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吹奏楽コンクール

 今年の吹奏楽コンクールももう間近だ。

 今年は三年生が多いから期待しているらしい。経験者が多いならそれだけ有利だしな。

 気合い入れないと。

「誠二くん、コンクールの曲はどう?」

 今はめぐをバス停まで送っているところだ。

「去年の曲ほどプレッシャーは感じないけど、やっぱり難しいからもっと練習しないとだな」

「そうだね、私も頑張らないと」

 とは言ってるものの、めぐは完璧に曲をこなしていた。

「めぐはいつからフルートを?」

「わかんない。物心ついた時にはもう握ってた。

 めぐは舌を出して笑って言う。

「でも、相当努力したんだろ?」

「お父さんもお母さんも厳しい人だったから。あんまり家にはいなかったけど」

 めぐは少し顔を暗くした。寂しかったんだろうな…。そして寂しい表情でも笑って言った。

「一人の時はいつもフルートの練習してた。うまく出来れば褒めてくれたから」

「めぐ…寂しかったんだろ?」

「少し…ね。でも、今は誠二くんがいるから」

 満面の笑顔を向けてくる。

「オレはずっとそばにいるから」

「うん!」

 めぐのずっとそばに居て歩いて行ける。

 その時はそう思っていた。

「誠二くん、また明日ね」

 バスが来てめぐは帰って行った。バスが見えなくなるまで見送る。それももうごく当たり前の事…だったんだ…。当たり前の。

 

 …………


「誠二!今年はやるわよ!」

「おう!当然だ!紗耶香!」

 今日はコンクール当日。

 去年と同じ会場。同じ顔ぶれの人もいる。

 また、来たな。

「誠二くん大丈夫?緊張してない?」

「緊張してないことはないけどね。めぐは?」

「緊張するよ。何度人前で演奏しても」

 めぐは今まで何度かソロコンクールに出ていたらしい。口ではこう言うものの落ち着いていた。

「誠二ー…緊張するぜー…」

 勇介は今年が初舞台。当然だろうな。

「がらじゃないぞ。いつも通りにやればいい」

「な、なんか大人の意見だな…やるしかないけど」

「大丈夫だ。お前なら会場から笑いを取ることが出来る」

「お笑いステージじゃねぇ!」

「勇介、その意気だ!」

 本当に笑いを取ってくれたならオレはお前を一生尊敬しよう。

「誠二くん、今年は私たち最後だけど、そんな事気にしないでいつも通りにね」

「気に~しない~」

 理恵先輩もアリサ先輩もそう言うけれど、このコンクールへの思い入れは相当あるはずだ。オレも来年はそうなるんだろうな。

「せ、誠二先輩。緊張しますぅ」

「しっかりみんなを見守っててくれよな」

 亜美だって緊張するだろう。

「誠二、頑張ろうね!」

「美香も。なっ!」

 互いに声を掛け合いステージへの準備をする。

「みんな、ここまで来たらやるだけよ!よろしく頼むわね!」

「「「はい!!!」」」

 最後に奈美先生がみんなに喝を入れた。

 …………

『次のプログラムは柳ヶ浦高校です』

 ステージへ移動する。

 それぞれの位置に着き軽いチューニングをする。

 そして静まりかえる…。

 この瞬間の緊張感が何とも言えない。

 きっとこの一瞬の間に、先輩たちの脳裏には今までの吹奏楽部での出来事が思い返されてるんだと思う。その思いと努力の日々がここで試されるんだ。

 …………

 奈美先生の指揮棒が振り下ろされる。

 課題曲――

 今年の課題曲は優雅な曲。めぐの技術が光る。静かに、時に盛大なこの曲は完璧に演奏出来たと思った。

 自由曲――

 華やかで軽快な曲。オレたちパーカッションがしっかりリズムを刻む。曲の波を創る。

 課題曲も自由曲もいつも通りに、むしろそれ以上にいい演奏だったと思う。

 やっぱりみんなの気持ちが込もっていた。

 ――――

「みんなお疲れ様!最高の演奏だったわ!」

 奈美先生が激励の言葉をみんなに掛ける。

「誠二くん、お疲れ様」

「お~つ~」

「お疲れ様でした。あとは結果ですね。会場から見守ってます」

 理恵先輩が部長としてステージで表彰を受ける。

 今年は表彰まで時間がある。昼食を挟んでからもまだ時間があった。

「誠二くん、少し外に行かない?」

 めぐからのお誘いだ。

「あぁ、ご飯でも食べに行こうか」

 表彰までは各自自由行動になっていた。オレとめぐは近くのレストランにお昼を食べに行くことにしたんだ。

 ――――

「ボロネーゼ二つ」

「はい、かしこまりました」

 レストランまで来たオレたちは食事を注文した。

「今日の演奏はどうだった?誠二くん」

「うまくやれたと思うよ。めぐは?」

「私もいつも通りだったと思うよ。代表、なりたいね」

「うん、先輩たちの思いが叶うといいな」

「…それはそうと誠二くん。こんなときに不謹慎なんだけど…」

「ん、何?」

「こ、今度家に泊まりに来ない?ほら、うちの親はいないからさ。む、無理ならいいんだけど…」

 めぐの家にお泊まり…。

 行くっきゃないだろ!

