新学年
時は移り四月。
桜も見事に咲いて、見る者の心を奪っていた。
そんな季節、オレたちは二年生になった。
あれからめぐとは何度かデートを重ねて、自然に抱きしめたりキスするようになっていた。めぐとは楽しい日々を過ごしていたんだ。
オレたちが使っていた教室は一年生に譲り渡して二階の教室に移った。
めぐとは嬉しいことにまだ同じクラスになることが出来て、それに紗耶香が加わった。オレたちは二組だ。
勇介は一組。美香と渉は五組だった。
勇介は美香を振り向かせると言ったものの、新たに入学してくる新入生に淡い期待をしているみたいだった。紗耶香は相変わらず。渉はオタク度が上がっている気がした。
美香は心なしか大人っぽくなった気がする。ふっきれたからだろうか?変わらずにヘアピンはしていて、オレが贈ったストラップもまだつけていた。
オレたちの担任は奈美先生だ。一つ歳をとったからか「結婚しなきゃ」と、いつも呟いている。オレとめぐのことも当然知っていて、春休みの部活中は「イチャイチャしない!」ってよく怒られてた。
また一年が始まる。
今年はどんな学校生活になるんだろう。
今年からは先輩になるんだ。
普通の学校生活でも部活でも後輩を引っぱっていかなくちゃならない。
新しい出会い。
それがまた待ってるんだな。
吹奏楽部にはどんな子が入部するんだろう、今から楽しみだ。
理恵先輩たちも今年は卒業。別れは必ずやってくる。
吹奏楽部での活動が一緒に出来るのも短くて今年の夏まで。そう考えるとあんまり一緒に過ごす時間はないんだな。
「誠二くん」
あぁ、めぐ。今日もかわいいよ。
「めぐ、また同じクラスでよかった」
「うん!それだけが心配だったから安心しちゃった。誠二くんのそばにいれるから」
オレもそう思うよ。いつでも一緒がいいな。
「ちょっと!なに朝からラブラブしてんの?今年は私もいるんだからね!」
紗耶香もいるからな、楽しくなりそうだ。
入学式は昨日、新入生だけで行われた。オレたちはその前の日に始業式。今日は授業と部活動紹介だ。午後からは体育館へ移動する。
そして放課後は部活。今日から一週間、新入生が見学に来る。いっぱい部員が入ってくれればいいよな。
…………
そして放課後。
めぐと一緒に部活へ行く。もう新入生はいるのかな?
「どんな子が入部するんだろうね?」
「なんにしろ、オレたちがしっかりしないとな」
「後輩に手出しちゃダメだよ?」
「オレが好きなのは後にも先にもめぐだけさ」
「そ、それってプロポー…」
「ちょっとお二人とも。いつでもどこでもラブラブするのはどうかと思うけど?」
さ、紗耶香…!
「紗耶香ちゃん、あはは…」
「めぐが全然かまってくれなくなっちゃったー!誠二!あんたのせいなんだからね!」
「そんなこと言われてもなぁ…」
「紗耶香ちゃん、ごめんね?」
「めぐは悪くないんだよ?悪いのは全部誠二なんだから!」
どうしてそうなる?
「でもな紗耶香。オレとめぐは愛し合ってるんだ」
「あーん!誠二くん!」
「それをやめなさいって言ってるの!あーあ、私もいい人見つけようかなぁ」
ほほう、紗耶香が。
「良い奴を紹介するぞ」
「勇介とか言ったらこの場で殴り倒すわよ?」
「…………」
オレが紹介出来るのは奴くらいなんだけど…。
「…覚悟はいい?」
うっ…。
「めぐ~…」
「誠二くんかわいい♪紗耶香ちゃん、止めてあげて?」
「はぁー、もう付き合ってらんないわよ」
そう言って紗耶香は首を振りながら行ってしまった。
その後に続いてオレたちも部室に向かった。
そして部室に着くと…。
新入生の見学の子が何人かいる。やっぱり女子ばっかりだな。
とりあえずはめぐと別れてパート練習へ。
「つじく~ん。今日は~一曲~演奏~するみたい~」
去年も先輩たちの演奏聞いたもんな。
「はい、もうすぐにやるんですか?」
「先生~来てから~」
そりゃそうだよな。
「理恵先輩は?」
姿が見えないけど…。
「理恵先輩は各パートを回って新入生に声をかけてるわよ」
紗耶香が教えてくれる。なら基礎連でもして待つか。
それから程なくして奈美先生が来た。部員のみんなも集まってきた。
「みんな揃ったわね。新入生のみんなに一曲披露するから気合い入れてね!」
新入生が後ろの方に並んでいる。
…………
奈美先生の右手に握られた指揮棒が振り下ろされる。
♪♪♪♪~♪♪~…
…………
パチパチパチパチパチ…
演奏が終わって見学していた新入生から拍手が漏れた。
「じゃあこれからは各パートに分かれて練習するから新入生のみんなは自由に見学していってね」
それから各パートに散って行った。
新入生もそれぞれ分かれていく。パーカッションには誰か来るかな?
…………
「先輩!」
…………
「先輩!誠二先輩!」
え?オレ?
