二くんに叱られたんだよね」

「あの時はオレも悪かったから」

「ふふふ…、背中流してあげる」

 そう言われ湯船を出て背中をめぐに向ける。そしてめぐは背中を洗い始めた。

「大きいね、誠二くんの背中。さすが元陸上部」

「そうかなぁ」

 ピトッ。

「め、めぐっ!?」

 突然めぐがオレの背中を抱きしめてきた。めぐの豊満な胸が背中に当たる。

 うぅ~…。

「ずっと…この大きい背中で私を守っててね?」

 ………

「…うん」

 わざとじゃないんだよな…。

「あ…せ、誠二くん…」

 ん?うわわわわ!

「あっ…!いやっ…これはちがっ…」

「人が真面目に話してたのに…」

 めぐは頬を膨らませてオレを睨んだ。

「こ、こればっかりは条件反射で…」

 ね、わかるよね!?

「もう…仕方ないなぁ…」

「め、めぐ!?ちょっ…」

 …

 ……

 ………

 …………

 ……………

 ………………

 …………………

 ……………………

 ………………………

 …………………………

「めぐのせいだからな」

 今は一緒に湯船につかってる。お互い何もつけずに。

「私はそんなつもりはなかったもん」

 とりあえずここでしちゃったわけで…。

「のぼせちゃうよ?出ようか」

「そうだね」

 二人で浴室を出てリビングへ。

「誠二くん、何か冷たいもの飲む?」

 これは…あれだ、例のやつだ。

「コーヒー牛乳」

「あ、はい」

 あるんだ…。しかも瓶入りの。

 ゴクゴク…。

「ぷはぁー!」

 やっぱり風呂上がりはこれだよね!

「なんかベタなことしてるね」

「めぐ、そう言うけどな、風呂上がりのコーヒー牛乳は……」

 それから長々と風呂上がりにコーヒー牛乳の素晴らしさを語った。

「う、うん。よくわかったよ」

 めぐの経験値が一上がった。

 それにしても風呂上がりのめぐはまた一段といいな。

 普段見ることの出来ないパジャマ姿で少し濡れた髪が色っぽい。

「何見てるの?」

「いいなぁと思って」

「変なのー」

 それからは一緒にテレビも見て話したりしていた。

 クイズ番組で一緒に考えたり、ドラマを見てあーだこーだ言ったり、バラエティを見て一緒に笑ったり。何気ないことなんだけどすごく幸せだったんだ。

「ふぁ~あ…」

 欠伸が出てしまった。

 もうだいぶ遅くなってきたな。

「ふふ…誠二くん眠そうだね」

「…少しね」

 めぐは眠くないのかな?

「誠二くんと一緒にご飯食べてお風呂入って、こうしてテレビ見て笑い合ったり。今はすごく幸せなの」

「…オレもさっき同じこと考えてた」

 こんな日常が当たり前になってくれたらいいなぁと思う。

「だから、眠るのがもったいなくて」

 めぐは寂しげな表情で言う。

 こんなことなんて滅多にないだろうし…。こんな日々が毎日ならめぐだっていつも笑って…。

 そうだ…そうだよ…。

「めぐ…。まだ先のことだけど、オレはこういう日常を当たり前にしたい」

「誠二…くん?」

 オレは…めぐと…。

「一緒に暮らそう」

「…あっ……………ひっ……ひっく……」

 少し驚いたあと、めぐがボロボロ泣き出してしまった。

「オ、オレ何か変なこと言ったかな?」

「グスン……違うの。…嬉しいの」

 嬉しいから?

「泣くことないだろ?それにまだ先の話しだよ?」

「ううん、それでも嬉しい…」

 こりゃあオレあh頑張らないとな。

「あはっ…グスン……ごめんね。寝ようか?」

 めぐはホントに嬉しそうな顔で言った。

 そしてめぐの部屋へ。

 さっそく二人でベッドに潜り込んだ。ベッドの中ではめぐがオレに寄り添うように身を寄せていた。

「今日は、こうして寝ていい?」

「いいよ」

 オレはめぐの髪を撫でる。

「誠二くん、大好きだよ」

「オレも…」

 その後の言葉はキスで返した。

「えへっ…おやすみなさい。誠二くん」

「おやすみ。めぐ」

 …………

 それからすぐにめぐはオレの隣で寝息をたて始めた。安心しているのか安らかな寝顔だった。

 この隣で眠る人をずっと笑顔にさせていたい。笑顔を絶やさないように、このままずっとめぐのそばに居たいよ。

 オレはめぐの寝顔を眺めながら眠りについた。

 ――――

 翌朝。

「ん……」

 朝か…。

 めぐ…?