「絶対行く!」

「…誠二くん、変なこと考えてない?」

「え?ぜ、全然!」

「目がニヤニヤしてたよ。えっちなこと考えてたでしょ?」

 そんなことないないない…。

「お泊まりの時はそんなことばっかりじゃやだよ?少しだけ、ね?」

 何かあの時以来めぐは変わったなぁ。

「めぐはやっぱりえっちぃだなぁ」

「そ、そんなこと…な、ないわけじゃ…ない…けど…」

 照れためぐがかわいすぎる!

 …いかんいかん、今はコンクール中だったな。

「楽しみにしておくよ」

「私も。誠二くんと一緒に寝て一緒に起きるって幸せだろうなぁ…」

 あっ、めぐがどっかに行ってしまう。

「お待たせしました」

 ナイス!?タイミング!

「めぐ!ほら、料理来たよ!」

「えっ!あ…。い、いただきます」

 それから食事を済ませて会場に戻った。

「つじく~ん。こっち~」

 会場の席を取っててくれたみたいだ。

「すいません。……そろそろですね」

「あと~五校~残ってる~」

 あと五つか。このまま聞いておこう。

「誠二先輩、うちの高校はどうなんですか?」

「結果を聞くまではわからないな。亜美も気になるか?」

「だって先輩たち一生懸命練習してたし。それに今日のステージは感動しました。ここで聞いてて、先輩たちの気持ちが伝わってきて…」

「それが審査員の人にも届いているといいな」

 一生懸命練習してきた。

 その結果がもうすぐ出る。

 ――――

『以上で全てのプログラムが終了しました。続きまして表彰と代表校の発表に移ります』

 準備のために少し時間が空く。

 この間は嫌いだ。心臓が破裂しそうになる。

『お待たせいたしました。表彰に移らせていただきます』

 いよいよか…。

 オレたちは今年の演奏順が早かったため、表彰は初めの方にある。

『○○高校、銀賞』

 パチパチパチパチ…。

『○○高校、金賞』

「きゃああああああああ!!」

 金賞の高校は喜びに打ち震える。

『柳ヶ浦高校、金賞』

「きゃああああああああ!!」

 よし!最低条件はクリアした!

「誠二先輩!すごい!やりましたね!」

 まだ…終わってないんだよ。

「確かに嬉しい。けどまだなんだ」

 オレは妙に冷静だった。去年の千秋先輩と紗耶香の涙は忘れられなかったから。

「誠二、なるようになるんだから素直に喜びなさいよ」

「…そうだな」

 あれこれ身構えてももう決まってるんだ。今は金賞ということを素直に嬉しく思おう。

『○○高校――――』

 次々に高校の名前が呼ばれていく。その中には去年の代表校ももちろんあった。さすがに四校全て金賞だった。

『○○高校、銀賞。以上で表彰を終わります。続いて地域代表校を発表いたします』

 ―――!

 ドックン…ドックン…ドックン…

 …………

『柳ヶ浦高校』

 …へ?

 あっさりとうちの学校の名前が呼ばれた。

「きゃああああああああああ!!!」

 …やった!やったーーーーー!!

「やったーーーー!!」

 え?

 り、理恵先輩?

 理恵先輩がステージの上で大声で歓喜の声を上げていた。

 会場からは拍手とともに笑い声も上がった。

 理恵先輩は恥ずかしそうにうつむいていた。だけど最後まで笑っていたんだ。

 よかったな…。

「よかった…」

 紗耶香も少し目元を潤ませながら喜んでいた。

「誠二先輩!すごいんですか!?これってすごいことなんですか!?」

「すごいことだ!ほらっ!喜べ!」

 みんなが喜びを共にしていたんだ。

 ――――

「みんな!やったわね!次のコンクールは二週間後よ!また一緒に頑張りましょう!」

「「「はい!!!」」」

 二週間後…それに通れば全国なんだな。

「誠二くん、お泊まりは先に延びちゃったね」

 めぐが意地悪そうな笑みを浮かべて話しかけて来た。

「ははは…そうだね。でも、よかったよな」

「うん!」

 そして学校へ帰ってきて解散となった。

 その後二週間、みっちり練習してコンクールに挑んだ。

 結果は全国には行けなかったけど金賞と十分な結果だった。

 そして理恵先輩たちも吹奏楽部とお別れになる。

 また、新しい吹奏楽部のスタートだ。

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