誰かが「先輩」って呼んでるは聞こえてたけど、まさか自分のことだとは思わなかった。そういえばもう先輩なんだよな。
オレは呼ばれた方を見た。
「…誰かな?会ったことある?」
呼ばれた方を振り返ると一人の女子生徒がいた。小柄で肩の下まで伸びているくせ毛を揺らしながらオレを見上げていた。まだ小学生のような幼い顔立ちに大きな目が目立っていた。
ん…なかなかかわいいな。でもどこかで会ったっけ?この子はオレのこと知っているみたいだけど…。
「ひどいなぁー!覚えてないなんて、亜美傷ついちゃいますよー?」
あみ?網?あみ――。
………!
「お前!あの新城亜美か!?」
「思い出してくれました?確かに髪の毛伸びたからわからなかったかも」
オレのことを先輩と呼んだのは新城亜美。中学の時、陸上部のマネージャーをやっていた。何を隠そう、オレが告白された相手でもある。断ったけど、その後も好きだって言い寄って来る子だった。中学の時にはもう慣れてしまって、ハイハイって流す程度だったんだが…。
亜美も近くのこの高校に来たんだろう。
「お前、陸上部は?」
「誠二先輩が吹奏楽部にいるって聞いたから来ました」
「お前なぁ、いい加減オレを追いかけるの止めろよ」
「亜美は誠二先輩の近くに居たいんですぅ!」
もうめぐがいるのに…。
「あのなぁ…オレには――」
そう言いかけた時だった。
「誠二、誰?知り合いの子?」
「あぁ、紗耶香。中学の時の後輩で新城亜美」
「ふーん…。よろしく、新城さん。私は春日紗耶香。誠二と同じパーカッションよ」
紗耶香はまるで品定めをするかのように亜美を見ていた。
「初めまして、新城亜美です。一つ聞きたいんですけど、春日先輩は誠二先輩と付き合ってるんですか?」
な、何を聞く!いきなり!
「はぁー?何で私が誠二なんかと。それに誠二には彼女がいるわ」
誠二なんかとはなんだ!
「えっ!?……で、でも亜美は諦めませんから!」
「何?新城さんは誠二のこと好きなの?」
「はい!大好きです!」
「そ、そんなに堂々と言われたらすがすがしいわね」
中学の時に亜美が男子生徒数人にからまれているところを助けて、それで告白されてからずっとこんな感じだ。
「でも残念ね。誠二と彼女のめぐは誰が見ても、いつ見てもムカつくくらいにラブラブよ」
紗耶香は意地悪そうに言う。別にそこまで言わなくったっていいのに。
「めぐ先輩ですか…。でも恋は障害があるほど燃えるものです!絶対に誠二先輩を振り向かせてみせます!」
「…ポ、ポジティブなんだね。が、頑張って」
おお、あの紗耶香が引いている。普段、意地悪ばかりする紗耶香には亜美の明るさが眩し過ぎるのか。
「誠二、何か一発殴りたくなったわ」
「な、なんだよ!何も変なこと考えてないぞ!」
「考えてたのね。ふんっ!」
あーあー、後が怖いなー。
「誠二先輩。亜美、この部に入部しますね。もちろん同じ楽器で」
何だと!?
「い、いや、入部するのは歓迎するけど、パートはいろいろ見て決めた方がいいと思うぞ?」
「誠二先輩と一緒がいいんです!」
「あみゅ~歓迎~」
「で、でもアリサ先輩。人には向き不向きってもんが…」
「あーん?」
おぅ…怖いアリサ先輩も久しぶりだな。
「あ…いや…歓迎するよ」
「ありがとうございます!明日も来ますね!」
そして亜美はにこやかに挨拶して帰って行った。
はぁー…、疲れるなー。悪い子じゃないんだけど…。
「せいぜいめぐとケンカしないことね。泣かせたら許さないからね…」
に、睨むな睨むな!
「はぁー…大変大変」
理恵先輩が戻って来た。またみんなの様子を見に行っていたらしい。
「ここには見学の子来た?」
理恵先輩が期待を込めて聞いてくる。
「つじくんが~一人~つかまえた~」
「ん、やるじゃない!誠二くん!」
そうじゃないんだけど、まぁいいか。知り合いだから気を使わないでいいかもしれないし。
それから何人かパーカッションを見学に来たけれど、反応はいまいちっだった。
「誠二くん、そっち終わった?」
めぐ…あぁ癒される。
「めぐー!聞いてー!今日誠二のこと大好きって子が来たの!亜美って子だったんだけど」
な、なぜわざわざそんなことを!紗耶香!
「えっ…そうなの?誠二くん…?」
うわぁ、泣きそう…。
「めぐー、前に告白されただけだよ。心配しなくても大丈夫だから」
「……うん。誠二くんが大丈夫って言うなら大丈夫。信じてるよ」
「大丈夫。さぁ帰ろう」
そしてめぐと一緒に部室もあとにした。
…………
「…ち、ちょっとぉ!私もいるんだからねーーーーーー!」
紗耶香の叫びは、赤く染まった桜の花びらが舞う夕焼け空に溶けていった…。
そしてその帰り道。
「誠二くん、亜美っていう子、どんな子なの?」
やっぱり気になるんだな…。
「明るくていい子だよ。入部するって言ってた」
「そっか…」
何とか…してあげたいな。
「……めぐ!」
「えっ?なに……んっ…」
オレは一応周りに人がいないことを確認してからめぐにキスをした。
「…いきなりびっくりしちゃうよ。誠二くん」
「ごめん。でも安心してよ。めぐだけだから、好きなのは。絶対に大丈夫だからさ」
めぐはにっこりと笑った。
「ふふふ…ありがとう。今度は私からいきなりキスしちゃうから覚悟しててね?」
うん、ずっとめぐと一緒にいよう…。