 隣に寝ていためぐが居ない。

 まだ寝ぼけたまま目をこすりながらリビングに下りる。

「あ、おはよう。朝ごはん食べるよね?」

 リビングにはトーストの焼ける匂いとコンソメスープのいい香りが漂っていた。

「早いね」

「誠二くんも。もっとゆっくり寝ててよかったんだよ?」

「めぐがいなかったから」

「探しに来たんだ?誠二くんかわいい!」

 ん、まぁそういうことにしとくか。

「顔洗って着替えて来るよ」

 オレは顔を洗って寝ぐせを直して着替えてリビングに戻った。

「朝ごはん出来てるよ」

 戻るとテーブルにはトーストろスープが並べられていた。

「ありがと。毎日こんな生活してるの?」

「そうだよ?」

「大変じゃない?」

「もう慣れっこだよ」

 口ではそう言うけどやっぱり大変だよな。

「一緒に暮したら、全部一緒にしよう」

「うん!…えへへ…」

 その笑顔のためなら何でも出来る気がする。

 めぐと一緒に朝食を済ませて片付けはオレがした。

 そしてとりあえず帰る準備をする。

 そして片付けが落ち着いてから少し話をしている時…。

 突然だった。

 ガチャッ…。

 玄関の方からドアが開く音が聞こえた。

「えっ!う、うそっ!?」

「な、何?どうした?」

 めぐがいきなり慌て出した。

「どど、どうしよう!」

「だからどうしたの?」

 この慌てようは尋常じゃない。

「お、お父さんとお母さんだ」

 な、なんですと!?めぐのお父様とお母様!?

「恵ー!いるのかー?」

 お、お父様だ!

 いきないこういうのは困る!

「恵ー?…ん?君は誰かな?」

 お父様とご対面だ!

「は、初めまして!椿誠二といいます!め、恵さんとお付き合いさせていただいてます!」

「なっ!なんだとっ!そうなのか!?恵!?」

「う…うん。帰りは明日じゃなかったの?」

「公演が指揮者のおかげで一日中止になったんだよ」

 見た目は優しそうな人なんだけど…。

「あらあら、どうしたの?騒がしいわね…あら?あなたは?」

 今度はお母様とご対面だ!優しそうで気品があるな。

「めぐちゃん、彼氏の方かしら?」

「椿誠二です!恵さんとお付き合いさせていただいてます」

「あら、かわいいわね。めぐちゃんが羨ましいわ」

 なんだこの人?

「コホンッ!その…君たちは付き合ってどのくらいなのかな?」

「えっと…半年くらいです」

「半年…。な、ならばもう…!」

「あなた!いろいろ詮索は無用ですよ」

「いや、しかしだな…」

 な、なんか思ったよりあっけらかんとしてるな。もっといろいろ厳しいと思ったんだけど。

「普段はこんなだよ。音楽のこととなれば厳しいの」

 そうだよな。仕事が音楽でずっと家を空けるくらいだし。

「でもね、椿くん…だったかしら。めぐちゃんは…いいえ、やっぱりいいわ」

 なんだ?めぐは?

「めぐ、何かあるの?」

「ううん、わからないけど…」

 めぐに聞いてみたけど何も心当たりはないみたいだ。

「椿くん、ちょっと恵に話しがあるんだが…。今日はお引き取り願えないだろうか?」

 え…。話しって…?そんなに大事な話しなのか?

「いいかな?」

「あっ…はい…。わかりました。失礼します。めぐ、またな」

「あっ…うん…またね」

「ごめんなさいね、椿くん」

 オレはめぐに見送られてめぐの家をあとにした。

 …いったい何だったんだろう。

 ……

 ………

 …………

 -めぐの家では…。

「何?お父さん。帰って来て急に」

「恵、来年の春に私たちとフランスに来るんだ」

「えっ…な、なんで…?」

「向こうで知り合ったフルートの人にお前のことを話したら興味があるらしくてな。ぜひお前の面倒を見たいらしい」

「そ…そんなのお母さんでいいじゃない!」

「私たちはいつも飛び回っているのよ?あなたには一流の奏者になってもらいたい。しっかりと勉強してもらいたいのよ」

「でも学校は!?どれくらい行くの!?」

「学校は…辞めてから行くのよ。期間はわからないわ。でも一年や二年じゃ済まないのはわかるわね?」

「そんな…。そんなの…絶対イヤだよ!」

「それはさっきの椿くんがいるからか?」

「そ、それは…」

「まぁいい。よく考えるんだ。だがお前が何と言おうと連れて行くつもりだ。向こうには知り合いもいる。不自由はさせない」

「イヤ…イヤだよ…」

「あと半年と少し。めぐちゃん、今を十分に楽しみなさい」

「昨日の…事なのに…一緒に……暮らそう……って……」

 ――――

 そんなことがあったなんてオレが知るのはまだ先のことだったんだ…。

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