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新城亜美

「せーんぱい!」

「何だ?同じ事なら聞き飽きたぞ?」

「楽譜のここの読み方がわからないんですけど…」

「あぁ、そこは…」

 今は部活中。亜美が楽譜の内容を訪ねてくる。

 パーカッションの一年生は亜美一人。オレは先輩なんだから後輩に教えるのは当たり前だ。

 亜美もオレと同じで、楽器を演奏することはこの部に入部するまでなかったみたいで、日々、悪戦苦闘を重ねていた。

 吹奏楽コンクールが今年も迫っていた。

 亜美は今年は出ないけど、亜美が三年生になった時は一人になる。その時のためにもしっかりと教えておかないと。

「―――だな。しっかりやれよ?」

「はい!」

 亜美は吹奏楽部を好きになってくれているんだろうか?持ち前の明るさでみんなとはうまくやっているみたいだけど。

「亜美…吹奏楽部は好きになったか?」

「はい!誠二先輩がいますから!」

 はぁー…こうだもんなぁ。

「もしオレが違う部に入部してたらどうしてたんだよ?」

「その部に入部してますよ?」

 当然のように言うよな…。

「曲はみんなが一つにならないと出来上がらない。オレがどうのじゃなくて、この部自体はどうなんだよ?」

「うーん…好きですよ?先輩たちみんなおもしろいし」

「吹奏楽は?」

「まだ…わからないですね。今まであんまりこういう曲聞いたことないですし。それに楽器なんて全然やったことなかったし」

 それもそうか。

「練習とか楽しいか?みんなの演奏とか聞いてどう思う?」

「練習は新しいことだから楽しいですよ!演奏は聞いてもあんまりわかんないですけど」

「そっか。オレはお前に吹奏楽自体を好きになって欲しいな。オレがいなくても」

「誠二先輩いなかったら亜美ダメです!」

 こりゃこのまま話してても同じことの繰り返しだな。

「まぁ、練習頑張れ!」

「はい!」

 ガララッ…。

 そこで練習場のドアを誰かが開けた。

「あ、誠二。理恵先輩は?」

 美香が理恵先輩を訪ねて来た。

「多分、奈美先生のとこだと思うけど…」

「ふーん、わかった。ってあれ?亜美ちゃん、なに私の顔じーっと見てるの?何か変?」

 その美香の言葉につられて亜美を見ると美香を凝視していた。

「美香先輩は…誠二先輩のこと好きじゃないんですか?」

 な、なにをまたいきなり!

 紗耶香もアリサ先輩もいるんだぞ!?

「ふぇ?」

 美香はあっけらかんとして亜美とオレを見ていた。

「お前!いきなり何言い出すんだよ!」

「…聞いてみただけです」

「それにしたって――」

 亜美を叱ろうとあいたその時だった。

「好きだよ」

 え?

「お、おい、美香…?」

「幼馴染でかけがえのない親友だよ」

 美香…。

「美香先輩、亜美が聞いてるのは男として誠二先ぱ――」

「私はフラレたの」

 亜美の言葉を遮るように美香が言った。

「…………」

「私は誠二のことがずっと好きだったよ。でもフラレたの。今は幼馴染で親友。それだけだよ」

「あ…あの…美香…」

 オレは何て言ったらいいかわからなかった。紗耶香もアリサ先輩もいて…。二人ともそのやりとりに黙って目を向けていたから。

「ただの諦めじゃないんですか?」

 亜美…今何て言った?

「お前…!今のは許せな――」

「誠二!いいの!」

 オレが亜美に歩み寄ろうとした時に美香が制止した。

「亜美ちゃん、私は前に進んだの。諦めって思われたらそれまでだけど、誠二も前に進めた。誠二を目に進ませてくれたのはめぐなんだよ」

「やっぱり諦めたんじゃないんですか」

 ぐっ…!亜美…!

「そうかもね。でもね、亜美ちゃん。誰も同じ場所には留まれないの。私はずっと同じところにいたけどやっと前に進めたんだ。誠二のおかげ、めぐのおかげでね?」

 美香はオレを見て笑って言った。

「私にはわかりません。私はフラレても誠二先輩が大好きです」

 気持ちはありがたいんだけどなぁ。

「亜美ちゃんのそういうところは羨ましいな。でも、いつか前に進む時が来るよ。先輩として亜美ちゃんに言っておくね」

 なんか、美香は本当に大人になったよなぁ。

「むぅ~~~」

 亜美はわからないといった顔をして唸っている。

「せんぱい~かっこいい~」

「アリサ先輩、からかわないで下さいよ。亜美ちゃん、誠二をあんまり困らせないでね?」

「むぅ~~~~」

 亜美は変わらず唸っている。

「美香、ごめんな?後で言っておくから」

「いいよ。間違いじゃないもん。じゃあね」

 そして美香は出て行った。

 ふぅっ…。

「亜美、美香の気持ちも知らないで勝手なこと言うな」

「ただ、知りたかっただけです。いつも誠二先輩と美香先輩は一緒に居たから」

「いつも一緒に居たからこそ、オレはずっと美香を傷つけて来たんだ。それは忘れない。美香は笑ってたけど、無理してたと思うぞ。自惚れじゃないけどさ」

「誠二先輩は…私のこと…迷惑…ですか?」

 うっ…涙目で見るのは卑怯だよな。

「いや…あのな…」

「誠二、はっきり言わないとこの子も美香ちゃんが言ってたような前に進めないんじゃないの?」

 紗耶香…そうだけど…。

「あのな、亜美」

「はい…」

 その涙目を止めてくれよ…。

「オレは何度も言ってるけどめぐが好きなんだ。これからもその気持ちは変わらないと思う。だからいつまでもオレを追いかけるんじゃなくて前に進めよ」

「…だーかーら!その誠二先輩の気持ちを亜美に振り向かせてみせます!」

「へ?」

「だって、諦めるかどうかなんてその人次第ですよね?」

 え?うん、まぁそうだな」

「誠二、これからも大変ね。亜美ちゃんもいつまで経っても恋愛出来ないよ?」

「誠二先輩以外いないですぅ!」

 美香はオレを気遣い過ぎて前に進めなかったんだもんな。オレの前のことを知らない亜美にはそもそも関係なかったのかな?

「はぁー…っ」

 先輩たるもの、後輩にも苦労する…か。

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